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「……ふむ」
この日、オルブライトは評議会からの通達を読み、困り顔を見せていた。その内容は、罪人アヴァインを捕らえ差し出せ、というものだった。
「アヴァイン殿は今、このアクト=ファリアナに来て居るのか?」
「いえ、その様な話は聞いておりません」
旧臣ボルトウスが即座にそう答えていた。が、直ぐに他の旧臣達がこう付け足す。
「いや、それらしい人物が夜な夜な現れていると、噂が立っておりますぞ」
「女子供にも手を出していると聞きました」
「決して許して置けることではありません」
「……」
彼らしからぬ行動であると思いつつも、オルブライトは念の為に捜索するよう命じた。しかし、所在がわからぬまま日数だけが過ぎてゆく。
それから一週間後、首都キルバレスから総勢五十名もの憲兵隊がやって来た。その目的は勿論、アヴァインを捕らえることである。早速、憲兵長リシウスがオルブライトとの謁見を申し出、その前に現れた。
オルブライトが座る玉座から五メートルも先で片膝を落とし、憲兵長リシウスは礼節を持って挨拶を始めた。
「この度は謁見の機会を賜り、恐悦至極に御座います」
「長旅、御苦労であった。憲兵長リシウス殿」
「恐れ入ります。早速ですが、罪人アヴァイン・ルクシードの件でお願いがあり、参上仕りました」
「承知している。が、生憎アヴァイン殿はこのアクト=ファリアナには居ないようなのだ。
であるな、ボルトウス」
「はい。この数日、私共の衛兵隊に調べさせましたが、アヴァインらしき人物は見当たらないとの報告です」
「……それは面妖な。先遣で調べさせましたこちらの憲兵の知らせでは、確かに居た、との報告が届いております。それは確かなのですか?」
憲兵長リシウスの返答に、周りはざわめいた。
「それは、我が衛兵団の能力が低いとでも言いたいのか!?」
旧臣の一人がそう吠えていた。
「そうは言いません。が、居た、という此方の隊員の能力が低いとも私には思えないもので」
これは、いたちごっこになりそうだ……。
オルブライトはそう感じた。が、それ以前から気になっていたことがあったので、それを先ず付け加えることにした。
「その前に問いておきたい……アヴァイン殿が夜な夜な現れ女子供に乱暴、とのことであるが。私が知る限り、アヴァイン殿がその様なことをする御人とは思えないのだが……」
「泥棒が、必ずしも泥棒面をしているとは限りません。表では紳士ぶっていても、裏では悪事を働いているのが詐欺師であります。くれぐれも表向きの顔ばかりに気を取られ過ぎないように御注意の程を──」
「ふむ……リシウス殿は、アヴァイン殿をその詐欺師であると言いたい訳か?」
「そうは言いません。が、その表の顔に誑かされ、現実に起こっている事件から目を逸らされては困りますもので……」
「その様なことはせぬ。アヴァイン殿がもし罪を犯しているのであれば、その様な者を守る義理はない。寧ろ、此方で断じて裁くこととしよう。これで良いか」
「その御覚悟、敬意に値いたします」
「……」
不味い、つい乗せられたな。この男こそ、実は詐欺師ではないのか……。
オルブライトはそう感じた。
◇ ◇ ◇