行動開始です
護送車がキーテル王国の王都に到着してから、ユニは何かと忙しそうだ。アルお兄様のお手伝いもしているのか、一緒に出掛けることも多かった。
因みに、私達は王宮には泊まってはいないよ。招待されたけど断ったの。絶対、あの手この手で懐柔しに来ると予想出来たからね。なので、警備の面も考えて、観覧に使った高級宿を丸ごと貸し切ったの。従業員はボーナス付きで休暇を与えてね。だから今、この宿屋はグリリアス王国の騎士達で護られてるわ。
王族二人が滞留してるのだから、そこまでするのは特別おかしな話ではないのかもしれない。だけ正直、まだ私には実感があまりないの。
(だって、ギャップがあり過ぎるから……底辺から最高位に急上昇だもの)
それでも考えないといけないと思う。逃げていいものじゃないからね。幸いにも、一人になれる時間があるから、考える時間は十分に取れるわ。
アルお兄様とユニがいない間は、私はお留守番。本を読んだり、身体を休めたりしているの。半安静状態かな。勿論、これから先のことも色々考えてはいるよ。
ユニとアルお兄様が仕事から帰って来ると、何故か二人共石鹸の匂いがするの。たぶん、護送された屑達の尋問に立ち会ってるからだと思う。
(う〜ん、このままここにいると、グリリアス王国の第一王女としての生活が待ってるんだよね……)
素直に喜べない。
腹黒だけど、アルお兄様はとても優しくて、痛みが分かる、温かい人だわ。彼の妹として、王族の一員として生きて行くのも悪くないと思う。
王族の暮らしが、どういうものか想像出来ないけど、窮屈なのは容易に想像出来るし、沢山勉強しないといけないことくらいは理解している。相当な努力をしないと駄目なことも理解してるよ。とっても厳しい世界なのも、覚悟はしているわ。
それはいいの。私が頑張ればいいことだから。
でもね……グリリアス王国に行けば、今のように、ユニが傍にいてくれるのは難しいと思う。というか、恐らく護衛に付いてくれても、姿を見せてくれない気がするの。
恐らくだけど、ユニは兵士や騎士じゃない。勿論、見習いでもない。情報を整理した上での想像だけど、ユニは黒い部分に携わる仕事をしている。高位貴族の息子なのにね。庶子かもしれない。
庶子か実子かなんて、そんなものどっちでもいい。
私にはね、クレクレ妹のような物欲はないけど、どうしても欲しい物があるの。それを手に入れるためなら、私は何でもするわ。
王国を脅してでもね――
(取り敢えず、グリリアス王国に行く前に、ある程度の筋道を立てておかないとね。護衛騎士以外に一緒にいてもおかしくないのは……)
一つしかないわね。そうと決まれば、行動開始。
真夜中、ユニの部屋に忍び込むくらい平気だよ。
「誰だ!!」
忍び込んだ途端、ユニの険しい怒号が部屋に響いてもね。同時に、首筋に冷たく固いものが当たる感触がしたよ。さすがに、ヒヤッとしたわ。
「……私」
「えっ!? アイナ!?」
侵入者が私だと気付いて、ユニはとっても焦っている。首筋の冷たい感触もなくなった。ユニは明かりを点ける。
「お疲れ様、ユニ。今日も遅くまで仕事だったね」
「あぁ、それで、こんな夜中に何の用だ? 眠れないのか?」
悪夢を見たと勘違いしているみたい。私は軽く首を左右に振った。
「違う……前にした、私との約束覚えてる?」
「…………すまない、守れそうにない」
悲痛な声で告げるユニの前まで移動すると、私は固く握り込んだ彼の両拳を、小さな手で持ち上げ包みこんだ。
「うん、分かってる。旅は無理かもしれない。でもね、もう一つの約束まで無理って言わないで」
「…………」
無言がユニの答えだった。
(そうだよね。自分のことだもの、誰よりも現状を理解してるよね)
だから、私から言うわ。
「ユニ、私と婚約して」
そう、これが、私が導き出した答え。これなら、ユニは私の隣に居続けられる。
「……はぁ!? な、何言ってる!! 意味分かって言ってるのか!?」
焦るユニが逃げ出さないように、掴んでいる手に力を込めた。無理に解けなくて、ユニはおかしなまでにアタフタしだした。
「別に、おかしな話じゃないでしょ。ユニはあの高位貴族の息子でしょ。庶子だったとしても、そうでなかったとしても、息子には変わらないわ。王族とはいえ、罪人の血を引く私からしたら、ユニは勿体ないくらいだけど……他に、気になる人や婚約者がいるなら諦める」
最後の方は声が小さくなった。
私はユニが好き。大好き。
でも、その好きがどういう意味か分からない。というか、好きに種類があること自体よく分からないの。「愛してるの?」と訊かれたら、迷わず「愛してる」って答えるよ。
その辺はユニの方が詳しいのかな、歳上だし。もし婚約出来たら、訊いてみるのもいいかもしれないわね。
「……本当に、俺と婚約していいのか?」
(したいのか、と訊かない所がユニらしいわね)
「何言ってるの? 婚約を申し込んだのは私よ」
「だが……」
煮え切らなくて、少しイラッとした。
「はっきり言って!! 嫌なの? それとも、婚約するの?」
とことん強気で詰め寄り、答えを促す。
「分かった、婚約する」
(よし!! 言質取ったわ)
はしたないけど、思わずガッツポーズをしてしまったよ。その姿をユニに見られて、途端に恥ずかしくなる。取り敢えず、言質は取れたので、私はユニのベッドに潜り込んだ。
焦るユニが色々叫んでいるけど、私は完全無視して眠った。心配事が一つなくなると、寝付きも良いね。
でも、これだけじゃ安心出来ない。言質だけでは心許ないからね、外堀は埋めておかないと。こういうのを、既成事実って言うんだよね。王国を認めさせる方法はいくらでもあるわ。だって、私は聖眼持ちだもの。




