第24話 王族が憎い
喧嘩を売られた日から数ヶ月後。ロギアはいつものようにミジャリの家に来ていた。ミジャリとチビどもが美味しく食事をしている途中、いきなりロギアが話した。
「今日はみんなに言いたいことがあるんだ。耳を傾げて聞きたまえ」
ミジャリとチビどもの注目が集まると、ロギアは咳払いをして話を継いだ。
「来週王都で王子の生誕祭が行われる。一緒に行かないか」
「生誕祭?」
チビどもは一斉に顔を傾げた。
「そう、王子の誕生日を祝う祭りである。美味しいものがいっぱいあるから、一緒に行こう」
「美味しい」
「もの」
胸をときめかせる単語に、チビどもは目をキラキラさせた。そして我先にと手を挙げた。
「私、私行く」
「僕も」
「わかったわかった。全員連れて行ってやる。あと」
ロギアは微笑みながらミジャリに顔を向けた。ミジャリは一人で壁に寄りかかって座っていた。
「そなたはどうするんだ」
「わ、私? 私は」
「行くんだろう。じゃ来週に」
「いや、行かない」
「そなた今な、なんて」
ロギアは自分が聞き間違えたと思った。
「行かないんだって? ど、どうして」
「・・・・・・」
ミジャリは答える代わりに静かに立った。そして何も言わずに外へ出ていった。ロギアは慌ててミジャリの後を追って外へ出た。外には肌を刺すような寒い風が吹いていた。天気が寒くなると同時に日暮れが早くなって結構暗くなっていた。
「なんであんたまで出てくるのよ」
「そんなことより一体どういうことだ。行かないんだって」
「たかがそれを聞くためについてきたわけ。はぁ、そのままの意味だよ。私は王子の生誕祭には行かない。行きたくない」
暗くてミジャリの表情はよく見えなかったけど、彼女の声は断固としていた。
「行きたくない理由を教えてくれないか」
「それは・・・・・・はあわかった」
ミジャリは深いため息をついた。
「王族が憎いから」
「憎いってどうして」
「あんたも察しただろうが、私実は孤児なの」
「孤児・・・」
実はロギアもある程度察していた。ほとんど毎日のようにここにきたけど、ミジャリの親に会ったことは、一度もなかった。
「私の両親は戦争で死んだ」
「・・・・・・」
「チビどもも同じ。あの子たちも戦争の余波で目の前で両親を亡くした」
ミジャリの声がいつもより低くて重みがあった。
「人々はあの戦争があったからこの国が富強になったと言うけれど、私は違う。あの戦争はただ私から親を奪った」
「・・・・・・」
「私は王族が憎い。戦争を起こして親を私から親を奪った王族が憎い」
ミジャリの深く息を吐いた。
「だから行きたきない。王子の生誕を祝いたくないし、その場にも行きたくない」
「そっか」
ロギアの声が少し落ち込んでいた。
「すまん。事情も知らずにわがままを言って」
「いいよ。気にしてないし。あ、でもあの日はチビどもをよろしくね。あの子たち王都に行ったことないから迷子になるかもしれない」
「それはまずいな。俺もあの日はここに来られない」
「え、どうして」
「あの日は王子の生誕生でちょっと忙しいんだ。一緒に回ることはできると思うけど、ここまでくる余裕はない」
「じゃチビどもはどうする? 誰があの子達を連れて行くんだ」
「やむをえず、なかったことにするしか」
「え、私たち行けないの!?」
突然子供の声が彼らの会話に割り込んできた。ミジャリとロギアはびっくりして同時に顔を向けた。いつからいたのか、チビどもが外に出ていた。
「同行者がないから仕方なく」
「やだ、行きたいぃ」
「祭り、一度行ってみたい」
「でもあんたたちだけじゃ」
「行きたいぃ」
チビどもはミジャリにしがみついた。
「一緒に行こうよ。お姉ちゃん」
「ミジャリ姉ちゃんと一緒に行きたい」
「で、でも」
子供たちのわがままに、ミジャリは困った顔を困った顔を浮かべた。
「これから根ちゃんの言うことちゃんと聞くから、ね?」
「・・・はぁ、わかった」
ミジャリは大きいため息を吐き、両手を挙げた。
「一緒に行こう」
「本当に?! わあ、ありがとう姉ちゃん」
子供たちは飛び上がって喜んだ。ミジャリはそっと微笑み、ロギアに言った。
「で、来週どこに行けばいい?」
「あ、それが」
こうしてミジャリは半強制的に王子の生誕祭に行くことになった。
そして時は流れ、王子の生誕祭の日になった。王都は祭りの雰囲気に満ちていた。華やかな装飾が目を引き、踊りたくなる陽気な音楽が街中に流れていた。人々の顔は笑みと期待に満ちていて、皆楽しそう表情をしていた。その中、ミジャリとチビどもは広場の噴水の前でロギアを待っていた。
「うぅ、寒い。ロギアはいつくるんだ」
もう約束の時間を十分ほど過ぎていた。確かにこの噴水の前で待ち合わせすることにしたのに、ロギアの姿はどこにも見えなかった。
「急に用事ができたのかな」
と呟きミジャリは周りを見回した。そんな中、兵士と思われる者たちが焦った様子で街を見回っているのが目に入った。
「早く王子様を探せぇ!」
彼らの中で最も地位が高そうな人が大声で命じた。すると兵士たちは雄々しく答え、散って捜索を始めた。
「王子が消えたのか」
祭りの主人公が姿を消すなんて、王子ってわがままなやつだね。
とミジャリは思った。
「それよりロギアはいつ」
「待たせたな」
噂をすれば影がさす。ちょうどロギアは手を振りながら駆け寄ってきた。
