第27話 私と結婚してくれませんか
人気のない路地。ミジャリは得体の知れない男二人に囲まれていた。ロギアはミジャリの顔を見た瞬間、自分でも気づかないうちに身体が先に動いてしまった。ロギアはミジャリと彼らの間に割って入った。
「そなたたちは何者だ」
「お前こそ誰だ」
「ロ、ロギア?」
ロギアだと気づいたミジャリは、目が丸くなった。
「どうしてあんたがここにいるの」
「それは俺のセリフだ。なぜそなたがここにいるのか。あとこの人たちは一体なんだ」
「なんだお前。そこの女と知り合いか」
「友達だ」
ロギアはなんの躊躇いもなく即答した。
「それは良かったな。お前そこの女の代わりにお金払え!」
「その女がお金も払わずにうちの店の果物を持っていったんだ」
男たちは指さしながら叫んだ。ロギアは振り向いてミリネに聞いた。
「ミジャリ、本当か」
「ち、ちち、違う。私ちゃんと払ったの。あの人たちが嘘ついてるのよ」
「と言ってるが」
ロギアは言いながら男たちに顔を向けた。
「今俺たちを疑うのか」
「お前死にたいのか」
男たちの脅しにロギアは顔を振りながらため息をついた。そしてポケットから金貨一枚を取り出した。
「これで良いか」
「「こ、これは」」
男たちはキラキラ輝く金貨を見て目が丸くなった。ロギアは彼らに金貨を手渡した。
「これで十分だろ。小銭は要らないからさっさと消えろ」
「「は、はいっ」」
男たちは金貨を大事に持って逃げるように立ち去った。彼らの退場で二人きりになったミジャリとロギアの間には少し気まずい静寂が流れた。寒い風が吹く音が聞こえる静寂の中、ミジャリが先に口を開いた。
「ありがとう。では私は帰る」
「ちょっと待ってくれ」
ヒシルは立ち去ろうとするミジャリの腕を掴んで引き止めた。
「俺はそなたと話したいんだ」
「私は話すことない」
ミジャリはロギアの手を振り払おうとした。だが、ロギアはさらに強く掴んで離してくれなかった。
「会いたかったんだ。あんたに会いたくてそなたのことしか考えられなかった」
「嘘つかないで。どうせ私のこと信じないだろ」
「どういう意味だ」
ロギアは戸惑った顔をした。ミジャリは強く手を振り払った。
「さっきだってそうでしょ。私がお金払ったと言ったのに、あの人たちにまたお金を払ったじゃん」
「それはあの人たちに邪魔されたくないから」
あの人たちを一秒でも早くどこかに行かせてミジャリと話したかった。しかしそれを知るはずのなかったミジャリは当然ロギアの言うことを信じなかった。
「とにかく私はあんたと話すことない」
「俺はあるんだ」
ロギアは背を向けたミジャリに向かって叫んだ。ミジャリは立ち止まって振り向いた。
「俺が正体を隠したことで怒ってるのはわかってるんだ。それは本当に悪かった。でもわざとじゃなかった。いつか言おうとしたけど、タイミングを逃しちゃって」
「・・・今まで面白かった? 正体も隠して孤児たちが暮らす姿を見て。心で笑ってたでしょ」
「そんなことない」
「じゃあ可哀想だから食べ物をあげたわけ? それとも自分のせいで孤児になった子達を助けることで、少しでも慰めを得ようとした?」
「違う」
「じゃあなんでだ。なんであんなに私たちによくしてくれたのよ!」
ミジャリの叫び声は少し震えていた。まるで涙を堪えているようだった。
「そのせいで、そのせいであんたのこと素直に憎めないんだよ」
ミジャリの目に涙が溜まった。
「なんでそんなによくしてくれたんだ。嫌いにもなれないだろ」
ミジャリの声がかすかに震えていた。ロギアは何も言わずにじっと彼女見つめた。怒っているのか、泣いているのか、わからない彼女の顔が鮮明に目に入った。夢にまで出たあの顔をロギアはじっくり見つめながら、静かに言った。
「好きだから」
「・・・なんだと」
「君のことが好きだからよくしてあげたんだ」
「・・・・・・」
