スペースへようこそ②
先程までの生命力はどこへやら、ズシンと重い音を立てて崩れ落ちる魔獣。
魔獣の頭には深々とその女性の脚が突き刺さっていました。
女性の頭には角があります。魔族です。
その人はチラッとこちらを見て、
「………大丈夫?」
ボソッと一言だけ私に声を掛けてくれましたが、上手く返事ができません。
ラフな服装に右手には野菜や肉、お菓子が入ったレジ袋を持った姿はどう見ても、買い出し帰りの大学生といった風貌で、そんな人が魔獣の頭に足を突き刺し、足元には血溜まりが広がっています。そんな日常と非日常がぐちゃぐちゃに混ざり合った光景はあまりに不気味で、そこに先程までの疲労と、極度の緊張から開放された反動が合わさり、私は呆気なく意識を手放してしまいました。
ぐらぐらと体を揺さぶられる感覚がして飛び起きると、そこは見慣れない部屋でした。窓の外には綺麗な夕焼けが広がっています。
「えっと……、私は魔獣に追いかけられて…………、そっか、助かったんだ……」
ふと横に目をやると、姉もすやすやと眠っていました。
額には手当された跡があります。きっと、私が突き飛ばした時にぶつけたのでしょう。
この部屋はあの人の自宅なのでしょうか?物音一つ聞こえない部屋をキョロキョロと見回し、布団から出ようとしますが、脚が重くて全く動きません。それに、力を入れようとするととても痛い。酷い筋肉痛です。
再び布団に横たわり、こんな危険なところに来て本当に大丈夫だったのか、やっぱり地元に戻ったほうがいいんじゃないのか、なんてしばらく考えていると、ガチャリと玄関が開く音が聞こえてきました。こちらに足音が近付き、部屋の扉を開けたのは、やはりあの時助けてくれたお姉さんでした。
「あ、起きてた。体調はどう?怪我とか無い?」
「えっと、走り過ぎて脚が動かないこと以外は特に何も。お姉ちゃんも多分、頭を打ったこと以外は大丈夫だと思います。その…、さっきは助けてくれてありがとうございます」
「そう。それじゃ、自分はこれから仕事だから、ゆっくりしてて」
「あっ、あの……!」
ここはどこなのか知りたかったのですが、お姉さんはさっさと出て行ってしまいました。悪い人ではないみたいですけど、無愛想です。
それに、これから仕事だと言っていましたが、もしかして魔獣駆除でしょうか。
魔獣というワードから、昼間のスプラッタな光景を思い出して気分が悪くなった私は、頭を左右に振って再び布団を被ったのでした。