059.お稲荷さん③
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
年末年始は寒さで凍えて、猫ならず、ダメ人間製造機で亀になっていました。
くんくん
「いい匂いがする。」
―おお、気がついたか。―
「頭領、無事ですか?」
起き上がろうとしたが、頭が重い。
鉛のようにっていうのが、こういうことなんだろう。
うつ伏せの状態から手をついて上半身を起こしたが、
突っ伏して、しばらく固まってしまう。
頭が全然、働いていない。
添えられた手を追って顔を見たが、誰だ?
ああ、鈴音か。
ああ、お稲荷さんのところ。
少しずつ記憶が戻ってくる。
背中に重みを感じた。
葛葉がオレに体を預けるように寝ていた。
「葛葉、」
「うう~ん。」
―寝かしといてやるのじゃ。
おまえが気を失った後、がんばってくれたのでな。―
オレが気を失った後、2回もポップしたようだ。
お稲荷さんが「大丈夫」と言った後の記憶がない。
大失態だ。
大丈夫じゃなかったら、死んでいた。
葛葉の金剛拳と神化したお稲荷さんの力で退治したらしい。
「すみません。気を抜いた。」
―大丈夫じゃ。おまえはがんばってくれたからの。
それに、我も神になったのじゃからな。
亡者など、いくらおっても造作もない。―
「なんにせよ、良かったよ。
ふらふらだったから、余り覚えてない。」
「すごかったです。」
鈴音がほめてくれるけど、多分、そんなことはない。
ほぼ半開きで目も虚ろだったかもしれない状態だった。
それぐらい追い詰められてたと思う。
よだれは出していないと思うけど。
4徹も経験したことあるが、
段取りもペースも自分で調整できた。
わずかでもボーッとする時間も作れた。
しかし、今回は向こうのタイミングで始まるから、
気が抜けないし、トイレが一番、困った。
特に大きい方なんて、始まったらと気が気じゃなかった。
「早飯、早〇〇、芸のうち」
ひいじいちゃんが言ってたけど、
戦時中はグズグズしてたら爆弾が降ってくるんだって。
田舎の家が太平洋から海軍基地までの線上にあったから、
飛行機が来ると、何時間も防空壕に入っていたらしい。
防空壕から出ても、町が焼けてると食うものさえない。
食べれる時にかっ込んどかないと、
次がいつになるのか、誰も約束できない時代だ。
ひいばあちゃんも遠くの山まで逃げたって言ってたもんな。
「鈴音、大丈夫だったか?」
「はい。食事ができてます。
少し待ってください。」
みそ汁の良い香りが漂っている。
さらに、味噌が焼ける匂いがしてきた。
鈴音が味噌を塗った握り飯を火にかけたようだ。
想像しただけでよだれが。
鈴音が目の前に持って来てくれる。
「美味い!」
鈴音はうれしそうだ。
無心に食って、人心地ついた。
「お稲荷さん。無事で良かったところで、
神様にこういうことを言うのも気が引けるけど、
村の依頼と、この仕事とは別のものだ。
一応、オレたちも仕事で来ている。
この仕事の分まで村からもらうのは気が引けど、
村と話してもいいか?」
こういうところはキチッとしないといけない。
頭領としては、配下にタダ働きはさせられない。
報酬が銀1~2つぶじゃ、士気がダダ下がりだ。
鈴音が見てるからというのは関係ない。間違えないように。
―いや、これについては我が支払おう。
褒美というやつじゃな。
村からも貰うじゃろうが、気にせず、取っておけ。―
お稲荷さんはそういうと、目の前に黒塗りの箱を出した。
開くと、いっぱいの金や銀の小判や粒が入っている。
「いや、これは多過ぎるよ。」
鈴音もびっくりして、目を真ん丸にしている。
―構わぬ。我には用のないものじゃ。
村には、これから神になった恩恵がある。
このようなものがなくても良いじゃろう。
遠慮は要らぬ。持って行くが良い。 ―
「それじゃ、ありがたく。」
影収納に入れた。
「うう~ん。」
葛葉が頭を振りながら、体を起こした。
「大丈夫か?」
「ああ、何とか。少し頭が重いが。」
「ゆっくりでといい。話は全て終わった。
ありがとう。おまえのおかげで助かった。」
「いや、私は全然だ。静馬がいてくれたからだな。」
葛葉がはにかむような姿を見せた。
何それ、かわいい。
「そんなことはありません!
