第19話 お前は俺の友達になれ
うっかり修正前の原稿を投稿してしまいました。申し訳ありません。次から気をつけます。
王城の近くの人通りの多い市場。
「よってらっしゃいみてらっしゃい」
商人たちの接客する高い声が市場の中に響き渡っていて、人々は必要な物を買ったり両手いっぱい荷物を持って歩き回ったりしていた。
王城の近くだからか、裕福な人ばかりだった。服装は豪華で贅沢で汚れ一つないし、まるで新しい服のように光った。そんな人々の中、みずぼらしい服装の金髪の少女が一人いた。少女の服はツギハギだらけであちこち汚れがついたみずぼらしいものだった。
周囲の人たちはそういう少女を見てまるで汚いものを見るように眉間に皺を寄せた。それでも少女は人々の視線を気にしなかった。少女の視線はひたすら果物屋に向けられていた。
「あのサガ美味しそう」
少女は果物屋の陳列台の赤い丸い果物を見てよだれを垂らした。少女が何かを食べたのは三日前が最後だった。それもちゃんとした食事ではなかった。陳列台から落ちた果物でどうにか空腹を凌いだだけだった。そのため少女の腹はグーっと喚き声を上げていた。
「あのサガ食べたいけど、お金が」
少女は空っぽのポケットを弄りながらため息をついた。働いて稼げるならいくらでも働けた。しかしこんな子供を働かせるところはどこにもなかった。その上、出身も親もない子供なら尚更。そのため、少女のポケットは常に空っぽだった。
「どうしよう。チビどもが待ってるのに」
少女はお金なしで果物を得られる方法を工夫した。そしていくら考えても思い浮かぶことは一つのみだった。
やっぱり万引きするしか。
そんなことしてはいけないのはわかっていた。でも、そうでもしないと本当に飢え死にしてしまうに違いなかった。道徳と生存の間で少女は悩んだが、決断までにはあまり時間はかからなかった。
「お金は後で払えば」
今はこの空腹をどうにかするのが先だった。少し良心が痛むけど、やるしかない、と少女は心を決めた。
少女は周りをキョロキョロしながら人が増えるのを待っていた。作戦はこうだった。人混みに紛れ込んで陳列台のサガこっそり盗んで逃げる。簡単で完璧な作戦であった。
「よし。作戦開始」
少女はタイミングを測ってうまく人混みの中に紛れ込んだ。少女は人混みをかき分けて果物屋の陳列台に一歩ずつ近づいた。やがて少女は陳列台のすぐ前に辿り着いた。
「みてらっしゃい! 美味しい果物がたーくさんありますよ!」
タイミングよく店長は接客をしていて少女に気づかなかった。まさに天が与えてくれたチャンスだった。少女は気付かれる前にさっさと赤いサガを手に取った。少女の小さな手でいくつも取るのは無理だった。それでも少女はいくつか手に取った。両手だけでは足りなくて胸いっぱい抱えた。
「よーし。これで十分だろう。あとは無事に逃げれば」
「おいっ! お前何やってんだあぁ!」
少女が果物屋から背を向けた瞬間、背後から怒鳴り声がした。少女はびっくりして増える得ながら振り返った。果物屋の店長が少女に向かって大声で怒鳴っていた。
「お前っお金払ってないだろ! 金払えぇ!」
「ご、ごめんなさいっ!」
そう言って少女は全力で走り出した。
「ちょっ、ド、ドロボーだ!」
店長の声に周囲がどよめき始めた。走る少女に人々の注目が集まった。
うあああ、最悪だあ。
少女はサガを胸いっぱい抱えたまま人混みをかき分けて走っていった。背中には果物屋の店長の息子と思われる若い男子が追いつけていた。
「ドロボだ! 捕まえろ!」
「ごめんなさいって。お金は後で払いますッ」
少女は捕まえないように一生懸命走った。ここで捕まえたら最悪の場合、王国の警備兵たちに渡され牢屋に入れられてしまうかもしれない。
「早く身を隠せる場所を」
少女は周りを見渡して身を隠せる場所を探し始めた。探しながらも足は止まらなかった。こうしてしばらくして見慣れた曲がり道が見えてきた。
「あそこに行けば逃げれる」
そこには少女がよく使う穴が一つあった。その穴は小さくて少女のように小柄ではない限り通れなかった。つまり、その穴を通れば少女は捕まえず無事に逃げられるということだった。
希望を見つけた少女はもっと足を早く動かした。しばらくして少女は曲がり道を曲がった。あとは穴を通るだけだった。が、曲がった瞬間、少女は巨大な何かにぶつかって尻餅をついた。胸のサガは空中を舞ってそのまま地面に落ちた。
「いたた。誰がこんなとっこに」
少女が擦りながら顔を上げた瞬間、びっくりして目を見開いた。
「い、いつの間にここに」
驚きのあまりに少女の体が小刻みに震えた。さっき自分を追いついていた息子と思われた若い男子が今目の前に立っていた。
「お前よくも盗んでくれたな」
