第21話 前に言ってた変な人だよ
「いっ、一体どうやってこんなにたくさんもらったの」
少女は驚いて目を見張った。少年の手には食べ物がたくさん抱えられていたのだ。
「私の時はそんなにもらえなかったのに」
少女は今まであんな量の食べ物は見たことなかった。お客の食い残しとは思えないほど綺麗でまる出来立てのように湯気がもくもくと上がっていてすごく美味しそうだった。
「どうやったらこんなにもらえるの。ひ、秘訣とかあるの? こんなにたくさんもらえる。どうか教えて欲しい」
「秘訣は特にないんだが」
「じゃ、一体どこでもらったの。どこの店なのか教えて」
「そ、それが・・・・・ここからちょっと遠くて行きにくいんだ。多分そなたは行けないと思う」
少年は少し戸惑ったようにそっと目を逸らして言った。しかし少女の視線は食べ物に固定されていて、少年の様子に気づいてなかった。
「ここからそんなに遠いわけ? 一時間なら行けると思うけど」
「そ、そなたには無理だって。それよりこれ受け取れ」
少年は手の食べ物を少女に手渡した。
「もし足りないなら俺が」
「いや、十分だよ。むしろ多すぎ。本当にありがとう」
少女は初めて感じる重みにニコニコ笑っていた。冷めないうちに早く帰ってチビどもと一緒に食べたかった。
「じゃ私はチビどもが待ってるからもう帰るよ。今日は本当にありがとう」
「え、ちょっと待ちたまえ、言いたいことが」
少年の言葉は最後まで続かなかった。だって相手の少女は少年が言ってる途中に、どこかへ急いで行ってしまったのだ。少年はすごい速さで去り走っていく少女を引き止めず、ただその場に立ち尽くして見つめていた。
「今日こそ俺と友達に・・・・・・」
少年はもはや誰もない場所に向かって静かに呟いた。
バラックの古びたドアが勢いよく開けかれ、食べ物をいっぱい抱えた少女が入ってきた。
「みんなぁ、早く集まってみて」
「うん? 急にどうして・・・うわっ、姉ちゃん大丈夫?」
「すごく汗かいてるよ」
「とりあえず落ち着いて」
「それよりこれ見て」
少女は食べ物を床に広げてチビどもに見せた。たくさんの食べ物に、チビどもは目が丸くなり、空いた口を塞がらなかった。
「な、なにこれ」
「食べ物、だよね?」
「こんなの初めて見た」
「姉ちゃんどこで手に入れたの」
「変な子にもらった」
「変な子なら昨日のあの人?」
ミリの問いに、少女は頷いて答えた。
「あの人一体何者なの。なんでいつも姉ちゃんに食べ物くれるの」
「私もよく知らないけど、友達になってくれってしつこく言った」
「友達? それで姉ちゃんはなんて答えたの」
「いや、だと。だって怪しいんだもん」
「へぇ、そうかな。あたしはいい人だと思うけど。こんなに美味しそうなものもくれたし」
「リリ、昨日も言ったけど。美味しいものをくれたっていい人ではないよ」
「わかってるって」
リリは両手をギュッと握って言った。少女はそんなリリが可愛いと言わんばかりに微笑んだ。
「それより早く食べよう。ちょっと冷めたけど、まだ温かいから」
「はい」
チビどもは力強い返事と一緒にガツガツ食べ始めた。
「え、なにこれ」
「うまい」
「こんな美味しいの初めて」
「幸せだよ」
チビどもはすごく美味しそうに食べていた。それを見て少女も一口食べた。
「え、すごくうまい」
食べたことない味だった。口に入れた瞬間、幸せな気持ちになるうまさだった。少女はもぐもぐしながら思った。
こんなに美味しいものを食い残す?
