第26話 会いたいな
翌日の朝。ロギアは城のキッチンでシェフたちを急き立てていた。
「どれくらいかかるんだ。早く作ってくれ」
「王子様ここは危ないので、いつものように外で待っていただけませんか」
シェフたちはロギアに切に願った。もしキッチンでロギアに傷ができたら、自分たちは監獄行きになるからだった。
「いや、俺はここで待つ。今日は一刻でも早く料理をもらって行きたいんだ」
「で、でも王子様危険ですので、外で待つ方が」
シェフの願いにも、ロギアは一歩も動かなかった。いつもなら外で大人しく待つけど、今日は心忙しくてじっとしていられなかった。
早く確かめたいんだ。
昨日、テラムとの会話でロギアは確かめたかった。果たして自分はミジャリのことが好きなのか、本気に彼女と結婚したいのかと。そのため、一刻でも早くミジャリに会いに行きたかった。
「頼んだ料理が出たらすぐ出るから気にするな」
「だから、下手したら私たち全員監獄行きに」
「出ました! 王子様が頼んだ料理です」
もう一人のシェフは料理をロギアに渡した。ロギアはしばらく料理をじっと見つめた。
「いつもより美味しそうにできたな。苦労した」
「ならここから出ていってください。早く!」
シェフの講義に、ロギアは追い出されるようにキッチンから出た。一国の王子がこんな扱いされるなんて、厳罰に処せられるべきだった。けど、今ロギアにとってそんなことはどうでも良かった。シェフたちからもらった料理を大事に抱えて走り出した。
そうやってロギアが向かったところは他でもないミジャリの家だった。ドアの前に立ち止まったロギアは片手では料理を抱え、他の片手でノックをした。
「ミジャリ、俺だ。ドアを開けてくれ」
「・・・・・・」
なんか変だった。いつもと違って家は静かだった。ロギアはもう一度ノックしてみた。
「俺ロギアだ。食べ物を持ってきたから、ドアを開けてくれ」
しかし今回も返ってくる返事はなかった。
「誰もいないのか、では中で」
ロギアはドアを開けようとした瞬間、中から誰かが出た。青髪に背が低い。ミリだった。
「なんだ、ミリか。おはいよう。中にミジャリはいるのか」
「お兄ちゃん。それが」
ミリはおずおずとした。
「どうしたのか。また誰かに脅されたか」
「いいや、そうじゃない。それが」
ミリはチラッと家の中を振り返った。そしてため息を吐いて言葉を継いだ。
「ミジャリ姉ちゃんが会いたくないって。もう来ないって伝えてくれって」
「ど、どういうことだ。会いたくないって」
「私もよく知らない。昨日帰ったからずっとあの調子だよ」
ミリは顔を振りながら言った。ロギアは顔を覗いて中を見た。ミジャリの後ろ姿がチラリと見えた。
「俺が王子だって隠してからか。あれは悪かった。俺はちゃんと説明するから会ってくれ」
ロギアはミジャリに向かって言った。しかしミジャリは聞こえないふりをした。
「お兄ちゃん今日はこの辺に帰る方がいいと思う。ミジャリ姉ちゃん機嫌悪そう」
「でも・・・・・・わかった。あと、これ」
ロギアはミリに料理を手渡した。
「ではまた明日くる」
「うん」
ロギアは肩を落としてトボトボ帰っていった。ミリはため息を吐き家の中に入った。
「ロギアは帰った?」
「うん。帰った」
ミジャリの問いに、ミリは頷いて答えた。ミリは彼女の側に座り料理を彼女の前に置いた。
「これロギアお兄ちゃんにもらった。まだ温かいよ。急いで持ってきたみたいだけど、本当にあのまま帰らせてもいいの?」
「・・・・・・」
「とりあえず冷めないうちに早く食べようよ」
「あんたたちで食べて。私はあまりお腹空いてない」
ミジャリは料理からそっと身を逸らした。横で包装を解いていたリリが言った。
「姉ちゃんまだ拗ねてるの? お兄ちゃんが正体を隠して?」
「それは、まあそれもあるけど、そもそもあいつ王族だろ」
「また出た。王族嫌い病」
エリはフォークを渡しながら言った。
「だってあいつらが起こした戦争のせいで、母と父が死んだ。私たちが今こなんところで暮らしてるのも全部あいつらのせいだよ」
「でもあれってロギアお兄ちゃんと関係なくない?」
フォークを持ったミリが言った。
「姉ちゃんが王族を嫌う理由はよくわかってるよ。私たちも同じなんだから。でもあの戦争をロギアお兄ちゃんが起こしたわけじゃないでしょ。戦争の時、ロギアお兄ちゃんもチビだったから、なんの力もなかったと思うけど」
「でも私たちの家族を殺した人の息子なのは変わらない。あとあいつもあの人たちとあまり変わらない。だってあいつも・・・」
ミリネは言いかけてやめた。チビどもは顔を傾げて聞いた。
「あいつも?」
「と、とにかく私はあいつが嫌いだよ。もう会いたくもない」
「はいはい、わかりました」
とチビどもは適当に相槌を打ってロギアが持ってきた料理を食べ始めた。美味しそうに食べている最中、トリが言った。
「それでこれからどうする。ロギア兄さんが来なくなると、食糧とか色々やばいだろ」
「私が昔みたいになんとかするよ」
「まさかまた王都に行って物乞いするつもりなの?」
「それしかできないから、仕方ないでしょ」
ミジャリはそっと笑って見せた。正直に笑みが出る状況がなかったけど、チビどもを安心させるためには無理矢理でも笑うしかなかった。そしてミリはミジャリの笑みを見て静かにつぶやいた。
「それが見たくなくて、結婚させようとしたのに」
「ん? ミリ今なんか言った?」
「いや、何も」
ミリは顔を逸らした。そんな中、リリが食べながら言った。
「ところでお姉ちゃんはいいの?」
「何が?」
「これからお兄ちゃんと会えなくなってもいいの」
「えっ、突然どういうことなの」
ミジャリはきょとんとした顔を浮かべた。
「いや、お姉ちゃんなんかお兄ちゃんといる時は楽しそうだったから。いつも笑ってるし、もちろん、あたしたちといる時も笑ってるけど、それとはなんか違ったよ。だよね?」
リリは他のチビどもに聞いた。するとチビどもは同時に頷いた。
「うん、なんか楽そうだった」
「私が?」
ミジャリは自分はわからないという顔をして問い返した。
「「「「うん」」」」
返ってくる返事はさっきと同じだった。ミジャリはさらにわからないという顔をした。
私が笑ってたと? あいつといた時? どうして?
