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正義の味方募集中!!

作者: A-10

第一話、ニートのジュン!!



「……今回もダメか……。どーすんだよ」


男は履歴書を机に放る。

机の上には、煙草の吸い殻が溢れている所々へこんだステンレス灰皿と、かき氷の空の容器が置いてある。

そして、証明写真が添付された数十枚の履歴書が、今にも机から落ちそうになっていた。


ドサッ。


固めの三人掛けソファーに、力無く体を預ける。

すぐ横には少し高めのサイドテーブルがあり、その上に今では大変珍しい黒電話が置かれている。


ジリリリリ!


黒電話が鳴りだした。

男は盛大にため息をする。


ガチャッ、っと電話を手に取り…

「もしもし」

いつもの低音域の声質を少し調整し、業務用の声を出す。


「えぇ、はい。 そうです。 えぇ。 では明日お越し頂けますか? はい。 明日の午前10時に」


薄暗い部屋はカーテンが引かれているが、少しだけ開いている部分から太陽の光が差し込み、ハウスダストがうっすらキラキラと舞っていた。


「…下さい……しくお願……致します」


チンッ。


面接の日時を指定すると、電話をきる。

そして男は再び、ため息をする。

「はぁ。 どうせまたダメなんだろ?」


「あ~あ……」

受話器を戻した勢いのまま、手が宙をひらひら扇ぐ。



「…アイダ ジュン…か…。…まさかな……」


と、ポツリと呟いた。







21歳、ニートの英田あいだ じゅんは、兄と二人暮らしでお手伝いさんもいる、恵まれた環境で生活をしていた…。






廊下を歩く二人の女性。

一人は髪を低い位置でだんごにまとめた、着物の老女性。

もう一人は、明るい茶髪のセミロングを軽くすいた髪型で、シフォンスカートを清楚に着こなした20代前後の美人だ。


“ いっけーっ! スーパーレンジャー! ”


ドアの向こうから、少年のようなテンションではしゃぐ声が聞こえる。

しかしその声は、平均的な成人男性の声音をしていた。


コンコン。


「ん?」


拳を高く掲げて、食い入るようにテレビを観ていた黒髪・短髪の青年は、動きを止めて反応する。


「潤ちゃん? うたちゃんがいらしてるわよ?」


廊下側のドアの向こうから、声がかけられた。

詩と言われた女性は、どこか不安そうにしている。


一方、潤と言われた青年は明るい声で、

「おう! どーぞー」

と、入室を促した。


パタン。


詩は部屋に入ると、無言のまま立っている。


「…………。」


部屋の中は、片方だけの汚れた臭ってきそうな靴下や、放ったままのバックパック、脱ぎ捨てられたままのジーンズなど…かなり散らかっていた。

しかし、これは…いつものことで、詩は散らかった部屋に絶句しているわけではないのだ。


“ スーパーキィーック ! ”

「おーっ! いいねーっ♪」


無言の詩を大して気にせず、笑顔でテレビを観覧する潤。


“ ギャーっ! ”

「………またそんなの観てたの?」


詩は冷たい声音で訊ねたが、潤は何も気にせず、親指を立てながら答える。


「ああ!面白いから詩も一緒に観ようゼ」


テレビの方をずっと観ていた潤は、この時やっと詩の方を振り返った。


「…………。」


そして、詩の様子がいつもよりおかしいことに気付いたが、それでもまだ深くは気にしていない。

とりあえず、少し気になったので尋ねる潤。






「 ?

 どした?」

「ジュン君さぁ、このままでいいの?」

「何が?」


「…………。」

渋い顔のままのウタ。

「この前ね、結婚した友達に赤ちゃんが産まれたの」

「へぇ、それはめでたいな!」

明るく笑いながら言うジュン。


「……。 はぁ…。 それだけ? 何も感じないの?」

「まどろっこしいな。 何が言いたいんだよ。 オレはテレビ観るのに忙しいんだから、用がないなら帰れよ」


イラっとしたウタは、持っていた求人情報誌をジュンに叩きつけた。


「高校卒業してから3年間、何もしないで恥ずかしくないの? ジュン君がそんなんだとさぁっ! 私もう彼女じゃいられないよ! バカ!」


部屋を出て行くウタ。


呆然とするジュン。





叩きつけられた求人情報誌を、胡座をかいたまま取ろうとして体勢を崩したが、そのまま拾い上げる。


寝転がった仰向けの状態に、足は尚も胡座をキープしている。


求人情報誌を天井と重ねて眺める。


表紙に、セロテープで貼り付けられた紙が目に入った。

太いマジックペンで大きな文字が書いてある。


『いいかげん、アルバイトくらいしろ! おたんこナス(怒)』


「おたんこナス……。ていうか、別に働かなくても金はあるしな~。

 アニキなんて、オレより一年先輩ニートだぜ?

 オレよりも先にアニキに言って欲しいもんだよ」


そう言いながら起き上がると、求人情報誌をめくり眺めていく。


「ん~…飲食系にアパレル系……アパレルってなんだろ……モフモフした動物のことかな? え~…土木系……土曜日と木曜日の略かな?」


「………。」


「ヤベェ。 よく分かんねェな……」


ペラペラめくっていくと、目に飛び込んで来た求人があった。


「!!!」


「これだ!!」


求人情報誌をそのまま床に叩きつけて、慌てて部屋を出る。


「 トメさーーーん!!! 」


ジュンが見ていたページがそのまま開いてある。


『 正義の味方募集!! 』。


しかし、隣のページにウタの知り合いの店の求人広告があり、印がつけられ、電話をするようにと書いてあった……。






次の日…


面接へ。 そこは、怪しげな雑居ビルだった。


少し戸惑いつつも中へ入る。





「あれ? トメさん、ジュンは?」


リビングにやって来たのは、ジュンの兄の洋夢(ひろむ)

10時のおやつの時間になったので、リビングへやって来たのだ。

いつも顔を合わせる弟の姿がないので疑問に思う。


「正義の味方になると言って、出掛けましたよ?」


「あいつ、そこまで厨二ちゅうにだったのか……」


そんな事を言うヒロムの格好こそ、酷い厨二である。

顔には油性のマジックペンで頬に大きな×印が書いてあり、額には白い鉢巻きを付け、手にはファイヤーパターンのグローブをはめ、着ているのは上腕まで捲った白の胴着だ。


「トメさん何見てるの?」

「ジュンちゃんこれを見て出て行ったのよ?」


「どれどれ……。

 ……。

 ……うわー、なんだコレすごくあやしいんだけど……。

 ヒーローショーとかのバイトかな?

 ジュン、運動神経はいいから、それだったらイケると思うけど……」







第二話、面接官はヤクザ!!



突然ヤクザの顔アップがジュンを襲う。


驚くジュン。



「間違えました」



と、ドアを閉めようとするも……ぐぎぎ……お、おや? 閉まらないぞ?

ヤクザ顔の男は、ドアに足の爪先をかけて、閉められないようにしていた。


「あんたもしかして、アイダさん?」

「い、いえっ人違いです!」


しかし、何かに気付いた男。


「ははは! あんた面白いな! 服に名前、書いてあるぜ」


ジュンの左胸を指さす男。


「えっ!?」


慌ててみるジュン。


そこには、トメさんが縫い付けてくれたアップリケ(名前付き)があった。


「!!!」


青くなるジュン。


( 終わった! オレの人生ここまでだ! 確か名前とか知られたら呪詛とか送れるんだっけ! もうダメだ! オレは死ぬんだ!)


「とりあえず中入れよ。 ここじゃ面接出来ねぇしな」

「い、いやだぁっ! 死にたくないぃ~!!」


激しく抵抗するジュン。

そして、少し引き気味の男。


「( うわ…、コイツ、大丈夫かよ…… )」


「ってあれ? 面接?」


「……う~ん。 今回もダメっぽいな……」






「めっ面接官の方だったんですか ( マズいっ第一印象が大事だって誰かが言ってたのに! 完璧おわった!)」


男は履歴書をコーヒーを飲みながら眺めている。

ジュンにもコーヒーが出されている。

事務の女の子が出してくれた。


「正直にニートって書く奴がいるとはな」


履歴書を見た男は笑う。

履歴書には学歴・職歴の下に、ニートと書いてあった。


「じゃあ、こっちでテスト受けてもらうから」


男の後に続くジュン。


広めの応接室から、研修室と書かれた札がかけてある小部屋に移動した。


「そこにある筆記テストとアンケートに答えてくれ。 終わったらここのボタン押せば来るから」


そう言って部屋を出て行く男。

机の上には、ファミリーレストランに置いてある店員を呼ぶブザーが置いてあった。


黙々と白紙に記入するジュン。


真面目に書くこと数十分。


書き終えたジュンは、ブザーをカチッと押した。


程なくして男がやって来る。


部屋に入って来た男は、ドアを開けっ放しにしたままジュンの答案を見る。


「………なるほどな」


開けっ放しのドアを振り返りながら、

「ユミちゃん! 計測の方、頼むわ」

と、事務の女の子に声を掛けた。


「はい。 アイダさんこちらへどうぞ」

「あ、はい!」


テストを受けた部屋とは別の部屋へ移動する。


ユミちゃんが座っていた席に腰掛け、パソコンにデータを入力する男。

意外によい手並みだ。

カタカタ………






数分後…


別室から出て来たユミちゃんとジュン。


窓を少し開け、古い型の換気扇が回っている下で腕を組み、火のついた煙草を口にくわえ、ふかしながら外を眺めていた男は、

「どうだった?」

と、尋ねる。


ユミちゃんは計測結果を手渡す。

眉をひそめる男。


「ちゃんと測ったよね? …って、ユミちゃんがヘマするワケねぇか……。 う~ん、信じられん」


ユミは軽く会釈をすると、デスクに戻って行った。


「あの~? もしかして、ダメだったんですか?」

「ああ、いや、悪い」

顔を上げてジュンを見る。


そして……


「アイダ ジュンさん。 合格だ。 今日からウチで働いてもらう」


「本当ですか! やったっ!!」

大きくガッツポーズをする。


計測したものは、ヒーロー適性検査で、ジュンは全ての項目を大きく上回っていた。

男はまだこの結果を疑っている。


( ありえねぇ…計測器壊れてんのかな? アイツだぞ? 念の為修理に出すか…)


人手不足なので、とりあえず採用にしたのだった。





「では、さっそく研修を始める」


「オレ、何も持って来てないですが?」


「大丈夫だ。 必要な書類等は後日提出してもらうとして、今日は研修ビデオを観てもらう。 じゃあ、こっちに来てくれ」


ジュンがテストを受けた部屋に入る二人。

部屋に入った男は、プロジェクターを準備しながら話す。


「質問とかあるならどうぞ?」


「じゃあ……、

 なぜ正義の味方を募集していたんですか?

