第20話 お菓子を食べればいいじゃないか
王城から少し離れたバラック集落。すぐにでも崩れそうなバラックが並んでいて、整備されていない土の道は土埃が舞っていた。こんなところに本当に人が住んでいるのか疑わしいほど劣悪な集落の真ん中、金髪の少女はサガを胸いっぱいに抱えて歩いていた。少女は周りをキョロキョロ見渡しながら歩いていた。まるで誰かに見られているのではないかと警戒するようだった。少女は胸に抱えたサガをさらに強く抱きしめた。
少女はあるバラックの前で足を止めた。若干の風でも崩れそうなあばら家だった。誰も住まなさそうなそのあばら家のドアを少女は開けた。古びた木のドアはキーっと軋み音を立てながらゆっくりと開いた。
少女はバラックの中に入った。バラックの中は相当劣悪だった。天井には穴がいくつかあって雨漏りがひどそうで、家のあちこちにはカビが上えていた。どう見ても人が住めない環境だった。
「ただいま」
「お姉ちゃん!」
少女が中に入ると、チビたちがどっと押し寄せてきて少女を取り囲んだ。男の子一人で女の子三人だった。男の子の名前はラド。女の子のうち、茶髪の子はエリ、黄髪の子はリリ、青髪の子はミリだった。彼らは七歳、五歳の幼い子供たちで、このチビたちもまた少女と同じ戦争孤児だった。たとえ血は繋がってないけど、力を合わせて一緒に生きていた。しかしチビどもはまだ幼いため、一番年上の少女が食糧や生活に必要なものを全部一人で手に入れてきた。
「お姉ちゃん、手のあれはなに」
「あ、これ。サガだよ。食べてね」
少女はサガをチビどもに一個ずつ配った。チビどもは手のサガを見てきょとんとした顔をした。
「これ、どこで手に入れたの」
「姉ちゃんお金ないじゃん」
「まさか盗んだ?」
「ち、違うよ。変な子に買ってもらったの」
「変な人? それ誰?」
「私もわからない。盗んだわけじゃないから」
そう言って少女は自分のサガを一口かじった。万引きのことはわざわざ言わないことにした。
「でもあの子、いいやつだね」
「ん? どうして」
「美味しいものを買ってくれたから。美味しいものをくれる人はみんないい人」
「リリ、一体誰にそんなこと聞いたのかわからないけど、違うから。知らない人について行っちゃダメだよ」
「知ってる。もう子供じゃないんだもん」
チビたちは美味しそうにサガを食べ始めた。そんなチビたちの食べる姿を見て少女は思った。
確かに悪い子ではないかも。
危険だった時、助けてもらったし、サガも買ってもらったため、こうやってチビたちとご飯を食べることができた。
そう、いい子なのは間違いない。だけど、ちょっと、いや、かなり変な子なのも確かだ。
少女はあの少年のことをそう決めつけ、またサガを一口かじった。
そしてその翌日。少女はいつものように食糧を得に王城近くの街へ行った。
「今日はどうやって食糧を得るんだ」
途方に暮れる状況に少女は深いため息を吐いた。お金は当然なかったし、昨日万引きが失敗したため、もう一度試みるのは怖かった。
「とりあえず人たちが食い残したものでも探してみようか」
少女は行き当てもなく歩き回り始めた。それから二時間ほどが経った。休まずに歩き続けた少女は疲れて街の隅っこにしゃがみ込んでいた。
「どうしよう。このままじゃ今日のご飯が」
少女は目の前が真っ暗になった。もう二時間も歩き回ったけど、食い残しところか食堂にも入れなかった。入ろうとするたびに、入り口で店員に追い出されたのだ。
「やっぱりこの服のせいで」
少女は自分のみずぼらしい服をじっと見下ろした。もう何日も洗濯できなくて汚いしボロボロだった。少し臭い気もした。こんな格好なら誰でも追い出されるに間違いなかった。
「でも私他の服がない」
服を買うお金もなかった。もしお金があったとしても服より食糧の方が急務だったので、服は買えなかった。
