第13話 後味わりぃ
ミジャリとと友達になってから早数日。ある程度この生活に慣れてきたミリネは、初日のようにクタクタになったり筋肉痛になったりしなくなった。だってーー
「やっぱり魔法を使えば楽なんや」
全てのことを魔法でやっていたからだ。
ある日を境に、ヒシルがちゃんとやっているのか監視しなくなった。
『いつまで私が側で見守るわけにはいかないんです。ですので今日かはミリネ嬢一人でやり遂げてください。いつものように掃除と庭の管理をすればいいんです」
と言ってヒシルは監視しに来なくなった。本当にミリネのことを信じてああ言ったのか、それともミジャリの圧力があったのかはわからない。けど、あの話をしていた時、ヒシルの顔がすごく暗かったのは間違いなかった。
まあ私にとっていいことだから、どっちでもいいやん。
理由がどっちであろうと、ミリネにとっては得になることだった。それからミリネの日常は大きく二つに分かれていた。午前には屋敷の掃除、午後には庭の管理、夕方にはミジャリと(たまにミアも参加する)おしゃべりしたり、ミジャリがロギアといる日は自由時間を持った。また一つも前のとほとんど同じ流れだった。午前には庭の管理、午後には屋敷の掃除。この二つの順番が変わるだけで、夕方にはミジャリとのおしゃべりや自由時間を持った。
そして今日は後者の方だった。午前には魔法を使って庭の管理を。
『始まる前に魔法をかけて』
ミリネの手のひらに小さな魔法陣が浮かんだ。それと同時にミリネの手にあったハサミが微かに光りながら空中にふわりと浮かんだ。
『これでハサミはオッケー。次は』
ミリネはそっと目を閉じた。するとミリネの右目の前に小さな魔法陣が現れた。ミリネが目を開けると、茂みの中に隠されたわき芽のある場所が一目で見えた。
『よし、これで準備はオッケー。じゃ始めよっか」
ミリネは庭の中を歩き回った。目にかけた魔法がわき芽の場所を示すと、ハサミはミリネの命令に従ってそこへ飛んでいってわき芽を摘んだ。
『楽でいいやん』
ミリネは満足げな顔を浮かべた。もう少し研究すれば、ミリネが命令を下さなくても自動でわき芽を探して摘むこともできるはずだった。しかしーー
そこまで研究するのは面倒くさいもん。
ミリネは今のままでも十分満足していた。こうやって庭を歩き回るのも散歩見たくて別に悪くなかったし、案外わき芽を探すのも面白かった。そして何より、わき芽摘みの過程を自動化したら、ヒシルが怪しく思うに間違いなかった。ミリネはどっかでサボっているのに、庭の管理は完璧にできているから怪しく思うに違いなかった。そのため、せめてこうやって庭を歩き回る姿を見せるべきだった。
こうして魔法を使って庭の管理を済ませたあと、ミアが作ったご飯を食べて午後の掃除を始まった。
屋敷の掃除は簡単だった。もうヒシルの監視も無くなったから魔法を使って楽に掃除した。掃除魔法は造り出す必要もなかった。だって家の掃除をした際使っていた魔法を使えば指一本動かさずに済ませることができたから。
家と違って屋敷が広すぎてちょっと時間がかかる些細な問題はあったけど、掃除をする間部屋のソファやベッドでゴロゴロしていると、掃除は終わっていた。しかもこの屋敷の家具は全部高価なものばっかりでふわふわだった。家のソファと比べものにならないほどだった。家より遥かにいい家具でゴロゴロして家の掃除よりずっと楽だった。しかも楽すぎてむしろ掃除の時間が好きになりそうだった。
そして今、ミリネは書斎の掃除をしていた。もちろん、掃除は魔法をかけておいたモップ掛けと箒がやっていて、ミリネは書斎のソファにうつ伏せになってある本を読んでいた。
「これなかなか面白いね」
ミリネが読んでいる本は書斎の本棚に差し込まれていた小説だった。