 というか、正義の味方って本当にいたんですね。

 自分は今、とても感動しています!!」


「……あぁ…。 そんないいもんじゃないぞ」


興奮しながら矢継ぎ早に言うジュンに、気怠く答える男。


普通の市民はヒーローの存在を知っているが、ジュンとヒロムは周りの人間が隠していた為に知らなかった。

二人の親が原因である。



カチッ


プロジェクターを起動させる。

スクリーンに映像が流れる。

昔のシネマ活劇的な文字と表現で、

『 悪の秘密結社MMM団 』という文字が映る。





: : : 


スリーM団と呼ばれる。

宇宙のとある星からやって来たMMM団。

真意のほどは分からないが、地球をのっとろうと考えているらしい。

なかなかの軍事力を有する組織ではあるが、頭が悪いのか、地球征服を開始してはや半世紀にもなろうかというところだが、いまだ成し得ていない。

しかしながら、決して倒れることもない悪の軍団。

それは、組織の名前と彼らの誇り、


マジ(M)で、モノスゴイ(M)、マゾ(M)軍団からも伺い知ることが出来る。


痛みこそ快感と思うことで、生き長らえて来たのだ。

これは嫌なことからすぐ逃げる地球人にも学んでもらいたい精神である。




「ええ~…それは嫌だな。

 ん? 待てよ、そういうことか!

 地球を征服すると共に、変な性癖まで広めようという魂胆なのか!

 おのれ~、許せん ! 個性というものが分からんのか!!」


ジュンが脱線したので、停止ボタンを押す。


「いや、そこでキレられても……それよりも真面目に観てくれ……(汗)」


「いや、真面目にと言われても、内容が少しおかしくはないですか? これでは、悪の軍団の勧誘VTRですよ」


「知らねぇよ。 俺がつくったんじゃねぇんだから。とりあえず、黙って最後まで観ろ」


「すいません」





ピッ

再スタート。


ーーーまた、悪の軍団の妨げとなっている者の存在こそが、正義の味方である。

彼らの自己犠牲をも厭わない不屈の精神が、地球を悪の手から守って来たのだ。

しかしながら、近年、ヒーローの担い手である若者たちに異変がおきてきた。それは、特に重要な若い男性たちにおきた。


--草食化である。

それと同時に少子化もまた拍車をかけている。

特に深刻なのは、ここ、日本である。

保守的な若者が増えたことでヒーロー養成学校の受験者数も激減し、マンパワー不足が懸念されている。


ーー今回、見事合格された君たちに全てがかかっていると言っても過言ではない。

さぁ! 皆で力を合わせて、共に悪を打ち砕こう!

諸君らの健闘を祈る!


: : :



ブツッ


スクリーンに映し出された画面が消えた。


「君たちって……オレ一人な上に、思ったより重たいなぁ」


男はプロジェクターを操作しながら、

「で、最低三人はメンバーが必要なんだが…あと二人か……。 どうだ、やれそうか?」

と、尋ねる。

( 大体のヤツはこのⅤを見て、諦めるが…コイツは、どうだ? )



ジュンは気持ちを入れ替え、元気いっぱいに答えた。






「勿論です!

 オレは今、確信しました。

 このためにオレはニートだったんだと!!」



………。



「……そうか…」

ジュンの頭に二回ほど軽くポンポンと、手を乗せた。


「じゃあ、これに感想文書いて」

「はい」

「あと、明日から一週間、合宿訓練するから」


元気良く手を挙げるジュン。


「はいっ! 質問いいですかっ!」

「どうぞ?」

「お菓子はー…」

「300円までとは言わないが、荷物は必要最低限にしろ。 食いもんばっか持って持ってくんじゃねぇぞ」

「バナナはー…」

「痛みやすいから持ってくるな。 お前、そんなお約束いらねぇから」


笑うジュン。


「ったく、遠足じゃねぇんだ。 浮かれてると大怪我すっから、気を引き締めていけ」



ーーー そして…


一週間の合宿訓練を終えたジュン。


※訓練の様子は、ヒーロー的諸事情により割愛。


ジュンはその後、忙しく走りまわる毎日を送っているが、その表情は晴れやかで生き生きとしている。


そんなジュンの姿を、兄・ヒロムはポカンと見ていた。






そしてとうとう初任務の時がやって来た。


因みに、ヤクザ顔の男・ボスも戦う。


あっという間に、戦闘終了。

どうなるかと若干、緊張はしたものの無事に任務を終えたジュンだが、呆気にとられていた。


「……こんなもんですか?」

ボスを振り返る。


しかし、バトルスーツを着ていないボスは太ももに両手をつき、息を切らせていた。


( 煙草……やめた方がいいかな…いや、ニコチンがねぇと生きていけねぇ… )


頭を振りつつ息を整え、

「はぁ……いや、お前は中々スジがいい。

 でもまぁ、よくあるじゃねぇか。

 戦隊モノでもロボットアニメでも、初めて経験するのに、

 初っ端からベテランみてぇな動きするヤツ。

 そいつらと同じでジュンも天才的才能ってヤツがあったんだろうよ」

と、褒めてくれた。


自分の両手を見るジュン。


( オレはとうとう、本当にヒーローになったんだな! )


ジ~ン…

と、感激している。


「…そういえば、( 頭を上げてボスを見る )今までは誰が街の平和を守っていたんでしょうか?」


「一時的に結界をはり、敵の侵入を防いでいたんだが、それが丁度今日が期限だった。 因みに、結界を永久的にはることは出来ない。 条件や誓約、コスト面等々ある」


他の地点は別のヒーローが守っているが、ジュンの住む地区はヒーロー不在の状態が続いていた。


「……ギリギリだったんですね。 ……あぶねー」


「今回は良かったが、毎回こう上手くいくとは限らない。 文字通り命がけになるから気を引き締めろよ。 ここからが本番だ」


「脅かさないで下さいよ。 そういうことはあんまりまだ……。 流石に始まったばかりだしなぁ…」


「初陣で死んだヤツは何人もいる」



顔が青くなるジュン。


「……マジかぁ」





その後、ボスの言う通りに気を引き締め、地道に頑張るジュン。


そんなある日、溜め息をついて浮かない顔のボス。


話を聞くと、資金繰りに苦労しているようだ。


バトルスーツ、武器の維持にお金がかかるらしい。


「人手不足の他に、お金にも困っていたなんて……。

 だからボスはバトルスーツを着ていなかったのか。

 バブル崩壊、リーマンショックで不況に追い打ち。そんで増税、

 仕分けで援助金削減、減ってゆく寄付金。

 銀行もしぶる、と。

 ……ヒーローがまさか消費者金融からお金を借りるなんて、

 イメージがなぁ……」


「よしっ! オレのバイト代をあてて下さい!」


「お前のバイト代が浮いたところで、どうにもならねぇよ(汗)

 まぁ、でもありがとうよ」


ジュンの頭をポンポンする。

前にされた時もそうだったが、ジュンは少し嬉しそうな顔をする。


十何年も父親に会っていない為、ボスを父親と重ね合わせたのだった。






第三話、これがリアルだ!!



資金不足の次はなんだ!


別の問題が浮上する。

拠点の雑居ビルが耐震強度の問題で取り壊されることになり、やむを得ずジュンの家が拠点になる。


「ボス……なんか、ヒーローもので今まで一度もみたことがない事態が次から次へと起こっているのですが」


「ジュンよ。

 これがリアルだ。

 正直、どうやって金をまわしていたのか聞きてぇぐらいだ。

 そもそも金さえあれば、

 立派な秘密基地をこさえることだって出来んのによ……。

 融資を殆ど切られてからというもの、どんだけ苦労したことか……。

 って、何話してんだ俺は。

 みっともねぇ……」


軽く額を押さえるボス。

ボスはかき氷を食べている。


「……オレ、アニキとトメさんに事情を説明してきます」


「悪ぃな」


「いえっ!」


敬礼をしてからジュンは去った。





「…………えっ?」


固まるヒロム。


「あと、ウチにある財産もあてる事にしたから」


「えっ?」


もはや放心状態の兄・ヒロム。


「あの…本当にそんな事をしてもいいの? 怒られないの?」


「いいんだよトメさん。 あんな子供をずっとほったらかしの親なんて」


「そんなにほっとかれてんのか? お前ら兄弟は」



「あっ、ボス」


「え~っと、お兄さんにおトメさん、お騒がせして申し訳ない。 暫くの間厄介になります」


ヤクザっぽい、太腿に手を置く挨拶をするボス。

トメさんは「いいえ」と、優しく返事をする。


「あと、時々事務の女の子も来ますが、気にせんで下さい」


一方ビビって声が出ないヒロム。


「ところでジュン。 本当に金使っていいのか? 俺は金くれんなら、ワケあり( 盗んだ金やカツアゲされた金などの悪い事をして手に入れた金 )以外は、なんでも使うぞ」


「はい。 いいんです、使って下さい」


「 !!! 」


ショックを受けるヒロム。





「ジュ、ジュン!さすがにそれはっ!」


慌てふためいているヒロムに言い放つ。

「アニキ! 地球の平和がかかってるんだぜ! 地球が滅んだら、誰がアニキの好きな鬼畜系ヒーローが活躍する18禁ゲームをつくってくれるんだよ!」


「ジュン! そんな細かく説明しなくても、ゲームだけでいいじゃないか !」


「そうか。 兄さんは強い男になりてぇんだな」


「趣味から精神分析とかやめて !

 なんだよ、ボクをバカにしてんのかよ!

 世界征服? いいじゃないか !

