─1─
「は? この私が、ディステランテ公の戴冠式を……ですか?」
「ああ、そうだ」
最高評議会議事堂パレスハレス内の衛兵長官室内にて、ガストン・オルレオールはベンゼル衛兵長官の言葉に困惑顔を見せていた。
「しかし、何故わたしなどが? 此処は衛兵長官自らが陣頭に立ち、行うべきなのでは? 国の大事となる理由なのですから」
「ああ、勿論そのつもりでいた。……が、これはディステランテ・スワート公御自身からの御要望なのだから、まさか嫌とも言えんだろう?
つまり、わたしは身を引き。代わりに、君が務める」
この度、共和制キルバレスは新たに皇帝任命制度を取り入れることになった。その初代皇帝に、ディステランテ・スワートが選ばれ、その戴冠式の警護責任者として、当のディステランテ公がただの1隊長に過ぎないガストン・オルレオールを推薦してきたのだ。
ガストンは衛兵長官の言葉を聞いて、困り顔に肩を竦めた。
「しかし、何だってそんな話に? 面識だって、殆どありはしませんよ」
「面識なら、十分にあるさ。先日、あのアヴァインがディステランテ公を襲った際に、君がそれを救ってやった。公からすれば、君は大事な命の恩人って理由だ。
まさか覚えていないのかぁ?」
「いえ………覚えてはおりますが…」
「それは良かった。話がとても早くて、助かるよ」
「えっ、いやっ!? ………はぁ…」
どうも面倒ごとを押しつけられた感が否めないが、これはどうやらやるしかなさそうだ……と、ガストンはそう思いつつも了承した。