第22話 そういう条件はいらないよ
少女はぼーっとした少年の傍腹を小突いた。
「もしもし? あんた大丈夫?」
「ん? あ、大丈夫だ。ただちょっと驚いただけだ」
脇腹から伝えってくる感触に少年は我に返った。
「それでこれはどこに置けばいいんだ」
「あ、うーむ、こっちに置いてね」
少女は食べ物を床に置き、その横を手で叩いた。少年は少女の言う通りに持っていた食べ物を床に置いた。
「こっちでいいか」
「うん。ありがとう」
少女は明るい笑みを浮かべた。少年はその笑みに見惚れてしまった。
「あんた大丈夫? さっきからずっとぼーっとしてるけど」
「・・・ん? あ、大丈夫だ」
「本当に? 顔が少し赤いけど、熱でもあるんじゃない?」
少女は少年のおでこに手を当てた。
「そ、そなたなにを」
「熱はないみたいけど、ふむ」
「お、俺はだ、大丈夫から離れろ」
「そうなの? なら安心した」
少女は安堵のため息を漏らした。少年はきょとんとした顔を浮かべた。
「安心したって? なんでそなたが」
「私がここまで歩かせたせいで体調が悪くなったのではないかって心配してたの。ほんと大丈夫でよかった」
少女は優しく微笑んだ。その笑顔に少年は顔が急激に熱くなるのを感じた。
「あんた本当に大丈夫だよね? また顔が赤くなったけど」
「おお、俺は・・・もう帰る!」
少年はパッと立ち上がった。そのまま帰ろうとする少年をチビともだ引き止めた。
「えぇ、もう帰るの? せっかくここまで来たから、一緒に食べようよ」
「いっ、一緒に?! でも」
「そうそう、一緒に食べようよ」
チビどものわがままに少年は途方に暮り、少女に目を向けた。少女は食べ物の包装を取っていた。
「別に一緒に食べていいんじゃない」
「・・・え?」
予想外の返事に、少年は目を丸くした。少女はゆっくりと立ち上がった。
「量も多いしここまで来たから一緒に食べよう」
「・・・それでもいいの」
「もちろん、っていうかこれ全部あんたが買ってくれたもんなんだけどね」
「ち、違うんだ。俺が買ったもんじゃない」
「私をばかと思ってるの? もう嘘はやめて。全部知ってるから」
「いや、本当にそうじゃ」
「こっちきて。一緒に食べよう」
少女はニヤっと笑い者がしゃがみ込んで包装を取り続けた。
「本当に買ったわけじゃないんだ」
少年は少女を見て小さくつぶやいた。そしてチビどもに引っ張られて成り行きで彼らと一緒に食べることになった。
「よし。さあ食べよう」
少女の言葉を合図にチビどもは一斉に食べ始めた。初めて食べた時のように貪ろよるような勢いはなかった。チビどもが食べるのを見てから少女も食べ始めた。
「やっぱり今日も美味しいね」
「そうか。じゃ俺も」
少女の言葉に、少年は一口食べた。味わうように十分に噛み締めて飲み込んだ。
「俺は普通だと思うんだけど」
「そう? 私はすごく美味しいけど」
「お兄ちゃん。どこでこんな美味しいものをもらうの」
「それが・・・王城近くの店から」
「だからそこがどこって聞いてるの」
「エリ、その言葉遣い方はダメって言ったでしょ。丁重に」
少女の叱りに落ち込んだ茶髪のチビは少し俯いてさっきより丁重な言葉遣いで聞いた。
「・・・教えてください」
「それはちょっと。代わりにもし今度機会があったら連れて行ってあげるよ」
「本当に!? 約束だよ」
「え、あたしも!」
「僕も行きたい!」
チビどもは手を上げて自分も連れて行ってほしいと言った。少年はそんなチビどもを見て微笑んだ。
「わかった。全部連れて行ってあげる」
「やったあぁ!」
チビどもは飛び上がって喜んだ。その中、青髪のミリが手を上げた。
「私お兄ちゃんに聞きたいことがある」
「なに。なんでも聞いてたまえ」
「お兄ちゃんってお金持ちなの?」
