二度目の脱出です
五日後、予定通りに無事国境を越える事が出来た。
出来たのだけど、問題発生――
(問題起きるの早くない?)
つい、声に出して突っ込みたくなったよ。いかにも、待っていましたとばかりのタイミングだったから。
国境を越えた途端に、問答無用で、私とユニは拘束されたの。
拘束といっても、捕り押さえられて、手足が自由に動かせないとかじゃないよ。有無を言わさずに騎士や兵士に取り囲まれたの。そしてそのまま、ユニと一緒に、やけに豪華そうな部屋に通された。
よって、只今監禁中。
ベリーの果実水なんて、始めて飲んだわ。甘酸っぱくて美味しい。
(どうやら、エレナール伯爵家とザイザル商会は関係ないみたいね。となると……ユニ関係? なら、どうして私も監禁されてるの?)
分からないことだらけだ。なら、訊くしかない。
「……状況が変わったの理解してるよね、ユニ」
「なぁ、アイナ、どうしたい?」
私の質問には答えず、難しい顔で、ユニは意味が分からない事を訊いてきた。
「どうしたいって?」
「裕福な生活がしたいか?」
泣きそうな声で、ユニは重ねて尋ねる。
(質問の意図は分からないけど、望めば、そういう生活が出来るといいたいのかな? あ〜忘れてたわ。確かご先祖様に、この国の王族がいたって聞いたけど……さすがに、関係ないよね)
まぁいいわ。それにしても、馬鹿な質問だと呆れてしまう。あれ程言ったのに。
「……そこに、ユニはいるの? もしいないのなら、私は裕福な生活なんかしたくない」
迷わず答える、始めから一択しかないのに,迷うわけないじゃない。
「今のように隣にはいられないけど、出来る限り、傍にいられるように努力する」
「つまり、絶対じゃないんだね。なら、裕福な生活なんかいらない」
私はそう告げると、腰を上げた。
室内には、私とユニだけ。唯一の出入り口には、兵士二人が見張っている。魔力が僅かに漏れているから、人数が把握出来た。
(通路は狭いし、まず出入り口からの脱出は無理ね。だとしたら、後は窓か……)
窓を開けて下を見る。三階だから、なんとか飛び降りれそうだけど、骨折は覚悟しないといけないわね。建物が密集していたら、屋根に飛び移る事も出来たけど、それも無理。やっぱり、飛び降りしかないわね。
「魔力が回復してるから、ある程度は治せるわね」
そう粒なくと、私は躊躇う事なく窓枠に足を掛けた。焦ったのは、ユニだ。
「アイナ!!」
ユニは叫ぶと、私の腰に両腕を回す。標準より、かなり小柄な私は、縫いぐるみを抱っこしたような形になった。足がギリ床に付かない。
「邪魔しないで。私ユニの隣にいるって決めたの。このまま残れば、私はユニと離れ離れになるわ。なら、逃げるしかないよね」
だから、離して欲しい。なのにユニは、反対に腕に力を入れた。
「もし逃げて捕まったら、私は永遠にアイナと離れ離れになってしまう」
(えっ、何!? それは困る!! 絶対駄目!!)
ユニが嘘を吐いているようには、到底見えなかった。
「捕まる可能性は?」
「まず間違いなく、捕まる」
(騎士を動かせる程の人物なら、騎士以外を飼っていてもおかしくない)
ドアマット生活でも伯爵令嬢、それなりに知っているわ。
「僅かな可能性もないのね」
「ああ、ない」
そうだと思ったけど、ユニにきっぱりと断言されて腹を括った。
「そう……なら、交渉するしかないわね」
(このまま、何もしないでいるのは諦めた事と同じ。私は諦めたくないの。最後まで足掻きたい)
「交渉?」
ユニが訝しげに私を見下ろす。そろそろ下ろしてくれないかな。
「ほぉ、それは、私とかね?」
下ろして欲しいと口にする前に、ユニとは違う声が聞こえた。声がした方に顔を向けると、ニヤニヤと笑っている男性貴族が腕を組んで立っていた。
一目見て、高位貴族だと分かった。
商人か男爵家の出のように見せ掛けているけど、明らかにシャツの生地が違う。それに、おどけているように見せているけど、何気ない所作が洗練されていた。ハリボテ感や荒っぽさを感じなかったの。それに、少しユニと似ていた。
(このまま留まれば、超面倒くさいことになる)
瞬時に判断したね。回避一択しかない。予定変更、最終手段に移行するわ。
「いいえ、交渉の相手は貴方ではないわ。ユニ、今から質問するから、正直に答えて。家族はいるの?」
高位貴族の男は突然始まった展開を、愉快そうに見ている。余裕綽々だわ。自分たちが優位だと信じ、意のままに出来ると信じている目ね。
私が一番嫌いな目。
「血の繋がった奴なら一人いる。でも、家族じゃない」
そうユニが告げた時、僅かに目の前にいる高位貴族の眉が動いた。
「親類や恩人は?」
「いたけど、皆死んだ」
(なら、足枷はないって事ね)
「そう、大事な人がこの国にはいないのね。じゃあ、最後の質問。今でも,私と一緒に旅を続けたいと思ってる?」
これが、私にとって一番大事な質問だった。心の中で祈る。
――お願い、一緒にいたいと言って。
「…………出来るなら、全てを忘れて続けたい」
吐き出される声はとても小さく、弱々しかった。でもはっきりと聞こえたの。
(言質取ったわよ!!)
「分かったわ、ユニ」
最終手段として大枚をはたいて買っておいた魔法具。あれを使うしかない。片道切符だけど、距離は稼げる。ついでに、時間も稼げる。
使用して、直ぐに行動したら、稼いだ時間を逃げる事に費やせるわ。荷馬車を失うのは痛いけど、仕方ないわね。貴重品を肌身放さず持っていて良かったよ。
私は首にかけていたペンダントを引き千切り、魔力を流した。
途端に、ユニの足下に魔法陣が現れる。
驚く高位貴族の男に対し、私はニヤリと笑うと言ってやった。「私達の未来に、貴方たちはいらない」とね。そして、更に魔力を流した。
そう、私の最終手段は転移魔法を付与した魔法具。あらかじめ指定された所に瞬時に移動出来るの。用途が用途だから、護身用として、身に着ける装飾品に偽装している事が多い。
(身体検査しなかった、貴方達の落ち度よ。ただ……買ったのがエルナール領だったから……)
「…………三週間が無駄になったな」
「無駄にはなってないわよ!! ここ、エルナール領じゃないもの、王都だよ」
訂正したら、漸く下ろしてくれた。正確に言えば、王都前の空き地だけどね。
「魔法陣に行き先が浮かぶから、俺たちの居場所は筒抜けだな」
「でも、隣国だよ。時間稼ぎにはなるでしょ」
「そうだな」
私はあの高位貴族の事について、ユニには訊かなかった。この笑顔を曇らせたくなかったから。まぁ、そのうち教えてくれるでしょ。
「お腹空いた。何か食べよう、ユニ」
今度は私がユニに手を差し出す。ユニは少し笑い、私の手を握ってくれた。