 悪の軍団がつくるゲーム面白いかもしんないしね!」


「アニキ。 くそゲーだったらどうするんだ? 日本人のつくるハイクォリティーに遠く及ばなかったら?」

「で、でもスゴいヤツができ…」


ボスはヒロムの声を遮る。

「軍団の格好見たことないのか? 全身タイツだぞ? センスは無いにひとしい…」

「でもっ!」


ボスは続ける。


「女の団員は見たことねぇしな。(←ウソ)

 ゲームが出たとしても、ガチのゲイものになるだー…」


「協力させて下さい!」


敬礼をするヒロム。


ボスは見えないようにガッツポーズをした後に、フッと笑いながら両手をズボンのポケットに入れる。


ぐっ!と親指を立てるジュン。


「ところでジュン」

「はい?」

「お前んとこの親はいい方だぞ」

「?」

「お前ら兄弟をみてっとそう思う」


「ボスは他の人達と違うことを言うんですね。

 ウチは近所じゃダメ人間の集まりと言われてるんですよ」


「お前らはそう悪くない。

 俺はもっと最低な人間を知っている。

 その内お前ら兄弟は親の想いってヤツに気付く時が来るさ」


「親の想い……か。

 知りたくもないですが、

 ボスに言われるとなぜか素直に入ってくるから不思議だ」


笑うジュン。


そしてボスも笑みを浮かべる。







第四話、大金持ちの道楽!!




ジュンの家でくつろぐボス。


そんなボスに、ジュンは真剣な様子で話しかけた。


「施設の移転やらで、あっという間にお金が無くなってしまいましたね。 まさかここまでお金がかかるとは……」



かき氷の空が机の上に置いてある。


「言うなれば最新テクノロジーが結集されているからな。 維持するだけでもかなりの金がかかる。 バブルの時代は楽だったな……」


「ボスはおいくつでらっしゃるんですか?」


「なん歳に見える?」

ニヤニヤしながら。


「バブル時代を知ってるから……

…………。

ところでボス。 金策の方、どうしましょうか?」


「俺の年はどうでもいいわけね。 この前援助金の一部がおりたが、全然ダメだな……」


少し間を置き、ボスが口を開く。



「……なぁ。 援助金をくれてる奴等(金持ち)が見せ物のような事をやるんだが、もしも優勝したら大金が貰えるってよ。 参加してみるか?」


「いや、そんなものは不参加ですよ。 誰が街の平和を守るんですか」


「まぁ、街の平和はお前のアニキが守ってくれるさ」


「は?」





・・・・・・・・・




「全然メールも電話もこない……。(ジュンはLINEをやってない)求人誌にちゃんと印つけたのに電話はこなかったって言ってたし……あんまり強く言うと拗ねるからなぁ……。 ジュン君はアタシに会えなくても平気なんだ……」


ブツブツ独り言を言いながら、ウタは落ち込んでいる。



しかし、ジュンの中ではフラれたものだと思っていた。




・・・・・・・・・





釈然としないながらも、参加することになったジュン。


招待状を見ながら歩いていた。



「……しかし、一位の賞品すごいですね……」




・  ・    ::招待状の内容::      ・  ・



一位…・5年間で100億の資金援助。

   ・エネルギーの無償提供。

   ・有名大学、企業の技術提供。


二位…・コスプレ衣装。(1000万円相当)

以下略…





「本当の金持ちってのは、金の使い道に困ってんのさ」


「……なんというか、少し腹が立ちますね」


「そうか?」


「世界中の金持ちが協力しあえば、世の中だってもっと住みやすくなると思うんです」



「………お前が言えるセリフじゃないな、それは」


「えっ」


「お前だって金持ちの部類に入ってたんだぞ。 今は文無しに近いが、それは問題じゃねぇ。 日本の一般家庭の生活は、発展途上国から見れば金持ちだ。

金に限らず、一つの問題において千以上も答えがあるのが世の中だ。 千以上もある答えから、自分が導き出した答えに従って人間は生きている。

お前は、自分の出した答えが正しいものだと思うからそう言えるんだ。 だが、ヒーローになる前はどうだ? 一体お前は世の中の為に何をしたんだ?」





ジュンはどもりながらも答える。


「そっそれは……買い物したりとか…他にも色々…それだって社会に貢献してますよね?」


ボスは煙草に火をつけてふかしながら…

「フッ。ったく……。 全く分かってねぇなぁ……」

煙をはき、

「……まぁ、いいか。 世の為に尽力してる金持ちもいるから、そういうことはあまり考えるな。 虚しくなるだけだからな。 今はー…、そう ! 今は金のことだけを考えろ !」

グッと拳を握るボス。


「なんだかヒーローっぽくないですね。 金の亡者感が……」


「ヒーローは本当に金がかかるんだよ。 しかしながら、ヒーローはイメージも大事なので、変な行動は慎むように」


ジュンは、

( 正直、ヤクザみたいな人に言われてもなぁ…… )

と考えた時だった、敵の出現を知らせるアラームが鳴り響いた!!


「ボス!!」


「大丈夫だ。 ヒロムを信じろ」



「…………。」


( アニキ…… )


ジュンは空を見上げ、心配顔だ。




・・・・・・・・・・・・・





「悪党共!私が相手だ!」


黒いシルエットで、格好良いカットイン。

ヒーロー代理と表示される。


「はじける☆メタボ!スーパーヒロム!」


ジャン!

ポージング。


「とうっ!」

スーパーヒロムは、高い所から飛び降りようとするが、高所恐怖症なので階段を駆け下りる。

初めて見る弱そうなルーキーをバカにしながら笑う団員たち。


しかし、その頬にスーパーヒロムの拳がめり込み吹っ飛ぶ!

驚く団員たちをあっという間に倒すスーパーヒロム。


黒いシルエット(逆光)で

「ふぅ……」

少しカッコ良いが、顔が見えた途端、カッコ悪い。


首から下はバトルスーツで、首から上は素顔に変なメガネをかけているだけだった。


「あれ?ボクってば強くない!?」


しかし、気づかぬ間に敵の増援が現れ、ピンチになる。


「しまった!」


・・・・・・・・・


「アニキ大丈夫かな?」


「おう、着いたぞ」

「あれっ?案外閑散としてますね」

「あたり前田のクラッカーだ」

「は!?なんですか?それは」

「えっ!?藤田ま○とだよ、てなもんやの!知らねぇの!?」

「藤田ま○とってことは、少し古いやつか……。古いやつだったら“電線まん”なら知ってます」

「お前、電線まん知っててなんで超メジャーなあたり前田を知らねぇんだよ!お菓子売り場にも置いてあるのによ!」

「へぇ~そんなのあったんだ。電線まんはカッコイいから知っていました」

「少しヒーローっぽいからかぁ?だったら、てなもんやだって……まぁ、いいか…(汗)」

ボスは軽く咳払いをして、

(テンションが少しあてられたみてぇだ。これからやるのがアレだしな……)

「話を戻すが、人がいねぇ理由は各人行く時間を決められているからだ。法に触れることをやってっから、目立たぬように、が暗黙の了解ってやつだ。ほら、行くぞ。ついてこい」


ジュンは、

(法に触れるって……いいのか!?ヒーローが…)

ボスに訊ねたいが、スタコラサッサ行ってしまったので、慌てて後を追う。


中に入る。


見た目は普通の豪邸。手順をふんで、奥深くに行くと、中には様々なジャンルの人々がいる。


ジュンはボスに、

「あの人たちもヒーローなんですか?」

と聞き、

ボスは懐中から革の手帳を出し、ページをめくり、ジュンに差し出す。

「?」

ジュンは手帳を受け取り、見る。


::ボスの手帳::

※バトルスーツよりもパワードスーツの方が、性能がいい。

スーツは他にも色々種類がある。

レンジャースーツなど…。また、見た目も違い、パワードスーツは、鎧のような見た目で色々な機能が付いている。

バトルスーツのような柔らかい動きは出来ないうえに、修理中の時は、レンタルスーツで戦うので、弱くなる。

バトルスーツはパワードスーツよりも安い。

質の悪いパワードスーツは、ものすごく重い。


「……これじゃない…あっ隣のページか」


※その他のヒーロー達

他のヒーロー達について数頁にわたり、書いてある。

・ワールドレンジャー…国際色豊かな戦隊で、国際情勢に左右される。メンバーが死んだり(中国メンバーはサーズで死亡した)、国交断絶で、国に強制送還されたりと、メンバーが代わりやすいので、こちらは常に『正義の味方募集中!』である。唯一かわらないメンバーは、日本レッドだけである。

・魔法少女隊フェアリーアキバ☆・秋葉原が拠点の萌え系ヒーロー。

・銀河刑事ギャボン…銀河をまたにかける?一人で活躍している。刑事ってついてるが、権限はない。

・ナイトウォーカー…ダークな雰囲気で、夜に活躍するヒーロー。

・レッドスワット…特殊系の事件を得意とする、専門知識が豊富なチーム。

・ウルトラビックメン…巨大化して戦う。敵に異次元に連れていく特殊ミサイルを放ち、隔離して戦う。対巨大生物専門のヒーロー。

・アースバトラーズ…貴族などを専門にした組織。礼儀作法などを完璧にこなす。自分の負った怪我で床が汚れたら、自分で床をキレイに拭き取る。全てを終えたらキメ台詞を言う。それは「大変、失礼致しました」と言って、執事的なお辞儀をする。戦闘服は、執事服だが高性能。バトラーズだが、メイドさんもいる。

・成金戦士ゴールドボーイ…超大金持ちの少年で、金で全て解決する、全ヒーローの中で一番最低で嫌われ者。敵と、金で取り引きしたりする。しかし、この少年はとても強い。最先端の技術を金で買っているからだ。世界一の金持ちで長者ランキング一位から、落ちたことがない。強さは、ヒーローランク10位内に入る。

・古代戦士ミリオン…全ヒーローを束ねるじーちゃん戦士。強いが持久力がないので、秘密兵器的扱い。格好は股引に腹巻きでヨボヨボだが、時たま見せる鋭い眼光は、人を黙らせる。

・駐在ポリスメン…どこから見ても普通の警官だが、実はヒーローなのだ!

