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不毛な話   作者: ねこまんまときみどりのことり


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その3 浮気夫はいらない

「もう最低! 何回目の浮気だと思っているのよ。絶対許さないんだから!」


 怒っているのはサライ・グヴァイネス伯爵夫人だ。

 容姿端麗であるが、唯一胸の大きさが残念と言われる女性。


 女性が爵位を継げないこの国で、伯爵と言われるのは婿のブランツだ。

 勿論離婚すれば爵位はサライに戻され、再度婚姻するか子供が継ぐしかない。けれど子のイリスティはまだ7才で成人にはほど遠い。

 サライが再婚するにしても、新たに子が出来れば余計な確執が生まれてしまうだろう。


 さらに離婚歴が付けば、婚姻の幅も狭まると言うものだ。

 しかし子が継げる年齢になるまでは、サライにはお飾りでも伴侶がいなければ爵位は国に没収されるか、親戚筋に渡ってしまうのだ。


 それを知り尽くしているから、入り婿であるブランツが派手に遊んでいる訳である。イリスティが成人後に追い出される可能性を考えていないのかは不明であるが、サライは常にイライラさせられている。


「結婚前は気が利いて、優しい男だと思っていたのに。結婚後に掌を返す酷い仕打ち。過去の自分を殴ってやりたいわ!」


 そうブランツは、表向きは優しくて大人しい男を演じているから、周囲は気づかないのだ。

 でも彼は出張を理由に頻繁に訪問する隣国に愛人がいる。

 出張自体は本当にあるので、それは仕方がないことだ。でも隣国で彼が接待として使用する資金が高額なのだ。

 最初は仕方がないと思っていたが、どうもおかしい。それほどの滞在期間がない時も同額が使われているからだ。


 サライは幼い時から傍に仕える、バングルに相談した。


「夫の行動が怪しいのよ。何にお金を使っているか調べてくれないかしら?」

「仰せのままに。お嬢様」


「もう、バングル。私はもう夫人なのよ、その呼び方は「では、行って参ります」もう、聞いてないわね!」


 彼はいつもお嬢様と言って、奥様とは呼ばない。

 注意しても流されてしまうのだ。


「まあ良いわ。貴方にすれば、ずっと私は子供なのでしょう」


 嘆息して気に留めないようにするサライ。

 深く考えれば、泥沼だと知ってしまうからだ。


 サライだとて彼のことを好いていた。

 けれど彼は男爵家の次男で、ブランツは侯爵家の三男。ただ上位貴族だからと、親が決めた政略結婚だ。


 初めから彼女に選択権などない。

だが婚姻後は夫婦の問題であるからと、彼女の両親は口出ししない。

 両親にしても伯爵家が機能しなくなれば、生活に困窮するから、離婚には反対なのだ。

 ブランツと離婚しても、下位貴族であるバングルとの再婚は許さないだろう。


 家の仕事はサライとバングルが中心に、宮廷書記の仕事をブランツが熟している。

 宮廷書記の収入以上にブランツが使い込んでも、サライの両親に送られる資金が滞ることがなければ問題と見なされない。その帳尻はサライやイリスティの予算から相殺されていく。

