訓練④
というわけで、ラボの外へ移動して、魔法の練習です。
「よろしくお願いします」
「とりあえず始める前に聞きたいんだけど、今できるのはどこまでだ?」
「攻撃魔法はそこそこできるようになってきたと思います。今は防御魔法の練習中です」
「じゃあ、まずは攻撃魔法を見せてもらおうか」
「わかりました」
そうしてミヒロさんは周囲のガラクタの山の中のとある場所を指差し、
「あそこに黄色いガラクタが見えるだろ。あそこに向かって魔法を当ててみろ」
と私に指示しました。
指差す方向の10mほど先に目立つ黄色い部品が転がっているのが見えます。
そこへ向かって手のひらを突き出し、意識を集中して………。
1発目───
「いきます!」
ビシューン…………ボカン
スフィアは的へ向かう軌道を逸れ、あらぬ方向へ飛んでいってしまいました。
「…………まあ、威力はまずまずと。次」
2発目───
ビシューン…………ボカン
「さっきより離れたな」
「ぐぬぬ……」
3発目───
4発目───
5発目───────
…………ポスッ
1発目とは違い、弱々しい音を立ててスフィアが的に命中しました。
「はぁ………、やっと当たった…………」
成功したのは23発目。急な脱力感に襲われ、その場にへたり込みます。
「ど、どうでしたか………?」
「いや、まあ、『当ててみろ』とは言ったが、吹き飛ばせなきゃ攻撃魔法の意味無いだろ」
「そうですよね………」
がっくりと項垂れます。
そもそも、私はミヒロさんの手本を見たときの印象から、威力ばかりにこだわっていて命中精度なんて全く考えていませんでした。
実戦では魔獣という動く的に魔法を命中させないといけないのですから、どれだけ威力があろうが外してしまえば意味がありません。
「命中精度の他にも問題はある」
「え?他にですか?」
「20発でガス欠は早すぎる」
「そうなんですか?」
「考えてもみろ、たった20発で魔法が打ち止めなんて、まともに戦えるわけがないだろ」
比較相手もいなかったのでそういうものだと思っていたのですが、どうやらやはり私に問題があるようです。
「考えられる原因は2つ。体内の魔素容量が極端に低いか、魔法で消費する魔素が多いかのどちらか、またはその両方だな。ちなみに、お前は両方だ。」
「えっ、両……方………」
さらっと致命的な欠点を告げられ、ショックでガックリと膝を突いてしまいました。
「もうダメだ……努力は裏切る………」
「待て待て。落ち着け。魔素容量については時間が解決する。魔法を使い始めた頃は誰だってそうだ。個人差はあるが毎日消費してれば、日に日に体内に蓄えられる魔素の量は増える」
「そ、そうなんですか……?良かったです」
「問題は魔素の消費量の方だな。確かに、一発の攻撃魔法に込める魔素は多ければ多いほど、その威力は増す。ただ、それだと今みたいに数十発で魔素は底を尽きるだろ?日中の隊員が仕留める魔獣の数は大体50頭前後、1頭仕留めるのに大体5発程度攻撃をするとしたら、1日に必要な弾は最低でも250発分が必要になる。それに加えて、防御魔法、人によっては飛行魔法も使うから、必要な魔素の量はもっと膨大だ」
最低250発必要なところを私は撃てても20発が限界……。
ミヒロさんがわざわざ問題として挙げるのですから、おそらく、魔素容量の問題が解決しても消費量を改善しなければ、実戦ではやっていけないのでしょう。
「というわけで、改善点は二つ。『命中精度』と『魔素の消費量』だ」
「改善するにはどうすればいいですか?」
「まず、命中精度についてだが、以前にも言った通り魔法は脳内イメージの具現化だ。放った攻撃をどういう軌道で飛ばすかをしっかり想像することと、それを実現したいという強い意志が必要だ。これからも今言ったことを意識しながら練習を繰り返すことだな。少しでも思い通りの軌道で魔法が飛ばせれば、それは自信に繋がる。その自信は魔法を自在にコントロールする助けになる」
以前、サヤさんも『魔素は魔族の脳波でコントロールできる』と言っていました。
ただ、イメージだとか脳波だとか説明がなんだかふわふわしていていまいち飲み込めていません。
それをミヒロさんに伝えてみるのですが……
ミヒロさんは少し困ったように頭を掻いて、
「……まあ、とにかく数をこなせとしか言えん。」
と、何の参考にもならないアドバイスをしてくれました。
「次にガス欠問題についてだが、少ない魔素で威力を上げるには、『魔素の圧縮』が重要になる」
「『魔素の圧縮』……?」
「例えば、大きい風船と小さい風船にそれぞれ同じ量の空気を入れて、針を刺したときに勢いよく破裂するのは?」
「小さい方ですよね?」
当然即答です。
「………………」
しかし、ミヒロさんはだんまりです。
あれ?おかしなこと言った………?
「えっと……、大きい方……ですか………?」
「いや、小さい方だな」
「何だったんですか今の!!」
謎の茶番を挟んで説明は続きます。
「まあ、冗談は置いといて、攻撃魔法の仕組みは風船と同じだ。同じ量の魔素でもギュッと圧縮してぶつけたほうがより高い威力を出せる」
「なるほど。それで、魔素の圧縮っていうのはどうやるんです?」
「イメージする」
またそれですか………。
それができれば苦労しないんですけどね………。
私が微妙な顔をしていると、
「まあ、お前が文句を言いたい気持ちも分かる。自分だって説明がざっくりしすぎてると思うしな。だけど、そうとしか説明できないというか…………」
またミヒロさんを困らせてしまったようです。
魔素は魔族の脳波でコントロールできるという性質上、そうとしか説明できないのは仕方のないことなのかもしれません。
しかし、さっきの風船のくだりは分かりやすかったですし、自分で具体例を想像しながら練習するのが良いかもしれません。
「わかりました。自分なりに工夫して練習してみます」
先程から、良い説明ができないかと頭をひねっているミヒロさんに声をかけます。
「………そうか。それじゃ、また週一くらいで様子を見に行くから」
「はい。お願いします」
ラボにて────、
「はぁ!?帰ったのか!?僕に会わずに!?」
「帰っちゃいましたね」
そういえば、ミヒロさんとは玄関で少しやり取りをした後に魔法の指導をしてもらっていたので、結局ラボの中には入らず仕舞いでした。
「会いたかったんですか?」
「い、いや、別に会いたかったわけではなくて……、修理を頼まれてたものがあってね……」
何やら少し照れながら、机の上に置いていたダンボール箱を持ち上げると、部屋から出ていってしまいました。
あの箱、何が入ってたんでしょう。




