『お掃除』ロボット①
そんなこんなでラボへ到着しました。
住宅街の中に急に開けた場所が現れ、そこにはパイプやらコードやらでゴチャゴチャした外壁の円柱形の建物。いかにもSFに出てきそうな、それっぽい研究所といった雰囲気ですが………。
………建物の周囲にはガラクタやゴミ袋の山。
ラボの中には常軌を逸した怠け者がいるようです。
「うっわ……」
「汚いですね……」
「はぁ……、先週片付けたばっかなのに……。ほら、この辺のゴミ退かすから手伝え」
先週片付けた…?
「よく来るんですか?」
「週に一回。ここに住んでる奴の世話を任されててな」
誰に任されてる?ラボにいるのは一人?ミヒロさんとはどういう関係?疑問は尽きません。
「ねーねー、これ使えない?」
唐突に会話を遮り、姉が見せてきたのは何かリモコンのようなもの。
グレーの直方体の天面に大きな赤いボタンが1個。ボタンには黄色い『ON』の文字。OFFが無いのは何故……。
ボタンの下には製品名でしょうか、『ロボット掃除機 RUNPA』と小さく書いてあります。
「いや、どう見ても中華製のパチものでしょ、これ」
騙されやすい人なんでしょうか、これ買った人。
「えー、掃除に使えるかと思ったんだけどなぁ」
「仮にロボット掃除機だとしても、この山の掃除は無理だって」
「あはは、やっぱりそうだよね~。冗談冗談」
そう言って姉はリモコンをポイッと投げ捨てて────、
ポチッ
地面に落ちた衝撃でボタンが押されたようです。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………………
突如鳴り響く地響き。
「え、何?お前ら何かした?」
「あ、いや、えっと………」
気まずそうに落ちたリモコンを指差す姉。
「……………」
ミヒロさんは無言でひっくり返ったリモコンを拾い上げ、数秒見つめた後にポツリと一言。
「またあいつなんか変なもん作ったな………」
と同時に、ゴミ山を掻き分け、直径が3mはあろうかという巨大なロボット掃除機『ルンパ』が姿を現しました。
異様に大きいことを除けば、見た目は何の変哲もないロボット掃除機です。
「あっ!もしかして、これならこのゴミ山も掃除できるんじゃない?楽できそうでよかった〜」
「掃除か………。掃除ねぇ………。アイツがそんなことのためにロボットなんか作るか……?」
姉が能天気なことを言う一方で、ミヒロさんは何やらブツブツと考え事をしている様子。
確かに変です。掃除ロボットを用意してあるなら最初から稼働させておけばいいものを、電源を落として放置されてるなんて。
一方でルンパはというと、赤い光で周囲を一通りスキャン(?)したかと思うと、突如、側面のノズルから水を吹き出しました。
「うえっ!!冷た!!」
水をまともに喰らう姉。
これは水拭き機能でしょうか。それにしても、いきなり水拭きなんて、やっぱり壊れているのでは。
それが放置されてた理由……?
吹き出した水は数十秒経っても止まらず、私達を含めて周囲を濡らしていきます。
「いやいや、なんで三人揃ってぼーっと突っ立ってんだ。ほら、あっちで作業するぞ」
ミヒロさんの声で我に返りました。
巨大なロボット掃除機の存在と、その珍妙な行動に私達は思わず釘付けになっていたようです。
ミヒロさんの後ろを付いてその場を離れようとした瞬間、視界の隅に青白い光が見えて────、




