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有能な怠惰の魔女はのんびりと暮らしたい  作者: うさうさ
第一章 メイド姿をした魔女
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第4話 本当にこれ着るの?

 それから一週間後。ミリネとミアはクレノス王国行きの馬車に身を乗せて王子の別荘に向かっていた。


「だるい」


 ミリネは馬車の窓の外を眺めながら独り言を呟いた。青々とした草原が広がって爽やかな風景を醸し出した。だけど、何時間も同じ風景を続くと、さすがに飽きるものだった。


「帰りたいぃ」


 ミリネはため息を吐きながら窓から顔を背けた。ランディル王国とクレノス王国は隣国だけど、結構距離があったため、長時間馬車の中に大人しく座っていなければならなかった。しかも座席が硬くて座り心地が悪かった。そのため、お尻と腰がだんだん痛くなってきた。姿勢を変えようとしても、馬車内が狭いせいで座り直せなかった。


 広い馬車で用意しろってあんだけ言ってたのに。


 ミリネはこんな狭くて不便な馬車を選んだモルスを心の底から恨んだ。メイドが豪華な馬車を利用するのは怪しいと疑われる余地があってわざとこんな馬車を用意したのは理解した。けど


 狭いにもほどがあるやろ!


 ミアとミリネで満杯になるほど狭すぎた。二人が並んで座るスペースがなくてミアとミリネが向かい合って座らなければならなかった。しかも馬車の揺られが激しくて酔いしそうだった。不便なのはこれだけではなかった。着ている服も不便だった。 ミリネは俯いて自分の服を見下ろした。ふわふわなスカートの白黒メイド服が目に入った。


 なんで私がこんな服を・・・。


 メイド服を見ていると、自然にため息が出た。ミリネは腕と脚を少し動いてみた。


「マジで動きづらい。ミア、あんたのはどう?」

「少し動きづらいけど、問題ないんです」


 ミアは何回か腕をぐるぐる回してみて答えた。ミリネだけではなく、ミアもお揃いのメイド服を着ていた。多分、体が小さいから服がそれほどきつくないのかもしれなかった。

 なぜ彼女らが今メイド服を着て王子の別荘に向かっているのか、それは出発する前に遡る。

 時は遡って、出発の前。モルスの屋敷で馬車の準備を待っていた時のことだった。


『ここはいつ見てもおしゃれやね』


 ミリネは自分の家より何倍も広い部屋を見渡した。さすがにサリエラ家の屋敷だった。サリエラ家は代々魔術師を輩出した家系で古くから王国の政務を執ったり、国王に助言を行う由緒ある貴族の家柄であった。すなわち、国王の側近であった。そのため、お金もたくさん儲けて経済的にも非常に豊かな貴族であった。


『ここのソファ、家のベッドよりふかふか』


 ミリネの傍らに座ったミアは、ソファをポンポンと叩きながら言った。家のベッドとは比べ物にならないほど高級品だった。ミアとミリネが部屋の中をギョロギョロと見渡していると、扉からモルスが入ってきた。


『あ、ミリネさん、ミアさん、これを着てください』


 モルスの言葉に、彼の傍らにいたメイドがミリネとミアにある服を差し出した。その服を見たミリネは眉間に皺を寄せた。


『何これ、メイド服? なんでこれをくれるんだ』

『今日からメイドになるわけですから』

『それは知ってる。私が言いたいのは、なんで今から着ろって言うんだよ』

『前もって着て行くと、好印象を与えると思いますので。この人はちゃんと準備してくる真面目な人なんだな、と』

『いや、要らねえよ。あとそんなので好印象を与えられるわけないやん』

『あなたは怠惰すぎてこうでもしないと、絶対好印象を与えられません。ですから、早く着替えて着てください』


 モルスはメイド服を無理矢理にミリネの手に持たせた。いつの間にかミアは着替えに行ってそばにいなかった。ミリネはふむと息を漏らし目を細めて手に持たれたメイド服を見つめた。


『余ったものですが、誰も着たことないほとんど新しいものなのでご心配なく着てください』

『いやぁ、そんなんじゃなくて。本当にこれ着るの?』

『はい、今日からはメイドになりますんで、ぜひ』

『・・・はぁわかった』


 深いため息と共にミリネはメイド服を持ってソファから立ち上がった。


 どうせ着るなら今着た方がいいだろう。


『で、どこで着替えるんだ』

『私がご案内いたします。こちらへ』


 メイド服を持っていたメイドは先頭に立って着替え室まで案内してくれた。ミリネはメイドの案内に沿って着替え室に入ってメイド服に着替えた。メイド服は初めてでどうやって着るのか分からなかったけど、幸いメイドの助けを借りて無事に着ることができた。こうしてしばらくして着替えを終えたミリネは、さっきの部屋に戻った。


