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有能な怠惰の魔女はのんびりと暮らしたい  作者: うさうさ
第一章 メイド姿をした魔女
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第8話 外に出てもらえる?

 早朝、ミリネとミアは屋敷の厨房に呼び出された。ミリネが寝坊したせいで危うく間に合わないところだったけど、ミアのおかげでなんとか間に合って厨房に着くことが出来た。


「あと一分遅れたら遅刻だったんですけど、ちゃんと時間通りにきましたね」


 厨房には先に来たヒシルが彼女らを待っていた。


「だが、次からは十分前に来ていなさい。わかりましたか」

「はい」

「ミリネ嬢お答えは?」

「・・・・・・」


 ヒシルはミリネを鋭く睨んだ。ミリネは彼に負けずに睨み返した。

 正直に言って理解できなかった。遅刻せずに時間通りに来ていればいいじゃないかって。なんで十分前に来ていると言うのか理解できなかった。

 本来のミリネならこれについて文句を言うはずだったけど、今の自分はそんな立場ではないことをよく知っていた。自分の身分を隠しメイドとして侵入したわけだから、素直にヒシルの言うことに従うしかなかった。


「わかったよ」


 ミリネは目を逸らして小さく答えた。敬語ではなかったけど、諦めたのかヒシルは敢えて詰問しなかった。


「それで私がお二人さんをここに呼び出した理由は、今日の朝ご飯を作ってもらうためです」

「朝」

「ご飯?」


 ミリネとミアは顔を傾げた。


「そうです。今日から王子様とミジャリ様のご飯はメイドであるあなたたちが作るんです」

「三度の飯全部?」

「もちろんです。三度の飯だけではなく王子様やミジャリ様が食べたいものがあるとおっしゃるなら、いつでも作らなかえればなりません」


 それって二十四時間待機しろってことだよね? マジ最悪やん。


 とミリネは心の中で思った。


「では始めてください」

「わかった」


 ヒシルの言葉に先に動き出したのはミアではなくミリネだった。


「料理だけすればいいんやね。簡単でいいね」

「ほぉ、ミリネ嬢が積極的に出るとは思いませんでした」

「まあ料理くらい簡単だから」


 ヒシルは相当驚いたようにいつもより目を大きくしていた。


「調理器具は全部揃っております。ご自由に使ってください」


 ヒシルは厨房の片隅を指で示した。ミリネは一度軽く頷きヒシルが指さしたところへ足を運んだ。三歩ほど歩いた時、突然ミアがミリネの腕を掴んだ。


「ほ、本当にやる気ですか」

「まあね」

「今でもやめる方が」

「いいのよ。ミアは黙ってここで見てて」


 そう言ってミリネは調理器具のあるところへ足を運んだ。表情変化が少ないミアが心配に満ちた顔を浮かべた。ミアは緊急にヒシルの元に行って彼の服の袖を引っ張った。


「ミア嬢どうしましたか」

「おしっ、いいや、ミリネを止めないと」

「はい?」


 ヒシルはきょとんとした顔を浮かべた。


「止めろって、どうしてですか」

「だってあの人は料理がめちゃくちゃ下手なんですよ」

「でもさっきはあんなに自信満々に自分が料理するんだって、ほら、今だってフライパンに火柱を立てて料理をしてますよ」


 ヒシルはフライパンを持ったミリネを指さしながら言った。その瞬間、ミリネは振り返った。さっきの自信満々な表情はどこにもなく、狼狽したような表情だった。


「あのさ・・・これどうやって消すの?」

「・・・はい?」


 ヒシルは一瞬この状況に頭が追いつかなかった。その間にもフライパンの炎はますます強くなっていった。ミリエは自分より高く立った火柱を見て途方に暮れた。


「うああ、これなんか大きくなったけど、どうしよう」

「退けなさい」


 ミアの声に、ミリネは左に体を投げ出した。どこかで水入れのバケツを持ってきたミアは、そのままプライパンに水をぶっかけた。勢いよく立ち上がった火柱がジューッと音を立てながらおさまった。その余波で厨房は灰色の煙でいっぱいだった。


「お、終わった?」


 ミリネはギョロギョロしながら状況を把握した。灰色の煙でほとんど見えなかったけど、フライパンの火柱が消えたことだけはすぐわかった。ミリネはふぅっと安堵のため息をついた。


「よかった。一時はどうなるかと思った。それじゃ問題も解決したから料理を続けて」

「「もういいですよ!」」


 ミリネが再びフライパンを手にしようと思った瞬間、ミアとヒシルが大声を上げた。突然の叫び声に、ミリネはびっくりしてギクッとした。


「と、突然なに」

「ミリネ嬢もう十分ですからこっちへきなさい」

「そうですよ。料理はもういいですから」


 ミアとヒシルがこっちに来いと手招きした。彼ら、特にヒシルの表情は怯えと緊張に満ちていた。彼らがあんな表情をするのも当然だった。危うく厨房が燃えてしまうところだった。ミアが早く手を使わなかったら、屋敷が全焼したはずだった。