ロギアの告白に、ミジャリは呆気に取られて言葉が出てこなかった。ロギアはそんな彼女に一歩近づいた。
「最初はただ友達が欲しかったから。王城で一人だったため、同い年の友達が欲しかった。そんな中、君と出会ったのだ。それで君と友達になりたくて、食べ物をあげて好意を買おうとした」
ロギアはまた一歩ミジャリに近づいた。
「でもいつからか、友達なんてそういうのはどうでも良かった。ますます君に会いたくなって君が悲しむ姿を見たくない。ただ美味しそうに食べる姿だけ見たかった。幸せな君が見たかった」
ロギアはまた一歩近づいてミジャリの前に立った。そして彼女を真っ直ぐに見つめた。
「どうやら俺はミジャリのことが好きそうだ」
「あんた一体何を」
「俺にとってこの二週間は地獄だった。食べても寝ても会いたくてたまらなかった。何をしても君のことを考えてしまって何もできなかった」
ロギアは深く息をした。
「どうやら俺はミジャリと結婚したいみたいだ」
「な、何を」
ミジャリは戸惑った顔を浮かべた。ロギアは隙を与えずに話を継いだ。
「俺と結婚してくれないか。ミジャリ」
「急に何を」
「もし君が王族が憎いから嫌と言うなら、俺は王子をやめる。この「ライスト」という苗字を捨てる」
「あんた、本気なの。今、自分が今何を言ってるかわかってるの?」
「わかってる! 俺は全て捨てても、君と一緒にいたいんだ。あんたと一緒にいられるなら、俺は何でも捨てられるんだ。だから」
ロギアはそんなミジャリの手をそっと握り、片膝ついた。
「私と結婚してくれませんか」
ロギアの求婚に、ミジャリは唖然とした。驚きのあまりぼーっとしてロリアを見つめてから数分。ついにミジャリは口を開いた。
「・・・いいよ」
「ほん、本当か」
「その代わりに一つ約束して欲しい」
「何を」
ロギアはきょとんとした顔でミジャリを見上げた。ミジャリは真剣な顔で言った。
「この国を住み良い国にするんだと、もう私みたいに戦争で苦しむ人がいない国にするんだと約束して」
「もちろんだ。約束する」
ロギアは何の迷いもなく即答した。そして彼はパッと立ち上がった。
「これで俺と結婚してくれるんだな?」
「うん。私もあんたのことがその・・・・好きだから」
ミジャリは顔を少し赤らめた。ロギアは満面の笑みを浮かべた。
「そっか。そなたも俺のことが好きだったか」
「ちょっと。からかわないで。恥ずかしいから」
「ハハ、わかった。でも嬉しい。そなたも俺と同じ想いで」
こうして二人は結婚を約束した。しかし今の彼らはわからなかった。これから何が起こるのか。
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「はい、ここで話はおしまい」
ミジャリは明るい笑顔と一緒に手を叩いだ。
「え、ここで終わり? そのあとは? 結婚とか、三年前祭りで踊ったこととかまだ話すことあるやろ」
黙って話を聞いていたミリネは、戸惑って抗議した。
「その後の話もしてくれよ」
「ふむ、でももう夜も遅いし、私眠い。だからその話は後で。また機会があったら話してあげるね」
ミジャリはあくびをした。確かに遅い時間だった。横で一緒に話を聞いていたミアはもう半分寝ていた。
祭りのこととか、あの「チビども」は今どこで何をしてるのか、なぜ今まで結婚式を挙げなかったのか、まだ聞きたいことはいっぱいあるけど、仕方ないか。
「わかったよ。じゃ私たちは部屋に戻る。ミア起きて」
「は、はいッ」
ミアは夢うつつパッと席から立ち上がった。ミリネもゆっくりと席を立った。
「おやすみ」
「うん。おやすみ」
ミジャリは部屋を出るミリネとミアに微笑みながら手を振った。彼女たちが部屋を出た後一人になったミジャリは窓の外の月を眺めた。
「ロギア、約束覚えてるんだよね?」
ミジャリは静かに呟いた。月を眺めるミジャリの姿はどこか寂しそうだった。