『ね、本当にこれ着なきゃいけないの? マジで動きづらいんだけど』

『お似合いですね。完全にメイドに見えます』

『それ褒め言葉なの? 全然嬉しくないけど』


 ミリネは呆れ顔をした。そして再び体を動かしてみた。服の締め付けがきつくて動きづらかった。


『慣れるまで時間かかりそう。それよりミアは? ミアはどこにいるんだ』

『こっちです』


 ソファの側からミアの声が聞こえてきた。ミリネはそっちに目を向けた。ソファにはミリネと同じメイド服を着たミアはぼーっとしていた。


『え、可愛い。お人形みたい』


 ミリネはミアの前に立ち矯めつ眇めつ眺めながら静かに呟いた。意外にもメイド服はミアによく似合っていた。しかもミアは表情の変化も少なく、さらにお人形のように見えた。


 後で他の服も着せてみようかな。


 ミリネはファッションとか服に全く興味がなくて、いつも動いやすいローブをかぶって過ごしていた。そしてそれはミアも同じだった。ミアはミリネ以上にファッションに興味がなかった。ミリネのクローゼットにはローブ以外に普段着とかがしまっていたが、ミアのクローゼットには同じカラーのローブしかなかった。たまにカロルが服をプレゼントしてくれるけど、ほとんど着ずにいつも地味なローブ姿で過ごしていた。だからか、メイド服を着たミアの姿は新鮮で可愛く感じた。


『本当似合うね。家に帰ったら服買ってやるから、クローゼットのローブは捨てて』


 ミリネの言葉に、ミアはきょとんとした顔をした。ミアの疑問にもミリネは何の説明もなく、ただ彼女を食い入るように見つめるだけだった。後で彼女たちを見ていたモルスにメイドが何かを囁いた。モルスはメイドの話を聞きながら軽く頷き、「わかりました」と小さく答えた。そしてミリネとミアにゆっくりと近づいて言いかけた。


『あの・・・ミリネさん、ミアさん。ちょうど馬車の準備が終わったらしいです。そろそろ出発しましょう』

『はぁ、マジで行きたくない』


 ミリネは深いため息を吐いた。しかし今更やらないんだと取り消すことはできなかった。ミリネは過去の自分の怠惰さを恨みながら馬車のところへ足を運んだ。


 そして現在。


「一体いつ到着するんだ」


 メイド服を着たミリネは長時間じっと座ったまま移動してそろそろ忍耐の限界に達していた。ミリネは不満げにカタカタと貧乏ゆすりをし始めた。

 長時間座り心地悪い椅子に座って腰は痛いし。馬車は激しく揺れるし。服は動きづらい。それ以外にも様々な要素が混ざり合ってイライラさせたが、その中でもじっと座っていなければならないことが最もミリネを狂わせた。何時間も自由に動かないまま同じ姿勢でいるは拷問のようなことだった。終わらない拷問に、どうにかなっちゃいそうな直前、突然馬車が止まった。


「到着しました」


 馭者の声にミリネは窓の外に目を向けた。青々とした草原の真ん中に豪華な屋敷が一軒、堂々と建っていた。普通の貴族の屋敷などより華やかで広いのはわかった。


 さすがに王族の別荘。サリエラ家の屋敷に張り合えるほどね。


 そう感嘆している途中、馭者が扉を開けてくれた。ミリネは扉が開くや否や、この瞬間を待っていたかのように馬車からパッと降りた。間を置かず、ミアがミリネの後ろに続いて馬車から降りた。ミリネは降りてすぐ思い切り伸びをした。長時間座ったせいで凝った体がスッキリして気持ちよかった。


「うぅあーっ、マジ死ぬかと思った」


 帰る時は誰になんて言われても広い馬車を利用しようと思うミリネだった。

 馭者は帰りミアとミリネは屋敷に歩いていった。やがて屋敷の門扉が視界に入ってきた。幾何学模様を細かく刻んだ華やかな門扉だった。そして正門の前に黒いスーツ姿の人が後手を組んで立っていた。ミリネは目をぎゅっと細めて見た。白髪オールバック老人だった。