※格好いいキャラ、王道ヒーロー達は、ほとんどモブ扱いされている。モブ扱いされる理由としては、面白みがないことがあげられる。以下のヒーロー達が当てはまる。

・ヴァルキリー…5人の戦士で、容姿もさることながら戦闘能力も秀でた女戦士。

・ロイヤルナイツ…王宮騎士で、アースバトラーズより強く、礼儀作法も心得ている。

・EU特戦隊イージス…EUで結成された軍人ヒーロー。世界各国の軍から引き抜かれたエリート集団。

※これらとは別に、ヒーローを取り締まる特別組織もある。職権乱用者などもいるので罰を与える。

※狂戦士バーサーカーは取り締まれない。狂戦士バーサーカーとは、民間人も巻き込む恐ろしい戦士。その実体は好青年で、彼は苦しみながらも戦っているのだ。

そして他にも多くのヒーローがいる。しかし、副業を持っている者が多く、実際に戦っている者は少ない。税金対策や保険、老後の心配などもあるため。


:::::::::


「えっ、ここに、(自分の足元を指差し)この人たちが(手帳を指差し)いるんですか?」

「あぁ。服装などは違うがな。皆、忍んで参加している。互いを詮索しあうのは御法度だ」

「…ぉお~…。(生唾を飲み込み)と、いうことは(周りを見渡し)もしかして、ここでバトルトーナメントがある、とかですか!?」

ジュンは目が血走り、鼻息荒く興奮気味だ。


大好きなヒーロー同士の、バトルトーナメントなんて鼻血ものですぜ!

それなら、法にふれてしまうのもうなずける。


「バトルトーナメントをやるのは確かだ」

「ふうおぉお~…!!」

プルプル震えて、叫びたい衝動を頑張って抑える。


「しかも、只のバトルトーナメントじゃない」

「なっなんですか!?」

ドキドキしながら訊ねる。


「あぁ…」

ボスの顔がアップになり、

「一発芸だ」


ジュンの顔がアップになり、

「一発芸?!

それっは…ヒーローとか全く関係ないですよね?!ていうか、バトル関係ないし!」


「世の中ってのはな、不条理なもんさ。なんでもかんでも関連性を求めるな」

「え…えー~……」

(いやー…街の平和を守らないで来てるんだが…アニキ、すまない!街のみんなも!)

くっ!と、苦しんでいる表情だ。


「……………。」

ボスは無言でジュンを眺める。

尚もサイレントで表情をコロコロ変えている。


(しかも!突然、一発芸だと?やったこともない上に、少しもネタが思い付かない!一体どうすれば!)

無言でジュンを眺めていたボスが、口を開く。


「……おい、まさか……お前、一発芸出来ないとか言わねぇよな?」


ジュンは目を見開き、口をあんぐりと開け、顔を真っ青にし、衝撃的な場面を目撃したような表情のまま、固まった。


「…………。」


ジュンは爽やかな笑顔をつくると、

「ははは、そんな馬鹿な」

と、笑ってみせる。


「!!!」

ボス驚愕。


「嘘だろ……お前、21年間なんの為に生きてきたんだよ!←(ひどい)今まで一度もしたことないなんて言わねぇよな!」


ジュンの肩を両手で掴む。


ジュンは視線をそらし、苦しそうな表情だ。


「……挑戦はしたことがあります…が……。ボスなら言わずとも分かりますよ、ね……?」


「!!!

くっ!予想外だった……ヤベぇぞ、これは!」

「おいおいおいおい!みんな聞いてくれよ!一発芸をなめてるヤツらがいるぜ!!」

お調子者な奴がしゃしゃり出て来た。


そして、殺気立つ人々。


「一発芸……それは一瞬で決する刹那の勝負。この一瞬の中に、個性と面白さをいかに表現するかが問われてくる究極のエンターテイメント!昨日、今日で出来るものではないわ!去れいっ!早々に立ち去るがよいわ!!」


「おっ落ち着けよケン!」

「はっ!悪りぃ。つい熱くなっちまった……」


ジュンは床にお姉さん座りをして、頬を押さえている。

どさくさに紛れて、なぜか知らない人に殴られていた。


(はやくおうちにかえりたい……!!)

「……ジュン。やるしかねぇな……」

「えっ!?」

「これはもう……帰るに帰れねぇよ……」


盛り上がっている人々。

「hey!やってやろうぜ!おれ達シン・ケン・コンビの力を見せつけてやろうぜ!」

先程のしゃしゃり、ケンと呼ばれた男が相方に声をかけていた。


見るからに外国の方だが、やたら日本語が上手い。

一方、シンと呼ばれた男は、

「シェイフォーン!」と叫んでいた。

こちらも外国の方のようだ。


「あいつらシンケンコンビだったのか…」

「ボス、詮索はダメなんじゃ…」

「んなこと言っても、あいつら自分らで名乗ってんじゃねぇか」

ボスは彼らを顎でしゃくる。


「……と、ところで、彼らはどんなヒーローなんですか?」

「詮索すんなっつったの誰だよ」

「最初に言ったのはボスじゃないですか…!す、少しだけ…」

「あいつらは戦隊じゃなくて、パワードスーツで戦うバディタイプだ。今度、国際ヒーロー会議が開かれるから、その時また顔を合わせることになるだろう」

「えっ、それってヒーローランク上位者しか参加出来ないんじゃ…?オレ、参加出来るんですか?」

ボスはニヒルに笑うと、

「ああ!それまでに強くなりゃいいのさ!」

「ボス……!」

(オレ、期待に応えられるように頑張ります!)




「いたいいたいいたいいたい!!」

悪の軍団にフクロにされるヒロム。


「お巡りさん!こっちこっち!」

「コラーーーー!!!」


逃げる軍団。

それを追いかけるお巡りさん。


その様を眺めるボロボロのヒロム。


「えっ?正義の味方、いらなくね?」

「そんなことはない」

「うわ!」

(いつの間に……)


「何を隠そう、あのお巡りさんもまた、ヒーローなのだ!」

ヒロムを助けた少年は続ける。

「彼は30年もの間、陰ながらこの街を守ってきたベテランヒーローなんだぜ!」


※しかし、かなり目立たないことでも有名なヒーローだ。そして、それ程強くない為にいてもいなくてもいいような存在だ。


「そ、そうだったのか!ところでキミは?」

「オレは真埜まの 六閣ろっかく。只の通りすがりの風来坊さ!」

(このセリフ、一度は言ってみたかったんだよな~)


「えっ!?」

(い、今どき風来坊って…ヤバい系の人かな)


ヒロムは、ロッカクと名乗った少年をジッと見る。

固めでしっかりとした布地の、クリムゾンレッドのハットをかぶっており、三つ編みの飾り糸がハットの円周を装飾し、翡翠色のビーズが、留め具の役割を果たし、その下から肩口まで飾り糸が垂れ下がっている。

ハットの下の顔は、少し色白で、金髪で長めの前髪の間からは、切れ長の目が覗いている。

深くすかれたショートカットで、ブロッキングで外ハネパーマがあてられており、後ろの方は少し刈り上げてある。

服装も変わっており、鎖骨の下まで開けた白の半袖のYシャツも変わった形をしている上に、なんの意味があるのか分からない、ハットの飾り糸と似たデザインの、糸で出来た袈裟のようなものを肩にかけている。細身のハーフパンツもハットと同じくクリムゾンレッドで、片方の足首には黒のラバーブレスレットとまたもや同じデザインの、飾り糸のミサンガがはめられ、履き物はシンプルな無地の雪駄だ。


「って、服装の説明だけで疲れるよ!なんて、ややこしい格好してるのさ!」

ヒロムは吠える。


「は!?」

ロッカクは、

「あ~、このハイセンスな服装を着こなしているオレがすごいって言いたいのか?」

と、勘違いした。


ヒロムは、(こりゃダメだ……)と思うと、気を持ち直し、咳払いひとつすると、

「マノさん、助けて頂きありがとう」

キリッとした顔でカッコつける。


周りの人々は遠目から、

(ヒーローが一般人に助けられてる……)

と、少し引き気味。


「オレのことはロッカクと呼んでくれ。ところでひどい怪我だな。手当てをした方が良さそうだ。立てるかい?」

(※棒読み)

(ヤベ~、オレ今、銀幕スターみたいなコト言ってるよ!)


「えっ!?」

体を確認するヒロム。

「えっ、ひどいケガ?いや、そうでもないですけど……」

「いーから!いーから!ほら立って!秘密基地ってさ、どこにあんの?あんだろ?秘密基地!行こうゼ」

「え、え、え」

ずずず…

と、引きずられるヒロム。

しかし…

「あの、こっちです」

逆方向だったので教えてしまう。


ヒロムの正直で優しい心が、うっかり訂正したのだった。

「おお、こっちか」

ヒロムとロッカクは、秘密基地へと歩き出した。


・・・・・・・・・・・・・



広い会場に舞台があり、多くのお客さんがずらりといる。


そして一人、また一人と芸を披露し、盛り上がる会場。


とうとう、彼の出番が来た……


ケンの顔アップ。


シンがケンに話しかける。

「ケン。とうとうオレらの番だ。行こうぜ」

「ああ。審査員と会場の客、そしてライバル達全てにオレの魂(一発芸)をぶつけて、見事ひとつにしてみせるぜ!」

しかし、ものすごい勢いで震えている下半身。


ジュンは冷や汗を流しながら、

「凄まじい武者震いだ!」

ゴクリと喉を鳴らす。


「………くっくっくっ」

後ろを向き、震えているボス。


決意の表情で、気合いを入れるために声を出すケン。

「よし!行っぶるっガリッ←(舌を噛んだ音)つ、ぞ!」

ごはっ!

吐血するケン。


驚く相棒のシン。

「おっ!?おおっ!!」


倒れるケン。


バタッ!!!


