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その少し前、アヴァインは最高評議会議事堂パレスハレスの左手正面に建つ建物の影に隠れ、戴冠式が始まるのを静かに待っていた。その姿格好は、商人としての普段のそれとはまるで異なり、敢えて仮面は付けず、黒装束で身を包んでいた。
「……歌声? 始まったのか?」
少し顔を出し、様子を伺い見る。と……パレスハレスの三階テラスにディステランテの姿が見えた。
「ディステランテ……ようやくこの時が来た!」
アヴァインは再び隠れ、焦る気持ちを抑え込み、既に活性化した精霊水入りの小瓶を聖霊兵器に装着し、体勢を伏せた状態のままでそこから身を乗り出し、照準を合わせる為にそっと丁寧に構えた。
狙うは、ディステランテの胸辺り……。
そう思い照準を合わせようとするが、思えば思うほど狙いが定まらなかった。迷いがあるのか? そんな理由がない。あの男は、ルナ様の仇だ。
そう思い直し、改めて照準を定める。合った! 今だ!!
そう思った矢先、青白くも黄金色に輝く二十歳ほどの女性がディステランテとアヴァインの間に突如として現れ、口を開いた。
『アヴァイン……』
「──!?」
その神秘的な声に驚き、聖霊兵器の引き金を引く! ──外れた!?
一発目は、皇帝冠に当たり、ディステランテは慌てている。直ぐに小瓶から活性化した精霊水を聖霊兵器へと充填し、構え直し、狙いを定めて撃った! ──が、また惜しくも外れた。
再び慌て狙い撃つが、それも外れ……。ディステランテはパレスハレス建屋内へと姿を消してしまった。
「彼処だ! あそこに誰か居るぞ!!」
衛兵隊員がアヴァインの姿を捉え、そう声を張り上げた。
「不味いな……」
直ぐに身を隠し、後方へと移動し、屋根伝いに逃げ出す。
……その一部始終の様子を、はるか上空より青白き黄金色に光り輝く女性が見下ろしていた。
第10章 ─キルバレスの女神─ 終
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