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では、最後に一度だけチャンスをあげますね  作者: 井藤 美樹


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7/13

今度は拉致られました



 屋台で買い物をしていると、男が釣れるのかな。またしても、肩を掴まれた。デジャヴ。


 身体を強張らせたけど、聞こえた声は屑兄達とは違った。振り返ると、フードを目深く被った青年だった。


「こんにちは、君がアイナだね。うん、可愛い」


 フードを目深く被りながらも、見上げれば、青年の顔が見える。金髪、碧眼のとても美しい青年だった。物語に出て来るエルフのような容姿をしていた。


(まさか、この人は……?)


 何となくだけど、この青年が誰か想像出来た。


「……どう呼べば宜しいですか?」


 こんな街中で、王太子殿下なんて呼べない。といって、許可が下りてないのに、名前を呼ぶなんてしたら不敬罪だよ。困った私は、素直に尋ねた。


「賢い子だね。アルお兄様と呼んでくれたら嬉しいかな」


(初対面で、無理難題言ってきたよ)


「…………お兄様」


「アルを付けて欲しいな」


 妥協して(ようや)く答えた私を、自称お兄様は笑いながらも譲らない。


「それは、無理です」


「何故?」


 一見柔和で優しい感じだけど、その笑顔は嘘っぽく感じた。貴族らしい笑顔だね。


「不敬罪になりますので。それに、一緒に住むつもりはありませんから」


(だから、必要以上に親しくなりたくない)


 なんて、さすがに言えないけど、雰囲気で察して欲しい。私が王宮に住めば、ユニと一緒にいる時間ば限られるからね。


「不敬罪にはならないよ。私が望んでいることだからね。それにしても、アイナは欲がないね。ここではゆっくり話せないから、場所を移動しようか」


 そう王太子殿下が告げると同時に、足下に魔法陣が浮かび光り出した。


(転移魔法!? しまった!!)


 そう思った時には、光が私と王太子殿下を包みこんでいた。私の異変に気付き、手を伸ばすユニの姿が見えた。




「そんなに怒らないでくれ、アイナ。ここは、ユーニスも知っている場所だから。ちゃんと、一週間以内に君を迎えに来るよ。さぁ、座って。お茶にしよう」


 王太子殿下はソファーに座るように言った。ここで取り乱しても、どうしようもない。ここが何処かも知らないんだから。私は渋々ソファーに腰を下ろす。


「……王太子殿下、転移魔法が使えたのですね。それで、ここは何処ですか?」


「お兄様から十歩以上下がったか……ここは、私の隠れ家だよ。因みにユーニスとは同級生で、幼馴染の関係だ」


 残念そうに言うわりに、王太子殿下は楽しそうだった。


(ユニって愛称だったのかな……出来れば、本人の口から聞きたかった)


「同意なく連れ去ったのだから、当然です」


「邪魔されずに、一度、二人でゆっくりと話しておきたかった。これでも、アイナの兄になるのだから」


「本人の同意なしに決まった事ですが……助かったのも事実です。ありがとう御座いました」


 私は軽く頭を下げ礼を述べた後、出された紅茶を躊躇(ためら)う事なく口にした。


「……連れ去られたのに、警戒する事なく口にしたね」


 判断しづらいのか、王太子殿下は微妙な表情をしている。


「今更、何をするのですか? そもそも私は、毒や状態異常を起こす薬は効きませんから、大丈夫です」


「それは、耐性があるって事か?」


 王太子殿下の表情が険しくなる。発せられた声も、冷え冷えとしていて怒気を含んでいた。


「ええ。小さい頃から、毒とか、それに近い物を口にしていましたから。自然に身に付きました」


「……実の子に」


 王太子殿下の声はとても小さかった、だけど、激しい怒りの中に、深い悲しみを確かに感じたの。私を想う気持ちがそこにはあった。


「出していたのは、元家族達だけではありません」


(それだけ言えば伝わるよね)


 私に毒を与えてきたのは、元家族達以外に、侍女や従者、執事達も含まれる。彼らは日々のストレスを発散するために、私に毒を与え、苦しむ様を笑いながら見ていた。


「そうか」


 重く低い声だった。王太子殿下はユニの次に、私を心配してくれ、怒ってくれた人だ。それだけで、警戒心が少し緩む。


 でも、目は変化していない。


「一番の理由は、私のこの目です。強い感情を抱いた時、虹色に変化するのを気味悪がられたのが、始まりでした。なので、赤ちゃんの時からですね。王太子殿下も同じ目を?」


 良い機会だわ。この目の事を聞いておきたい。


「私は受け継いではいない。そもそも、その聖眼は王族の血を引く女子にしか引き継がれないものだ。だが、誰でもではないんだ。アイナの双子の妹は引き継いでいないだろ」


(確かに、セレナは普通の目だわ)


