第1話 工廠の朝(こうしょうのあさ)
はじめまして。
戦記ものが好きで初投稿になります。
魔法至上世界で工業革命を起こす軍記を書いていきます。
更新は週3話予定です。
よろしくお願いします。
朝の汽笛が鳴る前に目が覚めた。
東鋼島の朝は、いつも鉄の匂いがする。
窓の外には工廠の煙突が並び、灰色の煙が空を覆っていた。
魔法の光ではない。火を焚き、金属を溶かし、人の手で作る熱の色だ。
この国では珍しい光景だと、父は言っていた。
「魔法は神の火だ。だがこれは人の火だ」
製図板に向かったまま、父が言う。
細い線を何本も引き、巨大な機械の設計図を描いている。
母は隣で歯車を磨いていた。
工芸職人の手は細く、しかし力強い。
「大和、遅れるよ」
名前を呼ばれ、ようやく現実に戻る。
十六歳。魔力測定では最低値。
この国の基準でも落第寸前だ。
普通なら畑に送られる。
だが俺は工廠で雑用をしている。
理由は単純だ。
計算ができたから。
距離、重量、角度、時間。
数で考えるのが好きだった。
祖母の影響だ。
「戦の本を読みな」
幼い頃から渡されていたのは魔導書ではなく戦史だった。
補給路、包囲、退路。
魔法ではなく、兵站と地形の話ばかり。
そんなものを読む子供は珍しいらしい。
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食卓には干し魚と粥。
質素だが、飢えたことはない。
それがこの国の強みだと父は言う。
「西の豊穀島がある限り、我々は戦える」
戦える。
その言葉に少しだけ胸がざわつく。
最近、工廠に軍人が出入りしている。
見慣れない黒い鉄筒を運んでいた。
あれが噂の新兵器だ。
魔法を使えない者でも扱える武器。
人火銃。
魔導士を殺せる、という話だった。
誰も信じていない。
俺は――少しだけ信じていた。
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玄関の戸を叩く音がした。
開けると、灰色の制服を着た軍吏が立っている。
無表情で紙を差し出した。
「徴兵通知だ。東雲大和」
喉が乾く。
紙を受け取る手が少し震えた。
魔力欄には、はっきりと書かれている。
適性:低
普通なら後方勤務。
だが配属先の欄を見て、目を疑った。
――魔導機関歩兵 第二試験連隊。
人火銃部隊だった。
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母は何も言わず、工具袋を差し出した。
針金、油差し、小さなヤスリ。
「壊れたら直しな。武器も、人も」
父は真鍮の折り畳み定規を渡した。
「測れ。距離を知れば死なない」
祖母は一冊の古い本をくれた。
表紙は擦り切れている。
開くと最初のページにこう書かれていた。
――補給を断て。戦は終わる。
「魔法は神の火。でもね」
祖母が俺の手を握る。
「道具は人の火だよ」
胸の奥で、何かが灯った気がした。
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外では再び汽笛が鳴っていた。
徴兵の集合時間だ。
振り返らずに歩き出す。
煙突の煙がまっすぐ空に伸びていた。
その先の北の海で、敵艦隊が目撃されたという噂を思い出す。
草原の騎馬帝国。
かつて世界を支配したオルドゥ。
海を越えてくるはずがない、と誰もが言っていた。
だが、もし来るなら。
その時、俺の持つ火は――人の火だ。
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こうして、魔力ゼロに等しい一人の少年が戦場へ向かった。
後に皇帝の剣と呼ばれることになるとは、
この時はまだ誰も知らない。