ジュンも驚く。

「はっ!?」


舌を噛んで口から血を流し、倒れているケン。


「おいケン!ケーーーーーン!!!」


駆け寄るシン。


控えているスタッフが慌ててタンカーを持って、駆けつけて来た。

緊張で倒れる人間が多くいるので、救護班が控えているのだ。

そしてタンカーに乗せられるケン。

真剣な面持ちで見つめるジュン。

「…………。」


ジュンは救護スタッフに声をかける。

「待ってくれ!ケン……お前の生き様……最高だぜ!オレが……このオレが、お前の分まで魂……←(なんて言おうか考えてる)を、えっと………(結局うかばず)………頑張るぜ!」


ジュンの言葉に応える為に、口を開くケン。

その顔つきはなぜか…かっこつけている。

「おぼヴっどぅえ、ごぼっぶぇぶぇっ」

「?」

ハテナマークのジュン。


「まてまてまて、いいから、もういいから早く医務室に連れてけ!」

見かねたボスは声をあげる。

運ばれて行くケン。


それを見送りながら……、

「………おいジュン。いいのか?お前自分でハードルかなり上げたぞ……」

ボスは悲壮感を漂わせながら、呟くように話しかけた。


「………はい。オレは今、物凄く後悔しています」

「してんのかよ!」

突っ込むボス。


「ボス。仮病つかってもいい?」

上目使いでボスを見上げる。

「…………はぁ。」

ため息をつくボスであった。


・・・・・・・・・・・・・


電話しようか、迷っているウタちゃん。

「むむぅ~……」


・・・・・・・・・


帰り道。


外の家々はオレンジ色に染まり、夕食の支度の食欲をそそる香りが鼻腔をくすぐる。

そんな帰路を歩く二組の足。

Y字路のぶつかった所で、この二組の男達がばったりと出会った。


「あっ!」

「あっ!」

ジュンとヒロムが、同時に声をあげる。


「ジュン!どうだった!?」

「アニキ!大丈夫だったか!?」

二人は、またもや同時に話し出す。


ヒーロー姿の自分を見下ろしながら、

「よくボクだって分かったね?」

「えっ、いや背丈とか体格、雰囲気でなんとなく……」

(というか、どう見てもアニキにしか見えないけど…)


「えーー…、若干変身の意味ないような……」

「いや、パワーとか強化されるし!」

「だけどさ、顔バレとかNGだし……」

「顔はバレ……るよ、それじゃあ」

指差しながら。


ヒロムのマスクは、“赤影”のようなメガネをかけているだけだった。


「まぁー、時々…というか、バレバレなのに周りが全然気付かない的な演出ってけっこーあるからな。いや、分かるだろ!ってなる」

ロッカクは腕組みしながら語る。


ジュンとヒロムは声を合わせて、

「あるある~!」

と頷いた。


そして、気付いたように口を開くヒロム。

「あっ!ところでどうだった?」


ジュンは無表情で、

「それ、聞いちゃう?」

ジュンをシラけながら見つめるボス。


ジュンは、言いたくなさそうにしながらも渋々答える。

「………特別賞を貰ったよ……」

「?」

ヒロムはジュンの雰囲気に疑問を持ちつつ、

「へぇー、すごいじゃん特別賞なんて」


「……『なんだかかわいそうで賞』でもか?」


「えっ!?」

ヒロムはひきつる。


「くっ!俺は先に行くぞ!」

先を行くボス。


ヒロムは、先行するボスの背を見た後にジュンを振り返り、

「な、何があったんだよ」

と訊ねた。


ジュンは回想する。


・・・・・・・・・


ステージに出て、仁王立ちのジュン。


そして、意を決して声を張り上げる。

「うぉーーーっ!やーーーってやるぜ!!」


“ブッ!!!”


オナラの音が大きく響いた。


思い切りオナラをしたジュン。


両手でガッツポーズをつくり、膝を曲げ腰をおとし、顔だけを客席に向けたまま固まっていた。

マイクを通って響き渡るオナラ。


“しーーーーん…”


会場は静まり返る。


……顔が真っ赤なジュンは、変なポーズを解除して、モジモジしていた。


一方のボスは、青くなっていた。


司会の男が声を発する。

「……まさか、今のが一発芸じゃないですよね?」


ジュンはゴニョゴニョと、どもりながら…、

「……あの、今のがまさに、一発芸でして……その…オナラを一発で…一発へぇ、一発芸…みたいな。」

「みたいなじゃねーよ!」

怒るボスとざわつきだす会場。


ざわ…ざわ…


司会は進行を続ける。

「……あーー、審査員に話を伺いたいと思います」

「えっ!?いや!いいです!やめてっ!やめて下さいっ!」

焦りだすジュン。


しかし、司会者はなおも続ける。

「会長、いかがだったでしょうか?」

耳を押さえながら、

「あーっ!あーっ!」

と叫ぶジュン。

よほど聞きたくないようだ…。


しかし、会長はマイクに向かって声を出す。

「しらけ鳥じゃね」

すかさず司会も返す。

「みじめーみじめー♪と、いうことで、次の方どうぞ!」


がーーーん!


ショックを受け、固まるジュン。

しかしボスは…、

「あの司会うまいこと言いやがるぜ」

と、少し笑っていた。


そして、係員に撤去されるジュン。


・・・・・・・・・


話を聞いたロッカクは、

「……うわ~ー…キッツ~ー…」

と、憐れみの視線をジュンに向ける。


ヒロムも、

「ジュン!つらかったな!」

と言いながら、ジュンを抱きしめる。


「ア…アニキ……」

と、涙ぐむジュン。


「お、おいお前ら!変な目で見られてるから……(汗)」

ロッカクは辺りをキョロキョロしながら、焦っている。


通行人たちは、

「なんだコイツら」

みたいな視線をくれている。


「そ、そういえば、この方はどなた?」

「こちらはロッカク セイジさんという方で……」

「違う、違う!マ・ノ!マノ・ロッカクです!よろしく、お兄さん」

握手するジュンとロッカク。


ジュンは握手しながらロッカクを見る。

178センチのジュンが見下ろす位で、大体165センチ前後か?ウタちゃんより高く、ヒロムより小さい。ちなみにボスは背が高く、185以上ある。靴の高さを入れると190センチ位ある。

年は…どうやらジュンより下のようだが、高校生以上なのは確かだ。


…根拠はない。


「あ、こちらこそ。元・ニートのアイダ ジュンです」

「それいる?元・ニートとかって…」

笑うロッカク。


ヒロムは言う。

「こちらのセイジさんには、危ないところを助けて頂いたんだよ」


ガクッ。


ロッカクは、大袈裟にうなだれた。


「そうですか!それはそれは、ありがとうございます」

「ははは、どういたしまして」

かわいた笑いだ。


「ロッカクさん、お茶でも飲んで行って下さいよ!」

ジュンは熱く勧めた。


「ありがとうございます!私のことはどうぞ呼び捨てでお呼び下さい」

「分かりました」

ジュンは頷き、

「では、ゆくぞ!セイジ!」

と声を上げた。


「!!!」

ロッカクは衝撃を受けた後ガクッとなり、

「……だ、だから違うっつってんのによ……」

(オレの名前は、マノロッカク!セイジじゃなくて、そのままロッカクと呼んでくれよ!)

心の中で突っ込むロッカク。

しつこく訂正するのがカッコ悪いと思ったので、口にしなかったのだった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ジュンの自宅兼秘密基地で、お茶を飲んでくつろぐ一行。

ロッカクは、おもむろに口を開く。


「なんつーか……秘密基地って感じしねぇな……」


少しがっかりした様子で言った。

お茶をズズズ…と、飲んでいる。


ジュンは答える。

「……お恥ずかしい話ですが、資金繰りに難儀しておりまして……」

「ふーーーん」

「金持ち主催のイベントの結果も散々だったしなぁ……」

ジュンは招待状を机に放った。


それを取り、ひっくり返して封蝋を確認したロッカクは、

「ーーははは。こんなくだらねぇのに参加したんだ。…あぁ、それで一発芸か」

「!!!」

ショックを受けて落ち込むジュン。


そして、

「ん?あれ?ご存知なんですか?」

「前に一度参加したことがあるが、くそくだらなかったんで、二度と行ってない」

嬉しそうな調子でジュンは、

「もしかして、一発芸失敗した口?あれ?そうするとキミもヒーローなのかい?」

「いや違う。そっちじゃねぇし。まず一発芸なんて死んでもやらねぇし。審査員の方!」

※ふてくされて審査員席に座っているマノさんの図。


「……資産家でいらっしゃる?」

ジュンは恐る恐るな感じで訊ねる。


「うん」

お茶を飲みながら答える。


かき氷を食べていたボスの手が止まる。


ばっ!

とジュンはボスの方を見る。


そして、

「ボス!!」

立ち上がるボス。


ボスがいたことにやっと気付いたロッカクは、ビクッとなり、ボスと目が合う。

(なんだこのおっさん!おっかねぇ~!ていうか、いたの気付かなかった…汗)


「……おう、坊主。てめぇ、ヒーローに興味はあるか?」

「えっ!えぇ、まぁ……」

「よし、ちょっとこっちこい」

顎でしゃくる。


(マジかよ、行きたくねぇ~ー…が、少し興味あるな……)

立ち上がるロッカク。

席を外す二人。

ジュンとヒロムは無言で顔を見合わせる。



・・・・・・・・・


街に現れるヒーローの影。

それぞれポーズと決めゼリフを言う。


「燃えたぎる熱き炎!!ファイヤー・ジュン!!」

シャキーン!


カットイン


「ヒーロー臨時採用!!ポッチャリメタボ・ヒロム!!」


シャキーン!


カットイン


「強運招くラッキーボーイ!!ミラクル・ロッカク!!」


シャキーン!


カットイン


三人は声を合わせ、

「三人合わせて……」

ポーズを決める途中で攻撃される。


三人は声を合わせて、

「うわーーーーー!!!」

と吹っ飛んだ。


「くっそーー!お前ら卑怯だぞ!口上は最後まで聞けよ!一晩必死に考えたんだからな!」

と、ロッカク。

「よそう!あいつら、オレらの大変さを知らないんだ!」

と、ジュン。

その間、

一人で真面目に戦っているヒロム。



そして、敵を片付けた三人。

「すげー…、初めてなのにこんだけ動けるのか」

ロッカクは興奮を隠せない。


「ボクなんてまだ数回しか戦ってないんだよ」


ロッカクは驚く。

「マジか!ポッチャリメタボ・ヒロムの活躍すごかったぜ!」

「エヘヘ……」


一方、スッキリしない顔のジュン。

ヒロムが声をかける。

「どうした?ファイヤー・ジュン」

「ああ……。金の方はミラクル・ロッカクのお陰でなんとかなったが……いまいちシックリ来なくてな……」


ロッカクとヒロムは、同時に頷き、

ロッカク・「合体ロボか!」

ヒロム・「女性メンバーか!」

同時に言う。


ジュンは頷き、

「ああ!どちらも正解だ!」

三人はガシッと円陣を組んだ。


ロッカクは、

「…しかし、ファイヤー・ジュンの気持ちは分かるが、まずは、三人の連携プレーとかコンビネーションとかの方に、重点をおいた方がオレはいいと思う」


ヒロムは、

「いや、まずは萌え系の女性キャラを早々に迎える方が先決だと、ボクは思う」


ロッカク・「…………。」

ヒロム・「…………。」

ジュン・「…………。」


嫌な空気が漂う。

ギクシャクする三人。


ジュンは思う。

(さっきの一体感どこいった……。)



一方、秘密結社MMM団。

MMM団とは、MajiでMonosugoi、Mazo軍団の略称である。

しつこいことで有名な軍団。

MMM団、悪の総帥マ・ゾーマは、

「近年、我々悪の軍団MMM団も、不況のあおりと少子化の影響をうけ、団員が減ってきている……」

そして周りを見渡しながら、

「しかしながら、この状況をなんとか打破したい。そこで、私は少しの間、席を外す。君達には私が帰るまでの留守を頼みたい。ーーいや、命をかけて、この任務を遂行するように!以上だ」



え?