「すまん、ちょっと厄介なことがあって」
「いいよ。十分しか待ってない。十分しか」
言葉自体は優しかったけど、声は全然そうではなかった。
「ハハ・・・ほんとすまん。お詫びになんでも買ってやるから、なんでも言ってな」
「じゃあ私、私は温かいものが食べたい」
エリが手を上げた。寒さでエリの両頬が少し赤くなっていた。エリだけじゃなく他のチビどももミジャリも両頬が赤くなっていた。こんなに寒い日に待たせてしまって、ロギアは心苦しかった。
「温かいものか、それなら多分あっちで売ってる」
ロギアは街の方を指さした。街には屋台が並んでいた。ここの道に詳しいロギアは先頭に立って歩き出した。ミジャリとチビどもは彼の後をついていった。彼らは少し歩いてある屋台の前に着いた。もくもくと湯気が立ち上るミートスートを売る屋台だった。
ロギアはミジャリとチビどもの分を頼んだ。
「あんた食べないの?」
「俺はあまりお腹が空かないんだ」
と言いつつロギアはお金を手渡した。一分も経たないうちに、料理が出た。小さい皿に温かいスープが入っていた。それを手にすると、温もりが伝わってきて冷えた手を温めた。ミジャリはスプーンを持って一口食べた。
「しみわたる」
温かい汁が体全体に染み渡って冷えた体を温めた。
「美味しかったね」
「うん。肉が大きくて美味しい」
微笑みながら感想を述べるチビどもの皿はいつの間にか空になっていた。
「え、もう食べちゃったの? 早いね」
「美味しくて気づいたら、へへ」
流石に成長期はすごいんだね。
とミジャリは思いつつ、自分のせいで待たせないように、急いで食べ始めた。しばらくしてミジャリは皿を平らげた。
「よし、食べ終わった。次はどこ行くの」
「そうだな。行きたいとこあるかい」
ロギアの問いに、ミジャリはチビどもに目を向けた。そもそも望んできたわけでもないし、あまり行きたいところはなかった。
「うむ、あたし、前にお兄ちゃんが言ってたお店に行きたい」
「俺が言ってた店?」
「そう、初めてうちに来た時、連れて行ってあげるって言ったでしょ。せっかくここまで来たわけだし、あのお店に行きたい」
「あの店、か」
ロギアは困ったような顔を浮かべた。
「あの店は今は・・・」
「もー、さっきスープ食べたばかでしょ。お店はまた今度に行くことにして、今は祭りを楽しめて」
「フィ・・・わかった」
リリは唇を尖らせた。その隙を狙ってミリが手を上げた。
「私、あっち行きたい」
「どこだ? ふむ、あれは俺も初めて見るな。行ってみよっか」
ロギアとミジャリたちはミリが指さした屋台に向かって足を運んだ。
それからロギアとミジャリたちは一緒に祭りを回った。屋台で食べものを食べたり、ゲームをしたりいろんなことをした。そうして何時間後、
「足痛いぃ」
「もう歩けない」
思い切り祭りを楽しんだチビどもは疲れて広場のベンチで休んでいた。そんな中、エリが言った。
「私アイス食べたい」
「こんな寒い日に?」
ミジャリは呆れたように聞き返した。
「いっぱい歩いて熱いのよ。冷たいものが食べたい」
「でも今アイスを売ってるお店はないと思うけど」
「いや、ここからちょっと遠くけどある」
横で聞いていたロギアは立ち上がった。
「俺が買ってくるから、ここで待ちな」
「え、じゃあ私も」
「そなたまで行っちゃったらチビどもはどうするんだ。さっさと買ってくるから、そんたもここで待ちな」
と言ってロギアはどこかへ走って行ってしまった。
「一緒に行ってもいいのに」
ミジャリは静かに呟き、ベンチに座った。ロギアがアイスを買いに行ってから数分後、突然楽器を持った人たちが広場に歩いてきた。彼らは広場の真ん中で演奏し始めた。広場には陽気な音楽が流れた。人々は広場に集まって踊り出した。
「みんな楽しそうだな」
ミジャリはなんとなく人々が踊るのを眺めていた。そんな中、ミジャリの横に座っていたミリはミジャリの袖を引っ張った。
「姉ちゃん、私願いが一つある」
「なに?」
「姉ちゃんの・・・・・・」
ミリはニヤリと笑った。
しばらくしてロギアは両手にアイスを持って広場に戻ってきた。
「なんか人が多いな」
ロギアがアイスを買いに行った時より遥かに人が混んでいた。
「何事だろう」
気になったが、今はアイスを渡すのが先だった。ロギアは人混みを後にしてミジャリたちが座ったベンチに足を運んだ。
「あれ、いない。どこに行ったんだろう」
確かにこのベンチに座ったはずなのに、今ベンチは空いていた。ロギアは周りを見回ってミジャリとチビどもを探し始めた。その瞬間
「姉ちゃん! すごい!」
人混みの方から聞き慣れた幼い声が聞こえてきた。ロギアはすぐ声がした方に振り返った。人々の中に見慣れた後ろ姿が見えた。チビどもだった。
「あいつら、なんであそこへ」
ロギアは人混みをかき分けてチビどものところへ歩いて行った。ようやくチビどものすぐ後ろに辿り着いたロギアは、エリの方をトンと叩いた。
「あ、お兄ちゃん。アイスありがとう」
エリはアイスを舐めた。
「いつきたの」
「さっき。それよりここでなにしてんだ」
「あ、あっち見て」
ロギアは顔を上げてエリが指さす先に目を向けた。目の前の光景を見た瞬間、ロギアは驚いて目を見開いた。
「ミ、ミジャリ?!」
広場の真ん中、ミジャリが踊っていた。




