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049.帰還

カッ!


「な、なに・・・」


庭が光った。

一瞬の光だったが、余りの光に、目が眩んだ。


「静馬様!」


その光の中から、黒い影が走り寄って、

オレに抱き着いてきた。

視界が戻っていないけど、声で分かった。


「よく無事で!」


オレは精一杯、抱きしめた。

佳月さんを感じる。

それと同時に、さっきまでの焦りや不安が、

きれいに消えていることに気づいた。

この確かに感じる温もりが、

この腕の中にある温もりが、

オレに勇気を与えてくれている。

ハッキリと分かった。

いや、理解させられた。

涙がすーっとこぼれてきた。

涙を不思議だとは思わなかった。

愛おしいばかりじゃない。

佳月さんがオレに、

この時代に生きることの意味を与えてくれていた。


「佳月さん!!」


もう1度、強く抱きしめる。

佳月さんも泣いていた。

その華奢な肩がふるえている。

それでも、しっかりとオレを離さない。


しばらくの後、手で目を押さえながら、オレから少し離れた。

オレも涙を拭き、愛しい人の顔を見つめる。

愛しい人は、涙の顔で微笑もうとしていた。


「本当に無事に戻ってくれて良かった。」


その言葉に、佳月さんはまた涙を流す。


「お父様やお母様、

 それに、勇治さんに良くしていただいたんです。」


思いがけないことを聞いた。


「うちの親に会ったの?」


「はい。」


まさか、オレの時代に行っていたとは。


「庭に埋められた玉のおかげで戻って来られたのです。」


「そうか。やっぱり。」


あやも佳月さんに抱き着いた。

また、佳月さんが涙を流す。


「よくご無事で。」


「葛葉、心配を掛けました。」


三郎さんとも、お互いに無言で会釈した。

冷静な顔をしているが、

三郎さんもホッとしているのが伝わってくる。

いつの間にか、佳月さんの霊獣も近寄ってきていた。


落ち着いてきたのか、佳月さんの瞳に、

いつものようにキラキラとした光が宿り始めた。

いつもの物静かな様子は、

本当の自分ではないですよと言っているような、

この悪戯っぽそうな、好奇心旺盛そうな瞳に、

いつも目を奪われている。

こういう時、全身が輝き出したような感じを受ける。


「見てください!これ、かわいくないですか!」


佳月さんは立ち上がり、オレの前でくるりと一回転する。

オレの前で黒いスカートがふわりと揺れる。


(え、うちの許嫁、可愛過ぎない!?)


佳月さんはひらひらの黒い長いスカートに、

肩出しで、二の腕にレースの袖があるブラウスを着て、

胸には大きめのリボンがある。


「お母様に買っていただいたんです!」


オレは見惚れていた。

服装が変わるだけで、こんなにもドキドキする。


「まだまだ、あるんです!」


庭に行き、大きなスーツケースを2つ押してくる。

座敷に上げるのを手伝うが、何だ、この重さは。


「こっちは私ので、こちらは静馬様のです。」


佳月さんのは比較的、軽かったが、

オレのはぎっしり入っている感じだ。

佳月さんが自分のスーツケースを開けると、

中から、たくさんの服があふれてくる。


「これはこんな感じで合わせるんです。」


畳の上に、佳月さんが服を並べ始めた。

フリルやレースを多く使ったトップスに、ミニスカート。

胸までで、肩が出ているのが、

フェミニンというか、ガーリーというか、とにかく良い!

そして、厚底のサンダル。


に、似合いすぎる―――。

真っ赤。


佳月さんが着ているところを想像して、

見惚れてる自分までも想像できて、赤面してしまった。

今のお嬢様っぽい格好も素敵だが、

このギャルっぽい服もかわいらしくていい。


「着てみましょうか?」


「い、いや、またでいい!」


オレがあまりにもジッーと見ていたので、

佳月さんが気を利かせたようだ。

声が裏返りそうだった。


ミニのニットワンピースに、ロングブーツ


おかあさん・・・

あんた、グッジョブです!