「お、お待ち下さい!一体何をなさるおつもりですか!?」


マ・ゾーマは頬を赤く染めながら、

「えぇ?何って……ナニだよ。ちょっと言わせないでよ!頑張って子供増やしてくるから」

「は!?」


消えるマ・ゾーマ。

「……………。」

「あ、あんの野郎……!(ナニを頑張るってんだよ!他にやることあんだろうが!……しかし、ゾーマ様の父君には世話になったしな……なんとしてでも地球を征服せねばならない!野郎は抜きでやるしかねぇか……)」


ざわつく団員達。


将軍に詰め寄る団員達。


「将軍いかがいたしましょう……」

「そうだな(うるさい団員に向かって→)ええいうるさい!!お前らはかき氷でも買ってこいっ!!シロップ間違えるんじゃねぇぞ!イチゴ味だからな!……近頃Bのポイントが力をつけてきているからな……」

ジュン達の顔がモニターに映る。


「恐れながら申し上げます。かき氷の食べ過ぎはお体に障ります……」

ゴミ箱には空のかき氷の容器が大量にある。


「なに……私の体の半分は、優しさとかき氷で出来ているのだ。なんてことはない……むしろ大歓迎だ」

「?」

よく分からない……。


モニターを観ながら、

「話を戻そう。チームとしてまだ機能していない、今こそ、叩き潰すチャンスだ。そこから一気に侵略してゆくのだ!」


ざわついていた団員を、なんとか落ち着かせた将軍は、

「……はぁ。いつになったら星に帰れるのか……子供達ももう大きくなったんだろうな……」

子供達の写真を見ながら、

(お父さん、頑張ってるよ!)

と心の中で叫ぶ。


哀しげな背が、将軍の悲哀を物語っていた。

手には、ラミネートされた写真。

その写真には将軍らしき男性と、小さな少年二人が写っているが二人が着ているお揃いのトレーナーに、それぞれHとJのワッペンがついている。顔も、“あの二人”の面影がバッチリある。


部下は口を開く。

「将軍でも中間管理職の苦しみとかあるんですね」

「……………。」


・・・・・・・・・


MMM団、行動を再始動させる。

本格的に団員を募集し始めた。

『悪の軍団員、募集中!!』


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ロッカクのお陰でジュンの自宅兼秘密基地は、充実の施設へと変わっていく。

使用している計器類も、精度が上がった。


そして悪のオーラセンサーが、インターネットから反応を示した。


「みんなこれを見てくれ」

ロッカクが、ジュンとヒロムにノートパソコンの画面をみせる。


「どうした?これは……」

ジュンは真剣な顔で画面を見つめる。


「エロサイトだね」

ヒロムは表情を変えずに言う。


ロッカクは慌てて、

バッ!

カタカタ…

と、パソコンを操作すると、

「間違った。こっちこっち」


ジュンは画面をみて叫ぶ。

「悪の軍団員募集だと!?」


「まずいよね、これは。どうすんのさ」


ロッカクは二人に告げる。

「オレ達もコイツに応募する」


「ええっ!大丈夫なの?」

ヒロムは心配そうだ。


ロッカクは尚も続ける。

「オレとジュンで入り込み、ヒロムはもしもの時の為に待機だ」

「おお!よく戦隊モノであるヤツだな!」

興奮気味のジュン。


「ああ!オレも今自分で言いながら感動してる……!」


ジ~~~ン……


ひたる二人。


「あの~、そうこうしてる間に、定員いっぱいにならないかしら?」

声をかけるヒロム。


ばっ!

カタカタ…

ロッカクは急いで入力する。


「OKーOKー、深夜2時に集合だって!うわー、えー……、それっぽいな!」

ジュンの方を向きながら、なぜか嬉しそうなロッカク。


一方ジュンも、

「本当だ……」

ジ~~~ン…


ひたる二人。


ヒロム一人だけ心配顔だ。

「大丈夫かな……二人に任せて……(汗)」


・・・・・・・・・


悪の巣窟に到着したジュンとロッカク。

「すごいなロッカク!」

「ああ!やたらこえぇな、オイ!」


恐ろしげな建物を見ながら、はしゃぐ二人の男。

他の人たちは皆、虚ろな目をしている。


「あの二人、変だな……」

「ヒールマニアとかですかね……」

そんな事を言う彼らも変だ。


だらけきった体に顔が出ている全身タイツにサングラスをしている……。

そう二人は既に団員達に目を付けられていた。


悪の巣窟付近に忍んでいるヒロムは、タブレットで二人の様子を観ていた。

「あぁ……目立ってる……最悪だ……」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


施設の中では、人々が次々に改造されていた……。


ジュンとロッカクは、

「…………。」

ビビって声も出ない。


そして、やっとの思いで声を出す。

ロッカク・「リアル……ハンパねぇな……」

ジュン・「あぁ……生々しい……臭いもキツいな……」


ロッカクは何かに気付き、

「ん?あっちの方で何かあったみたいだ」

「行ってみよう」

ロッカクはジュンの言葉に頷くと、問題の場所へと向かう。


そして……

かなりの勢いで驚く二人。

…すごい怪人が誕生したところだった…。


「ロ、ロッカク。さすがにこれは、オレ達には荷が重いような……」

ゴクリと生唾を飲み込む。


「……少し調子ぶっこき過ぎたかもなぁ~(汗)だが安心しろ!なんせオレは強運招くラッキーボーイ、ミラクルロッカクだぜ!」

ロッカクは親指を立てて自分を示した。


※喋っている時に近づいてくる団員。


ジュンが気付き、

はっ!

となる。


「あわわわわ」

「??」

「どうした??」

ジュンの視線を追い、振り向く。


団員は声を張り上げる。

「お前らまさか、“まにあわせ戦隊テキトウレンジャー”か!」

「だっさ!!!!!」

「えっ?オレらそう呼ばれてんの?初めて知った!」

ショックを受けるジュン。


ロッカクも嫌そうに言う。

「えぇえぇえーーっ!ヤダよ、オレ!そんなダッッッセェ名前!」


「その反応……やはりそうか!(※ジュンとロッカクはしまった!って顔をしている)正義の味方が現れたぞ!殺せっ!」


ロッカク・「はぁっ!?さっそく殺せってバカじゃないの?まずは捕まえて色々吐かせた後、怪人にした方が有効的だって!」

ジュン・「バカロッカク!!」

ロッカク・「あっ!ノリで言っちゃった……」

ロッカクの声は尻すぼみにかすれていく。


「殺すのはヤメだ!捕らえろー!!」

「ロッカク!変身だ!」

「おう!」


襲いかかる団員をかわし、

ジュン・「ダメだ!変身出来ない!TVだとこういう時どうしてたっけ!?」

逃げながらロッカクは、「たしか、戦いながら変身してたぜ!」

ジュン・「おお!そうだった!」

二人は戦いながら変身する。


「変・身!!」


気を集中させて、手をパンと叩き、右手、左手に埋め込まれた変身チップが反応しあい、体中を光の粒子が覆い、変身する。


変身する時の気の集中は、とても難しい。きちんと気を集中出来なければ、チップは正常に反応しない。

「う、うまくいった……」

ロッカクは感動し、ジ~~ンとしている。


そんなロッカクに、ジュンは慌てて声をかける。

「おい!ミラクル・ロッカクよ!」


ロッカクは“なんだ?”と、言おうと口を開きかけ……

ジュン・「あぶなー…」

「ぬわぁ~ーっ!!」怪人に攻撃され、飛ばされるロッカク。

そして上体を起こし、膝に腕を乗せながら、

「ジュンさぁっ!一つ提案あんだけど、いいか?ああいう時は、“先に危ない!”って言ってくれた方が助かるんだけどっ!!」


「悪かった!しかし、どうする!全てが想定外すぎて、テンパってるんですけど!」

ロッカクに手をかしながら、ジュンは言う。


手を掴んで立ち上がりながらロッカクは、

「ああ!正直オレもどうしたらいいのか……!改めてヒーローの皆さんの凄さを痛感している!」

ロッカクは心の中で、

(くそっ!自分の運に頼り過ぎた!それとも、この状況がまだいい方なのか!?)


「ロッカク!まずは、みんなを助けなければ!」

「いや、ダメだ!コイツら守りながら戦うには二人じゃムリだ!」

「じゃあ、諦めるのかよ!」

「くっそー!なんとかなると思ったのによ!」


“キャーーーっ!!”


怪人Aが姿を消したと思ったら、今度は悲鳴が聞こえた!


ロッカクは吠える。

「なんだよ!」


一方、ジュンは反射的に体が動いていた。

悲鳴のした方へ行こうとする彼の腕を掴み、

「待て!コイツらは好きでここに来たんだ!ほっとけよ!」

「それでも正義の味方か!助けを呼ぶ声あらば、誰だって助ける!それが正義の味方だろ!」

手を振りほどき、雑魚敵を倒しながら訴えるジュン。


「!!!」

ロッカクは、はっとする。


彼がヒーローに憧れたのは幼い頃からだったが、成長するにつれ、大切なことが薄れてきていた。今では、只のヒーロー好きの青年になっていた。

ロッカクは、ジュンも自分と同じタイプの人間だと思っていたが、違った。

目の前にいるジュンは、自分の憧れた、正義の味方、そのものだった。

ロッカクは少し悔しく感じ、手に力が入り、拳をつくる。


「………ああ、そうだな……くそっ!やってやるよ!」


敵を倒しながら悲鳴のあった方へ駆けつけた!


そこには……餌にされている人々の姿があった。

立ちすくむ二人。

餌とは……拘束されている怪人達の餌だ…。


ジュン・(ヒーローものってこんなにグロかったっけ……?)


今度はジュンよりもロッカクが先に動いた。

餌やりシステムのコンピューターに駆け寄ると、操作を始めた。


ジュンはロッカクに声をかける。

「分かるのか!?ロッカク!」

コンピューターを見た後にロッカクの顔を見る。


ジュンの動きは力が入り、かなり大袈裟だ。


「今は先に名詞が来ても大丈夫だ。っと、全く分からんが、オレのラッキーパワーで……どうだっ!」


バーーン!!!!

