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「とにかく、取り逃がすな! 何があってもだ!! 分かっているな!!!」
ディステランテは新たに設けられた皇帝執務室へと入るなり、壁という壁を叩きつけながら苛立ちを顕にし、衛兵隊長ガストン・オルレオールにそう吠えていた。
それを受け、ガストンは眉間を尖らせ応える。
「分かっております。既に、衛兵隊員には厳命しておりますので御安心を……。
では、これにて」
「──待て!」
そんなガストンを、ディステランテは急に平静な様子を見せ呼び止めた。
「これは、帝政キルバレスの権威に関わる問題なのだ。けして、個人的な感情だけで言っている理由ではない。そこは理解しているのであろうな?」
そう試すように言うディステランテの言葉に対して、ガストンは特に感情もなく冷ややかにこう応えた。
「はい。勿論です」
「それと、アヴァイン・ルクシードが現場に居たそうだな……。その男は、ガストンくん、君の友人だと聞いている。まさかとは思うが……今回の件に関わりがありはすまいな?」
それに対し、ガストンは不愉快な表情を向けた。
「ありません。例え友人だとしても、私は職務を全うするのみですので」
「……ならば良い。私は、君のその言葉を信じることにしよう。
さあ、その職務とやらを全うしに行くがいい」
ガストンは敬礼し、その彼が扉を開け出てゆくのと入れ替わりに、沿海属州国アナハイトの貴族員スカンクが執務室へと入って来た。
「これはこれは、大変ご不快そうでありまするな」
「当たり前だ。こんな事があって、機嫌が良い理由がない。折角の晴れ舞台が台無しだ! あのアヴァインという男、決して許しては置かん!! 絶対にだッ!! 直接捕らえて、ギタギタの串刺しにしてやるッ!!!」
「これはこれは……その男に、相当な恨みがあるようですな」
「当然だ! これで二回目だ!! 前回は、お前の前任キルクウィック殿が殺られた! お前にとっても、これは他人事ではないぞ!! あの男は、この私に何の恨みがあってこんな事をするのだ?!」
「なるほど……あの例の……その男でしたか…。ならば、この私に妙策があります」
「………ほぅ」
そのスカンクの策を聞き、ディステランテはニヤリと笑った。
◇ ◇ ◇