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不良  作者: 夢野ユーマ
5/9

さみしい休日

私はヒロくんに軽く誘われたが、断って帰ることにした。うかうかと誘いにのると、金山で降りてデニーズかどこかで電車がなくなるまで食事かお茶をして、タクシーでヒロくんの部屋に行くことになるだろう。(しかも食事代やタクシー代は私が出すことになるのだ。)


年度の後半は忙しくて、とても外泊など出来ない。



金山までの電車は夜はすいている。一応、田舎から都市に向かうことになるからだ。鶴舞公園の辺り、ボウッとしていた。ネオンが多い都会になってきて、私はハッとして電車を降りた。金山だ。


東海道線に乗りかえる。大きい駅の周辺以外はけっこう田舎である。土、日の夜はそんなに混んでいない。だいたい座れる。私は闇を眺めていた。何という不満も問題もないが、何か中途半端な感じだ。



私は古ぼけたマンションの階段を静かに上がった。音をあまり立てないように鉄のドアを開ける。私は寝間以外はほとんど使っていない。うがい、手洗い、洗顔をしてから、NHKラジオをつける。今月のおすすめ映画を紹介する番組をやっていて、私は日記に紹介された作品をメモした。紅茶をストレートでいれて、クッキーを少し食べた。


眠気がやってきたので、歯を磨き、灯りを消した。本当に眠気がやって来て、私はラジオを消した。



翌日は正直なところ、昼ぐらいまで寝ていた。寝だめ食べだめは出来ないと一般に言うのは嘘じゃないかと思っている。私は血圧も低く、起きると不機嫌になっている。


ムスッとしながら、私は一つ下のフロアに降りた。ドアは開いていた。母が食事の支度をしている。私は黙って食卓についた。


出前のお寿司があり、牛肉と野菜がある。


「悠哉、すき焼きとしゃぶしゃぶ、どっちがいい?」

「すき焼き。玉子あるの?」

「あるわよ」

母はわりしたを作り始めた。私はお寿司にはしをのばした。一応「いただきます」と言って。お寿司を食べ、玉子をからめて牛肉を食べ、私も陽気になってきて、速水というハンサムな不良のこと、学会の手紙のこと、四宮くんのことなどを話した。母もすき焼きを食べ、「ビール飲んでいい?」と言い出した。私は母が食事の時、アルコールを飲むのは好きじゃなかったが、うなずいた。


私と母。気難しい二人が生き残って、奇妙に共生している。政治家をやっていた祖父。祖母。入り婿だった父が亡くなり、妹は嫁ぎ、浅倉家はさびしいものだ。

「来週、藤山直美のお芝居観に行くから、ついてきて、水曜日」


私は頭の中で計算した。御園座のお芝居は15時か16時くらいに終わる。それから夕方のクラスに間に合うからいいか。藤山直美は私も観たいし。


母は握り寿司を私にくれた。少食である。私はすき焼きもたくさん食べた。




私もマザコン。速水もマザコン。




私は自分のフロアに戻った。アルコールなしでも、ちょっと昼寝出来る。




夕方、起きて、映画を観に行こうかと思ったが、少し疲れがあり、部屋にいた。ラジオドラマで藤沢周平の作品をやっている。私はこういう国民的作家は好きじゃない。私が好きなのはどこかアウトロー的な人間か、現代のことを忘れさせてくれる古典だった。私はラジオドラマは聞かず、CDでドビュッシーやラヴェルの曲を聴き、本を濫読した。一冊を集中して読むのではなく、いろいろな本をつまみ食いするのだ。そういう時に野放図にいろんなアイデアが浮かぶ。そうすると気分がよくなり、私は珍しくカクテルを飲んだ。少し浮かれて、私は寝た。




火曜日はだいぶ疲れもとれた。

母と共用しているヴィッツで郊外のショッピングモールの中のシネコンや温泉に行く。映画を観て、合間にちょっと買い食いをする。クレープと珈琲を買って、フードコートで食べる。それから温泉に入る。薬湯に20分ぐらい半身浴する。私はサウナはダメなのである。お風呂を上がってハチミツソフトクリームを食べる。




休みの日は過ごしにくいなあ。私は何か世の中に居心地の悪さを感じる。ベビーカーを押す若い夫婦。周りの結婚ブームも過ぎ去った。同級生が結婚したり、子供が出来たりするとお祝いを贈ったりするが、自分自身は何か取り残されている感じがする。いや、それ以前にサラリーマンの子とはなかなか話が合わない。私の周りにいるのは、子供とじっちゃんばっちゃんばっかりだ。


ふっと思う。

速水は本能的に私の気持ちを分かってくれるかも知れない。周りからは、恵まれている、不満はないはず、と言われるが、何処かさみしい。速水もそんなさみしさを抱えて試行錯誤しているのかも知れない。


とりあえず、もう一本、映画を観た。明日は職場に行く。

その方が気が紛れる。

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