……プスプス煙を上げ、ショートする機械。


ロッカクは、コンピューターをバシッと叩きながら、

「よし、壊した!!」


しかしジュンは焦る。

「いやいやいや!なに壊してんだよ!何がよし、だよ!変な動き始めたぞ!アレ!」


餌やり装置とロッカクを交互に見て、キョドる。そんな中、突然……


キャーーーっ!!!


別の方からまた悲鳴が上がった。


二人は反射でそちらを見る。

ジュンは咄嗟に叫んだ。

「なんで?!」


ロッカクは、

「?」

「どうした?」

と訊ねる。


「は………ウタぁ?!」

ジュンの瞳が細かく左右に揺れる。


「えっ何?もしかして知り合い!?」

ウタとジュンを交互に二往復で見ながらロッカクは言った。


ウタは怪人に引っ張られ、連れて行かれてしまった!

この怪人は怪人Aとは違うヤツだった。


ジュンは、

「ロッカク!」

と言いながら走り出す。


ロッカクは、

「ああ!ここはオレに任せろ!」

と、ジュンに背を向ける。


ウタを追いかけるジュン。

変な動きをしていた餌やり装置が止まり、人を逃がすロッカクだが、最初に現れた怪人Aがキョロキョロしながら戻って来た。


「うわっ!あれ?あの怪人今までどこに行ってたんだ?っと、それどころじゃなかった!みんな逃げろ!」


いざ逃げろと言われても、戸惑う人達。


こちらに追いついて来た怪人Aを、ロッカクがおさえる。

しかし、パワーのないロッカクは飛ばされてしまう。

だが、何度も立ち上がり向かっていく。


ロッカクは心の中で……

(ジュンのお陰で思い出した……。オレはガキの頃、孤児だとイジメられて、力の強いヒーローに憧れたんだ。)

(周りには誰も助けてくれる人間はいなくて、だったらオレ自身がヒーローになるんだ!そう思いながらも、結局…行動に移せなかった……!)

(今のこの力だって、偶然手に入ったものだ。……。せっかく手に入ったんだ……!)

「オレは、助ける人間になるって決めたんだろ!!」

自分自身に言いきかせるように叫んだ。


「うおーーーっ!!」


渾身の力で怪人を突き飛ばすロッカク。

しかし、バトルスーツがまだなじんでいないうえに、実戦経験の少ないロッカクは、すでにフラフラである。

人々はそんな彼を見て、

「あれじゃあダメだ……死ぬんだ……どうせ死にに来たようなもんだ……」

と諦め始めた。


しかし、

「ばかーーーっ!!」

バシーンッ!


男の頬を叩く人影。


ロッカクは気付く。

「ボス!!」


しかしすぐに怪人の相手をする。


ボスのビンタが強すぎて、顎が“あがが…”となっている男。顎をおさえ、痛そうにしている。


(な、なんでオレだけこんな目に……!)


「てめぇらがそんなんで、命かけてるコイツらは(ロッカクを顎でしゃくる)どうすりゃいいんだよ!」

ボスは人々を見渡す。


人々は、“うっ”と、怯んでいた。

とうとうスタミナがなくなってきたロッカクは、またもや怪人の攻撃をくらってしまう。

なおさら体力は削られる。


そんなロッカクを受けとめる男が一人。

「ヒ、ヒロム……」

「しっかりしてロッカク!二人であの怪人、倒そう!」

「……いや、お前はボスと二人でみんなを逃がしてくれ。あんな非力野郎!(※怪人をよく見た後)ん?いや…野郎じゃなくて、女かな?どっちでもいいや!オレ一人で充分だ!」


※怪人Aの性別は不明。ロッカクは怪人の服のボタンの向きと(右が上)、引き締まったウエストでそう思ってしまったのだった。

怪人は力を溜め始めているようだ……。


ヒロムは、

「でもっ!」

と、引き下がらないが、ガッと肩を掴むボス。

「オラッ、行くぞヒロム!」

「…………」

ヒロムは頷くと、ボスと共に人々を引き連れ逃げる。


怪人Aは人々よりも、ロッカクの方に集中している。

ボロボロでフラフラなロッカクから、パワーのような、気のような、なんともいえない雰囲気が放出され始める。


「……出し惜しみは無しだ……。これで思う存分戦えるゼ!オレの、スーパーな必殺技を受けてみよ!(初めてつかうからスーパーかどうか分かんないけど)

その名も!“何が出るかな♪サイの河原のロッカク☆シャッフル!”だ!!」

光の粒子が集まり、巨大な六角賽子が出る。


ロッカク&怪人「……………。」


1テンポおいて…

「しまった!ツッコんでくれるヤツがいねぇ!くっそー!これでもくらえ!」

巨大賽子を転がす。


コロコロ…


ドキドキ…。


怪人も見守る中、賽子が止まる。


その目、1。


赤い丸い1の目がスッと消えて、デフォルメされたロッカクの顔がボヤ~っと出てきた。

「え?オレ?なに……」

その瞬間、ロッカクに電流が走る。


「ぎゃ~~~!!!」

ビリビリビリ!


ロッカクは黒焦げっぽくなり、白い煙をだし、プスプス…っとなりながら…

「……必殺技を自分で受けるって、前代未聞じゃね?…オレは本当にラッキーボーイなのでしょうか?だれか教えて下さい……」


しかし、その姿を見た怪人は大爆笑。

ヒーヒーなりながら、喉をおさえ、苦しそうに悶えた後、思い切り倒れた。

うちどころが悪かったようで、ピルピル震えた後、動かなくなり、ドロドロと溶けて死亡。

頭にかぶっていた、目のところに2つ穴の開いた血まみれのズタ袋と、頭に突き刺さっていた大きなネジ3本と、斧、そして服が溶けずに残った。


それを見てロッカクは……

「えぇーーー。こんな勝ち方ヤダぁ……

…………。」

そう言いながらもロッカクは、何か気になることがあるらしく、怪人Aの着ていた服をまさぐり始めた。

「うおっ!マジか!やっぱコイツ女だったのか!」

服の中から、女性ものの下着が出てきた。

「………怪人萌え的なのあっかなぁ…。ん~…だけど、こんなの持ち歩いたら変態扱いされるよなぁ…」

ロッカクはネットオークションに出品したら、高値で売れねぇかな?などと考えていたのだった……。



一方、ジュンは……

ウタを人質にする怪人Bと、対峙していた。


怪人Bは、説明すると…裸の蜥蜴男で角と黒髪が見える。体の所々が火傷のようにただれている。鼻は切断されているような形だ。


「手も足も出ないとはこのことか……て言うか、なんでウタがこんなところに…」


ウタは苦しそうに呻いている。


ウタの心中は……

(この化け物、超くっさいし、キモイっ!!)


にらみ合う両者。

先に動いたのは怪人。

ウタを床に落とすと、ウタめがけて攻撃を繰り出す。


慌てて割り込むジュン。

体を張って庇いつつ、怪人に攻撃する。

よろめく怪人。


しかしジュンは、

(今までのヤツとは比べものにならない強さだ!)

ウタに向かって叫ぶ。

「早く逃げるんだ!」


「……腰が抜けて……」

そして再びウタに襲いかかる怪人。庇うジュンだが、怪人はここぞとばかりに猛攻撃を繰り出す。

そしてジュンは大きなダメージを負い、ボロボロだ。

追い討ちとばかりに、団員の駆けつける足音が聞こえてくる。


「ぬうぉーーっ!!」

ジュンは大きく雄叫びをあげると、怪人を渾身の力で吹っ飛ばし、怪人がのびている間に団員全てを倒した。

怪人は気を取り直すと、今度はジュンを狙って動き出す。

しかし、気付かないジュン。

それに気付いたウタは慌てて近くにあった鉄パイプを手に取り、怪人の弁慶めがけて大きくスィングした。

怪人は体長が大きいので、152センチのウタがスィングして丁度いいところに弁慶がある。


カーーーン!!


と大きな音が響く。


怪人は膝をつき、悶えている。

怒った怪人がウタに襲いかかる。

庇うジュン。

怪人の怒りのパワーは凄まじく、ジュンは酷い怪我を負ってしまった。


「!!!」

ウタは口に手をあて、震えている。

ジュンは残っている全ての力を振り絞って、必殺技を出す。

この時、正直ウタが巻き添えになることは、頭になかった。

生きるか死ぬかの極限状態で、体が無意識に動いていた。


「ああっ!!爆炎・龍昇拳!!」

(※昇龍拳のパクリ)


炎の龍が怪人を包み込む。

そして怪人の体を完全に覆い、最後に爆発する。


バーーン!!


怪人死亡。


バラバラに砕けた後、溶けて消えた。

このアジトは、怪人をつくる施設なので、頑丈にできている。建物が完全に崩落する程の爆発ではなかったものの、部屋の中はボロボロだ。

そしてウタも瓦礫の下敷きになってしまった。


フラフラになり、倒れかけるジュンだがなんとか持ちこたえる。

そしてウタを救出した。

運良く大きな怪我はなかったものの、所々擦り傷などを負い、血が出ている。


ウタはジュンに何か声掛けしていたが、ジュンの耳は、血の流れるような、心臓の音のような、ドクンドクンという大きな音が殆どを占めており、かすかに何か雑音のようなものが混ざっている、そんな感じだった。


ジュンは漠然と、死を悟る。

これが、そうなのか……。

倒れるジュン。


ウタはすぐに膝枕をする。

泣いているウタ。


ジュンのヘルメットのようなものに涙がポタポタと落ちる。

横になって心臓のような音が小さくなり、ジュンの耳にウタの声が届いた。


「しっかりして!ジュン君!」

「うっ…(←苦しくての)知ってたのか……」

「!!ジュン君!うん。声とか、体格とか、あと中2っぽいトコとか……」

「バトルスーツ意味ねぇーー…」


ヘルメットをOFFモードにして外す。

外すといっても粒子に変えて、しまうので手を使わないで、簡単にとれる。


「ウタ……多分、オレ……もうダメみたいだ……だから、最後にウタに……言いたいことがある……」

ジュンを支える手に、血のヌルッとした感触と生温かいものが、ウタの心臓をさらに締め付ける。


「ありがとう……。ウタのお陰でオレ……この数ヶ月、本当に生きていることを全身で感じて……不謹慎かもしれないが、楽しかったよ。愛する人を守って死ねる……死ぬかもしれないのに全然怖くない……」

