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060.居残り

「ちょっと、お待ち。」


討伐の報告をした後、里長に呼び止められた。


「皆は部屋から出ていきな。」


ぞろぞろとみんなが部屋から出ていった。

成果は里にいる討伐衆全員も聞く。

以前は、長老3人衆と討伐に行った人だけだった。

たまに嶽本と嶽中の長が参加することもあったようだ。

それを討伐衆は全員参加にした。

オレの慌てっぷりを、みんなの前で話すのは恥ずかしいが、

後進の育成に必要だと思ったからだ。

一通りの報告の後、反省とみんなの意見を聞く。

オレの戦い方が参考になるかどうかは分からないが、

「こうすれば良かったのでは」と意見を聞けるのは、

素直にありがたい。

あれ?オレのため?


「お前たちもだよ。」


まだ、机の前に座っていた人たちも、

声を掛けられて出ていった。

父さんノートを見て、新しく導入した制度がある。

里長への報告と一緒に、報酬も里長に渡していたが、

書記と会計を置き、キチンと管理させるようにした。

馴染みやすいように、目付役、勘定方と呼んでいる。

里長が管理してなかったわけじゃないけど、

透明性や明朗会計が何よりだ。

B4くらいの和紙に、版木で様式を刷った。

件名、依頼者、住所、討伐者、状況と結果、報酬、

その他には、依頼日、着手日、達成日、報告(完了)日だ。

前に記録するようにしたものは、

ミミズがいっぱいで区切りが分かんないから、

見にくいのなんのって、手こずったんだ。


()きの文化があって良かった。

売るほどじゃないけど、

自分たちで使う分の和紙は生産してた。

どこでもってわけじゃないけど、

そういうところは意外にあるみたい。

紙は案外、生産可能みたいなので、

ついでに、倒産ノート、おっと、父さんノートにあった、

複式簿記にも手を出してみた。

と言っても、オレもあんまり分かってないし、

作ったのは、食材とか、日用品、農具や武器の出納帳を

分けて記入することだ。

もちろん、金額を出費なら右、収入なら左に記入する。

で、大本の出納帳で差し引きを合わせる。

一番、苦労したのは、横書きだ。

筆で横書きって。

でも、慣れれば、手が汚れないと好評だ。

それに、横書きにすると、続けないんだね。

漢詩のようになってるが、

一字、一字、区切ってくれるので読みやすい。

アラビア数字にも慣れてくれたし、見やすさUPだな。

そのうち、えんぴつも考えてみようか。

それより、国語教育を取り入れてみようか。


「さて、鈴音のことだよ。」


ボーっとしてた。

里長に呼び止められてたんだった。


「おまえ、鈴音に何もさせなかったのかい?」


「いや、後方支援をしてくれてたよ。」


「後方支援?」


「えっと、兵站(へいたん)ってなんて言えば・・・、輜重(しちょう)隊?

 ん~と、戦で兵だけが行っても、腹が減るでしょ?

 兵糧を運ぶ人が大事じゃない。」


「何だい?小荷駄のことかい?」


「こにだって言うのか。ああいう、休みなく、

 何日も次々、敵が群がってくるような状況は、

 籠城と一緒だよ。

 戦う人と支える人が手分けして

 事に当たった方がいいと思ったんだ。

 鈴音の能力はあの状況には向いていないようだったし、

 初めての討伐だろ?無理させる必要はないと判断した。」


「・・・」


里長はジロッとオレを見るが、一つ息を吐きだして、


「もう、おまえが頭領だ。頭領がそう判断したんなら、

 あたしが口を挟むものじゃない。

 ただ、覚えておいておくれよ。

 鈴音は、数少ない、力を持った子なんだ。

 それをおまえに預けてある意味をね。」


「分かってる。」


プレッシャーだが、そう言うのも仕方ない。

数少ない能力持ち。

一人前に育てろっていうんだろ。

部活の後輩とは訳が違う。

戦場で女の子を預かる難しさは、ヒシヒシと感じている。

頭領となって、初めて真っ新な子を預かったんだ。

一人前にしてやるさ。


「じゃあ、もう、いいかな?」


これ以上、プレッシャーを与えられないように、

オレは席を立とうとした。


「待ちな。これからが本題だよ。

 おまえ、がんばってんのかい?」


「がんばるって?」


「ほら、討伐がない時だよ。屋敷にいるんだろう。

 おまえの仕事さね。励んでいるのかい?」


励む?