 大して忙しくもない書記の仕事のみしかせず、領地の仕事を手伝おうともしないブランツ。


 そんな夫でも良いところもあるのだ、イリスティの父親なのだと気持ちを誤魔化し、多少の散財も目を瞑った。


 けれどブランツは、とうとう地雷を踏んだのだ。

 バングルの調べにより、今の浮気相手が分かった時に。


 今までも多額の資金を使って、サライには決して贈らないアクセサリーを貢いだり、観劇などで女の気を引いて楽しんでいたブランツ。

 女は他にも男がいるのに、いつもブランツだけにねだって、貰ったプレゼントを売却していたようだった。腹は立つがそれは置いておこう。


 だが今一緒にいる女は、出戻りの伯爵令嬢アルフェ・モランだ。彼女は悪賢いが美形に目がない節操なしだ。

 夫の留守に、見習い執事と浮気して離婚されたのだ。

 そんな彼女だが、顔はすごく可愛い。女の自分でも見とれる程だ。性格を知らない時なら、間違いなく味方してしまうだろう。

 そして儚げで、胸がメロンくらいのボヨンボヨンだ。おっぱい星人なら目を離せないだろう。


 だけど性格最悪の彼女は、周囲の女性をバカにする。


「ブスの癖に」とか、「下級貴族が」とか「平民の癖に」等などと。

 その分高位貴族には、媚びへつらう姑息さを持ち合わせていた。

 可愛い女性に頼られたら、男女共に彼女の味方になってしまうのだ。嫁ぎ先から離婚した今でさえそうなのだ。


 そんな中でサライは、アルフェに格下扱いを受けていた。爵位は伯爵夫人のサライが上なのに、学生の時のヒエラルキーが忘れられないのだろう。

 未だにパーティーで会っても酷い態度だ。


「ブランツ様がお可哀想。その絶壁なら、食指なんて動かないでしょうね。おほほっ」

「くっ。失礼しますわ」


 完全に上から目線だった。

 サライが離婚出来ないと思って、強気なのだろう。


 きっと慰謝料を請求しても、ブランツが支払ってしまいそうだ。


「何故私が、こんなに我慢しなくてはならないの? イリスティの為にと頑張って来たけど、もう嫌だ!」


 庭園のガゼボの方から聞こえる、声に出ていた心の叫びを耳にした、エバー・マームス公爵夫人とアルトワ・マームス小公爵夫人。


 2人は頷き彼女へと歩みより、声をかけた。


「どうなさったの? 困り事かしら?」

「私達で良ければ、お話してみない? 何か、お役に立てるかもしれないわ」


 その優しげな声に、切羽詰まっていたサライは驚きと安堵で、すぐに泣き始めた。


「私、どうしたら良いか、もう解らなくて。うわーん」


 アルトワはサライを抱きしめた。

 以前にエバーにそうされたように。


 そして詳細を聞き2人は憤る。


「そんな男は捨てなさい。婿ならいくらでも紹介しますわ」


 エバーが言い、アルトワも頷く。


「私もエバー様に救われた1人なんです。貴女も私とリトマス・シケンシー侯爵令息とのことはご存じでしょ? 私は私がしていただいた恩を、貴女に返したいと思うの? 協力してくださらない?」


