057.お稲荷さん
今回は、いや、今回も葛葉と依頼にやってきた。
葛葉のポンコツぶりは健在だ。
佳月さんと一緒の時は、佳月さんを守るために離れないが、
雷蔵さんだと少し危ない。
オレに対してはさらにだ。
全身全霊で佳月さんに仕えているので、
その他の人へ配慮する余力が無いんじゃないだろうか。
最近、かなり改善したと思ったけど、ちょっと危ない。
道なき道を進もうとするところは健在だ。
例えばさ、道を歩いていると、
公園とか空き地とかあるじゃない。
ショートカットするために突っ切ったりするじゃん。
あれのもうちょっと大きい版と考えればいいかな。
谷とか、山単位なんだよね。
谷を飛び越えた時には、黒炎がなかったらブチ切れてたよ。
それに、最近は何だか上の空というか、
何か、いろいろ考えているみたいで、
オレの話も聞いているのか、聞いていないのか、
どんどん、先に行こうとする。
最近のオレは、この里で上手く行き過ぎて、
自分でも調子に乗ってたと思うから、
知らない間に嫌われたんだろうか?
何か言いたげに、オレの顔をじーっと見てるから、
口を開こうとすると、露骨に視線を逸らすし。
言いたいことがあれば、言えばいいのに。
ただ、耐性はそんなにないので、
キツイ言い方は勘弁してもらえるとありがたい。
が、今回は、それだけじゃない。
「鈴音?」
もう1人、14歳の女の子がいる。
討伐衆としての初仕事だ。
「来月で15歳になるから丁度いい」って、
何が丁度いいんだろう?
仕事は20歳になってから!
仕事が仕事なんだから、
20歳からでいいんじゃないかと思うけど、
13~14歳くらい元服して、戦に行くんだよ。
皇子とか、11歳で元服した人もいるらしい。
「女の子だから15歳まで待った」だって!?
やさしさだったらしい・・・
だから、今までの組み分けを育成制度として明確にした。
経験5年未満、10年未満、10年以上の3つに分け、
これを初等、中等、高等の3等級とした。
学校制度に合わせたわけだ。
それぞれの等級から1人ずつ、3人1組で組ませる。
当然、高等級がリーダー、中等級がサブリーダーだ。
3人の経験年数の合計を人数で割ることで、
それぞれの組の平均を取る。
今後、データを積み重ねていって、
獲得報酬で平均値を取るのもいいかもしれない。
獲得報酬が多いということは、
それだけ難題を解決したということだ。
得意不得意や組み合わせもあるので、
それも今後のデータの蓄積によるだろう。
で、オレはもちろん初等級になるわけなんだが、
「頭領が何、言ってんだい。」と高等級に入れられた。
自分でも分かってるけど、かなり頼りないリーダーだ。
葛葉がオレの話を聞いていないのはそれでか!
ともかくも、オレがこのチームのリーダーだ。
チームを無事、連れ戻るのがオレの仕事だし、
鈴音を守ってやるのがオレの役割だ。
それなのに、その対象を見失っている・・・
「鈴音?どこ?」
呼ぶのに返事がない。
呼んだら、そこら辺から出てきてたのに。
鈴音に、いちいち言うのが面倒くさいので、
前を歩いたら付いてくるだろうと思ってたのに、
ふと、後ろを振り返ると、鈴音の姿が見えない。
鈴音は初心者。当然、里の外に出るのも初めてだ。
見るもの、聞くものが珍しいのか、
真っ直ぐ歩いたりはしない。
素直そうな子だとは思ったけど、
年相応に好奇心が旺盛なのか、
目につくもの全てに興味を持つ。
初仕事なんだよね?
集中力とか、緊張感を持ってもらいたいな。
で、鈴音を探してると、葛葉がいないと。
もう泣きそう。
―いやいや、おまえ、犬じゃん。
探すのお手のものだろ?
それに、オレが葛葉を見てたんだから、
おまえが鈴音を見とけば良かったじゃん!―
―知りませんよ!
私だって、周囲の警戒があるんですよ!
走り回ってたの、見てないんですか!
身内まで警戒しなければならないんですか!―
―いや、でも、結局、2人を探すので、
周囲の警戒なんて関係なくなってるじゃん!―
―知りませんよ!主の統率力が問題なんでしょ!
あなた、頭領でしょ!―
何度目かのクロとの口論だ。
道の真ん中で、向い合っている。
「鈴音はどうした?」
いつの間にか戻ってきてた葛葉が、ため息交じりに言う。
(おまえのせいでもあるんだぞ!)
