『お掃除』ロボット④
ミヒロさんに言われた通り、もと来た道を引き返します。
罠は一応、人が掛からないように仕掛けに目立つ印がついているので、余程の節穴でなければ無事に帰れると思います。
なるべくあの場から早めに離れたいのですが、姉の足取りは重く、私に手を引かれてトボトボと歩いています。
「ミヒロさん、大丈夫かな………」
「本人が大丈夫って言ってたんだから、大丈夫だよ。……多分」
「ソラは心配じゃないの?」
「心配だけど……」
……正直、初めて会った時の身体能力やさっきの頑丈さを見た感じ、あんな状況でも意外となんとかなるんじゃないか………なんて考えが頭の隅にあります。
流石に姉には言いませんが。
歩いているうちに最初の罠、行きでは最後だった地雷原に辿り着きました。
ほんとに危ないですねこれ………魔獣対策とはいえ、何もここまでしなくても………いや、これ使えるかも?
「お姉ちゃん、もしかしたらミヒロさんを助けられるかも」
…………………。
ラボヘ戻ると、まだルンパが赤い光を出して周囲を索敵し続けていました。
しかし、先程とは違う点が一つ。
ミヒロさんが隠れていたはずのゴミ山がぐしゃりと歪に潰されていました。
もしかして、あの下にミヒロさんが……?
嫌な考えが脳裏をよぎります。
姉も同じことを考えたのか、顔がみるみるうちに青ざめて、目には涙が浮かべています。
「……た、助けないと………」
姉の呟き。
私も同意です。
ミヒロさんはあれだけ頑丈だったんです。今からでも間に合うかもしれません。
それに、あんな機械を放っておくわけにはいきません。
作戦開始です。
手頃なサイズの金属片をルンパヘ向かって投げつけて、気を引きます。
三つほど投げつけたところでルンパがこちらへ振り向きました。
赤い光に照らされ、心臓が早鐘を打ちます。
「来た!!」
ルンパがタイヤをギュルギュルと回転させ、こちらへ向かってきたのを確認し、私達は走り出しました。
目指すは地雷原。
案外ルンパのスピードは遅く、全力疾走でなくても10m程の距離を保って逃げることができました。
地雷原ヘ誘導するのですから、速すぎず遅すぎず、一定の距離を保って逃げ続けることを意識します。
もうすぐ罠へ到着するというところまで来ました。
ここまでは順調だったのですが……。
「あっ、危ない!!」
数歩前を走る姉がチラリと後ろを見るなり叫びました。
ダダダダダダ!!!!
「ひっ!!」
走っている私の足元に火花が散りました。
後ろを見なくてもわかります。銃です。ルンパが銃を撃ってきました。
一発でも当たってしまえば、ひとたまりもないでしょう。
ですが、罠の場所ももうすぐ。
恐怖心を無理矢理抑えつけて、背後を気にしつつ走ります。
「着いた!!」
遂に地雷原ヘ辿り着きました。
地雷の埋まっていない黄色い線の目印の上を慎重に、且つ急いで渡ります。
ルンパが来る一足先に地雷原を抜け、数メートル走ったところで、
ズガァァアアアアアアアアン!!
凄まじい轟音に思わず耳を塞ぎ、うずくまります。
そこら中にルンパのものと思われる破片やアスファルトの塊が飛び散リました。
後ろを振り返るとモクモクと黒煙が立ち上っています。
「はぁ……はぁ………やった…」
緊張が解けてどっと疲れが来たのか、その場にぺたりと座り込んでしまいました。
いや、座り込んでる場合ではありません。
「行こう、ミヒロさんを探さなきゃ……」
ふらつく脚でなんとか立ち上がります。
そして、ラボへ引き返そうとしたそのとき、
「おー、随分派手にやったな」
「え?み、ミヒロさん!?」
黒煙の中から感嘆の声を上げながらミヒロさんが歩いて来ました。
「無事だったんですね!」
「平気だって言っただろ。………それに先に帰ってろとも言ったよな?」
……睨まれてしまいました。心なしか声のトーンも低いです。
「そ、それはミヒロさんが心配で……、戻ったら居なくなってたし………」
「……そうか。それは………悪かった。」
今にも泣き出しそうな姉の表情を見て、途端にバツが悪そうに頭を掻くミヒロさん。
「まあ、とにかく助かった。ほら、帰るぞ。」
「ラボで魔法どうこうの件はいいんですか?」
「それはまた後日だな。アイツ居ないみたいだし」
目的は果たせず仕舞いなのが引っ掛かりますが、もうすぐ日も暮れてしまいます。
ミヒロさんに連れられ、私達は帰路へつきました。