 アルトワのことを知っていたサライは、涙を拭きながら頷いた。彼女の婚約破棄のことは、大変だと思っていたが他人事だった。

 それなのに今、自分に声をかけてくれたのだ。


 きっとサライは、彼女達が何もしてくれなくても、声をかけて貰えただけで感謝しただろう。それぐらい辛い状態だった。

 それが不思議な事態になるなんて、思いもしていなかった。


「遠慮はいらないわ、ギブアンドテイクなのだもの。ブランツが嫌いなら、離婚しても良いわよね?」


 エバーが楽しげに笑い、サライは思いきり頷いた。



◇◇◇

「ねえ、アンバー。この全身シャンプーすごいわね。ツルツルで、キューティクルが遠くからでも解るわ。もう他の物は使えないわね」

「ええ、ええ。素晴らしい逸品ですわ。これで益々美しくなること間違いないですわ。でもお高いんでしょ?」


「ええ、それなりにね。でもマームス公爵夫人からの伝手なのよ。普通なら半年先まで購入できないくらい、大変な人気だそうよ」

「まあ、半年先なんて。十本もよく手に入りましたね」


「そうなの、運が良かったのよ。

でも高いから、少しずつしか使えないわね」

「そんな! サライ様は贅沢しないのですから、このくらい予算の内でしょ? たまには癒されてくださいな」


「ありがとう、アンバー。貴女はいつも優しいわ。じゃあ、保管庫に入れておいてね」

「畏まりました。サライ様」



 偶然に2人の話を聞きつけたブランツ。


「何だと! サライの癖に高級品なんて生意気な。ん、そんなに良いなら、アルフェにプレゼントしよう。

何、俺が使うと言えば問題ないだろう。取りあえず5本は頂こう。アルフェが益々美しくなるな。

そして俺にサービスしてくれるんだろうな、きっと。うくくくっ」


 ブランツが話を聞いていたのを、他のメイドが確認していた。

 ここはサライの生まれた伯爵家だ。

 使用人も全員サライの味方である。


「あのバカ旦那様が餌に食いつきましたよ。エバー様に報告します」

「ええ、お願いね。上手くいくと良いけど」


 思ったより動きの早いブランツに、ほくそ笑むサライとアンバー。


 賽は投げられたのだ。



◇◇◇

「何よ、これ。いやー、ひげ、ひげが生えている!」

「え、えー! なんでそんなに毛深いの? 気持ち悪い。もしかして男だったのか?」


「そんな訳ないでしょ? クタバレ!」


 アルフェは全身に毛がビッチリと生えていた。顔にも素肌にも剛毛が。スベスベに艶めく肌は見る影もなく、男性のひげが全身に生えているようだった。


 今日は王家主催の全員参加の夜会がある。

 アルフェはそれを目処に、高い全身シャンプーを使い続けていたのだ。


 それがそこら辺の男よりも濃いひげや体毛に覆われたのだ。

 休もうにも、適切な理由なしには欠席は出来ない。

 今日は国王の誕生祭なのだから。


 欠席すれば、反意ありと疑われることになるだろう。


 アルフェの両親モラン伯爵も、娘の変化に目を覆うが参加する準備を侍女にさせようとした。

 既に出席の届けを出しているので、王家に逆らうことは出来ないからだ。


「メイド達はアルフェの毛を剃るんだ。ブランツ殿は奥様の元へお戻りください。こちらは準備で忙しく、貴方の対応は難しいのです」


 モラン伯爵は金払い良く、我が儘なアルフェの面倒を見てくれるブランツを優遇してた。

 偏にサライの現状を知っていて、悪く扱われないと思っていたのだ。

 醜聞のある娘アルフェだから、愛人にでもしてくれれば丁度良いとさえ思っていた。


 でも今は、今だけは余裕をなくしていた。


「奇病かもしれない。早く挨拶をして連れ戻さなければ。我が伯爵家にも不信の目が向けられる」



 慌てるモラン伯爵と脅えるブランツ。


「な、なんだあの姿は! 何か悪い病気なのか? 

(ブランツ)に移ってないだろうな!」

「何なのよ、何とかしてよ! うわ~ん、酷いわ~」


 泣きわめくアルフェを丸裸にして、毛を剃りまくるメイド達。

 彼女達もプロだが、さすがに笑いが込み上げる。


(駄目、笑っちゃ)

(でも舞台の男役の女装みたいよ)

(化粧を濃くすれば?)

(プッ、クスッ。更に女装みたい)

(((苦しい、笑いたい、助けて!)))


 普段から横柄で、メイドにも酷い態度で接するアルフェは嫌われていた。

 だからだれも、同情はしていないのだ。


 いつも露出が多いのに、今日は袖の長いドレスを来て、顔は扇で隠しているアルフェ。

 王宮についても、静かに両親と共に過ごしていた。


 そこに1人で寂しげなサライが現れた。

 アルフェは自分の状況を忘れ、貶めようと声をかける。


「あらっ、またサライ様はお一人なのね。お可哀想に」


 嘲りはいつもと同じで、周囲の目線が2人に集まった。


「酷いわ、アルフェ様。どうせブランツ様は、貴女と一緒にいらしたのでしょ? それを分かっていてからかうなんて」


 弱々しげに憔悴するサライに、同情の目が集まる。    いつもなら自分(アルフェ)を無視して、悔しげな顔を見せるだけなのに。

 今日は真っ正面から対峙してくるサライ。


「一緒ではないですわ。ブランツ様はおモテになるから、他の女性を誘っているのでは? 

