土竜③
「あ……み、ミヒロさ…ん………良かった……無事……で………」
そう言うやいなや、だらりと垂れ下がるソラの腕。
「あっ、おい!!………って、気絶しただけか」
心音を確かめると、トクントクンと小さな鼓動が聞こえ、ホッと胸を撫で下ろした。
さて、次なる問題は、この魔獣をどう倒すかだ。
逃げることもできるが、できれば被害が広がる前にこの場で駆除しておきたい。
「モグラの魔獣か………」
元のモグラから大きくかけ離れた体躯や、街中の地中を自由自在に移動できるという魔獣の中でも異常な運動能力からクラスは恐らくA。並の攻撃魔法は効き目が薄いだろう。
先程のソラが襲われる様子から、攻撃方法は地中からの奇襲ということは分かっている。
ヤツが地中にいる今は地面が振動しているが、振動から攻撃タイミングを読むことは難しそうだ。
しかし、今、ヤツはこちらを攻撃できないはずだ。
ソラを助けて地面に着地したあと、自分はその場から一歩も足を動かしていない。恐らく、ヤツは地上の獲物の動きを感知して攻撃を仕掛けてきているから、今自分がどこにいるかは分かっていない。
きっと今は、見失った獲物を探して地中を動き回っているのだろう。
現にこうして悠長に思考できる時間がある。
一方でこちらの攻撃手段も乏しい。
主武装の大剣は未所持。どこで無くしたのかも覚えていない。使えるのは靴に仕込まれたカッターぐらいか………。
………いや、もう一つある。
「あれは………、初期型の杖か。懐かしいな」
ソラが持っていたのだろう、数メートル先に初期型のカドゥケウスが落ちている。
あれを使えば十分な火力を確保できるが、居場所のわからない敵には無闇に使えない。かえってこちらの居場所を伝えることになってしまう。
ヤツを地上に引きずり出せれば…………。
「………よし、作戦は決まりだな」
ソラを物音を立てないように慎重に地面に下ろす。
そして、落ちている杖の方向へ走り出した。
【キャラクタ―、作中用語、設定解説】
・魔獣のクラス
体内に含まれる活性魔素が濃い順からA、B、Cの三段階が存在する。活性魔素の濃度が高ければ高いほど強力な魔獣になる傾向がある。
魔獣防衛区内に出現する魔獣はクラスBに相当するものが一番多く、次にクラスC、その次にクラスAという順に数が減っていく。




