人体実験①
ルンパ事件から二日後の朝。
私達はミヒロさんに呼び出され、再びラボへ向かうことになったのですが………。
「あの、ミヒロさん」
「何だ」
「えっと、怪我は……?」
「あんなの二日もあれば治るだろ。」
二日あればって………、私達の擦り傷は全然治ってませんが?
「いやいや、無理があるよそれは」
姉のツッコミも入りました。
しかし、あの目も当てられないような酷い大怪我が跡形もなく消えているのは事実ですし、そういうものだと受け入れるしかなさそうです。
もしかして、これも魔法の力だったりするのでしょうか。
「それじゃ、行くぞ。……おい、聞いてるか?」
「あっ、すみません。今行きます」
こうして、再びスペースを離れ、ラボへ出発しました。
ラボまでの道中。
「あ、そうだ。安藤さん、お前らの怪我のことで何か言ってたか?」
「怪我したのはバレちゃいましたけど、派手に転んだんですって誤魔化しておきましたよ。あまり納得されたようには見えなかったですけど……。あと、手当もしてもらいました」
「そうか。ならよかった」
今回は一度通った道なのもあって、するすると罠を通過していきます。
程なくしてラボに到着しました。
出入り口までガラクタが退かされ、細い一本道ができています。
その道を通り、ラボの中へ入りました。
外がアレなので予想はしていましたが、ラボの中も………。
「汚い……」
「ほんとにな」
素っ気ないミヒロさんの返事。
外と同様に、ゴミが散らかる床に人が通れる最低限の隙間が空いています。
その隙間を縫うように進み、『研究開発室』と書かれたドアの前に辿り着きました。
「入るぞ」
ミヒロさんに続いて私達も部屋へ入ります。
そこには私達よりも更に背が低い、レンズの分厚い眼鏡をかけた魔族がデスクチェアに座っていました。
「君らがスペースの新人か?」
レンズの向こうの気怠げな瞳がこちらを見つめています。
「はい、そうですけど……」
そう答えると、彼女はおもむろに立ち上がり───、
「この度は、私の不注意で貴女達の命を危険に晒してしまい、申し訳ありませんでしたッ!!」
───私達の目の前に土下座しました。
突然の謝罪に呆気にとられていると、
「えっ、えっと……、もしかして、ルンパのこと?」
姉が尋ねます。
「はい、その通りです。一歩間違えば取り返しのつかないことになっていました。本当に申し訳ありません!!」
その人はお手本のような綺麗な土下座を維持したまま謝罪を続けています。
「ま、まあ、危ない目には遭いましたけど、こうして皆無事なわけですし、これを期に今後の生活を改めてくれればいいじゃないですか。だから、顔を上げてください」
それに、初対面の相手にいきなり土下座されるのも落ち着かないです。
「……許してもらえますか?」
「はい、許します」
そう答えると、
「……………ふぅ、まあ、こんなもんでいいかね」
膝をパンパンと払いながら立ち上がり、さっきまでの真剣な態度から一変して、元の気怠げな態度に戻ってしまいました。
「えっと……?」
何だったんですか?今のは……?
思わず怪訝な顔をしてしまいます。
私達のそんな表情を見た彼女は、
「いやね?君らに誠心誠意謝罪しないとミヒロが殴るっていうからさ、わざわざ床掃除までして頭を下げたのだよ。まあ、ここまでやったんだ。これで良いな?ミヒロ?」
そう言ってミヒロさんの方へ振り向くと、その顔面に鉄拳がクリーンヒットしたのでした。