頭領はもちろん、葛葉姉もすごかったです!」
葛葉がほめられてさらに照れる。
ぐぅ~。
「あっ、すぐにお持ちします。」
オレの腹の音に気付いて、鈴音がかまどに行く。
食事が葛葉の前に並べられる。
鳴ったのオレなんだけど。
顔が赤くなりそうだったので、お椀で顔を隠した。
みそ汁を流し込んだが、ホッとすると腹が減る。
まだ、何杯もいけそうだ。
「鈴音、おかわりある?」
「はい!」
鈴音がうれしそうだ。
何だか、ホッとする味だ。やさしい味だな。
葛葉もうんうんと頷きながら食べている。
―食べているところ悪いが、言うておきたいことがある。―
お稲荷さんの言葉に、顔を向ける。
お稲荷さんは考えるような表情をした。
―おまえはどういうことか、どこか違う。
何と言ったらいいのか、我は言葉にできんが、
おまえのような者が大嶽の里が率いるというのも、
運命というものかもしれぬ。 ―
何を言いたいのか分からなくて、目をパチパチさせる。
オレの様子に気づいたのか、
お稲荷さんが咳払いして話を続ける。
―何か良くないことが起ころうとしている。
神となったことで余計に感じるのかもしれんが、
どうにも落ち着かぬような、
ざわざわとした感じがするのじゃ。―
「ざわざわ?」
お稲荷さんは頷いた。
―亡者どもは地獄に封じられておる。
それが迷い出たのは、何かあるのかもしれん。
何事も理があって起こるもの。 ―
「その~、それって、まさかとは思いますが、
封印が解けたってこと? ん?地獄の封印?地獄!?
もしかして、地獄とつながったなんて、言いませんよね?」
―何を言うておる。―
お稲荷さんはおかしそうに笑う。
―地獄は昔からつながっておる。
伊邪那岐命は黄泉国で伊邪那美命に会い、
追ってくる黄泉の軍勢を大岩で防いだのじゃ。
それだと、歩いて追って来たことになる。 ―
「本当だ。その話が本当なら。」
―世が乱れる時は、あの世とこの世が近くなる。
いや、近くなるから乱れるのか。それは分からん。―
「距離って近くなるの?
じゃあ、地獄が近づいてきてるってこと?」
―考えを急ぐでない。
このようなことはこれまでもあった。
世に魔物が跋扈し、人は我も我もと踊り狂うた。
しかし、それ以上にはならなんだ。
今回もそうであればいいのじゃがという話だ。
(だが、何ともいえぬ、
毛が逆立つような不安があるがの。)―
考えてみるが、オレに感じられるわけがない。
それこそ、神であるお稲荷さんの領域だ。
―風は、決まって西から起こる。
この国は大陸からの風にいつも脅かされておる。
ゆめゆめ、警戒を怠るな。西国に気をつけるのじゃ。―
「え、えっと・・・」
お稲荷さんが笑った。
―いいのじゃ。おまえには助けられた。
何かあれば、おまえの助けになろう。―
「うん。ありがとう。」
お稲荷さんの心配が気になったけど、
それ以上は聞かなかった。
村に報告し、そこそこの報酬をもらって帰路につく。
今回も大変だったけど、
怪我も無いし、報酬もかなり良かった。
上々の成果だろう。
ビュゥゥゥ
突然の風に、お稲荷さんが言った言葉を思い出した。
「この国は西からの風に脅かされる」
いつも西から。
そういや、東から来たのは黒船だ。
前から、いくら幕府が平和ボケしてたとしても、
たった4隻の船に恐れて開国なんて不思議だった。
来るはずがない方角から来た。
それも、陸もない水平線の向こうから。
それが大騒ぎになった理由なんだろうか。
恐れたのは技術力か、それとも、それ以外の力か。
風に乗って、笑い声が聞こえたような気がするが、
気のせいだろう。
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