相手にされない奥様は魅力がないのね。

まあ、お胸はないようですけど」


 朝からの鬱憤をぶつけるように、サライを詰り倒そうとしたアルフェ。



「いい加減になさいまし。見苦しいですわ」


 そこに現れたのはエバー・マームス公爵夫人とアルトワ・マームス小公爵夫人だった。


 さすがに公爵夫人に食ってかかれず、丁寧に対応したアルフェ。


「申し訳ありませんでした、マームス公爵夫人。私とサライ様は友人でして、少し悪ふざけ過ぎました」


 しおらしく態度を変えて頭を下げるアルフェ。

 だがエバーは不快さを隠さない。


「私の庇護するサライに酷いことを言っていましたね。きちんと謝罪なさい。

今回は誕生祭ですから、それで許しますわ」


 絶対に嫌だが、事を大きくしたくないアルフェは、素直にサライに謝罪する。


「申し訳ありませんでしたわ。許してください、サライ様」


 扇を当てたままの謝罪は、エバーに却下された。


「扇で顔を隠すなんて、失礼な。謝罪する気がないのですか?」


 そう言われて扇を下ろすアルフェに、周囲はざわついた。


 ザワザワ、ザワザワ、ザワザワ、ザワザワ…………


「ヒゲが」

「濃い……」

「ひげでは?」

「なんで、髭が?」


「嫌っ、見ないで、イヤーッ!!!」


 彼女はそのまま馬車に飛び乗った。

 髭を見た王宮関係者は、彼女の体調不良を認めた。


 走って駆けて行った彼女だが、さすがに情けをかけたのだ。


「そう言えば、ホルモンのバランスが崩れると、女性でも男性ホルモンが増えて、体毛が濃くなるらしい」

「じゃあ、本当に不調なのかもな」


 そんなことを話ながら。

 まあ可愛らしい女性が髭面を晒したのだ。

 考慮されても、然さもありなんだ、とか何とか擁護されていた。


 そのせいで、お咎めはなかったそうだ。



◇◇◇

 アルフェは医師にかかり、濃毛の原因を調べて貰った。

 すると該当したのが、ブランツがサライから持ち出した全身シャンプーだった。


 怒りまくるアルフェだが、医師は言う。


「ここにキチンと馬用シャンプー『ケハエール』と書いてありますよ。用量と回数についても。

薄めて使うことも書いてます。

それにパッケージにも、馬のイラストが書いてあるでしょ。なんで動物用のシャンプーなんて使ったんですか?」


 そこには確かにお洒落で読みづらい書体だが、『馬用』と書かれている。


 医師に呆れ顔をされた、アルフェとモラン伯爵。

 病ではないが、何とも恥ずかしい結果が出た。


「なんでこんな物をくれたのよ。あんたも私を馬鹿にしてたの? ねえ、ブランツ!」


 呼び出されたブランツは、真相を知り驚いた。

 まさか自分の持って来たシャンプーが原因だったなんて!


