姫廻ヒメ③
飛行魔法で飛んでいくミヒロたち、その後ろ姿をパークス第一支部30階の窓から見つめる魔族がいた。
支部長、姫廻ヒメである。
「ヒメちゃん、勝負なんて仕掛けて良かったんすかぁ〜?」
背後から声を掛けてきたのは稲鶴アスカだ。
「その呼び方はやめなさいって言ってるでしょ」
「いいじゃないっすかー。可愛い名前なんですから」
この二人の間では恒例のやりとりだ。
「……無理矢理引き剥がしてもよかったけど、それじゃ、あの子達も可哀想でしょ」
「とかなんとか言って、ミヒロさんと勝負したかっただけっすよね?」
「…………」
図星だった。
もちろん、先程述べた理由も本心ではあるが、一番はあの憎き日比谷ミヒロを負かしたかったのだ。
「あーあ、特にヒナタちゃんは期待の新人だったのに勿体ないことしちゃったっすね」
「何?私が負けるとでも言いたいの?」
「多分勝てないっすよ。ヒメちゃんは」
即答だった。
「あんたねぇ……。どっちの味方なのよ」
「基本的にはヒメちゃんの味方っすけど、今回の勝負にあたしは無関係っすから」
「……まあいいわ。とにかく勝つのは私よ」
再び窓の外を見る。日比谷ミヒロの姿は既に見えなくなっていた。
「ヒメちゃん頑張れ〜」
「いい加減にしないと殴るわよ?」
「おーい。起きろ。着いたぞ」
「んあ?………はっ!?私、寝てました?」
「ぐっすりだったな。ほら降りろ」
ミヒロさんに促されるまま背中から降ります。
「ソラいいな〜。ミヒロさん、今度私もおんぶしてよ」
「やらん。お前飛べるだろ」
「そんなぁ」
「早く入りましょうよ」
そう二人に声をかけて、事務所の扉に手をかけます。
一足先に中へ入ると……。
パンッ!!
「うわっ!」
クラッカーの乾いた音が響き、カラフルなテープが降り注ぎました。
「ソラちゃんおかえり〜!!いぇ〜い!!」
盛大に出迎えてくれたのはスペースの事務担当の安藤エミさんでした。
事務所の中は折り紙で作られた装飾が飾り付けられていて、玄関から真正面の壁には『祝!退院』と書かれた派手なボードが掛かっています。
「えっ、何じゃこりゃ」
後から入ってきたミヒロさんも驚いています。
「これ全部、エミさんが一人で?」
「せっかくソラちゃんが戻ってくるんだから、お祝いしないとって思って。ほら、ケーキもあるよ」
テーブルの上にはきれいなショートケーキが用意されています。
「わーっ!!ケーキだ!!」
大興奮の姉。
「お前が一番喜んでどうする」
「まあまあ、早速食べようよ」
こうして、ささやかなパーティーが開かれました。
楽しい一時でしたが、私はパークスとの対決が気掛かりで………。




