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「やれやれ、望みもしない日がとうとう来てしまった、ってところか……」
最高評議会議事堂パレスハレスが見える三階の窓辺にて、スティアト・ホーリング貴族員がワインを片手に溜息混じりでそう呟いていた。
それを耳にしたオルブライト・メルキメデス貴族員は「まさに」と応え、「誰の為の皇帝任命制度なのやら……」と椅子に座ったままワイングラスを遠目に興味も無さそうに眺め回している。
それを聞いたスティアト貴族員は、両手を広げ言う。
「そりゃ勿論、あの男自身の為ではないのかね?
まあもっとも……望んでいないのは我々だけで、国民は必ずしもそうは思っていないようだがね」
「流石に、国民を敵にまわすのは避けるべきでしょう。
と言うことで……いよいよ、ツンツン小狐を卒業し。デレデレ狐に興じる時が来ましたか」
「冗談じゃない。笑えない冗談だよ、それは」
思わず顰め面になるスティアト貴族員のその言葉を聞いて、オルブライトは軽く失笑し、次に真剣な表情で頷き言う。
「しかし、我々の立場が危うくなるのは確かですから」
「ふむ……ならばいっそ、キルバレスから離反する、という手もあるにはあるが?」
「……」
スティアト貴族員の言葉をオルブライトは耳にし、しばらく思案顔を見せたあと溜息をつき、口を開く。
「それこそ……今は、笑えない冗談でしょう」
「……まあ、今は、そうなるだろうね」
それを実現するには、余りにも戦力差があり過ぎた。今の共和制キルバレスと戦って勝てる見込みなど、殆ど無いに等しいのだ。それでも戦うとなれば、余程の覚悟が必要になる。それを決意するほどの覚悟も理由も、二人はまだ持ち合わせていなかった。
◇ ◇ ◇