探しながら、300mも戻ってきた。
こっちは慌ててたのに、
何で、おばあちゃんとだんごを頬張ってんの!?
先ず、立ち寄るなら、声を掛けようか(怒)
「こふぉが、いらいのみぅらなんだって。」
言ってることが分かるのが腹が立つ。
通り過ぎてたから、結果オーライか。
着いた村は、まあまあの大きさの村だ。
結構な数の村人がいる。
子供が遊ぶ姿もよく見る。
裕福な村なんだろうか?
村の中心にある村長の家にやってきた。
客間に通されるが、開けっ放しなので、
周りに詰めている村人に囲まれている状態だ。
「どんな被害があるんですか?」
先ずは被害の状況を確認する。
「社に近づこうとすると、弾き出されるというか、
吹き飛ばされますのじゃ。」
「誰か怪我を?」
「怪我はありませんのじゃ。
転がった時に擦りむいたくらいですじゃ。」
「じゃあ、誰かを傷つけようとするわけじゃないのか。」
「お稲荷さんがそんなことするわけなかろうが!」
「これ、吾作!」
「村の者たちは、お稲荷さんと呼んで、
たいそう大事にしているのですじゃ。」
「お稲荷さんて、狐ですよね?」
「狐なんて罰当たりな!お稲荷さんは神様の使いだわ!」
「おいね。お稲荷さんを悪く言うのはだめやぞ!」
村人たちから口々に抗議の声が上がる。
「すみません。口が過ぎました。
では、村ではお稲荷さんを大事にしていたんですね。」
「その通りですじゃ。
はるか昔に社に祀ってからは、日和続き、豊作続き、
子供も元気に育ち、お稲荷さんのおかげじゃと、
村の者はみんな、感謝しとりますわい。」
葛葉と顔を見合わせる。
「ふむ。村人は祀って、感謝し、
お稲荷さんも、それに応えるようにご利益を授けていた。
一見、良好な関係に思える。う~ん。
捧げものが少なかったということは?」
「そうなら、増やすだけですじゃ。
お稲荷さんは村の守り神。
お稲荷さんになら、惜しくはないですじゃ。」
村人全員がうなづく。
「この村では、誰か彼かが掃き清め、花を届け、
村長のわしが責任を持って、
酒と団子を切らさぬようにしていたのですじゃ。
お稲荷さんも応えるように豊作にしてくれて。
急にわしらを避けるというのが腑に落ちませんのじゃ。」
「そうですね。大切にしているのは分かります。
放ったらかしにされた社もよく見ますし。」
「そんな罰当たりなことできんげん!」
また、村人の中から声が上がる。
そちらの方にうなづいて、
「他に、何か思い当たるようなことは?」
「ないので困っておるのですじゃ。」
「これは、直接、お稲荷さんに聞いてみないことには
分かりませんね。」
「お頼み申しますだ。
我らに足りぬところがあれば、
必ず直しますとお伝え願いますのじゃ。」
村長や村人に深々と頭を下げられた。
村長の家を出て、教えられた社に向かう。
「葛葉、どう思う?」
「どうもこうもない。
話を聞く限り、村人とお稲荷さんの仲は良さそうだ。
おまえの言う通り、村人はよくやっている。
どちらかというなら、お稲荷さんに事情がありそうだ。」
「そうだよな。
あれで村人に隠し事があったらビックリだ。」
「鈴音は?」
「あたしも葛葉お姉ちゃんの言う通りだと思う。」
一応、鈴音にも聞いておく。
上だけで決めることはしない。
「やっぱり、お稲荷さんに話を聞くのが早そうだ。」
問題の社が見えてきた。
田んぼの中にポコッとある。
大企業の庭にあるくらいの大きさだけど、
周りに木を植えて、木の鳥居と石の灯篭もある。
質素だけど、隅々まで手入れされているのが分かる。
「ちゃんとしてる。」
「そうだな。村人の信心の深さが見て取れるようだ。」
境内に足を踏み入れようとした。
―入るな!―
「うわっ!」
声が聞こえたと思った瞬間、バリアのようなもので弾かれた。
踏み止まったが、村人が言うようなレベルじゃない。
気を抜けば、十分、怪我をするレベルだった。
「もしかして、今の声、お稲荷さんか?
待ってくれ!オレたちは退治しようというんじゃない!
村人から、話を聞いてきてくれと頼まれたんだ!」
―村人とな。―
社の前にモヤモヤとした渦のようなものが現れ、
次第に白い狐の姿になった。
―おぬしから禍々しい気配がしたので、
身構えてしまったのじゃ。許せ。―
「禍々しい?」
―で、なんじゃ?村人から何を頼まれたのじゃ?―
「今さっきのだよ。
バリアみたいなもので弾いたろ?
