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月下の光芒  作者: チェックメイト斉藤
魔獣駆除組織スペース
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人体実験③

 処置が完了したのか、自動的にベルトが外れ、姉はそのままミヒロさんに別室へ連れていきました。

ミヒロさんに担がれた姉の目と口は半開きになっていて、それぞれ涙と涎が垂れ流しの酷い表情をしています。


「ひぃっ!!……あの……、これほんとに大丈夫なんですか………?し、死んだりとか……」


「死なないだろう。多分」


「多分って!!」


「ははは、冗談だよ。過去十数回テストをしたことがあるが、いずれも後遺症などは見られなかった。ただ───」


「ただ?」


「被験者の何人かは『あれが走馬灯か』だとか、『川の向こうで死んだおばあちゃんが手を振っていた』とか、いくつか報告が上がっているね」


「本当に大丈夫なんですよね!?」



 そんな事を話していると、ミヒロさんが戻ってきました。


「ん?まだ座ってなかったのか。早くしろよ。」


「えっ、あの、心の準備が……」


「あまり人を待たせるものではないよ、ソラ君。人生は有限なんだ」


「あ、ちょっ、力つよ……」


抵抗虚しく椅子に固定され、口にハンカチを詰められてしまいました。

心臓が早鐘を打ち、息が荒くなります。


「んーっ!?んーっ!?」



「よし、準備完了だ」



「じゃ、いくぞ」


バチバチッ!!

私の抗議の声には微塵も耳を傾けず、粛々と刑は執行されてしまったのでした。





………あっ、おじいちゃんだ……。

こっちに来いって言ってる………。







 目が覚めると、そこは知らない部屋のベッドの上でした。……ラボの中なのでしょうか。


「お。起きたようだね」

隣には、ノートパソコンを膝に乗せてベッドに座っているサヤさんがいました


「サヤさん……」

処置が終わってから、ずっと隣にいてくれたのでしょうか。


「おいおい、そんな恨めしそうな目で見るんじゃないよ。それとも何だ、待ってやれば自ら進んで椅子に座ったのかい?」


「それは………」

正直、自分からあの椅子に座る覚悟はできなかったと思います。

けど、あれは流石に酷いでしょ!!同意もしてないですし。



そんなことを考えていると、サヤさんから質問が飛んできました。

「で、どうだった?」


「あ、おじいちゃんが見えました」


「そうではなくてだな………。………いや、それも気になるが、体に変化はあるかい?」


言われて、自身の体を見たり、触ったりしてみますが………。

「………特には何も」


「そうかい。どうやら君は鈍感なようだ。魔法の上達には少し苦労するかもしれないね」


「……そうですか」

向いてるだとか、向いてないだとかはあまり聞きたくなかったですね………。



「ま、処置は正常に完了してるんだ。正規の方法よりは遥かに短期間で魔法を習得できるさ。頑張りたまえ。」


「はい。やってみます」


と、ここでお腹から大きな音が。

「あ………」

恥ずかしい…………。



「ははは、空腹かね。まあ、既に午後2時を回っているからね、無理もないだろう。ベッドから出たまえ。カップ麺をご馳走してやろう」


そう言って立ち上がったサヤさんが白衣のポケットから見慣れた布を取り出し、私に差し出しました。


「?えっと……、これ、は!?」


「ほら、早く穿きたまえよ。あ、洗濯はしてあるぞ」


その布を見た瞬間、下半身の違和感に気付きました。

その瞬間、カッと顔が熱くなり、サヤさんの手からその布を引ったくります。


「な、なな、何で!?」


「えーっと………、あの椅子はだな…、一瞬で人体に膨大な量の魔素を流してショックを与えるんだ。だから、その、当然あんなものを喰らったら、誰でも失k」


「待って!!それ以上言わないでください!!」


ああ、そんな………15歳にもなって、こんな………。

ショックで肩がわなわなと震え、目から涙が溢れてきます。


「ま、まあ、落ち着きたまえよ。誰だってそうなるんだ。現に君の姉だって───」


「そういう問題じゃないんですよぉ!!!!何で先に言ってくれなかったんですか!!!!」

恥ずかしさやら怒りやらが混じった悲痛な叫びがラボに響き渡りました。




…………もう、お嫁に行けない……。

【キャラクタ―、作中用語、設定解説】

・圧縮魔素強制伝導装置

ヒナタとソラに魔法能力を与えた装置。

魔族の体内には魔素伝導器官と呼ばれる魔素の通り道がある。防衛区に来て、その通り道に魔素が流れるようになるまで二、三ヶ月かかるとされているが、この装置で圧縮した魔素を瞬間的に全身に流すことにより、魔素の伝導器官を強制的にこじ開けることができる。

処置の際には全身に激痛が走り、被験者は半日ほど意識を失う。

デメリットも無く、安全に被験者に魔法能力を与える素晴らしい装置ではあったが、処置の絵面の恐ろしさ、処置の際に周囲に晒すことになる醜態の二点が実用化への大きな障害となり、今回使用された試作品一機が作られるのみとなった。

愛称は『きゅうべえ』

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