表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
では、最後に一度だけチャンスをあげますね  作者: 井藤 美樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/13

この世は、ほんと世知辛いものよね



 この世は、ほんと世知辛いものよ。日々、実感する毎日だわ。


 弱者は弱者。


 強者は強者。


 お金や地位、権力などで、明確に容赦(ようしゃ)なく線引きされている。中間なんて存在しない。それは、家族内の小さな世界でも同じ。


 家族の中で、私は間違いなく弱者だった。といっても、庶子じゃないよ。実子なんだけどね……


 一応、私はこれでも貴族だよ。ちゃんと貴族籍だってあるわ。アイナ・エレナール、それが私の名前。爵位は伯爵。名前を呼ばれた回数は、両指よりも少ないけどね。


 エレナール伯爵家を一言で例えるなら、落ちぶれた元名門かな。


 特産品や鉱山などなく、観光業が出来るようなものもない。領民の税収頼りの弱小貴族。借金はあっても貯蓄なし。役職に就いている者もなし。なしなし尽くしの家ね。


 つまり、古くなら続く格式だけやたらあるエレナール伯爵家は、語るまでもなく、今は貴族社会においては底辺でしょうね。


 たとえるなら、一定層だけ知っている、マイナーなブランドと言った所ね。まぁそれでも、この家名だけはまだ売れるようだから、余程、ご先祖様は頑張ったのね。


 (さかのぼ)れば、他国の王族の血が流れていると言われてるけど、完全に薄まってるよね、馬鹿の血で。ご先祖様の頑張りも高貴な血も、子孫によって食い潰されて、今残っているのは家名だけ。


 後は、無駄にデカい虚栄心とプライドだけは人一倍あるときた。丁寧に言えば、ゴミよね。悪く言えば、屑かな。


 その屑の一人が、これまたとんでもない事を言い出した。いきなり執務室に呼ばれ、床に跪くように命令した。いつものことだ。そのまま話を聞く。


「――という訳だ。お前には、ザイザル商会に嫁いでもらう」


 告げられた瞬間、さすがの私も言葉を失ったわ。


(あぁ!? 何が、どういう訳なのよ!?)


 ふんぞり返っている、一応血の繋がった脂肪の塊のデブ屑親父の腹を、思いっ切り踏んでやりたくなったわ。一足しかない靴が汚れるからしないけど。


「……失礼ですが、私の年齢を忘れましたか?」


 腹の中は煮え滾ってるけど、表面上は平然と答える私に、デブ屑親父はニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべながら答える。


「それなら、心配無用だ。成人前から育てたいと希望しているからな」


 つまり、そういう趣味の所に売ろうとしてるって事でしょ。いや、この口振りなら、もう売った後かもしれない。


(マジ、気持ち悪い。吐きそう)


 買われた先で旬が過ぎたり、使えなくなったら、奴隷商行き確定っていうわけね。これが、自分の血を引く娘にする事なの。つくづく、私は物扱いなのね。同じ物の中でも、使い捨てのやつね。


 表情を一切変える事なく聞いている私に、デブ屑親父は笑みを消し苛立ち始めた。「可愛げがない」「人形風情が」とか、怒鳴っている。これもまた通常運転。


(ほんと、勝手な(やつ)ね。表情を変えたら変えたで、生意気だとか、難癖付けて殴るくせに。それにしても、このデブ屑親父、完全に忘れてるわね)


 口には出さずに毒づく。


「……今年、学園に入学予定ですが」


 形だけだけど、念のために訊いてみた。答えは分かり切ってるけどね。


 貴族籍を持つ者ならば、王立魔法学園に通わなくてはいけないはず。というか、そう国法に定められてるよね。


(忘れているようだけど、これでも一応、エレナール伯爵家長女なんだけど)


 変態キモ男と契約したのか、まだしてしないのか分からないけど、まだ、貴族籍は抜かれていないと思う。抜いたら、商品価値が下がるでしょ。


 相手は商会、没落貴族でも、エレナールという家名も手に入れたいよね。これから先、商売を広げたいと考えるなら。


 因みに、兄二人は学園に入学して今は寮暮らし。兄様なんて呼んだことなど一度もないけどね。向こうも、私を妹なんて思っていないでしょ。名前を呼ばれた記憶もないし、長期休みに帰って来ても、殴られたり、蹴られたりはしたけど、普通に話した事はないわね。いつも、怒鳴っていた。


 私の家族は全員、屑だ。


「そんなの、お前が通えるはずないだろ!! 平民になるのだからな!!」


 デブ屑親父は唾を飛ばしながら怒鳴る。


(マジ、汚い。それに、馬鹿。矛盾に一切気付かないなんて、愚かね)


 正式に婚姻するまで、貴族籍を抜けないよね。ましてや、未成年の婚姻は国法で禁止されていたはず。


 入学まで二か月あまり。


 私はまだ十二歳。完全に、国法に違反するよね。だとしても、通えるとは思ってないわ。そこまで甘くないもの。学園に入学しなない理由ぐらい、どうとでも誤魔化(ごまか)せるしね。


(まぁでも、この展開は驚かないわ。想定内だったもの)


 セリアのおねだり攻撃で、家計は常に火の車。


 だけど、可愛い可愛いセレナには不自由はさせたくない。勿論、学園にも通わせる。なら、何処からお金を調達するの? お金の工面に困っていた時に、甘い言葉を囁かれたら、躊躇(ためら)わずに、喜んで変態キモ男の提案に乗るよね。


 商品が、私だったとしても。


 それにしても、一卵性双生児なのにこの扱いの差は何。


 十二年もこの環境で生きていれば、もう諦めたわ。希望なんて、ないない。だからといって、これ以上搾取(さくしゅ)されるのは、絶対嫌。理不尽に、叩かれ続けるのも鞭打ちも嫌。カビのはえたパンに味のない水のようなスープも、雑草もうんざり。


 その上、身体や命まで搾取(さくしゅ)されるなんてまっぴら御免だ。


(そもそも、あいつらの生活のために、私が何で犠牲にならなきゃいけないのよ。意趣(いしゅ)返しのために死ぬのも馬鹿らしい)


 なら、取るべき手は一つだよね。


 正直、(わず)かな可能性に過ぎないけど、これ以上地獄には落ちないし、その可能性に賭けでみようと思う。


(取り敢えず、隣国に逃げようかな)


 一応、王族の血が流れているって聞いてたし。だからどうしようなんて、これっぽっちも考えてないわよ。ただ……目的もなければ、予定もない。ならせめて、縁がある場所を目的地にしようと思っただけ。


 国境を越えられたら、私は自由――


 その先、何処にでも行けて、何処にでも住む事が出来る。お金を出せば、美味しい物を好きなだけ食べる事が出来る。ベッドで寝る事も出来る。夢の世界だよ。


 誰にも怯えない、奪われない、そんな平和な生活が少しでも味わえるのなら、私は喜んで全てを捨ててやる。


 この身体も、命も、担保に入れてやる。


(予定より少し早いけど、そうと決まれば、早速行動開始ね!!)



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