なぜ、人を近づけないようにするのかということだ。」
―結界のことか?
やはりか。伝わっておらんのではないかと思ったが。―
お稲荷さんは首を振った。
「どういうこと?」
―我は語りかけたのじゃが、
村人に我の声を聞くことのできる者がおらんのじゃろう。―
「ああー。」
そうか。
お稲荷さんが話しかけても、
能力者がいないと聞こえない。
考えれば、単純なことだった。
「なるほど。
村人が何も分からない理由は聞こえないからか。」
―もう少しすれば、村人にも聞こえる声が出せるのじゃが。
我はな。村人のおかげで、神格が上がり、
神の端くれになれるくらいにまで高まったのじゃ。―
葛葉を見た。
「あるのだ。付喪神だって、そうだろう?
人が大事にすれば魂が宿り、信仰すれば霊格が上がる。
人の思いの強さで、神通力が違ってくるのだ。」
―その通りじゃ。
村人が我を崇めてくれ、大事にしてくれるのでな。
我も村人に応えてやった。―
「それがどうして、村人を避けるんだ?」
―避けておるわけではない。
我は年古ることで妖狐となり、面白おかしく暮らしておった。
この村に来て、人に悪さする妖どもがおっての。
我にとってはただの糧じゃったが、
人にとっては害のある妖異であったことから、
食っておるだけなのに、人は大喜びよ。
我にとっては取るに足らぬことばかりじゃったが、
人が騒ぐのが面白しゅうて過ごすうちに、
我の社を作ってくれての。
いつしか、あわれと思うようになったのじゃ。―
「ますます分からない。
それで、どうして、弾き出すんだ?」
―我は神の端くれになろうとしておる。
変わる時には力が定まっておらぬ。
定まっておらぬということは、ただの力というわけでな。
力が強いだけで、操れぬ。
それを手に入れようと近寄って来る者がいるのじゃ。―
「じゃあ、バリアみたいなものを張ってたのは、
悪いものを近寄らせないようにするため?」
―悪いものとは限らぬ。―
「どういうこと?」
―知らぬのか?
力を得たいのは皆じゃ。神とて例外ではない。―
「神が!?何のために!?」
―もちろん、力を得るためよ。―
「いや、でも、神でしょ?」
―神が正しくて、魔物が悪いなど、誰が決めたんじゃ?―
お稲荷さんがおかしそうに言う。
「いや、だって、それは・・・」
―大国主神と天照大御神の話を知らんのか?
この国をどちらが領するかで争ったのじゃぞ。―
「それはそうなんだけど。」
―人にとって都合の良いことが真の話として残る。
人に害をなすか、益を成すかでな。
我がそうじゃろう?
妖狐なら、普通は人にとって悪しきものじゃ。
されど、討伐されることなく、祀られておる。―
「・・・」
―カッハッハッハ。
これは、いじめてしもうたかな。―
オレの悩んでいる顔がおかしかったのか、
お稲荷さんが豪快に笑う。
しかし、これだけ話せるということ自体が、
悪いものではないということが分かる。
―うん? おまえ、何か・・・―
「えっ、なに?」
―くん、くん。おまえから狐の匂いがする。
これは昔、嗅いだ匂いじゃ。
なんと、おまえ、松の前を知っておるのか?―
「誰ですって?」
空気がピリッとした。
ちょっと、ヤバ目の雰囲気がする。
―松の前じゃ。彼の狐とは、どういう縁じゃ!―
「ちょっと落ち着いて。どの狐だって?」
―松の前じゃ!―
「そんな狐は知らない。そもそも、狐に知り合いはいない。」
―その禍々しい黒い気配で気づかなんだが、
その身からは確かに薄っすらと松の前の気配を感じる。
いや、気配というものでもないがこれは・・・―
「もしかして!」
思い当たることがあった。
「そういや、この間、京で出くわしたんだけど。」
狐の嫁入りがあったことを思い出した。
お稲荷さんに説明する。
―なるほどのう。―
お稲荷さんが警戒を緩める。
―とうとう嫁に行ったか。あれは我の姉じゃ。
できの悪い我と違って、できの良い姉じゃったからの。
事あるごとに我をからかっておっての、
堪りかねた我は棲家を出たんじゃ。
面倒見の良い姉じゃった。
今思えば、姉なりの励ましであろうな。
棲家を出てから困ることがなかったのも、
それがあったからじゃろうて。―
お稲荷さんは懐かしむような顔をした。
その時だった。
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