第12話 友達になってください
ミジャリは太陽のような笑顔をして嬉しそうにミリネに手を振っていた。予想せぬの登場にミリネは唖然として一瞬思考が止まってしまった。
な、なんであの人がここに。確かに魔力感知には・・・あ!
忘れていた。ミジャリあの人は魔力を持ってないことを。魔力を持たないのから魔力感知にも引っかからないはずだった。
「どころで足元のあれはなんですか」
いつの間にかミリネの傍に寄り添ってきたミジャリは、足元を指さしながら聞いた。
「なんか微かに光ってて綺麗ですね。紋様も綺麗だし」
「・・・・・・あ!」
ミジャリの登場に、魔術式を消し去るのを忘れていた。ミリネは慌てて魔法の発動を中断して魔術式を消し去った。すると魔術式の光は完全に消え、魔術式は跡影もなく消えた。
「え、消えちゃった。綺麗だったのに」
ミジャリは残念そうな顔をした。しかしそれも束の間、ミジャリはすぐ微笑んでミリネを見つめた。ミジャリの微笑みはミリネをさらに不安にさせた。
まさかバレた?
不注意だった。十分注意したと思ったのに、疲れたせいかミジャリの存在を全く念頭に置かなかった。魔力のない存在は感知できないことにもっと注意すべきだったのに。
いや、でもまだバレたと決まったわけじゃない。
ミリネは希望の糸を離さなかった。
魔術式を見ただけだし、それが魔術式だと気づいたわけじゃないから。まだ希望はーー
「さっきのあれ魔術式ですよね? あんなに綺麗な魔術式は初めて見たんです」
ミジャリの無邪気な言葉を聞いた瞬間、ミリネの中から何かが崩れるような音がした。最後の希望が打ち砕かれた音だった。
終わった。
ミリネの顔が急激に暗くなった。この状況をどう収めればいいか、頭の中が混乱した。
そんなミリネの気持ちを知ってるのか知らないのか、ミジャリは無邪気な笑顔を浮かんだまま「じゃあ」と言葉を継いだ。
「ミリネさんは魔法を使えるんですか」
「えーっと、それが」
ミリネは必死に頭を捻って、この状況から抜け出すための言葉を考えた。しかしーー
「魔女、なんですよね?」
ミジャリの一言に、ミリネの思考が一瞬で止まってしまった。ミジャリの声はもはや確信を持って聞くような口調だった。これはもう弁明の余地がなかった。魔術式も目の当たりにしたし、ミリネのことを魔女だと確信していて、今何を言っても通じなさそうだった。
違うって言っても多分信じてもらえないやろう。
相手が相当なバカでない限り、信じてくれるはずがなかった。
精神操作魔法を使って記憶を消せばいいけど。許可を取ってないし。ああ! こうなると思ってたら、ここに来る前モルスのやつに許可を取ってくればよかったぁ。
ミリネはすごく後悔した。実はこの屋敷に来る前に許可を取って行こうかと思わなかったわけではなかった。だが、突然メイド服を着たり報告とか色々あったため、精神操作魔法の許可を取るのが面倒くさかった。
『まあ精神操作魔法なんか別にいらないやん。いざとなったら・・・まあその時に考えよう』
と傲慢な思い込みを持っていたせいで、敢えて許可を取らずに出発した。ミリネは過去の自分の怠惰さに悔いた。
「ミリネさんは本当に魔女なんですか?」
ミジャリはもう一度聞いた。もはや逃げ場がなくなったミリネは、深くため息を吐きながら力なく答えた。
「そう。私魔女だ」
「やっぱり!」
ミジャリはテスト問題の正解を当てた生徒のように喜んでいた。そんな彼女とは裏腹に、ミリネは憂いに満ちた顔をしていた。
よりによってこいつにバレるなんて。
現在最も疑わしくて警戒すべきの第一容疑者であるミジャリに魔女だとバレてしまった。不幸中の幸いにミリネはランディル王国の七賢人であることだけはバレなかった。けど、魔女だとバレた自体で相当やばい状況だった。
もしこいつが王子に呪いをかけた真犯人なら。
