―100― 《特別イベント追加話【神魔の鼓動への序曲】》
これは、《『クレイドル』スペシャル!》でも行った特別追加話みたいなモノです。なんとなくといった感じでよろしければ流し読みしちゃってくださいませ^^;
一方、鉱山都市アユタカで過ごしていたケイリングとシャリルは、そこのハウスメイドから午後のお茶の合間に最近噂されている少々変わったおかしな話を聞かされていた。しかもそれはびっくりするような一人芝居で、声色までをもイメージし演技までする始末だったので、見ていて二人は思わず笑ってしまう。やっているハウスメイド本人は至極真面目な様子なのだが。そのコトがまた尚更に、とてもおかしかった。
「〝何故だ!? 何故……報復しようとせぬ!
お主が守るべき民は苦しみ、過酷な地へと追いやられ。その間も、あ奴らはのうのうと我等が築き上げた彼の地で暮らしておる……〟
しかし女神さまはこの時、ただただ黙っていたそうです。この様に!
『……』
それで苛立ったのか? 神魔の如きその者は、更に怒った様子でこう言ったのです!
〝我は、認めぬ……。我は、奴等が許せぬ……!〟
しかし、そうして行こうとする神魔の如きその者の目の前に、女神さまが黙って立ち塞がったのです!
その女神さまに対し、神魔の如きその者は目を細め、それはもぅ~~恐ろしい程の形相で見つめ口を開いたとか。 ───そう、こんな感じで!
〝何故……邪魔をする?
もはやワシには従えぬ、というのか……女神よ!〟
すると女神さまは、なんとも残念そうな表情をしてこう零すかのように言ったのだそうです。
『……神将。今の貴方は、冷静ではありません。ですから……』
途端! 神魔の如きその者は怒り心頭といった様子で、こう言い放ったとか!
〝黙れ! 貴様などを女神とした我が愚かであった!!
我が目の前から今すぐに消え去るがよいわ────!!〟
神魔の如きその者は、その拳をこの様に大きく振り上げ! 勢いよく女神さまを狙い襲った──が、女神さまはそれをなんと! 腕に傷を深く負いながらも、その者の腹部へ目掛け、黄金に輝く杖を突き立て射貫いた!
────すると!!
〝ぐ……ぐぅふあはぁああ……!!〟
神魔の如きその者は、口から青白き血を吹き出し、唸り。やがてこのようなコトを女神さまに対し言ったのだそうです。
〝フフ……まあ、よいわ。ならばワシは、この地にて。
お主が思い描いたこの世の流れの傍観者となろう……。
永遠に、な……〟
そう吐き捨て言い、その者はこの地の山の……そう! 直ぐそこの鉱山辺りへと落下し、そのまま吸い込まれるようにして消え去ったのだそうです!
なんと、直ぐそこの山にですよっ!! もう~びっくりでしょう??
そして、その者の最後を見届けた女神さまは悲しげに赤い血のような涙を幾つもポロリポロリと零し流し続けていたのだとか……。こ~~んなにも大きくて赤い涙を、それもいくつもですよぉー! どう思いますかぁあー?!
大事な友を自らのその手で葬り去らなければならなかったその時の女神さまのお気持ち。おそらくはきっと、胸が締め付けられるほどにお心を痛め、苦しかったのだろうとわたくしは思います。おおぉ~……なんと辛く苦しいコトなのでしょう。なんだか私には、その時の女神さまのお気持ちがとても痛いほどによく分かるのです!
だけど……それでもやはり思うのは…………神魔の如きその者が、この近くの山に潜んで居るのかと想像すると、なんだか毎晩のように背筋がゾォーッとして……。ああぁ~……もぅそれはとても、おそろしい~~…」
「へぇー……。すっごい〝作り話〟ねぇ~!」
そのハウスメイドの空想と思われる長い話をずっと黙ってシャリルと共に聞いていたケイリング・メルキメデスは、呆れと感心が両方入り混じった複雑な表情を浮かべ、そのメイドを見つめていた。そしてスッパリと、その話について一刀両断をする。
一方、そのハウスメイドの方は、そんなケイリングの反応と言葉を聞いて。少し……と言わず、不機嫌な表情を一端し、それからメイドらしい慎み深い口調で改めて口を開いた。
「お言葉ではございますが、ケイリング様。これは『本当にあった話』らしいのです!」
しかしその最後辺りの『らしいのです!』だけは、やたらと気合が入っていた。
だけど、『らしい』と付け加えた時点で、自分が実際に見て確認したわけではない、ってコトにも繋がってしまう。早い話が、些少なりと空想や想像と思い込みがそれなりに入り混じっていた、ということになってしまう訳で。
「……」
ところが余りにもそのハウスメイドが真剣な表情をしていたので、ケイは思わず「ぷっ♪」と申し訳ないと思いながらも顔を瞬間だけ横へと背け、そのまま吹き出し笑ってしまった。
「───な、ぬわああっ!! そんなヒドイわ!!
