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月下の光芒  作者: チェックメイト斉藤
魔獣駆除組織スペース
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アドバイス

「ところでミヒロさんが失踪したのってどの辺りなんですか?」


出発から10分ほど、ラボ周辺のトラップを抜けた辺りでサヤさんに尋ねます。


「大体、立入禁止区域から5kmほど離れたこの地点だね。夜間の対魔獣戦における最前線だ」


 サヤさんが見せてくれたスマホの画面には防衛区の地図が表示されていて、私達の位置を示す青い丸の東側に赤いバツの印がつけられています。


「ここから大体20kmくらいの距離だね」


「えっ、この距離を歩くんですか!?」


いくら急いでも5時間は掛かりそうです。ミヒロさんがどういう状態か知りませんが、流石にこんな長時間放置するわけにはいかないのでは………?


「まさか、歩くわけないだろう。こっちだよ」


からかうように笑われながら、目の前にあるアパートの駐輪場へと案内されます。


「これに乗っていく」

そう言って、サヤさんがポンと手を置いたのは原付でした。


「ここに放置されてたのを借りていてね。まあ、借りているとは言っても、当然持ち主に了承はもらってないし会ったことも無いんだが、魔獣が根絶されない限り持ち主は戻ってこないからね。ありがたく使わせてもらっているのさ」


「要するに窃盗ですよね?」


何やら言い訳のようなことを言いながら、道路まで原付を引っ張り出すと、サヤさんはシートに乗り、


「ほら、君は後ろだ」

と、シートの後ろを指差します。


「ところで、サヤさんは免許って」


「無いよ」


食い気味に返答されてしまいました。

大丈夫かなぁ………。





 原付に乗って数分───。


「ヘルメットも無いんですね……」


「僕ら魔族は角が邪魔で被れないからね」

無免許にノーヘルで二人乗りはちょっと命知らず過ぎるな………。




「ソラ君、万が一魔獣に遭遇したとき、君に戦ってもらうわけだが、僕から一つアドバイスだ」


「アドバイス?」


運転しながらサヤさんが言います。


「君がとる一つ一つの行動を君自身が強く意識しながら実行するんだ」


「一つ一つの行動を……?どういうことです?」

凄く分かりにくい言い方です。

サヤさんの言っていることがよくわかりません。



「魔法を使うにはイメージが大事だと何度も言ってきたのは、以前説明した通り、魔素には魔族の脳波で操作ができる性質があるからだ。実はこの性質を利用した面白い現象があってね」


「どういう現象なんです?」


「脳波というのは微弱な電気信号、生物が体を動かすときにも発生するものだ。そして、防衛区内の魔族の全身には大気中から取り込んだ魔素が満たされている。そんな僕らが全力で走るとどうなると思う?」


「普通より速く走れる……とか?」


「その通りだよ。魔素が筋肉を動かす電気信号に反応して、結果的に通常よりも速く走ることが可能になるんだ。ただし、出せるスペックは元の肉体の強さに依存するから、君ぐらいの体だとオリンピック選手と張り合うのが限界だと思うがね」


「いやいや、十分過ぎますよ」


「それに、ただ走るだけじゃ効果が薄いんだ。魔素の補助効果を受けるには、常に『全力で走ること』を意識し続けなければいけない。だが、逆に、意識さえできていれば、君は君自身の肉体の限界のスペックを常に引き出し続けて、魔獣に対して有利に立ち回ることができるはずだよ。」


「なるほど、『一つ一つの行動を意識して実行する』っていうのは、そういうことなんですね」


「納得してくれて何よりだよ。実戦では期待しているからね」


サヤさんが私に微笑みかけます。


「えっと、頑張って…みます。それと……」


「それと?」


「ちゃんと前見て運転してくださいよ!!さっきからずっと危ないですよ!!」


サヤさんの頭を掴んで前へ向けます。


「いてててててて!!!!逆!!回す方向逆だよ!!首が一回転しちゃう!!」


「あっあっあっ、ごめんなさい!!ごめんなさい!!」



ガタンッ

キキーッ!!

ガッシャーン!!!!

【キャラクタ―、作中用語、設定解説】

・魔素の身体能力補助効果

 魔族の体においては、体を動かすために脳が発する電気信号が魔素にも影響を及ぼし、身体能力を向上させることができる。しかし、効果を最大限発揮するには自身のとる行動を強く意識することが必要。

犬井ソラの場合は出せてもオリンピック選手並のスペックと述べられたが、今後体を鍛えれば、さらに高い能力を引き出すことも可能である。

 ちなみに、ep.2にて犬井姉妹が魔獣から逃げ続けられたのは、この効果によるものである。

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