策
5月9日、新たに届いた二日目の結果は、勝負の雲行きを怪しくするものでした。
件名:魔獣討伐数集計結果【二日目】
パークス
姫廻ヒメ:225頭 橘マキ:75頭 計:300頭
累計:608頭
スペース
日比谷ミヒロ:238頭 犬井ヒナタ:59頭 計:297頭
累計:661頭
まだ累計ではこちらがリードしていますが、今日の結果だけを見ればミヒロさんが昨日から約60頭ほどスコアを落とし、昨日の合計は僅差で負けてしまっています。
「あの、ミヒロさん………、何かあったんですか?」
その問いに対して、
「相手の策だ。前線が移動したんだよ」
コーヒーを飲みながらミヒロさんはボソリと答えました。
「前線って……?」
「なるべく分かりやすく説明するとだな、魔獣は円形の防衛区の中心から発生して外側へ向かって放射状に拡散していく、要するに、密集している群れの密度は外側へ行くにつれて薄くなっていくだろ?その魔獣の群れを戦いやすい密度で迎え撃つ最前線があるんだが、それが防衛区の中心方向へ前進させられてたんだ。そうなると、群れの密度が上がって戦いにくくなるし、魔族同士の距離も近くなるから手柄の取り合いが発生する。加えて、一般戦闘員の攻撃魔法は密集した魔獣を巻き込んで倒せるが、自分は近接格闘が主体だから一度に複数の魔獣を巻き込むのは難しい」
ミヒロさんは机の上のメモ帳に図を書きながら説明してくれます。
「ミヒロさんにとって不利な状況になったと………」
「昨日の結果を受けての姫廻の指示だろうな。支部長を相手にするのは厄介だ」
「それが相手の策……。というか、これって妨害行為に当たるんじゃ?」
「いいや、あくまで相手は狩り場を変えただけ、こっちが直接邪魔をされた訳じゃない。まあ、相手の作戦のせいで自分の収入(=魔獣討伐数)が減ってるわけだから、その辺は抗議してもいいかもな」
「そうですか……」
なんだか納得いきませんが、ミヒロさんとこの作戦を指導した姫廻さんの認識では、これは妨害行為にはならないようです。
「でも、今日のスコアは負けちゃいましたけど、ほぼ僅差ですし、これが維持できれば……」
「残念だが、維持はできない」
ため息をつきながら、ミヒロさんは言います。
「え?」
「あれ見ろ」
ミヒロさんが指を差した先、そこには某ボクサーのように真っ白に燃え尽きた姉が。
「えぇーっ!?今日はやけに静かだなと思ったら……」
「だからいつも通りでいいって言ったんだ。張り切っていきなり飛ばすからバテてるな」
「それにしたって、こんなになるものなんですか…?」
「魔法は一見簡単に使ってるように見えても、頭の中では複雑な情報処理が発生してる。無理をすればその分重いフィードバックが来る」
「あっ、この間のミヒロさんの失踪事件と一緒ってことですね」
「うっ……」
ミヒロさんがバツの悪そうな顔をしました。
ミヒロさんは椅子から立ち上がり、気絶したように眠る姉を抱えます。
「……こりゃ今日はもうダメそうだな。寝かせてくる。自分もこのまま部屋で寝るから、カップの片付けを頼む」
「あ、はい」
気不味くなったのか、逃げるようにこの場を去ってしまいました。
余裕だと思っていた初日から一転してこの状況……。
このままだと、不味いかも……。




