↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
52/64

052.かまいたち

―危ない!―


クロが叫んだ。


(!!!)


一瞬、風が動いた気がした。

服の袖、肩口に近いところががスパッと切れた。

オレたちは温泉の後、材料を収集した後、帰路についている。

と言っても、帰路についたばっかりだ。

まあ、その、あれだ、なんというか・・・


また温泉に寄ったからな!(←開き直り)


仕事した!がんばった!汗をかいた!

当然、温泉なのだ! ふ~~~~~。


よく言うじゃん。

『百の頂に百の喜びあり』

いや、これじゃ、浮気男みたいだ。

『大きな山に登ってみると、

 さらに登るべきたくさんの山がある事に気付く』

うん。これだ。

人生は挑戦だ。

常に、挑戦しなければ、今より上に上がれない。

新たなステージに到達するための挑戦だ。

男はみんな、山から山へ移ろう旅人なんだ!

いやだな~。女性陣。冗談ですって~~~。えへ。


「クロ、何だ!」


―妖がいる!―


クロには見えているようだけど、全然、分からない。

服はキレイに切れたが、血は出ていない。

どうやら、体は切れていないようだ。助かった。


「何か、だと!?

 佳月さん、後ろに! 葛葉、右に広がれ!

 三郎さんも下がって!」


姿が見えない敵だ。

直接、攻撃できない三郎さんは後ろに下がってもらう。


「葛葉、見えるか?」


「見えなかった。風が一瞬、動いたと思っただけだ。」


同じか。

オレも葛葉も見えていない。

どう反撃しようというのか。


―クロ、どんな様子だ?―


―少し向こうで、ぐるぐる回ってる。―


―ぐるぐる?―


―うん。1匹いる。同じところを回りながら飛んでる。―


「1匹か?他にいるようじゃないか?」


―うん。いない。―


「何がいるんだ?」


「かまいたちです。」


佳月さんは見えてるのか。

自分が興奮して、普通にしゃべっていたのも驚いたけど、

佳月さんには見えるんだ。ふーん。

だってさ、クロ。


「で、どんな感じ?」


「少し興奮しているようです。

 襲ってきましたが、旦那様は傷を負っていません。

 こちらを殺す気はないのでしょう。

 しかし、これ以上、近づけばどうなるかは分かりません。

 ゆっくり、元来た道を戻るのが良いと思います。」


オレはうなづいた。

葛葉たちに合図して、下がらせる。

悔しいので、クロの目を共有して姿を見た。

自分の感覚を遮断できるわけじゃないから、

止まっている時ならいいけど、

同時に体を動かすのは難しい。

でも、敵の姿は見えた。

けっこう小さい。

見た感じ、それこそダックスフンドくらいだ。

クロといい勝負だ。


50mほど戻った。

さて、どうしようか。


「さて、オレの車を使えば、道沿いに行かなくてもいいから、

 避けることはできる。

 そろそろ、使おうかと思ってたので、

 それでもいいけど、どうする?」


今は、まだ早朝だ。

この時代に生きる人は日の出前に動き出すけど、

こんな山の中だ。

人に見られる危険は、多分、少ないだろう。


「ですが、気になります。

 かまいたちは、本来、服がないところを狙うのです。

 それなのに、服を切った。」


と、佳月さん。


「この辺りのかまいたちは、3匹のはずです。

 1匹目が転ばせて、2匹目が斬って、

 3匹目が傷薬を塗るっていう。

 だから、残り2匹いるはずです。」


と、葛葉。


「かまいたちもそこそこで違いがあるからね。

 同じか分からないけど、概ね人を殺したりはしない。」


と、三郎さん。


「じゃあ、あと2匹いるかもしれないんですね。」


「でも、1匹しか見えなかったよ。」


(うん!?)


「1匹だけ、同じ場所でぐるぐるしてた。」


「ちょっと、待って!

 あや、見えてたの?」


「うん。」


マジかよ。

そういや、こいつ、霊獣がいないから忘れかけてたけど、

師匠が霊獣みたいなもんだったんだよ。

あやが召喚したわけではないんだけど、

ある種の契約みたいなもので、絆は結ばれてたんだよな。

師匠はまあ幽霊だったから、

レイス系、ああいう、透明系に強いのかもしれない。


「どうだった?」


「悲しそうだった。」


「悲しそう?」


「うん。」


佳月さんと顔を見合わせた。

よく分からなかったけど、子供は子供の感受性があるのか?


