第16話 得をした国
部屋の中は高価なものばかりだった。部屋の真ん中のソファとテーブルは全部高価なものだったし、床のカーペットは獣の皮で仕立てられたもので相当な高いものであった。その上、壁は様々な種類の宝石が華やかに飾られていてキラキラ輝いていた。
ほんと贅沢な屋敷やな。
実はこの屋敷にはこのような部屋がいくつもあった。さっきの宴会場だけでも、王宮の宴会場に引けを取らないほどだった。いや、むしろあれより少し広いと感じるほどだった。しかもそんなに広いのに、壁は全部金で飾られていたし、床は高級大理石だった。家具は強いて言う必要もないし、詳しくは知らないけどグランドピアノ、バイオリン、ビオラ、チェロ、全部高いものだった。
ミリネは断言できた。今まで生きてきて見てきた屋敷の中で、最も豪華で贅沢な屋敷だって。
ここに比べたらモルスの家はうちみたいだな。
サリエル家の屋敷も広くて華やかだけど、この屋敷に比べたらミリネの家のように感じられた。王族の別荘もこれほどではなかった。王子の部屋とミジャリの部屋は質素だけど、他の部屋は違った。訪問客用の部屋や他のところは結構贅沢な飾りが多かった。でもここに比べたら別荘の部屋は地味だった。
ヒシルが言ったことが事実だったんだ。
ミリネは昨夜ヒシルが言ったことが思い浮かんだ。
昨夜。
『ちょっと話したいことがあります。が、一体どういう状況ですか。これ』
部屋に訪ねてきたヒシルは部屋の中を見てかなり驚いたようだった。ベッドの上に散らかっている服の山。もうすぐ爆発しそうなパンパンな鞄。そして真ん中にはミジャリがいた。
『ミジャリ様? どうしてここに』
『あ、ちょっと荷造りを手伝ってました』
『荷造りってあの鞄のことですか』
『はい。どうですか。私はまだだと思いますけど、ミリネには入れすぎたと言われましたよ。ヒシルハどう思うんですか』
『わ、私は』
ヒシルハ困ったような顔を浮かべた。主人の婚約者の無邪気な質問にどう答えればいいかわからなかったのだ。入れすぎたと答えたらがっかりする気がするし、然りとて嘘をつくのは主人にしてはいけないことだった。
そんなヒシルの心境に気付いたミリネはニヤリと笑った。
『早く答えてよ。ミジャリが聞いてるんでしょ』
ミリネは複数のタイミングだと思って彼を追いつけた。
『ほら、ご主人様がこんなに返事を待ってるよ。早く答えてあげなさいよ』
『そ、それが』
ミジャリとミリネそしてミアまで、黙ってヒシルの返事を待った。彼女たちの注目が集まったせいで、ヒシルの頭の中はさらにぐちゃぐちゃになった。いくら待っても返事がないと、ミジャリは肩を落とした。
『ヒシルさん本当に入れすぎたんでしょうか』
ミジャリが言っている瞬間、パンパンな鞄は服の圧力を耐え切れずついに爆発した。爆発と言ったが、それほど大きなことではなかった。たが金属パーツが鞄から弾けるようにミジャリに間掛けて飛んでいった。
え、ちょっと危ない。
ミリネは急いで手を伸ばしてパーツを取ろうとしたが、手遅れだった。ミリネのスピードではミジャリに当たる前にパーツを取られなかった。これは無理だ、と諦めようと思った瞬間だった。いつの間にかミジャリの横に来たヒシルが目で追えない速さでパーツを取った。
『大丈夫ですか?』
『は、はい』
今の出来事に驚いたミジャリは目を丸くしてぼーっと顔を縦に振った。今驚いたのはミジャリだけではなかった。ミリネもミアもミジャリと同じ表情をしていた。
今何が起きたんだ。
あまりにも速すぎてちゃんと見えなかった。パーツが飛んでミジャリに当たる前のほんの刹那、ヒシルはドアから部屋の奥のミリネのベッドに来てパーツを手に取ったのだ。その動きが速すぎて目で追えないほどだった。
あいつ本当に人間かよ。
