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有能な怠惰の魔女はのんびりと暮らしたい  作者: うさうさ
第一章 メイド姿をした魔女
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第7話 すごい

 三年前。人で賑わう街。果てしなく並ぶ屋台と華麗な装飾。まるで祭りを思わせる賑々しい街の中、ミリネとミアがいた。ミリネは陳列台に陳列された髪飾りをミアに見せていた。


「ミアこれ見て。可愛いでしょ。買ってやるか」

「・・・・・・」

「気に入らないの? じゃこれはどう?」

「・・・・・・」


 ミリネは無理矢理いつもより高くて明るい声を出して喋り続けた。しかしミアは黙ったままミリネが見せるものをじっと見るだけだった。


「この店のものが気に入らないわけ? じゃあ他の店行ってみよう」

「・・・・・・」


 ミリネは髪飾りを陳列台に戻し、他の店に足を運んだ。こうして数分間街を歩き回ったが、どこの店にも正着できなかった。


 どこへ行けばいいんだ。


 実はミリネは祭りとかあまり行ったことなかった。祭りより家でゴロゴロするのが好きだし、外で歩き回るのもあまり好きじゃなくて祭りが開かれてもあまり行かなかった。しかしそんなミリネが今異国の祭りに来たのはミアのためだった。


 昨日。夕暮れの頃、ミリネは夕暮れで真っ赤に染められた空を眺めながらミアに言った。


「ねぇ、ミアもう帰ろうって」

「・・・・・・」

「いつまでこうしてるつもりなんや。そろそろ宿に帰らなきゃ」

「いやです」


 お墓の前でしゃがんだミアは少し頬を膨らませて断固として答えた。ミリネは深いため息を吐いた。


 どうしよう。もうすぐ暗くなるのに。


 別に夜道が危ないからではなかった。そもそも誰かに襲われたところで、七賢人のミリネに勝てるわけがなかった。それでもミリネが急いで帰ろうとするのは、今いる場所が共同墓地だったからだ。


 ここマジでお化けが出そうだけど。


 ミリネは身をすくめた。あっちを見てもこっちを見てもどこを見てもお墓ばかりで陰気な雰囲気が漂った。少し前まではお墓参りに来た人たちがいたけど、今は全部帰ってしまってミリネとミア二人だけだった。その上に日が暮れて本当に何かが出てきそうだった。


「ミアもう帰ろうってば。美味しい夕飯奢ってやるから」

「いやです」


 ミアは即答した。何度言っても変わらないその返事に、ついに忍耐の限界に達したミリネはイラッとした。


「あ、もー知らん。私は先に帰るから、ミアは勝手にしろ」

「はい」

「・・・本当に帰っちゃうから」

「はい」


 ミアはお墓から目を離さずに答えた。ミリネはふんっと鼻を鳴らし背を向けた。そして出口に向かってゆっくりと歩き出した。一歩歩くたびにチラっと横目でミアの様子をうかがった。ミリネが去ろうとしたにも関わらず、ミアはお墓の前にしゃがんだままだった。


「はぁ仕方ないね」


 ミリネは深いため息をつきながらミアの元へ戻った。ミアはきょとんとした顔でぼんやりと見上げた。ミリネは少し頬を赤らめてミアの傍に一緒にしゃがんだ。


「帰らないんですか」

「こいつの前であんたを置いていくわけにはいかないから」


 ミリネはお墓を指さして言った。


「こいつには一生洗えない罪がある」


 ミリネはお墓を見て静かに独り言をつぶやいた。ミアはミリネの呟きを耳にしたけど、わざと聞こえないふりをした。こうしてミリネは何も言わなずに、黙々とミアの傍にいた。それから何時間経ったか、完全に日が落ちて夜になった。待ち疲れたミリネはコックリコックリと船を漕いでいた。ミアはミリネの肩を軽く叩いた。するとミリネはびっくりして目覚めた。