小説の大まかな内容はこうだった。裕福な家に生まれた少年が一人がいた。裕福な環境。不足のない生活。少年は温室育ちで世間知らずだった。ある日、少年は授業をサボって生まれて初めて外の世界に出た。初めてマーケットに行った少年は何もかも不思議で初めて見るものだらけだった。そしてそこで少年はある少女に出会う。少女は貧困で親もない少年とは全く違う世界に住む人であった。同い年でお互い友達がなかった二人は、急速に親しくなり友達になりやがて恋し合う関係になった。人生初の友達で良い話し相手だった二人は会えば会うほど愛情が深まった。そして少年は思った。
この人と一生を共にしたいと。
それは少女も同じだった。二人は結婚を思うほどお互いのことが好きになったのだ。しかし二人が結婚するためには超えなければならない山が一つあった。
実は少年は少女に自分の家のことを隠していた。いつもお金の心配や飯の心配をする少女の前で、自分の家のことを言うのはなんか欺瞞するような気がしてなかなか言い出せなかった。
しかし永遠な秘密はないものだった。少女はあるきっかけで少年の正体について知ってしまった。言い表せれない背信感に、少女は少年にがっかりした。それから少女は少年を避けはじめた。
しかしそれでも少年は諦めなかった。少女が会ってくれなくてもしつこく少女に会いに行った。少年のしつこい努力の末に、やっと少女は少年の前に顔を出した。彼らは久しぶりに話して誤解を解いた。そして少年は少女にプロポーズをした。少年の真心に少女は感動しプロポーズを受けた。こうして少年と少女は結婚を約束した。
だが彼らの結婚を反対する人だちがいた。少女の存在が気に入らなかった人だちは、結局結婚式の前夜彼らは少女を殺してしまった。少女の冷たい死体を目にした少年は絶叫した。まるで全てを失ったように。この世が終わったのように、少年は絶叫した。
少女を失った少年にはもう生きる意味などなかった。絶望のどん底に落ちた少年は結局少女の後を追って自殺してしまった。
「なんだ、このエンディングは。後味わりぃ」
ミリネは小説を閉じながら独り言を呟いた。
「こういうエンディングはあまり好きじゃないんだよな」
そう言いながら魔法で小説を元の場所に戻しておいた。小説はふわりと浮かんでひとりでに本棚に差し込まれた。
「それより掃除は終わったかな」
ミリネは書斎の中をざっと見回した。箒は終わっていてモップ掛けはまだ動いていた。ミリネは仰向けになってモップ掛けが終わることを待った。大きい窓から差し込む日差しが温かくて眠気に誘われた。瞼が重くなり次第に目が閉じた。気持ちよく眠につく瞬間ーー
「ミリネ!」
書斎のドアが開き、ミリネを呼ぶ声が響き渡った。ミリネはびっくりしてパッと目を開けた。
「だ、誰?!」
「私だよ」
「なんだ、ミジャリだった」
ミリネはミジャリを見て安堵のため息をついた。ヒシルかと思ってびっくりしていた。
ミジャリは腰に手を当ててミリネの前に立った。
「またゴロゴロしてた? 掃除は?」
「魔法で全部やった」
ミリネはひとりでに動いているモップ掛けを指さした。
「いや、そうじゃなくて。掃除終わった?」
「もうすぐ。っつかどうしてここにきた」
「私もよく知らないけどロギアがあんたを呼んで欲しいって言って」
「ロギアが?」
ミリネは顔を傾げた。
ロギアに呼び出されるようなことは別にしてないと思うんやけど。
全く心当たりがなかった。けど、王子の呼びかけあから従うしかなかった。
「わかった。今行く」
ちょうど寝過ぎて腰が痛いところだった。ミリネはソファからゆっくりと立ち上がって伸びをした。
「で、どこに行けばいい?」
「それは・・・私が教えてあげるから、ついてきてね」
そう言ってミジャリは先頭に立って歩いていった。ミリネはミジャリについて書斎を出て廊下を歩いた。しばらくして、ミジャリはある部屋の前で立ち止まった。
「ここだよ」
と言ってミジャリはドアを開けた。そして彼女たちは一緒に部屋の中に入った。中には王子のロギアとヒシル、そしてミアがいた。
なんか空気が重い。
部屋の中は外と空気が違った。何があったのか、ヒシルとロギアは深刻な顔をしていた。あんな顔はここにきてから初めてだった。この重い空気につられて緊張したミリネはゴクリと唾を呑み込んだ。