ミリネは唖然とした。魔法を使った気配もなかった。魔法を使った時の魔力の波長もなかった。ヒシルの純粋なフィジカルだった。
『ミジャリ様、お部屋に戻ってもらえませんか。ミリネ嬢と少し話したいことがあります』
『はい』
そう言ってミジャリはぼーっとした顔をしたまま部屋を出た。部屋のドアが閉まってからヒシルは口を開いた。
『ミリネ嬢、少し話したいことがあります』
『それはあんたが部屋に来てからずっと聞いた。けどミアはここにいてもいい?』
ミリネはミアを指さした。ミアは無表情でミリネとヒシルの方を見ていた。ヒシルはミアをそっと見て言った。
「いいです」
『そっか。で、なんだ。話したいことって』
『宴会の主催者のテラムについてです』
『テラム・・・あ、あの代理の?』
『はい』
そう言ってヒシルは軽く顔を縦に降った。
『テラム・ソリティア。彼はソリティア家の当主で、現在王国の国政を取り仕切る代理です』
『うん。それは知ってる』
とっくに聞いたことだった。
『ではこれも知ってますか。二十年前、国と国との戦争があった頃、最も多くの得をした王国がどこなのか』
戦争で得をした国・・・。
普通は戦争で勝った国が得をしたはずだ。けど、二十年前の戦争には勝者がなかった。クレノス王国連合が少し優勢だったと知っているけど、あの戦争は七賢人の色欲の魔女が一方的に終わりを告げたため、特に得をした国はなかったと知っていた。
『それはクレノス王国です』
『え、なんで』
『ミリネ嬢、戦争で必要なものが何か知ってますか』
『兵力じゃない?』
『正解ではありますが、兵力以外にも必要なものがあります。それは武器です』
『武器?』
ミリネは顔を傾げた。確かに戦争には武器が必要なものだけど、それがどうしてクレノス王国が戦争で得をした国だと言われるのか理解できなかった。
『クレノス王国は武器を売りました。戦争で使用された武器の七割はクレノス王国の武器だったくらいです』
『な、七割?!』
どんでもない数値にミリネは目を見開いて聞き返した。
『はい。そのおかげでクレノス王国は一気に豊かになりました』
確かにあれほど武器を売ったらならお金をかき集めたはずだった。ヒシルの言った言った通りに、戦争で最も得をした国と言われても遜色なかった。
『まあそれはよくわかった。けど、今の話って代理と関係がある?』
『はい。ソリティア家が武器の生産と武器の流通管理したんです』
『それは結構儲かったやろうな』
『はい。そのおかげでクレノス王国の倉庫はいっぱいになり、ソリティア家も一瞬でこの王国一のお金持ちになりました』
確かにヒシルがあんたこと言ったよな。
ミリネは昨夜ヒシルに聞いた話を思い浮かべながらもう一度部屋の中を見渡した。そんな中、突然背後からドアを閉める音が聞こえてきた。テラムがドアを閉めたのだった。部屋に入ったテラムの背後に黒いマントを被った二人が立っていた。
あの人たちは誰。ふむ、あのシンボルどっかで見たことような。
黒いマントの真ん中には赤い獅子があって、獅子の周りには星がいくつかあった。
一体どこで見たっけ。
記憶を辿りどこで見たシンボルなのか思い出そうとした。ミリネが目を瞑って考え込んでいた中、テラムはゆっくりと歩いてロギアの向かいのソファにに座った。
「それで話したいことはなんだ」
「あまり長い話ではありません。ただここにサインしていただくだけです」
と言ってテラムはある紙を一枚差し出した。何物か気になったミリネはチラッと紙を見た。紙には黒い文字がいっぱいだった。あまりにも長すぎてミリネは内容を読むのを諦めた。そしてそれはロギアも同じだったのか、紙を目を通して聞いた。
「これはなんだ」
「王位継承権を放棄する誓約書です」
「は?!」
あまりにも呆れ返ったミリネは、つい声を出してしまった。