「どう思う?」


「そう言われれば、そうかもしれないと思いました。

 あそこを必死に守っているというようにも見えます。」


「オレにはクロと視界を共有するのに必死で、

 そこまで見る余裕はなかった。

 何か原因があるなら、解消できるかも。

 放っとくと人が襲われるかもしれないしね。」


「さすが旦那様!」


佳月さんが抱き着いてきた。


「ちょっと、佳月さん!」


「あたしも~。」


あやも抱き着いてきた。


「じゃあ、私も。」


三郎さんも抱き着いてくる。


「ええ、何で!?」


じゃあの意味が分からないが、

葛葉も寄って来ようとして足が止まった。


「とりあえず、みんな、離れて。」


うれしいけど、そういう状況じゃない。


「話ができそうなら、それが一番いいんだけど、

 クロ、大丈夫そうか?」


―分かんない。―


「ちょっと、待ってください。」


「何、佳月さん?」


「先ほど、先頭はあやちゃんと私でしたが、

 斬られたのは、旦那様です。

 近づく者を斬るのでしたら、私たちが狙われたはず。

 旦那様は、話し合いに向かないのではないでしょうか。」


話し合いに向かないって言い方に引っかかるけど、

身に覚えがあるので、反論できない。

あだ名のせいで、人を避けてきたのが、

こういうとこで響いてくるとは。

いや、そういう意味で言ってない。

うん。少し冷静に。


「そう言われると、二人を飛ばして、

 わざわざ、2番手のオレを攻撃したってことになる。

 オレの力を警戒したって考えると、

 話すどころかってことだよね。」


佳月さんがうなづいた。


「ですから、私が。」


「いや、危ないよ。さっきは一緒だったから、

 優先順位でオレを狙ったかもしれないけど、

 一人なら、佳月さんが攻撃されるかもしれないじゃん。」


「でも、大丈夫ですよ。

 何となくですが、分かります。」


「あたしも行く!」


「いやいやいや、絶対ダメ!」


「あたしも行きたい!」


「あやはダメ!何かあったら、どうするの!」


「あら、あやちゃんの方が、私より戦えますよ。」


「んんー。」


そういや、あやは、相手が油断している前提だけど、

里ナンバー2にまで登り詰めてるんだった。


「大丈夫ですよ。」


佳月さんに言われて、不承不承、うなづく。


「二人とも、くれぐれも用心して。

 クロを少し離れて待機させるので、

 かまいたちが動いたら、すぐにしゃがんで。」


二人がうなづいた。

二人は顔を見合わせると、うなづきあって、

かまいたちの方に歩いていく。

クロも5mほど離れて、右後ろを隠れながらついていく。


「私たちは敵ではありません。

 何か事情があるのなら、話してみませんか?」


さっきより近い、10mくらいの距離だ。

この距離でも攻撃をしてこない。

クロの目を通して見ているが、

やっぱり、同じところを旋回していて、

明確な攻撃の姿勢は取っていないように見える。

どちらかというと、迷っているような仕草だ。


「どうして、そこにいるんですか?

 何があるんです?」


こういう時、そこに守るべきものがあるのがセオリーだ。

ただ、そうなると、何が何でも守る方に動いたら危険だ。


「大丈夫だよ。」


「あやちゃん!」


あやが近づいていく。

佳月さんがハッとした時には、

あやは手の届く範囲から出ていた。


「大丈夫。大丈夫だよ。」


「危ない!」


なおも近づいたあやにかまいたちが襲い掛かった。

クロを走らせていたので、ギリギリ、クロが攻撃を弾く。


「大丈夫。」


ついに、あやはかまいたちのところにたどり着き、

なんと、かまいたちを抱きしめた。

かまいたちは抵抗するかと思ったが、

素直にあやに抱かれると、

あやの肩に頭を預けたまま、泣き始めた。


「うぉおん、うぉおおんー。」


「よくがんばったね。大丈夫。大丈夫。」


あやはかまいたちを優しく抱きしめている。


「旦那様、こちらに。」


佳月さんに呼ばれて急いで駆けつける。

葛葉と三郎さんも後に続く。

佳月さんがしゃがんで見ているものを見た。

そこには、大きなかまいたちが横たわっていた。

牧羊犬くらいありそうだ。

あやに抱かれているかまいたちの倍以上ある。


「これ、死んでいるの?」


「そのようです。この子の母親でしょうか?