オレも、自分のスーツケースを開いてみる。

重いはずだ。

大工道具から、100均の便利グッズまで、

隙間なくギッシリと入れられている。

10cmくらいある分厚いファイルが2冊。

そして、手紙が3通。

「兄ちゃんへ」

一番幼そうな字をなぞった。

記憶より大人びてきていることに涙を流しそうになった。

急いで影収納にしまった。


次の日、朝一で佳月さんの帰還を伝えた。

佳月さんが、もう少し二人でいたいと言ったからだ。

そうだろう。

里姫が行方不明だったんだ。

今頃、事情説明に追われているだろう。

昨日の晩は、経過を説明してくれたが、

佳月さんが体験したオレの時代の話も

興奮して話してくれた。

未来ではなく、別の国の設定としてだ。

葛葉たち三人は、目を丸くしていたが、

あやは「いつか行ってみたい」とオレにせがんで来た。


そのため、今日は一人で座敷にいる。

ゆっくり、スーツケースの中身を見るためだ。

その中でも一番の注目は、2冊のファイルだ。

父さんはいろいろとネットなどの情報を

プリントアウトしてくれて、冊子に綴じてくれている。

ファイルにパンパンに綴じられた資料の中で、

気になったのは、年表だ。

この細部まで、大きな流れだけじゃなく、

細かなエピソードまで、拾える限りまとめられた年表には、

「1567年 永禄10年 稲葉山城を岐阜城に改名」とある。


(永禄10年・・・)