「今日は飢えるしか」
「あ、そなたは昨日の」
右側から聞き覚えがある声がした。少女は顔を上げて声がした方にそっと目を向けた。
「あんたは昨日の」
昨日サガを買ってもらった少年がそこに立っていた。少年は少女の傍にゆっくり近づいてきた。
「そなたここで何してんだ」
「食糧を・・・待って」
突然少女はパッと立ち上がった。
「あんたお金持ってるの? もし持ってるならちょっと貸してもらえる?」
昨日買ってもらった上に、今日またお金を貸してもらうのは良心が咎めだ。でも家で待っているチビどもを思うと、こうするしかなかった。
少女は期待に満ちた目をして少年に顔を近づけた。
「大人になったら必ず返すから、もう一度貸して」
「ちょ、ちょっと待ちたまえ」
少年は戸惑った顔を浮かべた。
「残念だけど今日は金を持ってない」
「そ、そんな」
少女の目から希望の光が消えた。少女は力なく首を前に垂れた。二時間のさ迷いの果てにようやく食糧を得られる方法を見つけたと思ったなのに一瞬で無駄になってしまった。その事実が少女を絶望させた。
「あの、何事かはわからないけど、もし俺に手伝いことがあったらなんでも言ってくれ」
「いいや、特にあんたにやることは・・・あるかも!」
少女はパッと顔を上げて少年の服をしげしげと見つめた。
「これならいけるかも」
少女は静かに独り言を呟いた。少年はきょとんとした顔を浮かべた。
「あんたに手伝ってほしいことがある」
「なんだ。俺にできることならなんでも聞いてあげる」
「私の代わりに食堂に行ってくれる?」
「簡単だけど、さっきも言ったように俺今金持ってないんだ。何かを買うのは」
「買う必要はない。人たちが食い残したもんをもらうだけで十分だから」
「食い残し?」
少年は顔を傾げた。
「なんでそんなのを」
「食べるに決まってるでしょ」
「人の食い残しを食べるんだって。そんなの汚いんじゃないか」
少年は衝撃を受けた顔で聞いた。
「健康に悪いんだ。そんなの食べちゃっ」
「そんなの知ってるよ」
少女は少年の言葉を遮った。
「でも食べ物がないから仕方ないんだよ。食い残しでも食べないと、飢え死にしてしちゃうから」
「・・・食べ物がないって理解できないんだ。食べるものがないなら、お菓子を食べればいいじゃないか」
「は?!」
少年の無邪気な言葉に少女はイラッとした。
「もういい。手伝うつもりないなら、どいて。私帰る」
「いやいや、ちょっと待ちたまえ。そんなことは言ってない」
少年は帰ろうとする少女の手を引き止めた。
「俺が手伝ってあげる。食べ物が欲しいんだろ。すぐもらってくるから、そなたはここで待ってろ」
少年は自信満々に言って急にどこかに行ってしまった。
「あの子一体」
少女は速いスピードで遠ざかていく少年の背を見て呟いた。
「ってか、これ待つべきかな」
少女は帰ろうと思ったけど、少年が帰ってくるかもしれないため無闇に帰るわけにはいけなかった。
「十分、十分だけ待ってみよう」
少女はしゃがみ込み少年が帰ってくるのを待ち始めた。正直に言ってあまり期待しなかった。服が綺麗だから食堂に入ることはできるかもしれない。けど、お客の食い残しをもらえるのかどうかは未知数だった。
少年が出発してからほぼ十分が過ぎた。しかし少年はまだ帰ってこなかった。
「流石に無理だったかな」
少女はゆっくり立ち上がった。もう日が沈み始めていて、そろそろ帰らないと道が暗くなって危なかった。
「あの子も多分帰っただろう。私も帰ぇ」
「待たせたなぁ〜!」
少女が足を運ぼうとした瞬間、背中から少年の声が聞こえてきた。少女は振り向いた。そして少年を見た瞬間、目が丸くなった。
「あ、あの子本当に」
「これ見な。食い残しもらってきた」
少女の予想とは裏腹に、少年の手には食べ物があった。