あー、これは、アレだな。

終わったと思ったけど、まだ、続いてたんだ。

いや、さっきのは前フリだ。

こっちが本題って言った。

頭領は里のみんなを率いなければならない。

それは、里の運営にも責任があるということだ。

あの信長はじっとしていられない質もあって、

とにかく行動が早かったらしい。

信長といかなくても、自分から動くトップと

偉そうなだけで動かないトップでは、

会社の業績に影響してくるのは間違いない。

オレにもそれを期待されるのは厳しいが、

頭領に相応の働きを求めるのは当たり前だ。

里のみんなを幸せにするってことは何か。

それはもちろん、腹いっぱい食えるってのが第一だ。

討伐はがんばっているけど、

収支って言われると、正確には掴めていない。

これは理由がある。

今までも多少の記録はあったけど、

書付や受取書の束であって、まとめたものじゃなかった。

感覚的に悪いってわけじゃないと思うけど、

前年対比とか、オレには分からないところがある。

10年先を見越して、計画的な貯えがいるかもしれない。

勘定方が機能して初めて見えてくるものがあるだろう。


「討伐は、オレが全部、行っているわけじゃないので、

 全てを把握してるってわけじゃないけど、

 感覚的に黒字、えっと、儲けが出てるように思う。」


「討伐衆はよくやってる。

 それに、あれは、やらなければならないものだ。

 儲けはある程度、目をつむってもいい。

 おまえと佳月のおかげで、米は蔵に余ってるからね。

 話はそのことじゃない。」


違うのか。

もしかして、個人の稼ぎの話か。

「佳月に(みじ)めな思いをさせてないのか」っていう。

その話はいつか出るかもしれないとは思ってた。

以前と今の差は分からないけど、

佳月さんは里姫として大切にされてきた。

オレと結婚したことで、

生活レベルが下がったのは間違いないだろう。

オレの討伐でもらう個人報酬の他に収入はない。

それもあって、狩りをしているところもある。

討伐衆は農作業を免除したが、

気が引けて、少し農作業を手伝っている。

なぜならば、米や野菜をもらっているからだ。

技術改良をして収穫量が上がったが、

時代が時代なのに、みんなと同じ作業をせずに、

もらうだけというのが気が引ける。

佳月さんの侍女&護衛の葛葉、

頭領付の侍女&護衛の三郎さん、

普通、使用人はオレの金で養うべきだろうけど、

佳月さんが「里から手当が出ている」と言っていた。

もちろん、頭領と里姫の体裁を整えるための費用だから、

里が面倒を見るのが当然と思いたいけど、

家族5人で生活している人もいるんだから、

金をもらっている時点でダメだろう。


「一応、討伐の報酬があるでしょ。

 それ以外でも、鹿とかを獲ってきて、

 米は、作業が免除になっているけど、

 それなりには手伝っているし、

 食うには困っていないです・・・」


狩ってきた獲物は里に配るほどだし、

米の生産力も上がったから、

それなりに稼いでいると言えなくもない。

しかし、着物などの生活必需品を買うとなると、

買えるほど貯金ができているのだろうか。

イマイチ、この時代の物価が分かんないんだよ。

生産が安定してないから、価格の乱高下が激しいし。

佳月さんに全部渡して管理してもらってるから、

一度、ちゃんと話した方がいいかもしれない。

苦しそうなら、取ってる皮で革製品を作ってみようか。


「何の話だい。佳月とだよ。屋敷でいる時の話さ。」


あっ、あー、そっち?家事分担!?

この時代でも言われるとは思わなかった。

てっきり、頭領たるものって感じかと。


「手伝おうとするんだけど、女の人が3人もいるので、

 手が足りてるって、家事はしてないんだ。」


里長に説明する。

そうなんだ。

さすがに女の人が3人もいれば、

慣れないオレが手を出さない方が早く終わる。

どちらかというと、オレが終わるのを待ってると、

段取りが狂うので、かなり迷惑そうだったりする。

あやも戦力になってるから女4人だ。

手際の良さや女4人の連携は、オレの出る幕なんてない。

そのため、風呂の水を溜めたり、

薪になりそうな木を拾ってきたりしている。

影収納で何てことないし。

その隙間時間に、クロが見つけた猪や鹿を狩っている。

ヒマなのもあるが、ぶっちゃけ言うと、

オレの存在意義のために狩りをしている。


「さっきから何を言ってるんだい。

 女が3人もいるんだ。やることがあるだろう?」


「やること?」


「おまえ、呆れるくらい察しが悪いね。

 三郎と葛葉が頭を抱えてるんじゃないのかい?