「うあぁっ、なになに。幽霊出た?」

「落ち着いてください。幽霊なんかいないんです」

「うん? あ、そ、そう、なの? よかった」


 ミリネはふぅーっと安堵のため息を吐いた。目の前に魔物や悪魔がいても平気なのに、幽霊は怖がるミリネだった。


「ミアもう十分でしょ? そろそろ帰ろうぅよ。早く宿に帰りた」

「はい。帰りましょう」

「え、マジ?」


 予想と違う返事に、ミリネは目を見開いた。


「はい。もう帰りましょう」


 今一番聞きたかった言葉に、ミリネの表情は明るくなった。ミリネは直ちに立ち上がった。


「さあ早く帰ろう!」


 ここに来てから一番明るい声だった。ミアは首を縦に振っておもむろに立ち上がった。


「それで夕飯は何奢ってくれるんですか」

「残念だが、あのチャンスは過ぎ去っちゃった。あんたの金で食べな」

「せこい」


 ミアはほとんど表情を変えずに頬を膨らませた。これを見て、ミリネはつい笑ってしまった。


「プハッ、冗談だよ。奢ってやる。なんか食べたいものある」

「・・・・・・スープ」

「ん?」

「ミートスープが食べたいんです」

「ミートスープ、か。わかった。でも今開いてる店あるんかな」


 結構遅い時間だったため、ほとんどの店は営業時間を過ぎて閉店したはずだった。


 とりあえずまだ開いてる店を探してみるか。


 とミリネは思いミアと一緒に街を歩き回ってみた。幸いにまだ営業中の店をすぐに見つけて、無事にミートスープを食べられた。


 そして翌日。ミリネは早く家に帰るために珍しく早起きした。ミリネは両手を上に上げて思いっきり伸びをした。そしてすでに起きていたミアに言った。


「家に帰ろう。私のベッドが恋しい」

「はい」


 ミアの声はいつもよりやけに元気がなかった。心配になったミリネはミアに目を向けた。ベッドの上でしょんぼりと膝を抱えて座ったミアの姿が目に入った。


 まあ無理もないか。あれから一年しか経ってないから。どうしよう。このままじゃ家に帰ってもあの調子のままだと思うやけど。ふむ、何か元気出させるようないい方法ないかな。


 ミリネは顎に手を当てて考え込んだ。普段だったら面倒臭いから自分でなんとかしろ、と放っておくはずだった。けど、昨日お墓参りに行ったせいかしょんぼりしたミアを見て見ぬ振りをするのはできなかった。

 しばらく考えた末、ミリネは昨日墓参者たちが話したことが思い出した。


 あの人たち、確か今日クレノス王国に祭りがあるって言ってたね。クレノス王国ならここであまり遠くないから、行ってみるか。


 誰かに祭りのように賑やかなところに行くと気分転換にいいと言われたことがあって、祭りに行けばミアもきっと気分が良くなるとミリネは思った。


「よし、ミア起きて。祭り行こー」

「え、祭り、ですか? どうして急に祭りを」

「とりあえず起きて」


 ミリネはミアを立ち上がらせた。そして、ミリネはミアの手を取ってクレノス王国の祭りに向かった。こうして現在に至って。


 どこに行けば気分転換になるんだ。


 祭りさえ来れば気分転換になるという安易な考えをしたミリネはその対価をたっぷり払っていた。


 あの屋台は、ミアが嫌がりそうだし、この屋台はただつまらなさそう。


 ミリネがどこに行けばミアが喜ぶかと悩んでいたところ、突然腕を引かれる感じがした。ミアがミリネの服の裾を引っ張っていた。


「急にどうした。行きたいとこでもある?」

「あそこ」


 ミアは右側を指で示した。そこにはなぜか人が混んでいた。


「あっちに行きたいわけ?」


 ミアは何も言わずにただ頷いた。


「わかった。じゃ行ってみよう」


 ミリネは人と離れないようにミアの手をぎゅっと握った。そして、大きく息をして人混みに向かった。人混みをかき分けて進むと、やがて大きな円形劇場が出た。

 ミリネは劇場を見渡した。ステージが客席より低いところにあって、全体的に客席からステージを見下ろす形の劇場だった。結構広くて客席も多くあったけど、空席が見えないほど満席だった。ミリネたちはかろうじて空席を見つけてすぐそこに座った。