相当厄介なことになってしまう。きっと王子の呪いを解けないように、ミリネを邪魔をしてくるに間違いなかった。
あと、もしこいつが王子やヒシルに私が魔女だと言っちゃったら・・・。
想像もしたくなかった。魔女とバレたらここから追い出されるのはもちろん、任務も失敗に終わってしまう。
私の支援金のためでもそれはダメ。まだこいつが真犯人だと確定させたわけでもないから、まずはなんとか口止めをしなきゃ。
「あのさ、魔女のこと誰にも言わないで欲しいんだけど・・・ちょっと聞いてる?」
ミリネの言葉に、ミジャリは俯いたまま何の反応もなかった。よく見ると、彼女の両肩がかすかに震えていた。
まさかこいつが真犯人。
そうミリネが思った瞬間、ミジャリはパッと顔を上げた。ミリネはいつでも対応できるように姿勢を取った。しかしーー
「うわあぁ〜! 私実際に魔女を見るのは初めてです」
ミリネと予想とは裏腹に、ミジャリは甚だ興奮したように目をキラキラさせて顔を近づけた。あまりにも近い距離感にミリネは戸惑ってそっと後退りした。しかし、ミリネが一歩後退りすると、ミジャリもついて一歩近づいた。
「ミリネさんは魔女ですから強いですよね? どれくらい強いですか」
「いや、ちょっと離れて」
「私を殺せるほど強いですか」
「え、今なんて」
ミリネは戸惑って足が止まった。
殺せるって自分を?!
ミリネは瞬間自分が理解が正しいか疑った。あんな質問は生まれて初めてだった。ミリネはぼーっとした顔でミジャリをそっと見つめた。きっとさっきと同じ笑顔なのに、今の言葉のせいでなぜかぞっとした。
「答えてください。私を殺せるほど強いですか」
「・・・私に人を殺す趣味なんかない」
「そうですか。じゃあ人ではないものは? 例えば、魔物? みたいなものは殺せるんですか」
「まぁ魔物なら簡単に」
「へぇ、すごいですね」
ミジャリは少し驚いたように目を丸くした。ミリネはそういう彼女の顔を見て一つの疑問が浮かんだ。
どうしてあんなこと聞くんやろう。
ミリネはさっぱり理解できなかった。しかしミジャリはそれには答えてくれる気がなさそうだった。ミジャリはミリネとじっと目を合わせ一歩下がった。
「さっき言ったんですね。他の人たちには内緒してくれと」
ミジャリは後ろで手を組んで言った。
「では取引です」
「取引?」
「私が他の人たちに言わない代わりに、ミリネさんは友達になってください」
「・・・はぁ?!」
どんでもない取引条件に、ミリネは言葉を失った。いきなり友達になってくれって一体何言ってるのか混乱していた。
「友達になってくれって、一体どういうこと。全然理解できないけど」
「文字通りです。普通に友達が欲しいんです」
「どうして」
「どうしてと聞かれたら、ふむ、この屋敷に女は私一人でちょっと寂しかったし、あと、実はずっと前から魔女の友達が欲しかったんです」
ミリネはい後頭部を掻きながらいひひっと笑った。
「どうですか。悪くないんですね」
「確かに悪くはないけど」
「ですよね。じゃあ私と友達になりましょ」
ミジャリは手を差し出した。ミリネは彼女の手をじっと見つめた。
友達になるだけなら、確かに悪くはない条件だった。その上、友達になったら誰よりも近くで観察できて、ミリネにとってむしろ得な話であった。しかしそれでもミリネがミジャリの手を握れないのは、その裏で何を企んでいるかわからないからだった。ミジャリが友達という罠で逆にミリネを利用しようと思っている可能性を排除できなかった。
だが、今の私には選択肢がない。
これ以上他の人に魔女だとバレないためには、ミジャリの手を握らざるを得なかった。
もし私を利用しようとしたら、逆に私が利用してやる。
そう思ったミリネはゆっくりと手を伸ばしてミジャリの手を握った。
