勝負の行方②
あ……れ……?何も起きない……。
ぎゅっと瞑った目を恐る恐る開くと、私の頭に当てられていたはずの橘さんの手は、別の誰かに掴まれていました。
「てめぇは……!!日比谷ミヒ…ぐえっ」
橘さんは潰れたカエルのような声を上げると、その場にどさりと倒れてしまいました。
「はぁ………、間一髪だったな」
「ミヒロさぁぁぁぁあああん!!!!」
姉がミヒロさんに抱きつきます。
「ああもう、離れろ。鬱陶しい」
引き剥がそうとしますが姉はがっしりと抱きついて離れません。
っていうか泣いてる?まあ、あんなことがあったわけですし…………。
私も、足の力が抜けて……。
「はぁ~……、助かった………」
抱きつかれたままミヒロさんが私に問います。
「で、何で連絡しなかった?」
「え………」
あ、そうだ。始めから自分でなんとかしようとせずに、まず、ミヒロさんに連絡すれば良かったんだ。
なんでそんな簡単なことが思いつかなったんだろう。
と、考えているのを表情から察したのか、
「とにかく、問題があったらすぐ報告しろ。上司を頼れ。いいな?ヒナタも。っていうか、いい加減離れろ」
「はい」
「………うん」
返事をして、姉はようやくミヒロさんに抱きつくのをやめました。
「あれ?じゃあ、なんで連絡もしてないのにミヒロさんは来てくれたんですか?」
「GPSで変な動きしてんのは分かるんだよ。何かあったんだろうと思って通信しようとしたら、あいつから電話があってな」
あいつ……?
ミヒロさんが背後に視線を流します。
そこには、こちらに手を振っているアスカさんの姿がありました。
「二人とも、久しぶりっすね」
「……どうしてアスカさんが?」
「ほら、マキちゃんってヒメちゃんのことになるといつも暴走しがちなんで、念のため監視してたんすよ〜。案の定、君達が襲われたから止めようとしたんすけど、反撃なんてし始めるからつい面白くなっちゃって」
「ミヒロさんを呼びつけて、一緒に成り行きを見守っていたと………」
「察しがいいなお前」
「いや、見てないで助けてくださいよ………」
「本当に危なくなったら助けるつもりだったんだよ」
「『本当に危ない場面』って結構ありましたよね!?」
ドローンからの攻撃も何発も食らってますし。
「……まあ、結果的に助かってるんだからいいだろ。それに、犯行現場はしっかり録画済みだし、流石に今回の襲撃はライン超えでこの勝負は確実にこっちの勝ちだ」
「ヒメちゃんも勝負に負けた上に、お気に入りの子が暴走した挙げ句入ったばかりのド素人に鎮圧されたなんて知ったら相当悔しがるでしょうね〜」
………なんかミヒロさんと一緒に笑ってますけど、アスカさんってどっちの味方なんでしたっけ………?
「んじゃ、ヒナタは先に帰ってろ。あとはこっちで話つけてくる」
橘さんを担ぎ上げ、ミヒロさんがそう言います。
「え?ソラは?」
「ほら、ソラちゃんはドローンの攻撃を受けてたでしょ?多分、背中とか痣だらけに──」
アスカさんが言い終わる前に後ろに立っていた姉が私の服を捲り上げます。
「ギャーーーーーッ!?!?」
次の瞬間、姉は絶叫したかと思うと、立ったまま気絶してしまいました。
「──なってるだろうからパークスの医務室で治療が必要なんすよ。って言おうとしたんすけどね………」
「………私の背中って今そんな恐ろしいことになってるんですか………?」
「あー、こうなったらこいつも連れてくか」
そうして橘さんの襲撃を乗り切った私達はその場を後にし、パークス第一支部へと向かったのでした。