 何か公演でもするのかな。


 祭りが開かれることだけ知ってきたので、祭りで何をやるのか演劇をするのか、詳しいことは全然わからなかった。


 せめて面白い演劇で欲しいな。


 ミリネはステージを眺めながら演劇を始まりを待っていた。こうして数分後、ついにある人がステージに上がってきた。


 やっと始まるんか。っつか、あの人役者なの? 役者ってより踊り子に近いんやけど。


 舞台に上がった金髪の女子は白い布で口を隠していたし、華麗な服装をしていた。配役であんな格好しているのかもしれないけど、どう見ても役者よりは踊り子に違い服装だった。


 一体何の公演なんだ。


 と疑問に思った途端、大音量の音楽がステージの裏から響き渡った。それと同時にステージの踊り子が踊り始めた。


 なんだ、踊りか。踊りはつまらなくてあんまり好きじゃないけど。


 ミリネは足を組んで手に顎を乗せた。


 早く終わらないかな。


 ミリネは横目でちらっとミアの顔色をうかがった。だが、無表情だったので感情を読み取れなかった。でもステージから目を離さない姿を見ると、かなり楽しそうに観ているようだった。もし退屈そうにしていたら「帰ろう」というつもりだったのに、こんなに集中して観ていると、とても「帰ろう」なんて言い出すことはできなかった。


 せっかくだし、私もちょっと集中して観よっか。


 そう決めたミリネはステージに視線を向けた。

 踊り子は音楽に合わせて踊っていた。音楽が柔らかくなると優雅な踊りを。盛り上がるとそれに合わせて激しくて節度ある踊りを。綺麗な曲線を描きながら踊り子は音楽に合わせて色んな舞を披露して見る側を楽しませた。ミリネもいつの間にか踊り子の舞台に引き込まれてしまって目を離せなくなった。この踊りが終わらないで欲しいと思うほどだった。だが、踊り子の動きは終わりに向かっていき、やがて最後のポースを取った。踊り子の舞台が終わると同時に万雷の拍手が沸き起こった。ミリネも例外ではなかった。気づけばいつの間にか自分も踊り子に拍手を送っていた。


「すごい」


 ミリネは小さく独り言を呟いた。

 踊りについては完全に素人なので、何がすごかったと言葉で表現するのは難しかったけど、とにかくすごかった。なぜか心の底がジーンとする感動を与えるいい舞台だった。ミアも気に入ったのか、口角が少し上がっていた。


 これでちょっとだけ気分が良くなったのかな。よかった。


 ミアの微笑を見てミリネはほっとした。



 あの踊りはすごかったな。もう一度観たいけど。


 ミリネは三年前の舞台を思い浮かべてみた。何か手がかりがないかと思って記憶を探ってみたけれど、ミジャリの踊りしか記憶に残っていなかった。ミアの話によると、このあと王子が皆の前で演説をしたらしいが、その記憶は残っていなかった。ミジャリの踊りがあまりにも強烈だったせいもあるけど、そもそも演説みたいに退屈なことは集中して聞かないし、聞いてもすぐに記憶から消えてしまうミリネの性格の方が原因としては大きかった。


 王子がなんて言ったっけ。


 ミリネは頬に手を当てて考え込んだ。その瞬間、


「ミリネ嬢おぉ!」


 ヒシルの怒鳴り声が考えに耽っているミリネを現実に引き戻した。ミリネはびっくりしてヒシルをぼんやりと見つめた。


「何をぼーっとしてるんですかあ! 早く動きなさいぃっ!」


 ヒシルは再び怒鳴り声を上げた。しかし、ミリネはぼーっと立ち尽くしていた。ミリネの間抜けた様に、ヒシルは頭がジーンとした。彼は深いため息を吐き、ミリネにモップ掛けを手渡した。


「これでこの部屋を掃除しなさい」

「この部屋を・・・掃除するって?」


 ミリネはモップ掛けをじっと見下ろした。

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