第3話 北海の影
第3話です。
いよいよオルドゥ侵攻編に入ります。
白嶺島へ向かう輸送船の甲板は、冷たい風にさらされていた。
北方海は荒い。
波は低いが重く、船体をゆっくりと揺らす。
黒筒隊は船倉に詰め込まれていた。
人火銃と弾薬箱が並び、油と火薬の匂いが充満している。
「本当に来るのかよ、オルドゥが」
隣の新兵が呟く。
「草原の連中だぞ。船なんて使えないだろ」
誰も答えなかった。
だが伝令ははっきり言っていた。
――敵艦影、複数。
大和は甲板に上がり、海図を広げる。
白嶺島北岸。
鉱山港。
上陸可能な浜は三箇所。
(港を取られれば補給線が通る)
逆に言えば、港を奪い返せば敵は終わる。
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白嶺島が見えてきた。
灰色の山脈。
黒い煙を上げる鉱山。
その手前の海岸に――
黒い点が並んでいた。
船だ。
そして浜にはすでに旗が立っている。
オルドゥの紋章。
牙を剥く魔獣の旗。
「地方守備隊がやられたらしい」
教官が低く言う。
「港は半壊、敵は騎馬魔獣を降ろしている」
騎馬魔獣。
草原で最強の機動兵器。
本来なら歩兵が対抗できる相手ではない。
船内の空気が重くなる。
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上陸した港は混乱していた。
壊れたクレーン。
焼けた倉庫。
負傷兵が運ばれてくる。
「魔導士が押し切られた……」
衛生兵が呟く。
信じられない光景だった。
魔導士が敗れた戦場など、誰も見たことがない。
敵はすでに内陸へ進んでいる。
だが問題は別にあった。
港の沖合に、オルドゥの輸送船団が停泊している。
補給線だ。
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大和は地図を広げる。
港から北へ伸びる街道。
鉱山へ続く一本道。
(ここを断てば補給は止まる)
敵は騎馬で速い。
だが物資は船に依存している。
船を沈めるか、港を封鎖するか。
「分隊長、命令はまだか?」
部下が不安げに聞く。
大和は初めて指示を出した。
「倉庫街に移動。遮蔽物を確保する」
「迎撃じゃないのか?」
「撃つのは補給部隊だ」
魔獣でも魔導士でもない。
食料と弾薬を狙う。
戦は兵站だ。
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その夜、黒筒隊は壊れた倉庫の陰に潜んだ。
月明かりの下、港へ向かう荷車の列が見える。
護衛は軽騎兵のみ。
「距離百二十」
大和が呟く。
「三列輪射。合図で撃て」
心臓の鼓動が早くなる。
だが手は震えていない。
引き金に指をかける。
祖母の言葉が浮かぶ。
――補給を断て。戦は終わる。
「撃て」
夜の港に火が走った。
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荷車が炎上する。
馬が暴れ、兵が倒れる。
魔導士はいない。
障壁もない。
補給が燃える。
敵の叫び声が響く。
これが人火銃の初戦果だった。
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黒筒隊はすぐに撤退した。
深追いはしない。
弾薬は限られている。
だが結果は明白だった。
翌朝、港の敵軍は動きを止めていた。
補給が途絶えたのだ。
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教官が言う。
「東雲、お前の判断だな」
大和は頷く。
「補給を断てば終わります」
教官は短く笑った。
「面白い。お前は戦場を数で見る」
その言葉は、後に彼を形容する言葉となる。
――戦場を数式で支配する男。
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だが戦いは終わっていない。
港の北方では、騎馬魔獣の本隊が集結している。
次は正面戦だ。
人火銃が魔獣に通じるのか。
誰も答えを知らない。
第3話を読んでいただきありがとうございます。
次話では騎馬魔獣との初戦闘に入ります。
人火銃が本当に通用するのかが描かれます。
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