 この子は母親を守っていたのでしょう。」


やっぱりか。そうあるのがセオリーだ。

一人で守ってきたので、緊張が解けたんだろう。

かまいたちはあやに抱かれながら、泣き続けている。


「ちょっと落ち着くのを待とう。

 それから話を聞くのがいいだろう。」


「分かりました。」


みんな、そうだねって優しい目をしている。

母親に比べて、こんなに小さい子が守ろうとしてたのか。

ちょっと、泣かすじゃないか。

佳月さんも目に涙を溜めているし、

三郎さんは見ないようにしているようだし、

葛葉を見ると、葛葉はもう泣いていた。


少し離れたところで、火を熾した。

かまいたちが落ち着くまでには、しばらく掛かるだろうし、

その間、じっくり待つために朝飯にしよう。


「寝ちゃった。」


あやがかまいたちを抱きながら来た。

泣き疲れて眠ってしまったらしい。


「じゃあ、この間に、朝飯を軽く食べておこう。」


食べていると、かまいたちが少し暴れ始めた。

目が覚めて、景色の違いにびっくりしたようだ。

あやが声を掛けると、落ち着いたようだ。

あやの腕の中で、じっとしている。

頃合いを見て、話し掛ける。


「なあ、あそこの魔物は、おまえの母親なのか?」


「うん。」


意外に素直なようだ。

もう、オレたちを敵とは思っていないんだろう。


「何があったか、話してくれないか?

 母親を埋葬してやりたいし、

 何か力になれるかもしれない。」


かまいたちはうつむいていたが、

オレの方に顔を上げると、少しずつ話し始めた。


「おいら、うまれたばっかりで、

 かぜにのって、あそんでいたんだ。

 おかあさんにはとめられていたんだけど。」


かまいたちの目から涙が落ちた。


「おいら、たのしくて、いうことをきかなかったから、

 かぜにここまでとばされて。」


そういうことか。子供あるあるだな。

親は心配し過ぎで、子供は無鉄砲ってやつだ。


「そしたら、でかいやつにおそわれて。

 たべられそうになったときに、おかあさんが。」


かまいたちは、また泣き始めた。

なるほど。そのでかいやつに母親は殺されたのか。

で、ここまで逃げてきたけど、息絶えたってことか。

子を守るために命を投げ出す。

もう、母親って感じだよな。

葛葉なんて号泣だ。

三郎さんも、もうダメみたいだ。

みんながもらい泣きするのも分かるよ。

オレだって、上を見上げた時に涙が流れたもの。


一しきり泣いた後、この後を相談する。

それに、でかいやつも気になるから、

早めにここを離れた方が良さそうだ。


「母親は埋めてやりたいが、それでいいか?

 故郷に連れて帰ってやりたいが、どこか分かるか?」


「おいら、ながされちゃったから。」


「そうか。じゃあ、できるだけ、

 開けた、風が吹く場所がいいだろう。」


たき火を手早く片付けると、車を出した。

車ってのも何だから、後で名前を考えるかな。

母親の体を持って行かないといけない。

水で洗ってやると、血の塊が取れて、

傷跡が浮かび上がってくる。

袈裟に深く斬られている。

この傷で逃げれたことにびっくりだ。

かまいたちの話は要領を得ないので、

でかいやつが何かは分からなかった。

生まれたばかりで経験がないから、

そいつが何者か知らないんだろう。

両手の鎌を構えたので、

でかいやつも鎌を持っているのは間違いなさそうだ。

伊勢の女郎蜘蛛を思い出した。

あのサソリアラクネみたいのだと、かなり強敵だな。

母親の体を丁寧に影収納の中に入れた。


「じゃあ、みんな、乗って。」


「ギシャー!!!」


車に乗り込もうとした時、それは現れた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


みなさんの応援が励みになります。

良かったら、「ブックマーク」や「いいね」をお願いします。

是非是非、応援の意味で良い評価をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。