自分の姿は自分で見ることはできないから、本当なのか確かめる方法はなかった。そしてもしそれが本当ならなぜあんな顔をしたのか、わからなかった。結局、この問題は疑問に残ったまま、その日は終わりを迎えた。
そしてそれから二週間後。王城の豪華な部屋の中。ロギアは椅子に座って頭を抱えていた。
「ミジャリに会いたいな」
もうミジャリと会えなくなってから二週間が過ぎた。あの日の翌日も翌日も、その翌日もミジャリに会いに行ったけど、やっぱりミジャリは会ってくれなかった。
「はあやっぱり俺が王族だから憎いのか」
ロギがは深いため息を吐いた。その瞬間、突然ノックする音が部屋に響いだ。
「ロギア様、ヒシルです。上がってもよろしいでしょうか」
「上がって」
ロギアの許可に、ヒシルはドアを開けて中に入った。
「ロギア様、何をしていましたか」
「ちょっと考え中だった。
「またあの少女のことを、ですか」
「いっ、いや、それをどうやって」
「やっぱり、ですね」
ヒシルは予想したようにニッと笑った。
「そういえば最近あの少女と会わないようですが、何かありましたか」
「それがぁ・・・いやっ、なんでそれをそなたに言わないといけないんだ」
「私に言う必要はありません。それで王子様はあの少女のことが好きなんですか」
「それが俺もよくわからない」
ロギアは深いため息を吐いた。
「何をしてもあの子のことばかり考えてしまうし、四六時中会いたい。あと、なぜかあの子のことを考えると心の底がキュッと締め付けられる感じがするんだ」
ロギアは自分の胸を掴んで言った。ヒシルはそっと微笑んだ。
「それは恋ですね」
「恋だと? 俺があの子のことを・・・いや、ちょっと。なんで俺はこれをそなたに言ってるんだ」
「私に聞かれてもわかりませんよ。ペラペラ話したのはロギア様ですから」
「もういいんだ。それよりそなた何の用だ」
「あ、テラムが訪ねてきました。王子様と二人だけで話したいことがあるんだって言いました」
「またあのことで。外出中だと適当に帰らせて。いや、本当に出かけてくる」
ロギアは椅子からゆっくりと立ち上がった。
「俺が帰るまでよろしく頼む」
「はい、かしこまりました」
ロギアはゆっくりと部屋を出ていった。そして王城の裏ドアを使って外に出た。肌を刺すような寒い風が吹いていた。
「寒いね。ミジャリは大丈夫かな」
そう思いつつロギアは当てもなく歩き出した。何も考えずに歩くと、ある市場に着いた。
「ここはミジャリと出会ったところだな」
最初にミジャリと出会った市場だった。ロギアは人混みに紛れ込んで市場を歩き回った。目を引くような色んなものを売っていたけど、ロギアは目もくれなかった。
ミジャリは今何してるかな。
ロギアの頭はミジャリのことでいっぱいで他に何かが入り込む隙はなかった。
「ミジャリに会いたい。ミジャリの声が聞きたい」
ミジャリの声が恋しかった。幻聴でも良いから、ミジャリの声が聞こえたかった。透き通って綺麗な声が・・・。
「きゃああああ」
「そう、この声。ミジャリの声とほとんど同じ・・・いやっ、これミジャリの声だが」
「誰か助けてくださいぃ」
間違いなくミジャリの声だった。ロギアはすぐに声のした方へ走っていった。そこは市場の人気の少ない路地だった。曲がり角を曲がると、綺麗な金髪の少女が目に入った。
「ミ、ミジャリ!」
その少女は間違いなくミジャリだった。
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あと、ついに明日で過去の話は一段落です。