少女は理解できなかった。こんなに美味しいものならいくらでも食べられるのに、これを食い残すなんて。相当贅沢な人に間違いなかった。
こうして少女とチビどもは今日生まれて初めて美味しいと満腹という表現の意味をわかった。
そしてその翌日。
「あ、来たか。待ってたぜ」
少女は昨日と同じ場所で少年と出会った。
「昨日のあれは美味しかったか」
「すごく」
「ならよかった。それで、今日はなにしにきた」
「昨日と同じに決まってるでしょ」
「それってまた人たちの食い残しをもらいに? まさか昨日のあれ、もう食べ切ったのか」
少年は信じられないという口調で聞いた。
「あれ、三日分だよ。それを一人で全部。そなた見た目より食べるな」
「ち、違うよ。チビどもと一緒に食べたの」
「チビどもって、妹か」
「似たもんだよ」
少女は適当に答え街を歩き出した。少年は少女の後ろについて歩いた。
「そなたはそのチビどもと奴らと一緒に住んでるのか」
「そうだけど、奴らと言うな。あとついてくるな」
「なら昨日のあれじゃ足りなかったかもしれないな」
少年は歩きながら顎に手を当てて何かを考え込んだ。
「そなた確か今日も食べ物をもらいにきたって言ったんだな」
「そうだけど」
「なら昨日みたいにここで待ってろ。俺がもらってくるから」
少年は少女の手を掴んで立ち止まらせた。そしてニッと笑った。
「すぐ来るからな」
そう言って少年は昨日みたいにどこかへ走っていった。少女は少年の言う通りにじっと立って少年を待っていた。
しばらくして昨日と同じく少年は食べ物を持ってきて、それを少女に渡した。昨日より量が多かった。しかし少女は昨日のように喜ばなかった。
それからその翌日も、翌日も、またその翌日も、何週間後も、少年は毎日少女に食べ物を与えた。日が経つほどだんだん量も増えていった。ある日は少女一人で持ち運べないほど量が多くなり、少年が半分持って一緒に家まで持って行くことになった。
「ね、本当にこの道合ってるのか。どう見ても人が住むところには見えないけど」
「合ってるからぶつぶつ言うのはやめて」
少年は口を閉じて少女の背中についていった。少年にとって整備されてない道を歩くのは初めてだった。それどころか、周囲には草一本上えない荒廃した大地が広がっていて、どう見ても人が住むところには見えなかった。それでも一応少年は少女の後をついて歩いた。
こうしてしばらくして、少年はバラック集落に辿り着いた。
「こ、こんなところが」
生まれて初めて見る劣悪な環境に、そしてこんなところに人が住んでいることに、少年は驚いた。驚いたあまりに体が固まってしまった。
「あんた、そこでなにしてるんだ。こっちおいで」
「ん? あ、わかった」
少女の声に我に返った少年は、小走りで少女の方に行った。少し歩いて少年は少女の粗末なバラックの前に立ち止まった。
「ここは」
「お家だよ」
「お家だって? まさかここに住むのか、そなたは」
「当たり前なこと聞かないで」
少年は少女の言葉が信じられなかった。別に嘘だと思ったわけではない。信じられないのは、今目の前のバラックに人が住んでいるということだった。少しの衝撃だけで崩れそうなバラック。こんなところで人が住んだら病気にかかりそうだった。
少年がぼーっとしてバラックを見ている間、少女は古びたドアを開けた。キーッとする音は少年をぞっとさせた。
「上がって」
「あ、わかった」
バラックの中に入った少年は、驚かずにはいられなかった。
「こんなところでそなたは・・・」
少年は口をぽかんと開いたまま家の中を見渡した。少年は自分の目を疑った。雨漏りしそうな天井。カビが上えた壁。人が住む環境ではなかった。
「ただいま」
「姉ちゃん!」
チビどもは少女と少年の周囲を取り囲んだ。チビどもはポカンとした少年を見てきょとんとした顔をした。
「え、このお兄ちゃんは誰?」
「前に言ってた変な人だよ」
「えぇ、この人が」
チビどもは少年を見て目を見開いた。少年はぼーっとしたままチビどもと少女をじっと見つめた。
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