愕然とした。

薄々、知ってたはいたけど、改めてになると胸に来る。

オレが余計なことをして、

信長が稲葉山城を手に入れる時期が5年早まった―――。


と、いうことが問題なんじゃない。

オレの存在が何らかの影響を与える可能性は覚悟していた。

積極的に加担したことは問題があるけど。

そうじゃなくて、


<<<5年早まったと分かることが問題なんだ!>>>


オレが歴史を変えたなら、年表は永禄5年になるはずだ。

それが永禄10年となっているなら、

この世界とオレの世界は


<<<イコールじゃない!>>>


ということになる。

前に一瞬、考えていた、パラレルワールド(平行世界)だ。

今でも、1600年関ヶ原の戦いが頭にある。

キリが良いので覚えていたけど、これが変わらないんだ。

修正力と考えようとしていた。

ということは、

オレも佳月さんも、過去や未来に行ったんじゃなくて、

違う世界に落っこちたんじゃないだろうか。

考えたくはないけど、A世界が元の世界だとして、

オレはB世界に落ちた。

帰るなら、B世界の450年後じゃなくて、

A世界の450年後に戻らなくちゃならない。

もしかしたら、これこそ考えたくもない話だけど、

佳月さんは、B世界からA世界じゃなく、

X世界に落ちた可能性もあるし、

Z世界の佳月さんが戻ってきた可能性もある。

この手紙の家族は本当の家族ではないかもしれない。

だが、それを言い出すとキリがないし、確かめようもない。

少なくとも、オレに向けられた気持ちは本物だ。

それは疑いようがない。


改めて事実を突きつけられると、ショックだった。

オレの世界を見つけるのは不可能だ。

しかし、ある程度は覚悟していた。

大切な人ができた。

守るべき家族も場所もできた。

そして、オレに向けられている好意。

これで何を迷う必要があるのだろう。

それに、本当の両親じゃないかもしれないけど、

オレの好きになった人を見せることができた。

それ以上を何を望む必要があるのか。

例え、戻れたとしても、佳月さんとあやが望まぬ限り、

その選択はないと言い切れる。

オレはここで生きていく。それでいい。


「佳月さん。」


「は、はい。」


食事を前に、上座にオレと佳月さんの2人が座り、

左右に三郎さんと葛葉が並んだ。あやはオレの隣だ。

食事はオレの合図で食べる決まりだ。

家長としての何とからしい。

オレは箸を取らず、佳月さんに向き直った。

佳月さんも何事かと思い、

オレの方に身仕舞を正して座り直す。


「オレと結婚してほしい。」


自分でも驚くほど冷静に言えた。

佳月さんは最初、ポカンとしていたが、

見る見る涙を溢れさせ、


「静馬様!」


佳月さんが抱きついてきた。


「うぅぅ~、うう~。」


佳月さんは声になっていない。

オレの胸に顔を埋めたまま、泣いている。

ずっと、佳月さんからのアプローチで、

オレの方からはなかったからかと思っていたけど、

そうではなかったようだ。

ずっと後で聞いたことだけど、

佳月さんは、オレの世界を見て来たから、

ずっと不安だったようだ。

物や楽しいことがあふれた、あの平和な時代の方が、

ここよりずっと暮らしやすいのは決まっている。

いつかはオレが帰ってしまうだろうと思っていたらしい。

否定はしたけど、家の位が合っていないとも思ったらしい。

それが、このプロポーズだ。

うれしくないわけがない。


そこから先は早かった。

帰ってきて、すぐに顔が曇るようになっていた。

さっきの理由がそうさせていたようだけど、

知らなかったので、さすがに疲れたと思っていた。

しかし、プロポーズの後は、

これ以上ないくらいの上機嫌で、

いつもより輝きが増しているような気がした。

そして、その3日後にはもう結婚式が始まっていた。

予想以上に強い秘蔵だという酒を飲んだ後は、

もう覚えちゃいない。

酒を注ぎに来た人が10人を超えたところで記憶がない。

酔いが醒めたのは、

深夜に佳月さんと二人きりになってからだ。


「2人だけの時に、これを着ようと。」


スーツケースから、袋を取り出した。

中から、ウエディングドレスが出てきた。


「お母様に買っていただいたから。」


オレの分もあるようだ。

2人で並んで立った。

白無垢もとても綺麗だったが、この姿も息を飲むほど綺麗だ。


「ずっと、貴方と共にいることを誓います。」


灯りを消した。

優しくできたのかは知らないけど、

佳月さんはずっと幸せそうだった。


最後にまだ1つ、仕事が残っている。


「これより、オレが頭領である!」


「ははっ。我ら、命の限り、お仕えいたします!」


東平さんの言葉で、全員が一斉に平伏する。

佳月さんと結婚する条件がオレが頭領になることだ。

式の翌日、この広間に集まった一同の前で宣言する。

里の全ての命を預かるのは重いが、

父さんのネット情報のおかげで、

少しでも生活を楽にできるかもしれないことは、

勇気づけられる。


そして、長老制や世話役の制度もそのままにした。

オレの補佐に長老衆3人。

嶽本の東平さんと嶽中の真造さんを筆頭に討伐衆。

世話役が村人を束ねて農業を行うという体制だ。

オレは剣の腕はもちろん、

何より、戦の読みで頭領に認められたようだけど、

何の経験もない高校生で、読みじゃなくて知識だから。

そして、パラレルワールドってことは、

知らない未来になることだって不思議じゃない。

合議制をメインにして、最終判断をオレがする。

どこかの大統領みたいに、

何がしたいのか分からない政治は避けたいからだ。

無駄なことをしてると、この戦国の世では、

あっという間に飲み込まれてしまう。

人が増えたら、情報収集に人を割きたいけど、

おおよその歴史が分かっているから、

もし違っても、状況と照らし合わせて修正すれば、

先手を打てるはずだ。

父さんの年表の中で気をつけなければならないのは、

第1次と第2次の天正伊賀の乱だ。

この辺り一帯が戦争に巻き込まれる。

オレのせいで5年早まったと考えなければならない。

そうなると10年後には発生してしまう。


「あっという間だ。」


「なにがですか?」


いつの間にか、佳月さんが顔をのぞき込んでいた。

今日はあの、少しロリっぽい、ギャルっぽい服だ。


「か、佳月さん、近いよ。」


何だか、照れてしまう。

服装がいつもと違うだけで、このドキドキよ。

美少女の破壊力って、すごい。


「そ、その、服は着ない方がいいと思うんだけど。

 着物しかない時代に、洋服は着ない方が・・・

 宣教師だって、エリマキトカゲみたいな服なのに。」


「ふふふっ。」


佳月さんは軽やかに笑う。

編み込んで後ろで束ねた髪が揺れている。


「今日はずっと家にいるつもりですもの。

 それに、洋服が珍しいのか、みんなが見たいらしくて。」


「その姿はダメなんだよ。」


佳月さんが悲しそうな顔をした。


「旦那様は、私の格好が嫌いですか?」


「ちがっ、違う。」


「でも、着るなと。」


「いや、まいったな。」


必死な佳月さんの目に、言葉を探す。


「違うんだ。

 その姿はオレ以外の男に見てほしくないんだよ。」


ぱあっと瞳が輝いた。

ついでに頬が赤くなる。


「じゃあ、着物にします。」


いそいそと部屋を出て行こうとする。


「あっ、ちょっと、」


聞いちゃいない。

佳月さんは頬を押さえながら、座敷から出て行った。

普段、言わない言葉なので、言ってて恥ずかしかった。

それに、佳月さんが誤解したままだ。

いや、誤解じゃないけど、何て言うんだろ、

う~~~、もういいや。


「本当にもう~」


苦笑いしたけど、別に嫌じゃなかった。

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頭の中が洗濯される気分の物語とパラレルワールドと時系列の流れがあり、パッピーエンドに感謝します。
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