 そしてブランツも濃毛・剛毛に全身を覆われていた。いつも2人で仲良く入浴していたからだ。


「公爵夫人も使う最高級品らしいぞ」と、にやけながら。


 アルフェも喜んでいたので、同罪である。



「まさか! 俺だって、こんな毛むくじゃらなんだぞ。あいつだ。サライに嵌められたんだ。責任を取らせてやる!」



◇◇◇

「おい、サライ。俺を騙したな。アルフェに慰謝料を払え、払わないと離婚するぞ!」


 脅し文句を言って金をねだるブランツは、体毛に覆われてモサッとしているわ、醜悪に笑うわで、山賊のようだった。

 わりと美形だった昔の彼は、もうどこにもいないのだ。


「その言葉の証人は、私と義娘がしますわ。慰謝料を払わないと離婚ですね。さあ、サライ。貴女はどうするの?」


 口許に赤と黒いレースの扇を当てるエバー・マームス公爵夫人。その傍らにはアルトワ・マームス小公爵夫人もいる。


「勿論、離婚しますわ。高い馬用のシャンプーを、薄毛で可哀想なあの子()のものを持ち出して使い、慰謝料なんて。正気を疑う所業です。

ねえ、ブランツ。思い出してみて、私とアンバーの会話を」



そう言われ、ブランツは記憶を辿る。




◇◇

「ねえ、アンバー。この全身シャンプーすごいわね。ツルツルで、キューティクルが遠くからでも分かるわ。もう他の物は使えないわね」

「ええ、ええ。素晴らしい逸品ですわ。これで益々美しくなること間違いないですわ。でもお高いんでしょ?」


「ええ、それなりにね。でもマームス公爵夫人からの伝手なのよ。普通なら半年先まで購入できないくらい、大変な人気だそうよ」

「まあ、半年先なんて。十本もよく手に入りましたね」


「そうなの、運が良かったのよ。

でも高いから、少しずつしか使えないわね」

「そんな! サライ様は贅沢しないのですから、このくらい予算の内でしょ? たまには癒されてくださいな」


「ありがとう、アンバー。貴女はいつも優しいわ。じゃあ、保管庫に入れておいてね」

「畏まりました。サライ様」



 ここまでだ。


 サライが自分で使うとは、一言も言っていない。

 全ての主語に『馬』をつけると、当てはまる会話。


 特に遠くからでも分かるなんて、自分では言わないだろう。

 サライが癒されるのも、愛馬のマルマインのことだと傍にいれば解ることだ。サライは乗馬が大好きなのだ。


「そ、そんな、馬鹿な。あ、離婚しない。しないぞ。それに俺がいないと困るだろ?」

「困りませんわ。それに注意書きすら読めないし、あまつさえ馬用のシャンプーを盗む者はいりません。それにもう、侯爵家からは許可を頂きました。私の両親も許可していますわ」


「そんな、馬鹿な………。婿はどうするんだ? 伯爵家はどうする気だ!」

「心配ご無用ですわ。速やかに出ていってくださいな。バングルお願い」


「はい。サライ様」



 こうしてブランツは、既に荷物が纏められていた馬車へ放り込まれ、侯爵家へと戻された。


 そして濃毛の真相は、知らないうちに市井まで広がり、おおいにみんなを楽しませた。


『馬シャンプーカップル』として。


 無事に離婚できたので、アルフェに慰謝料を請求しなかったサライ。

 いろいろ言いたいこともあるが、もう良いかなと思った。

 それにしても市井にまで話が伝わるなんてと。

 そこまでは求めていなかったサライだった。


 息子のイリスティは、母をバカにする(ブランツ)が嫌いだったので、離婚に大賛成だ。


「あんなのいらない。僕は母上とバングルがいれば良い」


 そう呟くイリスティは、自分に甘いバングルが大好きだった。

 そしてエバー・マームス公爵夫人主導で、ブランツの生家の侯爵家に慰謝料を請求したサライ。

 どうやって支払うかなんてサライは知らない。



 その後ブランツの横暴ぶりを放置した、サライの両親にも制裁が。


「どんなにサライが訴えても、婿の好きなようにさせて、自分達は遊んでいたのでしょ? 

じゃあ、婿の使い込んだ分は、貴方(前伯爵夫妻)方の配当金から支払うのが道理よね。

お金が足りないなら働くと良いわ。私のお店で雇っても良いですわよ」


 エバーはそう強く言い、サライにブランツの使用額を配当金から引くように提案した。


「良いのよ、減らしても。今まで貴女と子供の資金まで、あのクズに使い込まれたんでしょ? 