 一応、おまえが頭領だから、言うのを(はばか)ってたけど、

 子作りさ。跡継ぎはまだなのかってことさ。」


えっ、ええ~、そっち!?

あ~、そっちだったの!

孫の顔が見たいってやつだったのか!

オレの顔を見て、里長が呆れた顔をする。

オレは真っ赤になる。


「いや、おまえ、何て顔してるんだい。

 先が思いやられるよ。」


露骨にがっかりされてしまった。

あー、それでか。

やっと、2人きりになった意味が分かった。


「まあ、でも、毎晩、することしてたら、

 いくら、おまえでも、そのうち、できるだろう。」


里長は自分を納得させるように、

一語一語、区切るように言う。


「毎晩?」


「あー、討伐で出るのは分かってるよ。

 月の半分は討伐で里の外に出ていたとしても、

 もう半分で子作りすればいいだけのことじゃないか。」


「いや、それが、」


もちろん、夫婦だ。

誰に遠慮することもない。

やましいことなんて何もない。

と、なれば、そりゃもう、なんたって!!

オレだって男だもの、年頃だもの、そりゃそうでしょ!

・・・と、言いたいところなんだけど、

あやが泣いた。

オレ、あや、佳月さんで川の字で寝ていたのに、

急に自分だけ、「違う部屋で」と言われたのだ。

「何で佳月お姉ちゃんはいいの???」となるわけだ。

あやのことはかわいいが、

今まで通り3人で寝るわけにはいかない。

あやを挟んで、空中での攻防ができるわけがない。

オレの急降下爆撃に、佳月さんが空襲警報を上げても、

黒炎で無音化できそうな気がするが、

その前に第3国の動向が気になって集中できない。

もちろん、あやに説明するわけにもいかない。

コウノトリがって、納得するか?

運んでくるところなんて、オレも見たいわ!

で、順番に、オレともう1人の交代制で落ち着いた。

だから、佳月さんと寝るのは、4日に1度。


「何をやっているんだい。」


里長は通り越して、しかめっ面だ。


「すみません。」


オレはいたたまれなくて、畳の上で小さくなる。


「じゃあ、あれかい?

 葛葉と三郎にも手を出していないのかい?」


「はぁ?何のこと?」


里長は怒りだした。


「いい加減におし!何のための女だと思ってんだい!

 頭領に佳月だけというわけがないだろう!

 佳月が正室、葛葉と三郎は側室なんだよ!

 女に慣れてなさそうだから、お膳立てしたんだよ!

 侍女ってのは、お手つきが当たり前なんだよ!」


「危ない!」


興奮しすぎたのか、里長がふらっとする。

これだけの元気で忘れがちだが、ずいぶん高齢だ。


「興奮するから。」


「誰がさせてると思ってるんだい。」


里長がお茶に手を伸ばした。

肩で息をしている。


「前に、里に子供が少ないという話をしたね?」


「はい。」


「食べるものは大丈夫になった。

 病気になる者も、この前の冬はいなかった。

 あとは血なんだよ。」


「血。」


「それも、力を持つ者の血。

 おまえは、佳月、里姫の霊獣を得ることができた。

 それは、この里の血と相性が良いってことだ。

 血族を大事にしてきたんじゃない。

 霊獣を失なわないようにしてきたんだ。

 おまえなら、血を薄めず、里を保てるんだ。」


里長が静かにオレの目を見据えてきた。

どう言っていいかも分からず、身の置き場がない。


「おまえが気に入ったなら、里の誰に手を出してもいい。

 それぐらい、おまえには期待してるんだ。

 早く、次の里姫を産ませな。」


汗が出てきた。


「でも、オレの子がそうなるとは、」


「だから、いろんな女に産ませるんだよ。」


オレの言葉を遮るように、里長が口を開く。

有無を言わせない口調だった。


「この話、葛葉や三郎さんは?」


「もちろん、話をしたから、屋敷にいるんだよ。」


おそらく、世のお父さんは、

こういう時に一杯、引っかけて帰るんだろう。

オレの家は隣だから、駅もなければ、居酒屋もない。

気持ちが重くなりながら、屋敷の門をくぐった。

いつものように迎えてくれる笑顔が、なぜか違って見えた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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