一応コレが、その証拠となるモノです! ではこれにて、失礼させて頂きます!! ふん!」
それでハウスメイドは癇癪を起こし膨れっ面で怒って、肩をならしながら部屋を出て行ったのだ。
テーブルの上には、中心近くで赤い精気のようなものが燃える不思議な鉱石が置かれてあった。
のちに『魔晶石』と呼ばれるコトになる原石である。しかしその鉱石の不思議さにこの時は二人共気づかず、そんなお騒がせなメイドをケイとシャリルは見送り吐息をつく。
「そんな怒られたってさぁ~。ハッキリいって、いまの信じられると思う~? シャリル」
「ええ……まあ、確かにそうなのですが。話としては、とても面白かったとわたしは思いましたよ?」
シャリルは困り顔に笑みを浮かべ、そう繋げていた。
「まあねぇえ~♪ あの子の話って、いつも面白いんだもん♪」
そんな反応のシャリルを見つめ、ケイも同じく笑みを見せそう言う。
鉱山都市アユタカの屋敷へ移り住み、間もなく二ヶ月近くにもなる。思った通り、シャリルは表へ出しては貰えなかったが……。アクト=ファリアナとは違い、ここでは余り気遣いもいらないお陰なのか? 以前よりも少しだけ笑顔の数が増えた気がする。
だけど……初めてシャリルを目にするメイドの中には、シャリルのことを余り快く思わない者も居たらしく。ケイリングの目が届かないところで意地悪を随分とされていたそうだ。
そのコトをさっきのメイドが教えてくれたので、ようやくその事実が分かったのだ。それでもシャリルは「大丈夫です」と笑顔を見せ、ケイリングに対し気を使ってくれていた。その度にケイリングはシャリルを黙って優しく抱きしめ、慰めた。
『お願いだから心を閉ざさないで欲しい……少なくともこのわたしにだけは』と。
それからというもの、先ほどのハウスメイドにシャリルの様子をいつも見守るようにと伝えてある。 メイド本来の仕事も忘れがちなその変わり者のメイド、メルもそれだけはキチンと守ってくれていた。シャリルのことを心から気に入っている様子だった。シャリルはシャリルで、先ほどのメイドのムダに想像力豊かでオーバーな話を聞いてはとてもよく感心をし、どうやら退屈することもないらしく。一緒によく本を読んだりおしゃべりをしたりと、見るからに本当の姉妹の様にとても仲良さそうにしている。どうやらシャリルもそのメイド、メルのことがとても気に入っている様子であった。どうやら両思いのようだ。
メルは今年14歳と年齢も近いのが更に幸いしたのかもしれない。
『アヴァイン……シャリルはこの通り元気よ。わたしは、あなたとの約束をちゃんと守ったわ!
だから今度は、あなたの番のはず……そうでしょう? 違う??』
ケイリング・メルキメデスはふとその様なことを思い、晴れた空の見える窓の外を遠目に眺め見つめ、アヴァインが早く戻って来てくれることを切に願っていた。
『パーラースワートローム物語』 ―カルロス― 【第一部 完】
《第九章【仮面の商人とカナンサリファの狐】》これにて完結です。そしてこれにて、【第一部完結】となります。
次回からは、いよいよ首都キルバレスへとアヴァイン達一行は向かい。時代を揺るがす事件が起こりますが、それはまた機会がある時にでも!
第二部からは戦記色が色濃く入るようになり、そしてあの方も・・・再び登場します。
最後に追加しましたこの話は、単なる【神晶の魔光】に繋がる1シーンに過ぎませんので、これについてはあまり深読みはしないでください^^; おそらくはムダです;
ここまで読んでくださり、誠にありがとうございました。これからもどうぞ機会がありましたらよろしくお願い致します(__
評価感想などもよろしければお願いいたします^^ ではでは!