息子は手をポキポキ鳴らして少女にゆっくりと近づいた。少女は座り込んだまま後ずさった。しかし後ろでは果物屋の店長が少女を待っていた。
「ど、どうしよう」
少女にはもう逃げ場がなかった。店長と息子は少女の前後に囲んで立った。息子が拳を振り上げた。少女はビビって手を上げて目をギュッと閉じた。これからの痛みを耐えれ切る準備はできていなかったが、相手がそんなことまで気遣ってくれる理由はなかった。息子が勢いよく拳を振り下ろした瞬間ーー
「待ちたまえぇ!」
少女の背中からキンキンした声がした。突然の第三者の登場に、息子の拳は空中で止まった。
少女はそっと目を開けて振り返った。
「あの子は・・・誰?」
見たことない少年が一人立っていた。少女と同い年に見えるけど、少女より背が低かった。少年は後ろ手を組んで少女の方にゆっくりと歩いてきた。
「暴力は良くないんだ。会話で解決しないか」
「お前は何者なんだ」
「ガキは黙ってろ」
少年は無視されたにも関わらず、引き下がらなかった。少年はむしろ少女の傍に寄り添って彼らに面と向かって立った。
「どうやらこの少女が床のサガを盗んだようだな。とはいえ男二人で可憐な少女を脅かすなんて、男らしくないな」
「は、だから何。あのガキはうちの商品を盗んだのだ。お前が代わりに払うのか。そうでないなら、そこからどけ」
「父さん、こんなガキにお金あるわけないだろ。こんな奴は無視してこいつを」
「俺が払う」
「「は?」」
店長と息子は同時に言った。少年は彼らのためにもう一度言ってくれた。
「俺がこの少女の代わりにお金を払う。どうだ、これでこの少女は見逃してくれたまえ」
「お前が払うんだって? バカなこと言うな。ガキにお金あるわけないだろ」
「お金ってこれを言ってるのか」
少年はポケットから銀貨一枚を取り出して見せた。その銀貨を目にした店長を息子の目が丸くなっていた。少年は周りに落ちたサガの数を数えた。
「ふむ、この程度なら銀貨一枚で十分だな。いや、むしろ小銭をもらわなければならないな。ふむ、ではこうしよう」
少年は銀貨を店長に差し出した。
「小銭でこの少女のことを見逃してくれないか。十分だと思うんだけど、どうだ」
「・・・わかった」
店長は少年の差し出した銀貨をもらうことにした。そして彼らは自分たちの店に戻り、ここには少女と少年二人きり残った。
「ありがとう。手伝ってくれて」
「そんなこと気にするな。それより大丈夫かい。立てるか」
「うん」
少女は地面に手をついて立ち上がった。少女は服についた埃を払い地面に落ちたサガを一つ一つ拾い始めた。しばらくして拾い切った少女は少年に頭を下げた。
「本当にありがとう。あと、銀貨は必ず返すから」
「別に返さなくてもいいんだ。それより」
「では私はもう行くよ。また会えたらいいね」
少女はサガが落ちないように小さく手を振った。そして壁の穴を通って市場を出た。少女はサガを胸に抱えたまま道を歩いた。しばらくして土埃が舞う整備されていない土道が出てきた。普通なら他の道を探すだろうが、少女は何の躊躇もなく土道に進んでいった。ただ前を見て歩いていた少女は突然立ち止まり後ろに振り返った。
「あんたどうしてついてくるのよ」
「それが、その俺が代わりに払ってあげたんだろ。だから、その」
「だからありがとうって言ったでしょ。もし銀貨のせいだったらいつか必ず返すから」
「いやいや、返さなくてもいい。俺がついてきたのは銀貨のせいじゃない」
「じゃなに。さっきからなんでついてくるのよ」
「その・・・それが」
さっき見せてくれた堂々たる姿はどこにもなく、少年はおずおずとしていた。
「さっき俺がお金払ってあげたんだろ。だから・・・ああ、もーいいっ!」
急に少年は少女を指さした。
「俺と取引しよー」
「取引? 何それ」
「えっ、知らないのか。えーっと・・・じゃあやりとりは知ってるか」
「やりとりって交換?」
「そうそう、交換。俺が代わりにお金を払ってあげたから、お前は俺の友達になれ」
「いきなりどういうこと?」
少女は顔を傾げた。いきなり友達なんて、意味わからなかった。
「言葉通りだ。俺の友達になってくれたまえ。銀貨は返さんくてもいいから」
少年の顔が少し赤くなっていた。少女は少年を見て呆れたようにため息をついた。
こいつ頭大丈夫か。
少年の精神状態が心配になってきた少女だった。
「どうだ。俺と友達に」
「なるわけないでしょ。バカなこと言わないで」
「・・・え」
少年はぽかんとした顔を浮かべた。
「銀貨は大人になったら必ず返すから、ついて来ないで」
少女はふんっとして少年から背を向けた。そして道を歩き出した。
「ちょ、本当にならないのか。銀貨返さなくてもいいんだよ」
背後から少年の声が聞こえてきた。それでも少女は振り向かずに歩き続けた。




