スペースへようこそ④
全然寝られない。
あの人は仕事だって言ってましたけど、どれくらいで戻ってくるのでしょう。
一方で、たまに揺すったり声をかけたりしているのに、姉は全く目を覚ます気配がありません。
昔からよく動いてよく寝る人ですが、昼間にあんなことがあったから、余計な心配をしてしまいます。頭の打ちどころが悪かったんじゃないかとか。
そんなこんなで、時計も無い部屋で何時間か(もしかしたら1時間も経ってないかもしれませんが)経った頃、また玄関の開く音が聞こえてきました。
助けてくれたお姉さんかと思いきや、現れたのは、また別の女性でした。角はありません。なんだかふわふわした雰囲気の人です。
「こんばんは。ミヒロちゃんに話は聞いてるよ。お腹空いてるでしょ?ご飯作ったから、もしよかったら一緒に食べない?」
「あっ、食べます!」
目が覚めた時からずっと空腹だったので、つい食い気味に返事をしてしまったのが恥ずかしいですが、お姉さんはニコニコして嬉しそうです。
「えっと……、すみません。脚が酷い筋肉痛で、ここから動けそうにないので……」
「あ、そうなんだ。ごめんね?そっちに料理持っていくから」
「ありがとうございます。助かります」
お姉さんはパタパタと小走りで部屋を出て、しばらくすると、両手にお皿を持って戻ってきました。
「はい、召し上がれ」
渡されたのはカレーライスでした。魔獣防衛区なんて物騒な場所でも、こういう人の温もりが感じられる料理を食べられるのかと少し驚きました。
「いただきます。…………美味しいです」
「そう、良かった」
しばらくお姉さんと一緒に黙々とご飯を食べていると、匂いに釣られたのか、ようやく姉も目を覚ましました。
「………あれ?ここどこ?」
そういえば、ここはどこなのでしょう?食べるのに必死で聞くのを忘れていました。
「ここは『スペース』っていう魔獣駆除組織の寮だよ。あなた達は魔獣に襲われたところを、うちの代表のミヒロちゃんに助けられて今ここにいるの」
「スペース………?聞いたことない組織だなぁ」
「まあ、ここはミヒロちゃんと私しかメンバーいないから。求人も出してないし。そういえば、自己紹介まだだったね?私は安藤エミ。スペースでは事務を担当してます。下の名前で呼んでくれると嬉しいな」
「私は犬井ヒナタです!こっちは妹のソラ」
「ソラです。よろしくお願いします」
「ヒナタちゃん、ソラちゃん、よろしくね〜。あ、そうだ。ヒナタちゃんも晩ごはん食べる?」
「食べます!」
「元気いいね〜。じゃあ、持ってくるから待ってて」
そう言うと、エミさんは部屋を出ていきました。
「……それにしても、ほんと危なかったね」
ポツリと姉が呟きました。
「………」
私はそれには答えません。
そもそも、姉が魔獣防衛区に行くなんて言わなければこんなことにならなかったんです。
いくら家族のためとはいえ、こんな自分の命を粗末にするようなこと、認められない。
私が返事をしないので、姉も黙り込んでしまいました。
【キャラクタ―、作中用語、設定解説】
・スペース
魔獣駆除組織の一つ。
メンバーは日比谷ミヒロ、安藤エミの二人。