訓練②
───昼食後、研究開発室。
「魔法を使うためには、まず体内に流れる魔素を感知するところからだ。昨日の処置で魔素の通り道は開いているはずだから、そこに外部から魔素を流して感覚を掴んでもらう」
「なるほど」
「と、いうわけで、もう一度これに座ってくれるかね」
「嫌です」
「かなり食い気味の返事だったね今」
食い気味になるのも当然です。
何故なら、目の前にあるのはあの忌々しい………えっと………圧縮魔素…何て名前でしたっけ。
「『圧縮魔素強制伝導装置』。愛称は『きゅうべえ』だ。仲良くしてやってくれ」
「何ですかその愛称。絶対座りませんからね!!」
あんな惨めで恥ずかしい思いをするのは二度とごめんです。
「まあまあ、落ち着きたまえ。実はきゅうべえには昨晩改造を施していてね。外部装置で流す魔素の量を五分の一ほどに抑えている」
「つまり?」
「気絶はしない。安心したまえ」
「それなら………まぁ………」
とりあえず気絶の心配が無いならと、渋々椅子に座ると、昨日と同じように再び体を固定され、ヘルメットを被らされました。
「あの……、本当に大丈夫なんですよね?」
「君は心配性だな。この僕が設計したんだ、どーんと任せたまえよ。さて、電源を入れるぞ」
ブィィイイーーン────。
昨日は聞かなかった不気味な起動音が部屋に響きます。
それから数秒で両腕がむずむずとしてきました。
「あの、なんだか……腕が──」
「むず痒いだろう。掌には魔素の放出器官がある。今、外部から僕の魔素を流し込んでいるのだが、体内に溜めきれなくなった過剰な魔素が掌から出ていっているというのが今の君の状態だ。」
不安を払拭するように、私の状態を丁寧に説明してくれています。
「このぞわぞわする感覚をよく覚えておくんだ。装置が無くても自力でこの状態を引き起こせるようになるのが、今の君の目標だ」
「はい、頑張ってみます」
その後は装置を装着した状態、外した状態で交互に魔素放出の練習を繰り返しました。
練習を始めてから3時間ほど経った頃でしょうか。
「あ!サヤさん、これ出てますよね!?」
装置無しでも分かる右手の感覚に思わず興奮し、離れたところでパソコンをいじっていたサヤさんを呼びつけました。
「ふむ………」
「どうです?」
「少々不安定だが魔素は出ているね。おめでとう。繰り返してるうちに安定してくるはずだ。」
「はぁ、良かったです」
ひとまず、スタートラインに立てたようで一安心です。
一安心なのですが………。
「急にうずくまってどうしたんだい?」
「すみません、気分が悪くなってしまって………」
視界がぐにゃりと歪み、頭がガンガンと痛みます。
吐き気も酷いです。
「うーむ……、外部から許容量を超える魔素を断続的に流し続けたせいか?言うなれば『魔素酔い』といったところか……」
酷く痛む頭を抱える私を余所に、サヤさんは思索に耽っています。考えてる場合じゃないと思うんですけど………。
「うっ………、もう無理、吐きます……」
「えっ?うわーっ!?待て待て!!」
「おぇぇぇえええええ………」
こうして、私の訓練は最悪のスタートを切ったのでした。
【キャラクタ―、作中用語、設定解説】
・圧縮魔素強制伝導装置の愛称
某魔法少女アニメのとあるキャラクターが由来。