 もし、セレナも聖眼を引き継いでいたら、彼女はここに座っていたのだろうか。いや、何も考えず、喜んで、待ち構えていた高位貴族に付いて行ったわね。


「ええ、引き継いではいません」


「ああ、魔力も少ないしな。聖眼の持ち主は、皆魔力量が多い。アイナなら、分かるだろ」


 思い当たる節があり過ぎる。この魔力のおかげで、生き残れたと言っても過言じゃない。


「はい」


「まぁ、持っていなくても、グリリアス王国の王族は皆、それなりに魔力量が多い。アイナと私は飛び抜けているけどね。……だが、聖眼の持ち主はまた別だ」


 私は黙って、王太子殿下の話を聞く。一呼吸置いてから、王太子殿下は続けた。


「二十年振りに聖眼の持ち主が現れた。アイナ、君だ。先代の聖眼の持ち主は、二十年前に老衰でこの世を去られた。エレナール元伯爵家に嫁がれた方は、その方の従姉妹にあたる。聖眼は受け継いではいなかった」


「その間、本当に、一人も現れなかったのですか?」


(二十年の空白があったと言ってたげど、先代が生きていた間も現れなかったの? さすがにおかしくない)


「グリリアス王族の女児の出生率が、かなり低いんだ。呪われてると思うくらいにね。産まれて来る子はほぼ男ばかり。十人中一人女児が産まれたら、当たり年と言われてる程だよ。現に、四人全員弟だから。その出生率の低さの上、聖眼を持つのは極々一部。……本当、聖眼が(けが)れていなくて良かったよ」


(けが)れ?」


 物騒な単語が出てきたよ。


「心が壊れたり、醜く歪んでしまうと、聖眼の力は反転すると言われている。そして、グリリアス王国を混乱させ滅ぼすと」


 王太子殿下の台詞で理解出来た。


「…………虐げられていた私が、闇堕ちしたと考えたのですね」


(だから、ユニが派遣されたのね。私を暗殺するために)


 でも、私は闇堕ちしていなかった。なので、急遽(きゅうきょ)保護する選択肢が増えた。だが途中で、闇堕ちするかもしれない。そう考えた上層部は、時間を掛けて私を観察する事にした。


「ああ、その確認のために派遣されたのが、ユーニスだ。大半は、堕ちたと思っていたよ。環境があまりにも劣悪だったから」


 王太子殿下は正直だ。必要以上に言葉を飾らない。私を一人の人間として扱ってくれる。好感度がアップしたよ。


(確かに、環境だけ見たら、最悪を通り越して劣悪だったわ。でも、私は堕ちなかった)


「……これは私なりの持論ですが、憎しみや怒りや殺意、そういった負の感情を抱き続けるのは、結構疲れるものです。だから、諦めた。完全に切り捨てた。その気持ちの転換のおかげで、堕ちなかったのかもしれません。それに、宝石やドレスなどの物欲もありませんからね。クレクレの元愚妹なら、堕ちていたかもしれません」


(間違いなく、堕ちていたわね。物欲の塊だから)


「…………アイナ、助け出すのが遅くなって済まない。もっと早く助け出せれば……指や膝は…………」


 深々と王太子殿下は私に頭を下げる。


 今更だと思ったけど、私は立ち上がり、王太子殿下の隣に移動する。そして、その肩に右手を添えた。


「謝らないで下さい。貴方は悪くない……と言っても、貴方は自分が許せないでしょう。なら、私の答えは決まっています。貴方を許します。なので、顔を上げて下さい、アルお兄様」


 上手く微笑む事が出来ないけど、気持ち悪がられないでいてくれたらいいな。


 因みに、ユニがこの隠れ家に突撃して来たのは三日後だった。その後、アルお兄様と殴り合いの喧嘩に発展したのは、言うまでもないよね。本当、二人は仲良しだよ。


 後に知った事だけど、グリリアス王国の国境沿いの町で会った高位貴族は、ユニの実父なんだって。仲は最悪のようだけど。まぁ、本人を目の前にして、「家族はいない」と断言していたから、相当だよね。




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