ミリの問いに、少女はチラッと少年を見た。実は少女も前からずっと気になったことだった。こんなにたくさん食べ物を毎日与えるとなると、ずいぶんお金がかかるはずだった。しかし少年はどう見ても自分と同い年に見えた。
やっぱりこの子はお金持ちなのかな。
と少女も前から気になっていた。
「お、俺はお金持ちなんかじゃない」
「じゃなんなの?」
「それが・・・あ、もうこんな時間に」
少年は突然パッと立ち上がった。その様子はすごく不自然だった。
「俺もう帰らなきゃ」
「え、お兄ちゃんもう帰るの」
「すまん、日が暮れる前には帰らなきゃいけないんだ」
そう言って少年はドアに歩いていった。チビどもは振り返って少年に言った。
「また来てね」
「美味しいのもいっぱい持って」
「はは、わかった。また来るよ」
と言って少年はチビどもに手を振りながらバラックから出た。少年はドアを閉めて言った。
「それで、そなたはなんで出たんだ」
少年の隣には少女がいた。
「そなたは中でもっと食べる方が」
「いいよ。お腹いっぱいし。見送ってあげるよ」
「そんな必要は」
「こっち来て」
少年の言葉は聞こえなかったのか、少女はすでに歩き出していた。
「なにぼーっとしてるの。早くきて」
「わ、わかった」
少年は急足で少女の隣に並び、一緒に歩いた。こうしてなにも言わず静かに歩いている中、少女がそっと口を開いた。
「あんた本当にお金持ちなの?」
「な、なにを」
「だっていつも食べ物を買ってくれるじゃん」
「だからそれは買ったものじゃないんだって」
少年の言葉が嘘なのか本当なのかわからなかった。しかし、少女はどちらにせよ信じなかった。
「本当に金持ちじゃないの?」
「お金持ちなんかじゃないよ」
「じゃどうしていつもご飯を買ってくれるわけ。お金持ちでもないのに」
「最初会った時も言ったたろ。俺と友達になれって」
「本当にそれだけ?!」
少女は目を見開いて聞いた。すると、少年は少女に目を向けた。
「そう、それだけ。俺は友達が欲しいんだ」
「どうして」
「一人は寂しいから」
少年の声はいつもより低くて重みがあった。
「だから俺は友達が欲しいんだ。一緒にいてもらえる友達が。そういうわけだから」
少年は少女に手を差し伸べた。
「俺と取引、いや、交換しないか。俺はそなたが望むのはなんでもあげる。その代わりにそなたは俺の友達になれ」
少年の提案に、少女はなにも返事もなくただじっと少年の手を見つめた。風の音が聞こえる静寂が流れた。
「・・・バカじゃないの」
少女は静かに口を開いた。そして顔を上げて少年と目を合わせた。
「友達になるのにそういう条件はいらないよ。あとこういう時は命令口調じゃなくお願いするのよ。友達になってくれませんか、と。ほらこっちの方が聞こえがいいでしょ。だから」
少女は少年に一歩近づいた。そして彼の手を掴んだ。
「私と友達になってくれませんか」
「・・・・・・」
「なにぼーっとしてるのよ。恥ずかしいから早く返事してよ」
「よ、喜んで」
「ふむ、なんか気に入らない答えだけど、まあいいっか」
少女は手を離れてまた歩き出した。少年は今の出来事に頭が追いつかなかった。
しばらくして少年はようやく今少女と友達になったことを理解した。少年は興奮のあまり、少女のもへと駆け寄った。
「本当か。本当に俺と友達になってくれるのか」
「そう」
「本当だよな。嘘じゃないんだよな。これで俺たちは友達だよな」
「そうだよ。ってそんなに嬉しいの?」
「当たり前じゃないか。やっと俺にも友達ができたのだ」
少年は満面に笑みをたたえた。
「そういえば名前もまだだったな。そなたの名前はなんだ」
「ミジャリ。苗字は知らない。あんたは?」
「ミジャリ、いい名前だな。俺はロギア・ライストだ。ロギアと呼んでくれたまえ」
「わかった」
こうしてミジャリとロギアは友達になった。
この時のロギアはまだ知らなかった。この出会いがどんなエンディングをもたらすのかを。