「何それ……強がっちゃって!本当はこわいくせに!中2っぽいセリフばっかり言うんだから。家に帰ったら電話もメールもなかったことについて、聞きたいことがあるから…このまま死んだら、人豚の刑にしてやる!」

「こっこわっ……」


駆けつけてくるロッカクとヒロム。

そして、少しずつ意識が遠退くジュン。

(普通だとココで、恋人にキッスをしてもらったりするところなのに……)

ジュンは、これを期待してヘルメットを外したのだった。


視野が完全に真っ黒になる……。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


病室で目を覚ますジュン。


ロッカクが声をかける。

「お!気が付いたか」


ボーーっとなっているジュン。

発する声は小さい。

「……えっ……どうなってるんだ?……体が……変な感じだ……」


ロッカクが答える。

「ああ、最新技術を駆使して延命したからな。人工筋肉とかと、脳の伝達がまだしっくりこないんだろうよ。リハビリすれば改善されるから安心しろ」

(体を少しばかり改造した(いじった)ことは内緒だぜ……)


「オレ……生きてるのか……ハハハ…。死ぬ感覚って気持ち悪いな……頑張っても力はいらないし、魂が抜けるような変な感じで……」

震えだすジュン。

手を握るウタ。

落ち着いてきたジュンは、ふと気付く。

目をキョロキョロさせながら、

「あれ?アニキとボスはいないんだ?」

少し寂しそうに訊ねる。


またもやロッカクが答えた。

「ああ……。ヒロムはボスに付き添ってるんだ。ボスが……ヤバい状態で……」

ジュンは、

ガバッと起き上がり、

「どういうことなんだ?」

と訊ねた。


ロッカクはかぶっている帽子に手をあて、顔を隠すように下を向き、

「いつ死ぬか分からない状態。つまり危篤だ」

「…まさか…あの後、何かあったのか!?」


「……言いにくいんだが……あ~~ー…っ……まじでなんなんだよ……」

窓の枠に手をつき、本当に言いにくそうにしている。


「?」


見かねたウタが口を開く。

「ジュン君はね、1ヶ月近く意識が戻らなかったんだけど、その間にボスさんは襲われて重傷を負ってしまったの」


そしてロッカクはジュンに問いかける。

「……襲ったヤツ、誰だと思う?」

ロッカクの顔は逆光でよく見えない。


ジュンは険しい顔で、

「スリーM団か?」


ロッカクは答える。

「いや……人間だ」


ジュンは驚く。

「人間!?」


「……勘違いなんだよ。人違い」


ロッカクは言いながら、ベッドに近づいてくる。


その時、TVでヤクザの抗争のニュースが流れてきた。

それを苦い顔で観るロッカクとウタ。

固まるジュン。


「えっ……いや……まさか…えっ」

「お前の頭ん中の通りだよ。……ヤクザの抗争に巻き込まれて、数発の銃弾を受けちまったんだ」

「!!!」


ジュンは声が大きくなる。

「だから、あれほどっ!…普通の格好にした方がいいですよって言ったのに……!」

※本当は恐くて言っていない。


バンッ!!


驚いて入り口を見る3人。


そこには息を切らせたヒロムがいた。

「みんな……ボスが……死んだ……」

「!!!」

ジュンは、

「そんな……」

と言いながら、シーツを強く握った。


そして、

「ボスは……最期…なんて……?」

ヒロムも俯き、

「…………。」

悲しそうに言う。

「「かき氷、食いてえな」だった……」

フクロにされるヒロム。


ジュンは点滴が外れながらも加わる。


ロッカクはキレていた。

「てめぇ!こんな時にふざけやがって!笑えねぇんだよ!」

「ちっちがっちがうっ!本当だから!先生と看護婦さんに聞けば分かるから!」

ボコられながら、必死に叫ぶヒロム。


ジュンはガクッと膝をつく。

「そんな……ボス……そりゃねぇよ……」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


一方、3M団は……


「こいつのせいか……」

悪の巣窟・施設内にある壊れたコンピューターを、見ている幹部の姿があった。

顔には凝ったデザインのマスクを付けている。

頭の頭頂部から首までかぶるタイプで、密封性は高い。口の部分は、チャックになっている。

“お口にチャック”だが、彼はお喋りだった。声はマスクのせいで、どもって聞こえる。

マスクの上から大きめのヘアーバンドをして、金髪にメッシユの入った髪を逆立てている。

黒の布地のVネックTシャツに蛍光黄緑色の英字がプリントしてある。靴はハイカットスニーカーを折り返して履いていた。その上に白衣をまとっている。腕には“MMM”のロゴの入った腕章をしている。

彼は技術部の幹部だ。

技術部員は、その殆どが彼のような格好をしている。パンク・ロック風の格好に変わったマスク(ガスマスクなど)をかぶっていた。


この技術部幹部は、通信が途絶え、計画が水の泡になってしまったことにイライラしていた。

実は…怪人Aは逐一報告するために、姿を消したりしていたのだった。

「オレ様の作品が……ちょっとやそっとじゃ壊れねぇ代物だったんだぞ……」

そしてポケットに手を入れあるものを出しながら、

「そして!オレ様のこのコイツで!怪人を巨人化させて、アイツらをボッコボコにする手筈だったのに!」


シャドウボクシングのように、腕をブンブン振り回す男。

「いまにみてろ“テキトウレンジャー”め!ふざけた名前しやがって!」


彼がここまで怒っているのは、ジュン達が倒した怪人に原因があった。

ロッカクが倒した“怪人A”は……知能が備わった怪人の成功例だった。

そしてジュンが倒した怪人も、知能とパワーが強化された怪人だったのだ。

アイツら(怪人達)をどういう風に、強化しようかな~とか、色々と考えていたため…ショックがでかかった。

ジュン達が倒した怪人達の強さのレベルは、実は高かった。


ジュン達は自分達が知らない間に、ヒーローランクが上昇し、まだ戦隊として安定していないにもかかわらず、敵・味方問わず注目され、経験が浅いのに高難度の任務が増えてしまう……。

ジュン達は喧嘩をしながらも、頑張って任務をこなしていくのだった……。


・・・・・・・・・


ジュン・「えーー、今回、痛感したことは人手不足だ!一人でも多くの隊員を増やすぞ!」


ヒロム・ロッカク・ウタは声を合わせて、

「おーーーっ!」

と元気いっぱいに声を張り上げ、握り拳を掲げる。


4人の手には沢山のビラがある。

各々バラけて、ビラ配りを開始する。


「お願いしまーす!」


必死にビラを配る4人。

ジュンはウタに話しかける。

「ところでさ、なんであんなとこにいたんだ?」

「え?何が?」

「いや、だから悪の巣窟だよ」

「あ、悪の巣窟……。あーれは、ちゃっかり後をつけてたりしちゃった感じかな~?」


※ジュンとロッカクが悪の巣窟に入った後、ヒロムがボスにタブレットで連絡している隙に、ウタは侵入したのだった。


「おいおい、危ないから二度とするなよ?」

「だってぇ~、ジュン君の様子が気になったんだもん」

「いや、オレはてっきりフラれたもんだと……」

「…………。」


「…簡単に諦められるんだ……」

「はぁ?なんだよ急に……!」

「おい!」

遠くからロッカクが二人に声をかける。


「お前ら!痴話喧嘩してる暇あったら、マジメにやれよ!」

怒るロッカク。


ジュンとウタは声を揃えて、

「は~~い…」

と返事をする。



真面目に配っていると、声をかけられるジュン。

「俺にもくれるか?」


「あ、はい!ってあれ?どこかでお会いしたことありませんか?」

「フッ。さてな」

煙草に火をつけて煙をはく。


「(ボスに似てる……もしかして……)あの~、ヤクザみたいなお兄さんいらっしゃいませんか?」

「ヤクザ……お前……相変わらずだなぁ、ジュン」


「ボ……ボス……!」


えっ!


と、駆け寄って来る3人。


ロッカクは、

「生きてんじゃねーか!」

と、ヒロムの胸ぐらを掴む。


「ロッカク!ヒーローがそんなことをしてはいけない!っていうか、なんで生きてんの?」

ボスの方を向く。


ヒロムは嘘をついているようには見えない。


「まぁ、色々あってな。ロッカクはなしてやれ」


素直にはなしてやるロッカクだが、

「……にしても……なんすか、その格好……。なんか、今までの格好に慣れたせいか、変にみえる……」

ボスを上から下へと眺めながら言う。


ボスは……

髪型がアイパーからリーゼントになり、サングラスも形が変わり、服もスーツからライダースジャケットとダメージジーンズになり、ヤクザからヤンキーに、変わったエボリューションを遂げていた。


ロッカクは疑問を口にする。

「アイパー伸ばしてそんなに長くなるかぁ~!?どう見ても不自然だろ!」


ヒロムも頷く。

「しかもヤクザからヤンキーって、ランク下がってるような……」


ボスはなんでもない感じで、

「抗争に巻き込まれるのはもう御免だからな。イメチェンだ、イメチェン。どれ、俺も手伝おうか?」


ヒロムは慌ててボスの手を体をひねって避けながら、

「ボ、ボスが配っても人が逃げちゃいますよ(汗)」

ボスはキョトンとしながら、

「そうか?」

「ねぇ、ジュンもそう思うよね?」

ヒロムはジュンに同意を求めた。


ーーーしかし、

ジュンは一人、泣いていた。


ボス・「………。」


ジュンはやっとのことでボスに声をかける。

「ボス……よかった……よかったです。生きててくれたら、ヤクザでもヤンキーでもなんでもいいです……!」


ふえぇ…

と、泣くジュン。


「ジュン君……」

ジュンにハンカチを渡すウタ。


そして、ほっこりするみんな。


ヒロム・「さて!ボスも復活したことだし!次はさっそく萌え萌えの女性隊員を仲間にしないとね!」

しかし、ロッカクがすぐに反応する。

「いや、合体ロボが先だろ!」


二人はそれぞれ自身のイメージ映像を、頭に思い浮かべている。


二人が言い合っている中、ジュンは涙を拭いて、ビラ配りを再開する。


「正義の味方を募集しています!一緒に地球を守りませんか?」


ジュンの後ろには、ウタとボスがいて、優しく微笑んでいる。

ロッカクとヒロムは、まだ言い合っていた。



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