タケノコえせ地蔵ものがたり (創作意欲はマイナス10度)
すっごい適当です。
昔むかし
あるところに貧しいお地蔵さんがいました。
長い間、ただの大きな石でいましたが、世が荒れに荒れた時、仏像が乱立される事態となりました。
仏師見習いが川のほとりでただの大きな石をみつけ『習作に丁度いいや、こりゃあ』、と掘り始めて、けれど途中で飽きて、掘るのをやめてしまい放って置かれた……という、お地蔵さんだったのでした。
お地蔵さんには心が宿りませんでした。
開眼さえもされていなかったからです。
何を憂うこともなく、誰も救わず、お地蔵さんっぽい石は河原に佇んでおりました。
あるとき、上流から光り輝く筍が流れて来ました。
不気味だったので誰も筍を触りませんでした。
じれた筍は自力で沢に引っ掛かりました。
神通力というものを使ったらしいです。
筍は仕方なしに水と山の恵みを吐き出しました。
欲を出した人間のなかに、恵みの大元である、自分という筍を割って財を取り出そうとする者が現れれば都合が良い、と思っていたからです。
貧しい世の中の事、どんなに怪しかろうが厳しく律しようが、人々はやがてそこに実在している恵みに手をのばしてしまいます。
しめた!
と筍は思ったのですが、筍の目論見は外れました。
アサリやウナギやフナにアユやアワビ、キノコ、猪肉、雉肉に栗、アケビなどを出しては人間や動物に持っていかれるだけ持っていかれ、誰も筍自身を割ろうとはしない、ということが続くだけだったのです。
銭の方が良いのか、結局米なのかと筍は苦心しましたが、なんだかやがて奉られてしまい、本当に誰も筍を割ってはくれなくなってしまいました。
筍の嘆きを他所に、沢ではもう人間たちがお祭り騒ぎでした。動物たちは筍からの恵みを諦め、散り散りにそれぞれの狩り場へ出かけてゆきました。
熱狂する元は貧しかった人々。
立派な屋根つきの神殿に祀られる輝く筍。
やっぱりなんの意識もないお地蔵さんっぽい石。
しかし、ある時、河原へ、都からそれはもう偉そうな美丈夫と薫りたつ手弱女がそぞろ歩いて参りました。
手弱女が霊験あらたかな光り輝く筍を『こちは神を騙るものぞ、あの川上におられます地蔵尊さまこそが真に尊くあらせられます』
と夢の中より出で来るような、鈴を振る声で妄想豊かにため息交じりの悲壮な言葉を投げました。
筍は『待てやおい』と思いましたが声は出ません。
美丈夫が手弱女を労って
『川の辺に
奇しき佛の
写し身の
佇みあるも
うろんなる竹』
などと即興で歌ってしまいました。
その声朗々。時は七夕。
筍を奉っていた人々は、都人珍しさに集まっており、このやり取りを聞くと涙に暮れたのでした。
都人の感じるものはこんな鄙とはまるで違う。
我らは富を生む筍の光にばかり気を取られて、苔の生えた地蔵尊さまを目に入れる事がなかった。
「あの水と山の幸は全てお地蔵さまが出してくださったのじゃ」
「雨風に晒されても吾等に恵みを下さり続けた、なんと尊い仏様であろう」
「祀れ! 祀るのじゃ、真に拝むべきはこの仏様の方だったのじゃ!!」
筍の上にあった屋根は外され、あれよあれよと言う間にお地蔵さんっぽい石の方に立派な仏殿が建てられました。
美丈夫と手弱女はそれを見届ける事もなく、都へ帰って行っておりました。
なんてことはない、都に飽いた鄙遊びの最中の成金と遊女の二人組だったのです。
さて、これに怒ったのは筍です。
怒りながら、神殿から乱暴に転がり出された筍は、ついに罅が身体に入りました。
「よっしゃあ!」
と光り輝く筍は勢い付き、もう自力で割れてしまいました。
そして、筍の割れるところを、また別の、ちゃんとした位のある教養も豊かな都人が目撃しました。
筍から出て来た童女は、ぐんぐん自力で大きく育ちます。
出しておいた作物をガツガツと喰らい、空から単を鶴に落として貰い、纏います。
目も覚めるような美しい姫君がそこに立ち上がりました。
彼女の様を怪しく見ていた都人も、あまりの美しさに見惚れ、宮中への参内を勧めてしまう程でした。