「でも私がやるって」

「いいです。私がやるんですから」

「ミ、ミア嬢がですか」


 ヒシルは少し驚いたようにミアを見た。


「ミア嬢料理できますか」

「あまり上手ではないんですけど、一応できます」


 ヒシルはさっき自分の目で見たことがあったため、なかなか信頼できなかった。そんな彼の気持ちに気づいたミアはただ何も言わずに調理台の前に立って料理をし始めた。しばらく後、ミアは美味しそうなサラダを作ってヒシルとミリネの前に持ってきた。


「味わってみてください」


 ミアはサラダボウルを彼らの前に差し出した。ヒシルは不審そうにサラダを見下ろした。しかし、ミリネはなんの躊躇もなくすぐサラダを一口食べた。


「うむ、いつものように美味しいね」


 ミリネはもう一口食べながら言った。そんな彼女の反応に、ヒシルもサラダの方に手を伸ばした。サラダを少し取ってすぐ口の中に入れた。サラダの野菜がヒシルの舌に当たった瞬間、彼は目を丸くした。野菜の歯応えが歯応え心地よいし、ドレッシングがすごく野菜と似合って美味しかった。


「ミア嬢、お料理上手ですな」


 予想外の美味しさに、ヒシルは呆気に取られた。ヒシルはミアの両肩を軽く掴んだ。


「ミア嬢料理を頼みます。ロギア様とミジャリ様の分のさらだを作ってください」

「はい」


 そう言ってミアは二人分のサラダを作り始めた。その姿をじっと見守っていたミリネは、あくびをした。


「眠ぅ」


 ミリネは目をこすった。普段なら寝ている時間だった。こんな朝早く起きたのは学園時代以来初めてだった。その上、ミリネは夜に起きていて朝に寝るどこかぶっ壊れた生活パターンを持っていて昨夜ほとんど眠れなかった。ほぼ夜更かしに近い睡眠時間と朝早く起きたせいで今ミリネはすごく眠かった。


 部屋に戻ってもう少し寝よっか。


 どうせ料理はミアに任されたし、ここでミリネがやることは特になさそうだった。そのためミリネは二度寝をするために、部屋に戻ることにした。厨房を出ようと思って足を運んだ瞬間、ヒシルがミリネの腕を掴んで引き止めた。


「どこに行くのですか」

「部屋に。ちょっと寝ようと思って。どうせここで私がやることはないでしょ」

「何を言ってるんですか。やることがないなんて。あなたにやらせる仕事はたくさんありますので、ご心配しないでください」


 ヒシルの言葉に、ミリネは顔を傾げた。


「え、わ、私に?」

「はい。たとえミリネ嬢は料理が下手くそですけど、この屋敷には料理以外にもミリネ嬢がやることがたくさんありますから、ご安心してください」

「いやいや、全然安心できないから」

「ふむ、ちょうどいい時間ですね」


 ヒシルはミリネのこと無視して腕時計を見ながら言った。


「ではここはミア嬢に任せて、ミリネ嬢は私についてきてください」

「いや、待って。私は」


 ミリネは何か言おうとしたが、ヒシルはそれより先に厨房を出てしまった。ミリネは途方に暮れた。


 余計について行ったら仕事させそうやけど。


 気持ちとしてはついて行きたくなかった。けど、メイドになって時点でもうついて行かざるを得なかった。結局ミリネは地面が凹むほどのため息を吐きながらヒシルの後について行った。

 こうして現在、ミリネがこの部屋を掃除することになったのだった。ミリネは手のモップ掛けからヒシルに目を向けた。


「この広い部屋を私一人で?」

「ここにまた誰がいますか。当然ミリネ城一人でやりのです」


 ミリネは呆れて言葉が出てこなかった。だってこの部屋は一人で掃除するにはあまりにも広すぎた。パーティー会場なのか家具はなかったけど、高そうなグランドピアノも一台あった。


「あと他の道具が必要ならここにありますので、ご自由に使ってください」

「お、必要なものは全部揃ってるね。で、ここを掃除すればいいんだね?」

「はい。そうですけど」


 予想外の反応に、ヒシルは驚いた。「やりたくない」とか「あんたがやれ」と言うと思ったのに、意外と素直に従いそうな感じだった。

 実はミリネが素直に従うのには理由があった。


 掃除ぐらい簡単やから。


 料理の時はちょっとミスをしたけど、掃除は本当に簡単だった。だって魔法を使うから。

 実際、ミリネは家で掃除当番でよく掃除をした。その度に魔法を使って箒やモップ掛けを自動で動かせば指一本動かすことなく、簡単に掃除できた。そして今、ミリネはあの方法を使うつもりだった。


 まずはあのジジを外に出さなきゃ。


 自分が魔法を使えることをバレてはいけないので、ヒシルを外に出させるしかなかった。


「じゃ外に出てもらえる? 今から掃除始め」

「いいえ」

「そうそう早く・・・ん? 今なんて」

「いいえって言いました。私は部屋から出ません」

「・・・・・・」


 ミリネは自分の耳を疑った。けど返ってきたのは同じ答えだった。

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