腐れ縁②
北条はそれから5分ほど啜り泣いて落ち着いたのか、再び口を開いた。
「そういえば、用事があったのではないのかね。君が食料配達以外でここに来るとは珍しい。」
「あぁ、それだけど、お前、何年か前に新入り魔族をその場で魔法を使えるようにする装置作ってたろ?アレ、まだあるか?」
「………あれなら恐らく倉庫の奥の方で埃を被ってると思うが、何に使うのかね?」
「そりゃ、新人に魔法を使えるようにするんだろ」
「……へ?何だ?もう一度言ってくれ」
「…うちの新人に魔法を使えるようにする。それ以外に用途無いだろ」
「…………えっ、雇ったのか!?君が!?」
先程殴ったときの悲鳴より更に大きな声で驚く北条。
コイツがこんなに驚く顔を見るのは初めてかもしれない。
「……文句でもあるのか?」
「いや、まさか、度を超した人嫌いだった君が新しく人を雇うとは………丸くなったものだね」
そういう北条の顔はニヤけているとも微笑んでいるとも取れる妙な表情をしていた。
その表情にイラッとしたが否定はしない。自分の変化は自分が一番よく分かっている。
「ま、とりあえず、装置の件は了解したよ。明日、倉庫から出してきてくれれば、チューニングはこちらでやっておこう」
「ん、頼む。それと、今日はここに泊まってくから」
「あぁ、エミ君だな?そちらも了解した。傷が癒えるまでゆっくりしていくといい」
「そうさせてもらう」
睡魔が限界だ。
休憩室へ移動し、ベッドに潜る。
そのまま気絶するように眠りに落ちた。
さて、僕もそろそろ寝るか。昨晩は外で凍えていたので、まともな睡眠がとれてない。
プルルルルルル………
………電話だ。相手は……エミ君か。
「もしもし」
〈サヤちゃん、お久しぶりです。ミヒロちゃんはいますか?〉
「あぁ、今はぐっすり眠っているよ。起こそうか?」
〈いえ、そのまま寝かせてあげてください。最近、私達全然連絡とってなかったじゃないですか?久しぶりにサヤちゃんの声が聞きたいなと思いまして〉
………今すぐ寝たいところだが、せっかくだ、付き合ってやろう。
しばらくお互いの近況を話した後に、話題はミヒロの変化についての話に移った。
「そういえば、ミヒロがスペースに新人を雇ったというのは本当かね。さっき本人から聞いたのだが、正直信じられん。」
〈本当ですよ~。五日か六日前だったか、日中に魔獣に襲われてたって双子を連れてきて〉
「二人もいるのか!?」
〈ふふっ、そうですよ。それで、その双子のお姉ちゃんの方が『スペースに入りたい』なんて言い出しちゃって、その子達は元々パークスに行く予定でしたし、ミヒロちゃんも断るだろうなぁなんて思ってたら、すんなりOK出しちゃって、私にも信じられませんよ~。どういう風の吹き回しなんですかね?私なんて初めはあんなに嫌われてたのに〉
「ははは、そんなこともあったね。でも、なんだかんだで今は君も受け入れられてるじゃないか。」
……ミヒロが今日ここに泊まるのも、君を気遣ってのことだからね。エミ君には言わないが。
〈そういうサヤちゃんは私よりミヒロちゃんと付き合い長いですけど、ミヒロちゃんとはどうなんです?〉
「うーむ、僕か?………正直、彼女とはあまり相性が良いとは言えないな。ここまで付き合いがあるのは、俗に言う腐れ縁というやつさ」
腐れ縁というよりは、ある種の呪いに近いかもしれないがね。
【キャラクタ―、作中用語、設定解説】
・北条サヤ
25歳。魔族。
ラボの主。
主に魔獣駆除用の装備開発を行う。
ズボラな性格。
発明品に変な名前を付けがち。
・ラボ
研究開発以外に、北条サヤの住居を兼ねる。