相談にも乗らない前当主なんて、必要ないじゃない。慰謝料は傷ついた心の為の分よ。補填に当てることはないわ」

「そうですね。本当にそう。これ(慰謝料)は息子に使いますわ」


「そうしなさいな。後は婿ね。それは……………」




◇◇◇

 婿問題はあっさり片付いた。


 バングルが公爵家寄子の子爵家の養子に入り、サライと結婚したからだ。元々男爵家の彼だが、優秀で有名だったから子爵家も喜んでいた。

 公爵家と縁付き、優秀な養子も得たのだから。

 バングルは子爵家も大事にし、子爵もバングルを可愛がった。



◇◇◇

 その後ブランツは、父親が肩代わりした慰謝料を返す為に蟹漁船に乗せられた。

 何故かアルフェはブランツと籍を入れられ、家政婦として一緒に乗せられていた。


「何でよ、帰してよ」

「うるせー、くっちゃべってねえで働け。海に落とすぞ!」


「嫌よ。助けて!」


 髪を掴まれて脅されるアルフェは、仕方なく恐怖から懸命に働いた。

 ブランツのだらけている体は、船上で立つことも出来なかった。


「おち、落ちる。ぎゃー、助けて!」

「何言ってる。早く来いや」

「ぎゃあー、止めて。あ、あーー!!!」


 ドボンッ!!!


「あ、落ちたな」

「助けてー!!!」


 船員は呆れて誰も助けない。

 あわやと言う時に、アルフェが掃除の箒を差し出した。


「ほらっ、掴まりな。早く!!!」

「あっ、あ、うん」


 漸く何とか船に上がったブランツは、アルフェにお礼を言った。


「ありがとう、アルフェ。俺もう、駄目だと思った。ありがとう、うっ、くっ、ぐずっ」

「良いわよ、別に。見捨てるのも、寝覚めが悪いしね。ぐすっ、泣かないでよ、もうっ」


 息を切らした2人は、落ち着くとお互いに泣き出した。

 その時ばかりは、周囲も見守ってくれた。


 貴族のような、なよついた2人だ。

 当然訳ありだろう、と。


 その後の2人は真面目に働き、2人で慰謝料分を稼ぎ陸に上がった。


「きばったな、お前ら。真面目に暮らせよ!」

「ありがとう、親方。お世話になりました」

「親方さん、ありがとう。これ、お礼です。みんなで食べて」

「ああ、ありがとうよ。元気でな」


 何も出来なかったアルフェは、家事も料理も上達した。

 そして今日はお礼と言って、稼ぎから材料を買ってたくさんの餡付きの団子を作って来たのだ。


 二人は借金もなくなり、市井に移り住んだ。


「腐れ縁だね、あんたとは」

「ありがとうな、アルフェ。大好きだよ」


「えっ! 私もわりと好きよ」

「本当に! そっかぁ、そっか」


「ほら、暗くなる前に行こう。家を借りないと。夕食は屋台で良いね」

「うん。そうしよう」


 生死をかけて得た絆は、存外に強かったようだ。



◇◇◇

 ブランツがシャンプーのことを誤解するように、アンバーに誘導させたのは、エバー・マームス公爵夫人とアルトワ・マームス小公爵夫人だ。


 彼女(アンバー)もまた、マームス公爵の出資事業の一つ、闇(主婦)ルート脱毛・育毛の会の会員であった。


「作戦完了ですね」

「ええ、ご苦労様。はい、今月の脱毛剤」

「ありがとうございます!」


 現物支給のアルバイトだった。



◇◇◇

 その後のサライとバングルは仲睦まじく暮らし、イリスティの下には妹が2人生まれた。

 賑やかな伯爵家は今日も幸せに包まれていた。


 サライの両親はブランツの蟹漁船行きの話を聞いて、大人しくなったそうな。




補足1) アルフェとブランツは薬効が切れてからは、以前の状態に戻っております。

漁船に乗った時は毛深かったので、少数民族か? と不思議がられていました。

まあそれで、アルフェが女性としてセクハラされなかったので、良かったのかも? 

今は激しい漁に耐えた肉体はキレキレです。


補足2) 馬用の育毛シャンプーは、エバー様お気に入りの馬の為に作っていた、馬体に優しい成分です。

馬での効果は実証されていましたが、人体には未治験。

アルフェとブランツで効果を確認されていました。

ちょっと洒落にならない面白さ、失礼、効果なので、人間には向かないようです。



「でもね。希釈して使う薬だったから、(人体の)正しいデータは取れてないなぁ。誰かに使いたいなぁ」


 エバー夫人は、こう呟いております。



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