 誰だろう、あの人は。


 そんな疑問を抱いて歩いていると、やがてミリネはミアはあの老人の前に辿り着いた。あの老人はミリネとミアにお辞儀をした。


「待っておりました。私は王子様に仕えているヒシル・ランスタルと申します。お二人さんは今日から働くことになったメイドさんですよね?」


 自分をヒシルと名乗った老人の言葉遣いと振る舞いは気品に溢れた。ヒシルの問いに、ミリネとミアは答えの代わりに軽く頷いた。


「そうですか。では」


 ヒシルはゴホンっと咳払いをした。そしてーー


「なんですかあ、そのぶっ壊れた時間感覚はあぁ!!」


 ヒシルは急に怒鳴り声を上げた。突然の怒鳴り声に、ミリネとミアはびっくりした。


「約束した時間より五分送るなんて。メイドにとって時間厳守は最も重要。なんて基本もできていないメイドたちなんですか!」


 ヒシルの叱りに、ミリネとミアは顔を顰め耳を塞いだ。ヒシルの声はまるで雷のように大きすぎて耳が痛いくらいだった。それだけではなかった。


 人ってあんな一瞬で顔が変われるの?!


 さっきまでは穏やかな表情の上品そうな老人だったのに、一瞬にしてすごい強面に変わった。まるで地獄から戻ってきた悪魔を連想させるような顔だった。その上、右頬に大きな傷跡があってより険しく見えた。


「確かにエリートだと聞いて雇用したのに」


 ヒシルの独り言に、ミリネは身を強張らせた。手続きや書類関係は全部モルスに任せたので、こっち側になんて紹介したのかわからなかった。まさか王国を相手にエリートだと嘘をつくなんて、夢にも思わなかった。


「一体どこでこんな間抜けなメイドを」


 ヒシルは額に手を当ててため息を吐いた。なんか無視される気がしたミリネだったけど、ここで言い争いになったら厄介なことになるのは遠慮だったので大人しくしていることにした。


「しかもあんなチビを送りやがって」


 ヒシルは横目でミアを見た。確かにミアは同年代と比べて背が低いし小柄で、あんな風に言われても仕方なかった。あと、よく言われることなのでミアも別に気にしなかった。


「とりあえず王子様にご挨拶をしましょう」


 ヒシルはため息と共に門扉を開けて屋敷の中に入った。ミリネとミアはヒシルの後について中に入った。


 改めて見てもおしゃれやな。


 窓から見た時は少し遠くて一部しか見えなかった。けど、今こうやって見ると馬車の中では見えなかった部分まで見えて窓から見た時とはかなり違った。屋敷が大きいのはさっき見てある程度察していたけど、庭もこんなに広いとは思わなかった。

 庭の茂みと木々はよく手入れされていて綺麗だった。誰がこんな広い庭を手入れするのか、気になった。まさかヒシルがやるのか、とミリネは一瞬思ったけど、さすがに一人でこんな広い庭を手入れするのは無理があった。


 多分、専用庭師がいるのだろう。


 そう思いつつミリネは庭を見渡した。やがて彼らは屋敷の正門に見えるところに辿り着いた。大きいカンバスの上に金色の絵の具で絵を描いたような華麗な両開き扉だった。両開き扉は確かに美しかったが、大きすぎて一人では開きにくそうだった。

 そういえばどこかで聞いたことがあった。戦争が頻繁だった頃、敵が王族の住むところに侵入することを防ぐために、わざと扉を重く作るんだと。すると敵は簡単に扉を開けないし、敵が時間を浪費する間、王は身を隠せる。


 とは聞いたけど、これ一人で開けれる? ドアマンが開けてくれるのかな。


 と思った瞬間、ヒシルが静かに両開き扉の真ん中の方に歩いていった。そして取手を掴み息を吸い込んだ。何をするだろう、と疑問に思った瞬間、ヒシルはハッと息を吐き巨大な両開き扉を簡単に開けてしまった。それを目の当たりにしたミリネとミアはびっくりして目が飛び出た。


 いっ、一体何の力だ。


 あんな老人がこんなデカい扉を開けるとは。化け物に違いなかった。しかも疲れた様子は一斉なかった。

 あんな扉、開けろと言われたら開けられないこともなかった。魔法でいくらでも開けられるから。しかし、今のは一切魔法を使わなかった。純粋に筋力で開けたものだった。だから信じられなかった。自分の目を疑った。しかし確かに両開き扉は開けているし、それを開けた人も今彼女らの目の前にいた。しかも余裕そうな顔をしていた。


「じゃあ入りましょう」

「は、はいッ」


 ミアは戸惑って激しく頷き、ミリネはつい敬語で答えてしまった。さっき目の当たりにしたことがあったからか、自然に敬語が出たのだ。


「ではこちらへどうぞ」


 ヒシルは手で中を示し、先に屋敷の中に入った。ミリネとミアは呆気に取られたまま、ヒシルの後に続いて中に入った。

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