「うるせぇ、行かねえよ」
しかし、筍娘はブチ切れていました。
言葉遣いがそれはもう乱暴でした。
ところが、その所作は完璧に美しいもので、彼女の持つ本来の品を隠せきれてもおりませんでした。
「私は〜、月からー、お転婆過ぎていっとき締め出された天女でーす。ふだんは、コウガ様にお仕えしててー、薬の作成とか身だしなみとかお手伝いしてまーす。こんな地の底の国の都とか興味ないっつーの。月に兎耳の夫もいまーす。親戚は蟹でーす。……超絶可愛いよ夫」
筍娘は夫の事を思うと恋しくて堪りません。
兎耳は彼女から夫へ贈られた婚姻の証しでした。万が一にも浮気など出来ないように、他の女人の毒牙に掛からないようにとの保険と威嚇の為の、目に見える形での婚姻の証だったのでした。
筍娘はやってやったぜ! と、婚姻の儀での夫の赤い涙目の垂れた角度のヘニャヘニャ具合を思い返し、ぷくすす、と笑います。
品が無いので口元はばっちり隠しながらで御座います。
天女というのは、こういう所に抜かりがありません。たいへん、スマートです。
「んで、この石よ」
都人が言葉を失って目を白黒させている前を通り過ぎ、筍娘はお地蔵さんっぽい石の仏殿に向かいます。そしてお地蔵さんっぽい石を覗き込み……。
「ほーら、石じゃん! ただの石じゃん?! 仏様とかじゃないじゃん!! 私が出した恵みの権威を横取りしやがって……、ゆるさねぇ」
そう言うと、石に石で馬鹿力で顔をハッキリと掘りつけました。顔以外の、衣装などの彫りは適当すぎました。
「……よっしゃ、出来た」
お地蔵さんっぽい石は、我楽多の落書き物として彫り上げられてしまいました。
都人は震えてその過程を見つめておりました。
「……うし。これは天女が掘った珍しい石ですよ、と」
河原の平べったい岩に、筍娘はそう石で掘りつけました。
達筆すぎ、また彫りが非常に浅くて今日にはもうこの岩からは文章は読み取れませんが、この当時は確かにそう書かれていました。
この写しの紙媒体が、国の閉架書庫に虫食いだらけで伝承として今もかろうじて収められておるらしいです。一般の観覧は受け付けていませんので中々見ることは叶いませんが。
「あー、てかもうよくない?」
『天の月
ただ一つ酔ひ
銀に
かかる雲なく
得ることもなき』
筍娘は空の月に向かい歌いかけました。
――我儘娘め、地に落ち反省もないとは――
呆れた小さな声が、空から降りました。
都人も鄙の人々もこれには正しく仰天しました。
「ごめんなさいってば。あたし、これでももう懲り懲りしてる。もう、あそこまでの事はしない。薬を蟹の鋏で切れるかどうか試して台無しにしたりしない」
――憎み切れぬ悪戯女め、では――
「……やった!」
空からの声がそう告げると、鶴が二羽と、カササギが無数に現れ、筍娘の居る河原に月の色の輿をふうわりと浮かべたのでした。
筍娘は膝行した後に鳥に腕を捕まれ、輿の上に収まって山の上まで飛び上がると都人と鄙の人々を見下ろしました。
「わたくしの名など報せるべき由もない方々。さようなら。後の世にわたくしの彫り上げましたあの像を月に近い美山まで運ぶなどの胆力等を、せめて見せて欲しいものですわ。もう、何処の恵みも遣りませんが悪しからず。月を見上げることだけは許しますわ――さようなら」
夢幻とはこういった景色であろうかと思わせられるほどの華を散らせながら、筍娘は月に帰って行ってしまいました。
後には、我楽多地蔵石が残るばかり。
地の上に暮らす人々は、この不可思議な出来事を、我楽多地蔵石の姿を残しながら語り継ぎ、やがて近代になって海を渡った先の民俗学の権威にこの不可思議が伝わり書籍となるまで、頭を悩ませながらこの話からどういった教訓を得るべきなのか哲学的な問答を続けたのでした。
我楽多のお地蔵さんは、様々に意見を交わされた挙句、やはりこの珍事の証明として動かし難いとされ、もとの河原に未だに鎮座しておるようです。
こんな筈では無かったです。
あと何時代か本当にわからない。