「わかった。その条件受け入れる」
「わあ、嬉しいです・・・」
ミジャリは目を細めて微笑んだ。しかしなぜかいつもより彼女の声に力がなかった。一瞬、ミジャリの微笑みがどこか寂しそうに見えた。けど、ほんの一瞬だったので、ただの見間違いだと思った。
「どころでミリネはどうしてこんな時間にこんなところにいるの?」
「それがちょっと道に迷って・・・っつかあんた急に敬語を使わないね」
「そりゃ友達だもん。普通友達同士には敬語使わないでしょ」
「それはそうやけど」
「それとも嫌だ? 私が敬語を使わないのが」
「いやいや、そうじゃなくて。ダメ口でいい。そもそも私も敬語じゃなかったし」
敬語を使っていた人から急にダメ口で言われると、なんか変な感じがした。
「で、ここで何してた。まさか魔法で屋敷をぶっ飛ばす計略を」
「違うっ! ちょっと道に迷っただけなんだ」
「道に、迷う?」
ミジャリは顔を傾げた。ミジャリの反応に、ミリネは少し照れ臭くなってそっと目を背けて言った。
「ここちょっと迷路みたいでしょ。出口がどこにあるのかわからなくて、ちょっと空を飛んで方角を確かめるつもりだったんだ」
「なんだ、そんな理由だった。なら私が道を教えてあげるよ。ちゃんとついてきてね」
そう言ってミジャリは先頭に立って歩き出した。ミリネはミジャリの後ろについていった。
ミジャリと話している間、完全に日が暮れて暗くなった。それなのに、ミジャリは完全にこの道に慣れているようにツカツカと前に進んでいった。
「ここに行けば・・・あ、着いたよ」
出発してから三分。ミジャリの導きのおかげで、ミリネは数十分間迷っていた迷路から抜け出せた。
「あんた早いね」
「まあ普通だよ。でも今屋敷の正門は閉まってるはずだけど。私たちの力ではあの扉を開けないし」
ミジャリは顎に手を当てて少し考えた。しばらくしてミジャリはいいこと思い出したかのように指を立てた。
「裏口を使おう。こっちにきて」
ミジャリは早足でどこかへ歩き出した。ミリネはミジャリを逃さないように必死に歩いた。
こうして彼女たちが着いたのは屋敷の裏だった。そこにはよく見ないと見えないほど壁と同じ色のドアが一つあった。
どうしてこんなところにドアが。
少し怪しかったが、ミジャリは何の躊躇もなく手を伸ばしてドアを開けた。すると、中から明るい光が漏れた。
「入ろう」
ミジャリの言葉に、ミリネは中に入った。ドアは一階の廊下と繋がっていた。
「ミリネ嬢ぉ!」
廊下に立つと、遠くから自分を呼ぶ声が聞こえてきた。声がした方に顔を向けると、そこにはヒシルがすごく怒った顔をしてこちらに走ってきていた。
「一体今までどこで何をしていたんですか!」
「庭の管理を」
「こんな時間までですか?! 嘘はやめてください」
ヒシルはミリネの言うことを信じなかった。だって庭の管理をやらせたのは昼間なのに、夕方になるまで帰ってこなかったから、彼にとっては嘘にしか見えなかった。
「どうせどっかでサボってたんですよね。一体どこで」
「あら、ヒシルさん。ここで何してるんですか」
「あ、ミジャリ様」
ミジャリを見たヒシルの顔がすぐ柔らかくなった。
「このメイドがちょっとサボっちゃって。教育を」
「ミリネなら私といました」
「え、ミジャリ様とですか?」
ヒシルはきょとんとした顔で聞き返した。
「そうです。実は私が頼みました。一緒に遊ぼうって。ミリネは私の頼みに渋々付き合ってくれただけです。ですので、そんなに怒らないでください」
「そ、そうでしたね。わかりました。では」
そう言ってヒシルはどこかへ行ってしまった。ミジャリは振り向いてウィンクをした。なんかミジャリが光って見えた。
これが権力の味。
ミジャリと友達になってから十分も経たず、ミリネはミジャリと友達になってよかったと思った。




