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『パラド=スフィア物語』 -カルロス-(オリジナル)  作者: みゃも
第二部 第11章 【権力と財力】
115/170

─5─


「君で良かったよ、ファー。これが他の衛兵隊員なら、自分は終わっていた」

「その、自分だけならまだしも、此処で捕まったらルーベンさんにまで迷惑掛けるのを、ちゃんと理解しているんだろうな?」

「ああ、分かっているよ。ハハ♪」

「笑い事じゃないんだぞっ!」


 初めは、彼が現れたことに驚いたアヴァインだったが、ファーが此処へとやって来るのはなるほど理解出来た。前に、彼と一緒に隠れたことのある屋根裏部屋だったからだ。

 今は、ルーベンが持って来てくれたワインの絞り汁とパンにソーセージと大盛りの野菜と色艶の良い果物を、一緒にモリモリ食している。


「……それで、この後はどうするつもりなんだ?」

「状況が落ち着いたら、もう一度チャンスを見つけて、狙ってみようと思ってる」

「チャンス? そんなものあるかよッ! お前を捕まえるまで護衛を厳重に固め、キルバレス中を隈無く捜してくるさ!! 相手はディステランテだ。蛇のように執拗いぞ! 今は逃げるべきだ! 違うか?」

「なら……何とかアルデバルまで逃げるさ」

「アルデバル? アクト=ファリアナには来ないのか?」

「ああ、行かない」

「俺は……お前を連れて帰るように、ケイリング様から頼まれたんだ。それでも行かないのか?」

「ああ、行かない」

「なんでたよ?」

「犯罪者の自分が行けば、オルブライト様にもケイにも迷惑を掛けるからさ」

「……だよな」

 ファーはそう言って、後ろへひっくり返り、背を伸ばした。

 それから溜息をつくように言う。

「そう言って、ケイリング様が大人しく納得してくれると思うかぁ?」

「そこを納得させるのが、ファーの仕事だろ?」

 アヴァインの正論に、ファーは面白くないといった表情を見せた。

「簡単に言うよな……お前は、何も知らないから」

「ん?」

「お前が居なくなってから、ケイリング様はずっと嘆かれておられた。アヴァイン、アヴァインってな」

「ハハ♪ それは無いよ」

「それが、あるんだよっ!」

 真剣味の無いアヴァインの反応に、ファーは苛立ち、身を起こし起き上がる。

「あれはどう考えても、恋する乙女って奴だ! アヴァイン、お前も素直になれよ!」

「素直になれと言われても……」

「ケイ様のこと、お前はどうなんだ?」

「ど、どうと言われても……」

「好きなのか、嫌いなのか? どっちなんだ!?」

「き、嫌いではないよ」

「じゃあ、好きなのか? そうなんだな?」

「そんなこと急に言われても、分からないよ……」

「お前は乙女かっ! ハッキリしろよ!!」


 困り顔のアヴァインに詰め寄りながら、ファーもこの矛盾に気づいてはいた。犯罪者と貴族員の姫君との結婚など、世間が許す筈もない。

 ケイリング付きの警備隊長である彼からすれば、本来こんな二人の出会いなど、邪魔するのが当然なのである。でも、


「その返答によっては、もうお前をケイ様に合わせる訳にいかない!」

「!!」

 逆に、アヴァインの返答によっては、それでもその思いは遂げさせてやりたいとファーは思っていた。

 それがどんな形になるかは分からないが、それだけケイリングの想いが強いことを、ファーは誰よりも理解しているつもりだった。田舎の小さな屋敷に、二人で静かに暮らすのも良い。メルキメデス家には、少し頼りないが弟君が居るのだから……と。


「ごめん……悪いけど、自分にもそのことはまだよく分からないよ。これまでそんな風に考えたことも無かったし……ケイのことは好きだけど、ファーが言うそういうのとは多分違うんだ。

それにさ、犯罪者の自分がケイに近寄って良いことなんて何も無い筈だよ。つまり、ケイの為にならない。違う?」

「……」


 参ったな……俺なんかよりも余程、アヴァインの方が冷静だった。


「分かったよ……。アルデバルまで必ず、俺が届けてやる」

「ああ、ありがと」



  ◇ ◇ ◇

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