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「私が、アクト=ファリアナで……?」
州都アルデバルに着いて数日後、アクト=ファリアナでの噂がアヴァインの耳にようやく入った。ファーが街中で拾ってきた噂だ。
二人は屋敷の二階で人気を気にしながら、話し込んでいた。
「女子供を誑かす、という意味では。あながち間違ってはいない気がするがな……」
「どういう意味だよ、ファー」
「いや、だってシャリル様だろ? ケイリング様に。今は亡き、ルナ様もだし……」
「シャリル様は、ルナ様の娘だし。ケイは、ただの友人だよ? ルナ様については、まあ……」
片思いだった訳で。
「頼むから、ケイリング様の前では、ただの友人だなんて言うなよ……」
ファーが溜息混じりにそう言う。
ただのじゃなければ、親友だろうか?
「どの道、このままにもして置けないから、俺は明日の朝からアクト=ファリアナに向かうことにするよ」
「なら、自分も行く」
「お前は商人なんだから、大人しくここで商売でもやってろ。仕事も溜まっているんだろ?」
「ああ……うんざりするほどね」
「そもそもお前は犯罪者なんだ。あまり目立った行動はするな。大商人ってだけでも、十分目立ってるんだからな」
ファーの言ってることはよく解るけれど、アクト=ファリアナの偽物が何者なのか? 何の為に、その様なことをしているのか? 女子供を襲うのは何故なのか? そのことが気にかかって仕方がなかった。
「でも、ファー。そこに、自分の偽物が居て。それも犯罪を犯している。しかもオルブライト様のお膝元で……これを後回しには出来ないよ」
「……ふむ。それは確かに。わかったよ、仕方ないな。但し、条件がある」
ファーが言う条件とは、目立った行動をしないこと。変装して、身元がバレないようにすること。何かあれば、直ぐに州都アルデバルまで逃げること。ケイリングに会うことの四つだった。
四番目の条件は意味がよく分からなかったがアヴァインは了承し、ケイリングとはアクト=ファリアナの件が解決したあとで会うと約束した。
そして次の日の朝、白銀の仮面に商人風の服を身につけ、金の刺繍が入った白いマントを羽織り、煌びやかな長剣を帯刀し、大商人アーザインとしての姿で乗馬し。ファー・リングスと二人の護衛剣士を従えて、アクト=ファリアナを目指す──。
◇ ◇ ◇